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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
629 種族妖狐が居る地
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切りのよいところで改装を止めて、帝都の川沿いの家に戻る。
ビワが夕食料理を作り、アレナリアはそれを手伝う。
カズはレラを連れて川向うの商店街に、特製プリンの残りが少ないので、甘いデザートと酒を買いに行く。
「焼きたてのパンよし。麦シュワと果実酒は買った。デザートはフルーツとハチミツを使った高めのタルトを見付けて買った。あとはもうないか」
「あれなんてプレゼントしたらどう?」
レラの指差す店は女性衣類専門店。
「俺はセンスないから、服を選ぶなら二人と一緒に来た方がいい」
「カズは二人に自分好みの服を着て欲しいとか思わないの?」
「思わない事もないが、ここに好みの服が無いんだ(浴衣とかいいかも知れないが、そんなの無いからな)」
「そなの。だったらあっちは?」
「あっち?」
「ちょっとだけ見えるっしょ」
レラは同じ店の奥を指差す。
何が見えるのかと、レラが指差す店の奥を凝視した。
「見えた? パンティーとかブラ」
「パン…ブラって、男が一人で買えるかよ」
「でも、そういうのあげるのってあんでしょ」
「知らん(聞いた事あるような気がするが、レラはそんなことどこで知ったんだ?)」
「あるんだって。買って着けてあげたら」
「女性専門店に入れるわけないだろ」
「他なら買うんだ。ならデパートなら大丈夫っしょ」
「買わない。二人が喜ぶかわからないだろ」
「喜ぶと思うけどなぁ。だったら、あちしの買ってよ。もちろんカズが選んで」
「……いいが、レラのサイズが売ってる店がどこにあるのか、俺は知らないぞ。それに殆ど今着てるは、ビワが作ったのだろ」
「そっかぁ。コンルちゃんに聞いとけばよかった。残念」
「買うもの買ったし、もう戻るぞ。ちょっと時間を掛けすぎた」
必要な物を買い揃え、二人は商店街を後にして、対岸にあるレオラ所有の家に戻って行く。
橋の中央付近に差し掛かった辺りで、カズの上着の裾をレラが引っ張って立ち止まる。
屈んでとレラが手招きをして、カズが膝を折りしゃがむ。
レラがカズの耳元に顔を近付ける。
「あのね、前に家族だって言ってくれたでしょ」
「ああ」
「それでね、カズにお願いがあるんだ」
「お願い? まあ、俺に出来ることで、無茶なお願いじゃなければいいぞ(特製プリンを大量に作り置きとか、でっかいのを作るとかかな?)」
レラの言うことだから、甘味に関することだとカズは考えていた。
「あちしに…」
「そんな所で何してるの?」
レラの話を遮り話し掛けてきたのはアレナリアだった。
「レラの話を聞いてたとこなんだ。アレナリアこそどうしたんだ?」
「二人が遅いからどうしたのかと思って橋の所まで見に来たら、止まってるのを見つけたから呼びに来たの。ビワには迎えに行くって言ってきたわよ」
「そうか」
「レラの話はなんだったの?」
「今聞いてる途中だったんだけど、どうするレラ?」
「いい。今度にする(アレナリアのバカ)」
レラはムスッとして、先に走ってビワの待つ家に戻って行った。
「どうしたの?」
「途中だったからわからないが、大事な話だったのかも知れない」
「それは悪い事したわ。後で謝らないと」
「そうしてくれ(家族だってことと、お願いが関係あるのか?)」
結局よく分からないまま、カズとアレナリアもレラを追いビワの待つの家に戻った。
扉を開けるとバレルボアの果実酒入り煮込みシチューと、ローストバレルボアを作る良い匂いが鼻腔をくすぐる。
買って来た果実酒は、ビワがまだ料理で使うかも知れないので聞く。
