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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

645 種族を超えた恋物語 第四部フェアリー編 二節 三節

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 【種族を超えた恋物語 第四部フェアリー編 種族を捨てた果てに 二節 再会】


 青年が山で迷い、生還してから三年後。
 その時に採取した薬草で、大きな街に住む豪商の一人娘の病が治った。
 その事で青年は自身が住む小さな町で、その豪商が経営する商店の支店で雇われる事となる。
 真面目に働く青年の印象は良く、その日暮らしだった生活が少しながら貯蓄出来るまでに。
 生活が楽になり余裕が出てくると、あの時の小さな存在の事が気になり、ちょくちょく思い出す様になっていた。

 仕事で何度も大きな街に行くようになり、噂話などでフェアリーという種族が居る事を知る。
 青年が暮らす土地では、人族以外の種族を見る事は滅多にない。
 なので他種族に興味を持つ者は意外と多く、その手の噂話はよくあり、特に珍しいわけではなかった。
 しかし何故だか今回だけは、フェアリーという種族が頭に残り、大きな街に一ヶ所だけある図書館に行き調べたりした。
 何度目か訪れた図書館で、フェアリーと出会った者が書いたという古ぼけた本を見付けた。
 そこにはフェアリーと思われる絵が書かれており、それは青年が遭遇した小さな存在と実によく似ていた。

 本を借りて図書館から持ち出すのは、この当時かなりの金額が掛かっていた。
 生活が楽になってきたとはいえ、そこまでの余裕は流石にまだない。
 借りれる期限も三日と短く、図書館のある大きな街で暮らしている訳ではない青年には、借りたとしても返しに来るのは難しかった。
 期限を過ぎると多額の罰金を請求され、二度と図書館で本を借りる事はできない。
 それ程までに紙で作られた書物が貴重という事だった。
 大きな街といえども、国の中心部に近い街と比較したら、青年が暮らす小さな町と大差ない。
 ただ商店が多いくらい。
 図書館が所蔵する本の数も、書棚の所々が空いている事から、決して多くないと初めて訪れた者でも分かる。
 青年が見付けた本は古くて劣化しており、資金が乏しい図書館でも買える様な代物だった。

 荷物の遅れで数日大きな街に滞在する事になった青年は、仕事が終わると図書館に行き、フェアリーの事が書かれてる古ぼけた本を読むようになった。
 毎日図書館に行き、閉館時間まで読む。
 夕食を遅らせる事で、大きな街を離れる日までに読み終える事が出来た。

 青年は小さな町の商店で、毎日変わりなくせっせと働く。
 仕事中にふと、以前薬草採りで迷った山を思い出し、その時に出会った小さな存在の事を考える回数が増えるようになった。
 大きな町の図書館でフェアリーの事が書かれた古ぼけた本を読み、小さな町に戻って来てからは、もう一度会いたいという気持ちが、日に日に大きくなっていた。

 青年は休日なると、毎回薬草採りに入った山へ行くようになった。
 今度は道に迷わぬように、木に目印を付けながら奥へと足を進める。
 今日は駄目だったが、次来た時はあの小川を見付けようと、山中を探し回る。
 休みの度に訪れて探すも、一向に見付からない。
 この日は仕事が半日で終わったからと、青年は前日から山に来ていた。
 そして山の中で夜を迎える事に。

 焚き火が消えかけた事で、深夜に冷えて目が覚める。
 薪をべて火を大きくし、冷えた体を温める。
 木々の間から射す月明かりに何となく誘われ、奥へと足を進めた。
 青年の耳に水の流れる音が聞こえ、躊躇ちゅうちょする事なく、その方向へと突き進む。
 やっと小川を探し当て、記憶を頼りに一晩過ごした樹洞じゅどうのある木を近くで見付ける。
 あの時と同じ様に中へ入り、体を収めて身を委ねる。
 眠気が襲いそのまま寝てしまう。

