上 下
654 / 789
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

633 擬態モンスター と 危うい冒険者達

しおりを挟む
 乗り合い馬車を降りて、十数分歩き川沿いの家に着く。

「ただいま。カミーリアは来た?」

「たった今来て帰ったところよ。戻る前に商店街を見に行くと言ってたから、今ごろ橋を渡ってる頃じゃない」

「ならちょっと行って来る」

「頼まれた事は伝えておいたわよ」

「わかった。俺からもう一度言っておく。ありがとう」

 戻って来た早々、ついさっきまで来ていたカミーリアを探しに、小走りで川向うの商店街に向かう。
 アレナリアの見当があっていれば、橋を渡りきる前に見付けられるだろう。
 そして橋に差し掛かった所で失敗に気付いた。
 カミーリアがどんな服装で来ていたかを、アレナリアに聞けばよかったと。
 今さら言っても遅い。
 背格好から後ろ姿を見て判断して探す事に。
 平日だが人通りはそこそこある。
 橋を行き来する人の他に、立ち止まり話をする人や、川を見たりする人もいる。
 もうすぐ橋を渡りきる所で、後ろから「あれ? カ、カズ!」と、呼ぶ声が。
 声のした方を振り向くと、そこにカミーリアの姿があった。
 橋の柵に肘を付けて川を覗き見ていたので、カズは気付かず通り過ぎていた。

「そこに居たのか」

「どうして?」

「カミーリアがちょっと前に来て、商店街の方に向かったってアレナリアから聞いたから」

「日時はアレナリアさんに伝えといた」

「コンルの事は聞いた?」

「ええ、聞いた。ただ屋敷に戻らないと、確認できないの。だから、会えるかどうかまではわからない」

「そこは予定が合わなかったって事だから構わない。コンルに無理に合わせてもらうのも悪いからな」

「妖精族の事で、また何か調べてるの?」

「いや、そうじゃない。一ヶ月くらいしたら帝都を立つんだ。だからレラにはその前に、もう一度コンルにお礼を言っておくようにって話したんだ」

「帝都を立つ! それは冒険者として、依頼を受けてということ?」

 カミーリアは目を見開き、驚きの表情を浮かべた。

「依頼じゃない。ここには旅の目的地に関する情報を集めるのに、滞在してただけなんだ。まあ、色々あってレオラ様と知り合い、仕事を請け負ったりとかしてたんだ」

「そう…なんだ」

「アイリス様には、今度行った時に言うつもり」

「では、私から言わない方がいいよね」

「話してもらっても構わないが、レラの事でお世話になってるから、一応は自分の口から伝えようと思って」

「その方がいいと思う」

「商店街には買い物に? なんなら少し付き合おうか?」

「時間があったので、ちょっと見て回ろうと思っただけ。カズは戻ってくれていいよ」

「そうか。じゃ、また後日」

 珍しい事があるもので、カミーリアがカズの誘いを断った。
 急な事でショックだったのか、一人になると気の抜けたような表情を浮かべ、商店街の方へと歩いて行った。
 カズは川沿いの家に戻り、アレナリアとレラの三人で昼食を取る。
 昼食後ブロンディ宝石商会のヒューケラの所に顔を出しに行って来ると言い、アレナリアは出掛けて行った。
 夕食を一緒と引き止めれたら、済ませて来るかもとの事だった。
 ビワを迎えに行く時間まではレラを連れてフジの所に行き、小屋の改装の続きをする事にした。

 資源と潤沢のダンジョンで使う必要な物を思い出し、改装を少し早めに切り上げて、樹液を採取する道具と入れるビンを多く買う。
 買い物を済ませ、夕方なるとビワを迎えに行き、レオラから見たい本の内容が書かれた紙を受け取り、川沿いの家に戻り夕食にする。
 アレナリアが帰って来るのを待ち、明日からの予定を聞き、今週はヒューケラの所に行く用はないとの事だった。
 ギルドの依頼で二、三日出掛けて来る事を話して、ビワの送り迎えと留守番を頼んだ。
 アレナリアは少し不満気な表情を見せたが承諾してくれた。
 四日後にはアイリスの屋敷に行く事になっているので、それまでに受けた依頼を終わらせて、特製プリンを作る食材などを採取して来ると三人に伝え、この日は早めに就寝した。


 ◇◆◇◆◇


 カズは朝食を済ませると、この日はビワよりも先に出掛けた。
 フジの所に空間転移魔法ゲートで行き、帝都から北西にある高原を目指し、フジに乗り飛んで向かった。
 出来るだけ村や街を避け、近くを通過する際は高度を取り、地上から目視されないようにした。
 大型のモンスターが現れたらなんて噂でもたっては、危険はないと各所に通達する羽目になり、サイネリアから愚痴が出るのは確実。
 今回向かう高原近くの村には、連絡されてないだろう。
 ただこの依頼を受けたギルドと、ワイバーンの討伐と素材採取に向かうフォース・キャニオンのギルドには、連絡が入っている筈だ。