一本は使うと言うので渡し、一本はテーブルに、残りは麦シュワと一緒に冷蔵して冷やす。
焼き立てのパンとデザートのフルーツタルトは、その時になったらカズがアイテムボックスが出すことに。
先に戻ったレラの姿が見当たらなかったので、ビワに尋ねた。
すると料理が出来上がるまでまだ二時間程掛かると聞き「狩りでの疲れが出たからちょこっと寝る」と、レラは三階のレオラが使う部屋に上がったと。
夕食の少し前に起こせばいいだろうと、ビワと話して決めた。
料理の手伝いをしようとしたが、今はシチューを煮込むだけなので、手伝いはいいとの事だった。
シチューを煮込んでる間に、カズはこの先向かう場所について伝える事にした。
隠し部屋から持って来た複製本、それに書かれていた種族妖狐が住む土地は大きく分けて二ヶ所。
一ヶ所目は帝国からずっと北東に行った所に聳える深い山脈。
そこに住む妖狐種は他者と関わるのを嫌い、生活に便利な魔道具を殆ど使うことなく、定期的に山脈の各所に作られた住み家を点々と変えて暮らしているらしい。
二ヶ所目は大陸最東端から船に乗り海を渡り、数日して見えてくる島がそれ。
百五十年以上前の大戦で、大陸の一部が大峡谷のように大きく裂けて陥没し、更に地震や地殻変動で広がった所に海水が入り、弱った大地を削りながら広がった。
そして大陸から切り離され、孤立して南北に長い大地が残ったのが目指す二ヶ所目の島。
大陸が裂けて陥没した時に、元々は一緒だった種族が分断されて、この二ヶ所に住み着いたらしいと、複製本には書かれていた。
この複製本の原本が五十年以上前に書かれていた事から、ここに書かれている大戦は、かつて異世界人を召喚して、魔王や配下のモンスターと戦った二百年以上前に起きた大戦と同じだと分かる。
そもそも大陸が裂けるような大戦が何度もあったら、世の中の人口は今の一割もいないだろう。
「向かうのは山ですか? 海ですか?」
「どちらがビワの故郷かわからないからね。両方行くつもりでいる。順番的には先に山の方かな」
「でもそこに住んでる妖狐族は、他者と関わりたくないんでしょ。大丈夫なの?」
「だからダメ元だね。もしビワを知ってる人に会えれば、招いてくれるかも知れない。そこは行ってみない事には、現状なんとも言えない。島の方は大陸の東まで行けば、交流があれば船が出てると思う。でなければ、フジで空から向かうつもりでいる」
「船が出てないと交流がないってことでしょ。交流がなければ冒険者ギルドの繋がりもないでしょうね。そもそもギルドがあるかどうか」
「だな。こちらも行ってみない事には、情報がないからな」
「モンスターの危険度ランクは知らずとも、フジが現れたら脅威だと思うでしょうね。急に攻撃されなければいいのだけど」
アレナリアの言ったことは一理あった。
だがカズはフジの母親であるマイヒメが、出会った時に言っていた事を覚えていた。
マイヒメは『海を越えて』と言っていた事を。
トカ国にある広い湖の事を海と言っていたなら、マイヒメとフジの種族ライジングバードが生息していると噂で聞いてる筈だが、そんな話は冒険者ギルドでも聞かなった。
旅をしてきた事などを踏まえて出した答えが、ライジングバードは大陸の最東端付近、もしくはその先の島国に生息しているモンスターだと考え、それをアレナリアに説明した。
「マイヒメがそんな事をね」
「ここに来るまでに湖はあったが、海はなかったからな。そうじゃないかと思う」
「結局は行ってみないとわからないってことね」
「まぁ、そうなる。いつもの事だが」
「とりあえず帝都を離れるように、準備をしておかないと」
「一ヶ月くらいの間に、あいさつ周りや用事を済ませておくようにしてくれ」
「わかったわ」
「私はカーディナリスさん達と、買い物に行ってる仲の良いお店の人にくらいです」
