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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

625 特別な一日に

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 冒険者ギルド本部裏のギルド倉庫兼研究所の周囲は、夜になるとかなり薄暗くなる。
 路地裏の街灯は小さく、近くまで寄らなければ姿を目視できないくらいの場所もある。
 帝都中央付近でもこういった死角になる場所が多くあり、安全の為に改善しようと工事が少しずつ始まっていた。

 カズはその死角になる場所を知っていたので、いざと言う時は空間転移魔法ゲートの移動先として使う事にしていた。
 たまにいちゃつく若いカップルが居たりもするので、必ず先にちょこっとだけ覗いて誰もいないかを確認してから移動する事を心掛けていた。
 空間を繋げたら移動先に誰もいないことを確認するのは必須。
 緊急でなければ使わない方法だが、今回は時間がなかったので、この方法を使った。

 誰にも見られる事なく無事に冒険者ギルド本部裏に移動し、急いでレオラの屋敷に向かう。
 広い道は仕事帰りで人通りが多く、走る事はできない。
 それでも足早で進むも、アレナリアが左腕を組んたまま離さなかったので、思ったより時間が掛かってしまった。
 
 レオラの屋敷近くまで来た所でようやく気が済んだのか、アレナリアは組んでいたカズの左腕を離した。
 そして着くと予想通り「遅い!」と、レラはご立腹だった。
 アレナリアが「アイリス様の騎士達に、魔力操作の訓練をしてて遅くなったの。ごめんねレラ」と、説明して謝った。
 何時もなら売り言葉に買い言葉で口喧嘩になり、カズが止めに入るのがお決まりなのに、そうならなかったのでレラはちょっと拍子抜けした。

 アレナリアは待ちに待った嬉しい返事をカズから貰えたので、レラに何を言われようと、現状なんでも許してしまう気分。
 カズがビワとレラの二人に伝えるまで、表情に出さず平静を保つようにしている。
 レラに感付かれて、帰宅する人々の前で大声を上げられてはたまらない。
 せめて川沿いの家に戻るまでは、何か怪しんでも質問等をしてこないで欲しいとカズは願った。
 内心浮かれている今のアレナリアだと、すぐに話してしまいそうな気がしたからだ。

 特に急いでもないのに、四人だけになるタクシー辻馬車は悪手だと思え、何時も通り乗り合い馬車で川沿いの家まで戻る事にした。
 明日は休日ということもあり、遅くまで外食して飲み歩く人は多く、乗り合い馬車の乗り場までの道は、何時もより混んでいた。

 できるだけ空いている乗り合い馬車を選び乗車した。
 周囲に人が多いので、レラは大人しくアレナリアとビワの間に座って静かにしている。
 カズは座席が空いてないので、三人の座る席の横で、降りる場所まで立ったまま乗車していった。

 レラはグラジオラスと剣の訓練で、アレナリアは一日女性騎士達の魔力操作の指導で疲れていたので、先に風呂に入ってもらう事にした。
 ビワが夕食の用意をしている間に、カズは水属性魔法で浴槽に水を溜め、火魔法で浴槽の水を温めて適温に。

「風呂の用意が出来たから入っていいよ」

「ふぁ~……そうするわ」

 ビワとレラを迎えに行き乗り合い馬車に乗車するまでは、カズからの告白とキスで興奮していたアレナリアだったが、混む乗り合い馬車に揺られている間に、アイリスの屋敷で女性騎士達の指導をした疲れが出て、川沿いの家に着いた時には眠気が強くなっていた。