 高原に向かう途中で雨雲が増えて雨が振って来たので、高度を上げて雨雲の上に出て北西に向かった。
 厚い雨雲で地上は見えないので【マップ】を確認しながらフジに指示をして目的地に向かう。
 これならば地上からフジを見られる事がないのでよかった。
 ただ、次に向かう大峡谷沿いは、雨が降ってないでほしかった。
 雨風が強ければ、大峡谷沿いにある街を行き来する人達が少くなれば、問題のワイバーンが出現しない可能も高くなるのからだ。
 できればフォース・キャニオン付近は晴れていてほしいと考えた。

 帝都から北西に位置する高原まであと少しのところで、雨が止み雲が薄くなってきた。
 途切れる雲の隙間から地上の様子を見ていたら、街から離れた場所に村を発見した。
 北西方面には他に集落が無かった事から、依頼を出した村だと思われる。
 調査場所の高原上空に着き地上を見ると、おかしな事に一部だけ霧が掛かっていた。
 霧に向かって移動する、三人の冒険者を確認した。
 どうやら依頼を受けて来たのだろう。
 ならば任せればいいだろうとは思うが、サイネリアから頼まれて来ているので、降下せずに上空から暫く様子を伺う。

 冒険者の三人も怪しいと感じているらしく、発生している霧には不用意に入ろうとせず、それぞれ別々に周囲を見て回り発生源を探しているようだった。
 上空から観察して【マップ】でモンスターの位置を確認出来ているカズには、高原を訪れている三人の冒険者が危ういと感じた。
 霧が発生している内部に一体のモンスター反応があり、そのモンスターが霧を生み出してるのは明らか。
 三人の冒険者がそれに気付いてないのは、まだ今のところいいとして、霧の周囲に複数のモンスター反応があり、それに気付いてないのがマズいという事だ。

 依頼先で重症を負おうが、死亡しようがが自己責任なのが冒険者であり、危険な状態と判断して手助けしたにも関わらず、因縁を付けられたという事例も無くはない。
 その事を知っていたカズは、ギリギリまで様子を見て判断する事にした。

 霧の発生源が周囲に無いと判断した冒険者の三人が合流したところで、迫って来ているモンスターに気が付いた。
 だが近寄って来ているモンスターが何なのかが分ってないらしく、互いに背を合わせて周囲を警戒する事しか出来ていなかった。
 この状況からして、Cランクなったばかりのパーティーではないかと思えた。
 塩漬けになっている調査の依頼なら、自分達でも出来るだろうと考えたのだろうか。

 ランクを上げたばかりの冒険者が依頼先で死んでしまうのは、大抵このような面倒だが難しくない依頼が多い。
 植物系モンスターを見分ける事ができなければ、多くの冒険者が歩んて来た末路になる事だろう。
 現場に遭遇した事でもあるし、サイネリアからも頼まれているので、全てを片付るより、危険を脱するくらいまで手助けしようと考え、カズは行動に移る。
しおりを挟む
感想 70

あなたにおすすめの小説

碧天のノアズアーク

世良シンア
ファンタジー
両親の顔を知らない双子の兄弟。 あらゆる害悪から双子を守る二人の従者。 かけがえのない仲間を失った若き女冒険者。 病に苦しむ母を救うために懸命に生きる少女。 幼い頃から血にまみれた世界で生きる幼い暗殺者。 両親に売られ生きる意味を失くした女盗賊。 一族を殺され激しい復讐心に囚われた隻眼の女剣士。 Sランク冒険者の一人として活躍する亜人国家の第二王子。 自分という存在を心底嫌悪する龍人の男。 俗世とは隔絶して生きる最強の一族族長の息子。 強い自責の念に蝕まれ自分を見失った青年。 性別も年齢も性格も違う十三人。決して交わることのなかった者たちが、ノア=オーガストの不思議な引力により一つの方舟へと乗り込んでいく。そして方舟はいくつもの荒波を越えて、飽くなき探究心を原動力に世界中を冒険する。この方舟の終着点は果たして…… ※『side〇〇』という風に、それぞれのキャラ視点を通して物語が進んでいきます。そのため主人公だけでなく様々なキャラの視点が入り混じります。視点がコロコロと変わりますがご容赦いただけると幸いです。 ※一話ごとの字数がまちまちとなっています。ご了承ください。 ※物語が進んでいく中で、投稿済みの話を修正する場合があります。ご了承ください。 ※初執筆の作品です。誤字脱字など至らぬ点が多々あると思いますが、温かい目で見守ってくださると大変ありがたいです。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...