「まだ出発日をこの日って決めてないから、お別れ会とかしてくれるって言ったら、行って来ても大丈夫だから」
帝都を出立する日まで、それぞれ別れの挨拶などを済ませる予定を立てる。
ビワが夕食料理を作り、アレナリアはそれを手伝う。
カズはレラを連れて川向うの商店街に、特製プリンの残りが少ないので、甘いデザートと酒を買いに行く。
「焼きたてのパンよし。麦シュワと果実酒は買った。デザートはフルーツとハチミツを使った高めのタルトを見付けて買った。あとはもうないか」
「あれなんてプレゼントしたらどう?」
レラの指差す店は女性衣類専門店。
「俺はセンスないから、服を選ぶなら二人と一緒に来た方がいい」
「カズは二人に自分好みの服を着て欲しいとか思わないの?」
「思わない事もないが、ここに好みの服が無いんだ(浴衣とかいいかも知れないが、そんなの無いからな)」
「そなの。だったらあっちは?」
「あっち?」
「ちょっとだけ見えるっしょ」
レラは同じ店の奥を指差す。
何が見えるのかと、レラが指差す店の奥を凝視した。
「見えた? パンティーとかブラ」
「パン…ブラって、男が一人で買えるかよ」
「でも、そういうのあげるのってあんでしょ」
「知らん(聞いた事あるような気がするが、レラはそんなことどこで知ったんだ?)」
「あるんだって。買って着けてあげたら」
「女性専門店に入れるわけないだろ」
「他なら買うんだ。ならデパートなら大丈夫っしょ」
「買わない。二人が喜ぶかわからないだろ」
「喜ぶと思うけどなぁ。だったら、あちしの買ってよ。もちろんカズが選んで」
「……いいが、レラのサイズが売ってる店がどこにあるのか、俺は知らないぞ。それに殆ど今着てるは、ビワが作ったのだろ」
「そっかぁ。コンルちゃんに聞いとけばよかった。残念」
「買うもの買ったし、もう戻るぞ。ちょっと時間を掛けすぎた」
必要な物を買い揃え、二人は商店街を後にして、対岸にあるレオラ所有の家に戻って行く。
橋の中央付近に差し掛かった辺りで、カズの上着の裾をレラが引っ張って立ち止まる。
屈んでとレラが手招きをして、カズが膝を折りしゃがむ。
レラがカズの耳元に顔を近付ける。
「あのね、前に家族だって言ってくれたでしょ」
「ああ」
「それでね、カズにお願いがあるんだ」
「お願い? まあ、俺に出来ることで、無茶なお願いじゃなければいいぞ(特製プリンを大量に作り置きとか、でっかいのを作るとかかな?)」
レラの言うことだから、甘味に関することだとカズは考えていた。
「あちしに…」
「そんな所で何してるの?」
レラの話を遮り話し掛けてきたのはアレナリアだった。
「レラの話を聞いてたとこなんだ。アレナリアこそどうしたんだ?」
「二人が遅いからどうしたのかと思って橋の所まで見に来たら、止まってるのを見つけたから呼びに来たの。ビワには迎えに行くって言ってきたわよ」
「そうか」
「レラの話はなんだったの?」
「今聞いてる途中だったんだけど、どうするレラ?」
「いい。今度にする(アレナリアのバカ)」
レラはムスッとして、先に走ってビワの待つ家に戻って行った。
「どうしたの?」
「途中だったからわからないが、大事な話だったのかも知れない」
「それは悪い事したわ。後で謝らないと」
「そうしてくれ(家族だってことと、お願いが関係あるのか?)」
結局よく分からないまま、カズとアレナリアもレラを追いビワの待つの家に戻った。
扉を開けるとバレルボアの果実酒入り煮込みシチューと、ローストバレルボアを作る良い匂いが鼻腔をくすぐる。
買って来た果実酒は、ビワがまだ料理で使うかも知れないので聞く。
一本は使うと言うので渡し、一本はテーブルに、残りは麦シュワと一緒に冷蔵して冷やす。
焼き立てのパンとデザートのフルーツタルトは、その時になったらカズがアイテムボックスが出すことに。
先に戻ったレラの姿が見当たらなかったので、ビワに尋ねた。
