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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
648 レラの想いと願い
しおりを挟むカズが物語を読み終えると、アレナリアとビワが近くに来ていた。
どうやらカズが物語を読み始めると内容が気になり、邪魔にならないで聞こえる位置まで移動してきていた。
「このフェアリーは本当に亡くなってしまったんでしょうか?」
物語の最後には非業の死を遂げると書いてあったが、人族になったフェアリーの死体が発見されたとは書かれてない。
ビワは姿を消したフェアリーが、せめて何処かで行きていてほしいと願う。
そんなビワの目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まっていた。
片やアレナリアは、なんだが腹を立てているようだった。
「残念だけど、息を吹き返す事はなかったでしょうね。亡くなった事で魔力の供給が途絶え、話に出て来た秘宝の効果が消えて本来の姿に戻った。その後で獣かモンスターに……あとを追って自殺する覚悟があるなら、その覚悟をもっと早くしなさいよ!」
「落ち着けアレナリア」
段々と話す声の怒気が強くなってきたアレナリアを、カズは馬でも落ち着かせるかのように、肩をポンポンと軽く叩く。
このまま物語の感想を互いにしていては、話が先に進まないと、カズは話を本題に戻す。
「レラが言っていたのは、この物語に出て来た秘宝の事か?」
「だと…思う」
人族と妖精族の物語がバッドエンドだったからだろう、レラは複雑な表情をしていた。
どうもレラが思っていた効果とは違っていたらしい。
レラがどういう目的で、このような効果のアイテムを欲しがったのか、カズはなんとなく分かった。
だからと確信したわけでない。
「レラにあると教えたアーティファクトってのはこれか?」
カズは聞き辛そうにしているレラの代わりに、知性ある本に問いかける。
『そうでもあり違うとも言える』
「どういうことだ?」
『その物語は事実ではあるが、全てが本当にあった出来事ではではない。その事が次に記されている』
物語を読み終わり、その後に空白の部分があったので、それで終わりかとカズは思っていた。
次の頁を捲ってみると、この物語ついての事が少しだけ書いていた。
【種族を超えた恋の物語 第四部フェアリー編 種族を捨てた果てに】は、ここに出て来た青年が書き記して残した日誌を元に書かれた物語である。
決して結ばれる事のなかった種族の違う二人を、多くの方々に知ってもらいたく、同じ様な悲しい事が起きないことを願いペンを取り記す。
「青年の日誌を元に書かれたのなら、半分は作り話って事になるわね」
「だな」
アレナリアの言う通りノンフィクションなら、全てを捨てて山で自殺したのだから、この日誌が残ってるわけがない。
そもそもこの物語が事実として書かれているのはおかしい。
青年が子や孫に日誌を託してきたのなら、多少なりとも説明がつく。
例え自殺したとしても、それはもっと年老いてからではないだろうか、とカズは考えた。
しかしどう考えようが、真実を知ることはできない。
なのでこれ以上憶測するのはここでやめる。
『ここでレラに問う。ここに記された秘宝を求めるか? フェアリーしての全てを失い、無力な人族となるのを受け入れる覚悟があるか?』
「あちしは…」
「おいッ! インテリジェンス・ブックは何を」
「待ってカズ。どうしてレラがそれを求めてるか、もう分かってるんでしょ」
「……」
「これはレラ本人が決めること。私達じゃないわ」
アレナリアも知性ある本の問には腹を立てていた。
しかし周りの意見に流されて、本当の気持ちを押し殺して後悔したら、それこそ物語の青年と同じ様な結末になってしまい兼ねない、とアレナリアは考えカズの言葉を遮った。
三人は静かにレラの答えを待つ。
薄暗い室内で手近な椅子に座り、レラの考えを待ち続ける。