 眠りが浅くなった時に、バチャバチャという水の音で青年は目を覚ます。
 静かに樹洞じゅどうから出て、水音がする方へと姿勢を低くして向かう。
 川緑の石に座り足先を水に浸けて、バチャバチャと水を蹴る小さな影があった。
 風で枝が揺れて、月明かりが一瞬小さな影を照らした。
 それは紛れもなく、あの時の小さな存在だった。

 青年は見付けた嬉しさから、立ち上がると、足元の枯れ枝を踏んでしまい音を立ててしまう。
 小さな存在は驚き、二つ山を越えた所に隠れ住む盗賊が来たのかもと、音を立てた正体を確かめる事もぜず飛び去ろうとする。
 青年は咄嗟にあの時助けられた者だと、飛び去ろうとする小さな存在に声を掛けた。
 小さな存在はその声で振り返り、月明かりに照らされた青年の姿を見て驚いた。
 自分が接触した人族だと。
 それでも小さな存在は、そのまま飛び去ろうとする。
 青年は会いたくて探しに来た事を伝え、逃げないでほしいと嘆願する。
 言葉は通じないが、その必死さが伝わり、小さな存在は警戒しつつも青年に近付く。


 【種族を超えた恋物語 第四部フェアリー編 種族を捨てた果てに 三節 惹かれ合う二人】


 再会を果たした日から仕事が休みになると、青年は小さな存在と遭遇し、再会した山へ会いに来るようになった。
 そこにある木や石に、土や川などを指差し、二人は互いの言葉を覚えようとする。

 一年が経過する頃には、片言ながら互いの言葉が通じる様になり、小さな存在は青年に心を許し、自ら種族がフェアリーだと明かす。
 その見た目から愛玩目的で狙われ、高値で売買される事をフェアリー自身も知っていた。
 青年も実際のフェアリーを見た事はなくとも、大きな街の図書館で古ぼけた本に書かれたフェアリーの絵を見て察しはついていた。
 フェアリーから種族を打ち明けられるまで、青年は自分から聞こうとはしなかった。
 フェアリーという種族に惹かれたわけではなく、彼女自身に惹かれたと胸の内を伝えた。

 再会してから三年が経過すると、勤勉な青年は働いていた支店を、大きな街の豪商から任せらるようにまでになる。
 一人では何かと大変だからと、そろそろ身を固めるように豪商から言われる。
 周囲では青年の事を、仕事一本の生真面目な者だと思われていた。
 休みの日に出掛けては、山菜や薬草を採って来るだけ。
 同じ店で働く者から女性を紹介されても、仕事を理由に殆ど会う事もしない。
 想いを寄せる女性もいたが、青年の心は助けてもらったあの日からフェアリーに向いていて、全てはぐらかし断っていた。

 雨が降ればあの木の樹洞じゅどうに入り、木の実や山菜などを採って、小川の水で調理をして食事を一緒にする。
 時には笑い時には怒り喧嘩をし、寒くなれば互いに身を寄せて樹洞じゅどうに入り温まる。
 会える日は少なく時間も短いが、青年とフェアリーは互いに惹かれ合い、人気のない山奥で決して邪魔されない二人だけの楽しい時間が続いていた。

 再会してから四年後のある日、フェアリーが一緒なりたい旨を伝えた。
 青年も気持ちは同じで嬉しかった。
 しかし人とフェアリーでは暮らす場所も違い、体の大きさから子供を授かる事もできない。
 よくは知らないが寿命だってそうだ。
 それはフェアリーも理解していた。
 ただ一つだけ方法がある事をフェアリーは話した。
 青年はすぐに返事はできなかった。
 次に会うまでにと時間を貰い、毎日ずっと悩み続けた。
 フェアリーと会う前の日に、豪商から青年宛に手紙が届いた。
 それを読んだ青年は、翌日フェアリーの居る山には行かなかった。
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