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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

632 アレナリアとビワからの大事な話

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 サイネリアはファイルから抜き出した北西部の高原に関する資料を読み出す。

「高原から一番近い村人ですね。原因がわかるまで立ち入らないように伝えたあったのですが、一向に誰も調査に来ないので、自分で調べようとしたらしいです」

「依頼が出されてから、どれくらいたってるの?」

「二ヶ月くらいですね」

「その村人は高原で薬草とか採取して、生計を立ててたんじゃない」

「えーっと、そうですね。日当たりがよくて、夜と昼で寒暖差が大きいので、より良い薬草が採取できるようです」

「じゃあ依頼主はその村?」

「最初はそうです」

「最初はって?」

「村の他に数件、街の薬屋から同じ内容の依頼が出てますね。おそらくは、高原で採取した薬草を買っている薬屋でしょう」

「それだけ依頼が重なれば報酬が増えて、受ける冒険者が出てくるんじゃない?」

 この依頼を受ける冒険者が殆どのいない事についてサイネリアに問うと、その理由だと思われる事を話しだす。

「依頼そのものは難しくないでしょうが、高原までの距離と調査する範囲が広いので、割に合わないと考えてるんでしょう。こちらに要請を入れる前に、依頼が持ち込まれたギルドの方で報酬の増額したらしいのですが……」

「受けた冒険者がいないか。いつ要請があったの?」

「五日前です。なので、その間に受けた冒険者がいないとも」

「わかった。ダンジョンでの素材採取とワイバーンの討伐前に、その高原に行ってみる。依頼を受けて来ている冒険者がいたら、任せるけど問題ないでしょ」

「危険なようでしたら、手助けしてあげてください」

「早ければ二、三日中に行って来れると思うが、それでいい?」

「こちらとしては大丈夫です。フォース・キャニオンのギルドには連絡をしておきますので、ダンジョンに入る鍵を忘れずに受け取ってください」

「そうか。鍵が必要だっけな」

「終わりましたら、すぐ報告に来てください。日を置かずに」

「わかった。今週中には終わらせて報告と採取した物を持って来る」

 サイネリアと依頼の話を終えたカズは、早々にギルド本部を出た。
 行き帰りはビワが通勤に使う乗り合い馬車にしたので、サイネリアとの話を済ませて川沿いの家に着く頃には、出掛けてから三時間以上経っていた。
 昼頃まで寝てて良いと言っても、そこまで寝る事はなく、ビワはソファーでアレナリアと一緒にくつろいていた。
 レラも起きて来ていたが、ソファーで二度寝してしまったらしい。
 ビワに淹れてもらったハーブティーを飲み、アレナリアは二日酔いを和らげようとしていた事から、思っていたよりも二日酔いは軽そうだった。

 カズはこれからフジの所に行き、小屋の改装をしたいと伝え、そろそろカミーリアが日時をしらせに来るかも知れないので、アレナリアとビワに留守番を頼み、レラはフジの相手をしてもらいたいので連れて行くと話した。
 ギルドで受けた依頼の件も話して、カミーリアが来た時のために伝言を頼んで、寝ているレラを起こして空間転移魔法ゲートで、帝都南部の林に移動した。

 フジはどうしてるかと寝床を見に行こうとしたら、陽のあたる場所で気持ち良さそうに昼寝していた。

「俺は小屋を改装してるが、レラはフジともうひと眠りしてくるか?」

「……なんかあったかそうだし、そうする」

 まだ寝ぼけてる様子のレラは、ゆらゆらふわふわと飛んで、フジの首筋の柔らかい羽毛に半身を埋めて寝る。

「なんとも穏やかな光景だな(危険度Aランクのモンスターと、愛玩目的で狙われるような妖精が、一緒に昼寝だからなぁ。起こさないように、音があまり出ないような所から改装するか)」

 風呂場を作り小さいながらも浴槽も設置したいが、大量に排水するのは難しいので、せいぜいシャワー室を作る程度になる。
 人気のない場所で野宿する場合は、この小屋で過ごそうと思っているので、なんとかトイレとシャワー室は作りたい。
 最終的な間取りは、八畳程の部屋と小さなキッチン台所と、六畳くらいの寝室と、トイレとシャワー室を作る予定。
 ここまですると改装というよりは建て替えだ。
 不要になる柵を解体し素材にして、スキルを活用して作業を進めていく。
 最初に作ったログハウス小屋だが、なんだかんだと一部をバラしては手を加えてと繰り返している内に、平屋へと姿を変えていた。