机の端に座り考え、何か言いたそうに三人に視線を向けるも、結局何も言わず視線を手元に落とし悩む。
心配になり声を掛けようとするカズとビワを、アレナリアは首を横に振り阻止する。
約二十分の時間が経過したところで、レラが立ち上がり自分の答えを出す。
「あたしにはもう、お父さんもお母さんもいない。フェアリーだけが暮らす村があって受け入れてくれたとしても、あちしはカズとビワとアレナリアと一緒がいい」
レラは背中の半透明な羽を動かし、机の上からゆっくりと飛び上がり、カズの正面30センチの所に移動する。
「カズは仲間じゃなくて、家族だって言ってくれた。あちしは嬉しかった。でもビワとアレナリアに告白して、なんだかあちしだけ置いていかれるような気になっちゃった」
そんな事はないと、カズが否定しようとしたが、レラは接近してカズの口を両手で塞いだ。
「わかってる。カズはそんな事しないって。でもね、故郷も本当の両親も失った。でも家族は今ここにある。それだけじゃ嫌なの。あちしはカズが好き。アレナリアとビワがカズの子供を生むなら、あちしもカズとの子供が欲しいと思っちゃったの。無理なわがままだってわかってる。でも、それが叶えられるなら、あちしはフェアリーじゃなくていい」
このまま四人一緒に暮らす事に変わりはない。
だが、アレナリアとビワが子供を生み、レラは一緒に育てるだけ。
一緒に育てていれば、子供がちっちゃいママと呼んでくれるかも知れない。
それでも構わないと思った。
でもやっぱり、それでは本当の母親にはなれない。
カズとの子供が欲しいが、人族と妖精族では、男女として交わるのは不可能。
そこでレラは前回隠し部屋に来た時に、自らの身体を大きくする方法があるかを知性ある本に質問をし、その存在を知った。
それから日に日にその想いは強く大きくなり、秘めていた想いを全てカズに伝えた。
決して冗談で言ってるんじゃないと、真剣にカズの目を真っ直ぐに見て。
気持ちを全て伝え終えたレラは、カズの口を塞いでいた両手を離してゆっくりと後退する。
嫌われなくとも、カズの返答次第では、一緒にいる事が辛く感じるかも知れない。
そう思うとレラはカズを真っ直ぐ見る事ができなくなり、視線を落としたままゆっくりと机の上におりた。
「あぁ、そのなんだ……」
カズが声を発すると、レラは身体を強張られせる。
アレナリアとビワがいるから無理だと断られるか、大きさが違い過ぎるからと、物語と同じ様に言われてしまうとも考えた。
皆をからかったらして面白がってるような自分は、一人の女性としては見てくれないのかも知れない。
何時も楽観的な考えをするレラが、今は悪い方にばかり考えが向いてしまう。
レラの鼓動は緊張と不安で早くなり、暑くもないのに汗が噴き出る。
どう返答していいものかと、カズは悩み言葉が詰まる。
砂漠の南西部にレラの故郷と両親の手掛かりを探しに行った後から、自分に向ける視線や態度が少し変わったのは、やっぱりそういう事だったかと思う。
薄々は感じていたが、ビワに告白した事などを話した時の反応で、八割方そうではないかと。
しかしどれだけレラが求めてきても、肉体的な関係はもてないので、自分からそこに触れようとはしなかった。
まさか大きくなれる方法があるかを、知性ある本に聞いていたとは思わなかった。
レラが気持ちを伝え終えて、カズの正面から机におりてから時間にして一分も経ってない。
返答するのまで悩んでいたカズには五分程に感じ、レラにとってこの一分の沈黙が数十分にも感じていた。
「…また旅の目的が増えたな」
「え……」
「探してみるか。その秘宝のリングとかいうアーティファクトを」
「それって…」
「まさか三人も嫁が出来るとは思わなかった(こりゃあ、生涯の運を使い果たしたか)」
それを聞き喜んだレラは室内を飛び回り、カズの胸にドーンと飛び込み顔を押しつける。
ビワはほっとした様子で、アレナリアは溜め息してやれやれとした表情をする。
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