すると料理が出来上がるまでまだ二時間程掛かると聞き「狩りでの疲れが出たからちょこっと寝る」と、レラは三階のレオラが使う部屋に上がったと。
夕食の少し前に起こせばいいだろうと、ビワと話して決めた。
料理の手伝いをしようとしたが、今はシチューを煮込むだけなので、手伝いはいいとの事だった。
シチューを煮込んでる間に、カズはこの先向かう場所について伝える事にした。
隠し部屋から持って来た複製本、それに書かれていた種族妖狐が住む土地は大きく分けて二ヶ所。
一ヶ所目は帝国からずっと北東に行った所に聳える深い山脈。
そこに住む妖狐種は他者と関わるのを嫌い、生活に便利な魔道具を殆ど使うことなく、定期的に山脈の各所に作られた住み家を点々と変えて暮らしているらしい。
二ヶ所目は大陸最東端から船に乗り海を渡り、数日して見えてくる島がそれ。
百五十年以上前の大戦で、大陸の一部が大峡谷のように大きく裂けて陥没し、更に地震や地殻変動で広がった所に海水が入り、弱った大地を削りながら広がった。
そして大陸から切り離され、孤立して南北に長い大地が残ったのが目指す二ヶ所目の島。
大陸が裂けて陥没した時に、元々は一緒だった種族が分断されて、この二ヶ所に住み着いたらしいと、複製本には書かれていた。
この複製本の原本が五十年以上前に書かれていた事から、ここに書かれている大戦は、かつて異世界人を召喚して、魔王や配下のモンスターと戦った二百年以上前に起きた大戦と同じだと分かる。
そもそも大陸が裂けるような大戦が何度もあったら、世の中の人口は今の一割もいないだろう。
「向かうのは山ですか? 海ですか?」
「どちらがビワの故郷かわからないからね。両方行くつもりでいる。順番的には先に山の方かな」
「でもそこに住んでる妖狐族は、他者と関わりたくないんでしょ。大丈夫なの?」
「だからダメ元だね。もしビワを知ってる人に会えれば、招いてくれるかも知れない。そこは行ってみない事には、現状なんとも言えない。島の方は大陸の東まで行けば、交流があれば船が出てると思う。でなければ、フジで空から向かうつもりでいる」
「船が出てないと交流がないってことでしょ。交流がなければ冒険者ギルドの繋がりもないでしょうね。そもそもギルドがあるかどうか」
「だな。こちらも行ってみない事には、情報がないからな」
「モンスターの危険度ランクは知らずとも、フジが現れたら脅威だと思うでしょうね。急に攻撃されなければいいのだけど」
アレナリアの言ったことは一理あった。
だがカズはフジの母親であるマイヒメが、出会った時に言っていた事を覚えていた。
マイヒメは『海を越えて』と言っていた事を。
トカ国にある広い湖の事を海と言っていたなら、マイヒメとフジの種族ライジングバードが生息していると噂で聞いてる筈だが、そんな話は冒険者ギルドでも聞かなった。
旅をしてきた事などを踏まえて出した答えが、ライジングバードは大陸の最東端付近、もしくはその先の島国に生息しているモンスターだと考え、それをアレナリアに説明した。
「マイヒメがそんな事をね」
「ここに来るまでに湖はあったが、海はなかったからな。そうじゃないかと思う」
「結局は行ってみないとわからないってことね」
「まぁ、そうなる。いつもの事だが」
「とりあえず帝都を離れるように、準備をしておかないと」
「一ヶ月くらいの間に、あいさつ周りや用事を済ませておくようにしてくれ」
「わかったわ」
「私はカーディナリスさん達と、買い物に行ってる仲の良いお店の人にくらいです」
「まだ出発日をこの日って決めてないから、お別れ会とかしてくれるって言ったら、行って来ても大丈夫だから」
帝都を出立する日まで、それぞれ別れの挨拶などを済ませる予定を立てる。
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