 レラと起きたフジと一緒に昼食を取り、カズは午後も作業を進めていく。
 夕方頃に作業を切り上げて、空間転移魔法ゲートで帝都の川沿いの家に戻る。
 今日カミーリアは来なかったらしい。
 らしいと言うのは、二人で一時間くらい川向うの商店街へ買い物に出ていたからだと。
 書き置きもなかったので、来てないだろうとの事だった。

 カズは夕食後に、作業の進み具合について話した。
 アレナリアはビワと相談して決めた事を話す。
 内容は避妊について。
 本来避妊魔法を使うのは女性の方なので、妊娠して旅をするのは大変なのは分かるが、それでも二人同時に妊娠しなければ大丈夫だろうということになり、子供を作るかどうかの判断は、女性であるアレナリアとビワが決めたいとカズに伝えて来た。
 二人がそれで良いと言うのであれば、カズは構わないと返答した。
 とりあえず旅の感覚を取り戻すまでは、避妊すると二人で決めたらしい。

 子作りは計画的にと、聞いた事があったような気がすると、カズは久しぶりに元の世界のことを思い出した。
 ただ妊娠や避妊の話をしているのに、アレナリアがまだ求めて来ないのが不思議だった。
 何か考えがあっての事だろうか? と、求められた時の事を考えると、自分から先に誘った方が良いのだろうかと、うとうとしながら考えている内に、カズはソファーで寝てしまった。


 ◇◆◇◆◇


 朝早く起きると毛布が掛けられていた。
 先に寝たアレナリアかビワが、トイレにでも起きて来た時に掛けてくれたのだろう。
 毛布を畳んでソファーに置き裏庭に出る。
 冷たい川の風が、シャキッと目を覚まさせる。
 朝食の時に聞くと、毛布を掛けてくれたのはビワでもアレナリアでもなく、レラだった。
 喉が乾いて水を飲みに下りてきたら、カズがソファーで寝ていたので、運べる重さの毛布を持って来て掛けたのだと。
 レラがそんな事してくれるのは珍しいと思ったが「毛布掛けてくれて、ありがとうな」と、カズは感謝した。
 するとこれまた珍しく、レラは嬉しそうに照れた。

 アレナリアとレラに留守番を頼み、ビワを仕事に送りながらレオラに会いに行く。
 書類仕事公務が終わるのを待ち、一ヶ月程で帝都を立つ事を伝えた。

「旅に出るだと!」

「ビワの故郷だと思える場所がわかったんです。レオラ様にも言ってあったはずですが」

「確かに聞いてはいたが、急じゃないか」

「一応ここでのやる事を済ませようと、出立するのを一ヶ月後にしたんです」

「……ビワの件を終わらせたら戻って来るのか?」

「結果がどうなるかわかりませんが、オリーブ王国にも戻って、ビワがお世話になっていた貴族に会いに行くので、ここにも寄るつもりです」

「その後はどうする? オリーブ王国で暮らすのか? それともここ帝都に戻って来て、今のようにアタシ専属の冒険者として働いてくれるのか?」

「今はなんとも言えません。一度帝都に寄るにしても、それが半年先になるのか、一年先になるかまでは」

「ハァ…わかった。姉上やサイネには話したのか?」

「アイリス様には近日会うので、その時に話します。サイネリアには依頼を頼まれてるので、その報告に行った時に」

「知らず内に帝都を離れ、いなくならないだけましか。帝都に来てからの期間を見れば、十分な功績と言えるだろう。できればこのまま居てほしいが……(無理強いして二度と戻って来なくなるのは困る)」

 渋々ではあるが、レオラはカズ達が旅に出るのを承諾した。

「俺はもう一度情報収集のために、本を探しに行くんですが、レオラ様は何か求める本はありますか?」

部屋に行くか。なら何冊か頼む」

「ではビワを迎えに来るまでに決めておいてください。全て見つけて持って来れるかはわかりません」

「決めておこう」

 旅に出る事をレオラに伝えたカズは屋敷を出て、アレナリアとレラの待つ川沿いの家に戻って行く。
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