「このままだと、夕食の前に寝そう」

「ねぇビワ。ごはんどのくらいで出来る?」

「二十分くらいで用意出来ると思う」

「んじゃあ、そのくらいで出て来るよ」

「アレナリアが寝落ちしないように見てやってくれ。レラ」

「ほ~い。それでさぁカズ、あちし今日けっこうがんばったんだよね」

「プリンだろ、わかってるよ(残りは……十個くらいあったかな?)」

「ほら、入るわよレラ」

 二人がお風呂に入りに行くと、カズは夕食の用意をするビワの手伝いに移る。

「お風呂の後で、寝る前にちょっと話があるんだけどいい?」

「私にですか?」

「あとレラにも」

「わかりました」

 夕食が出来て皿に盛り付け、キッチンにあるテーブルに並べだしたところで、アレナリアとレラが風呂から出て来た。
 眠そうにしていたアレナリアだったが、風呂に入った事で少し目を覚ましたようだった。
 四人揃ったところで、少し遅めの夕食にした。
 女性騎士達の宿舎で昼食を頂いたが、カズとアレナリアはやはりビワの手料理の方が良いと感じた。
 特製プリンの残りが少ないので、カズは遠慮してデザートは三人だけで食べる。
 夕食が終えると三人は歯を磨き、その後カズが洗い物をする。
 ビワは寝間着を持って風呂場に。

 カズが食器を洗い終えると、レラがソファーで眠っていた。
 隣に座るアレナリアも目蓋が半分下がり、今にも寝そうになっている。

「あとでビワに話すから、アレナリアはレラを連れて先に寝ていいよ」

「そうさせてもらうわ」

「お休み」

「お休みさい。あ!」

「どうした?」

「もし今夜ビワを抱くのなら、優しくしてあげて。初めてでしょうから」

「抱…いいのか?」

「聞くこと? この時を待っていたけど、さすがに今夜は眠くて無理。その代わり私の時は、気の済むまで相手してもらうからね」

「わかってる。待たせたのは俺だからな。ただ、手加減してくれよ」

 半分冗談で言ったつもりが、カズがアレナリアの望みを叶えてくれると約束をしてくれたただけで満足だった。
 オリーブ王国に居た頃であれば、今すぐにでもカズを押し倒して、男女いとなみを始めようとしただろうが、プロポーズ告白された事で、焦る必要はないとアレナリアの心に余裕が生まれていた。

「レラも寝ちゃったし、私もスゴく眠いから先に寝るわね。レラは私の部屋で寝かせるわね」

「あ、うん、わかった(レラに伝えるのは明日だな)」

「おやすみ」

「おやすみ。アレナリア」

 大きなあくびをしたアレナリアは、横で寝ているレラを連れて二階の寝室に上がって行った。
 ビワが風呂から出て来るまでは、まだ時間がありそうだったので、カズは歯を磨いて気持ちを落ち着かせる。
 それから十五分程して、ビワが風呂を上がり出て来た。

「アレナリアさんとレラは寝たんですか?」

「ああ。レラは洗い物をしている間にもう。アレナリアは疲れたって、大きなあくびをしてたから寝てもらった」

「そうですか。それでお話があると言ってましたが、カズさんもお疲れでしょうから、お風呂を出た後にします? それともレラがいないのなら明日にしますか?」

「あ…うん、いや。先に話すよ。こっちに来てビワ」

 ソファーに座るカズは、ビワを呼んで横に座らせた。
 ビワから花の香がする石鹸と、洗髪剤の良い匂いがした。
 今夜そんなつもりはなかったのに、アレナリアが変な事を言った事で、風呂上がりのビワを見てから、カズの鼓動は徐々に早くなっていた。
 落ち着くために深呼吸をするも、ビワから漂う良い匂いが、逆に気持ちが高ぶらせてしまう。
 横に座るビワが濡れた髪を拭きながら、カズが話し出すのを待つ。

 カズは口を開き、今日アレナリアに告白した事を伝えた。
 そして先にビワに告白した事と、その時の状況なんかもアレナリアに伝えた。
 カズが先にビワに告白した事を、アレナリアは怒りも嫉妬もする事なく受け入れてくれたビワの話した。
 先に告白されて少し後ろめたい気持ちがあったビワだったが、今の話を聞いて気持ちが楽になった。
 アレナリアには雰囲気のある夕日に照らされた池の畔で告白をしたが、やはり告白の言葉がダメで、アレナリアに訂正させてしまった事も隠さずビワに話した。

「私の時と同じですね」 

 ビワはクスッと笑って答えた。
 駅のホームという場所でビワに告白してしまったカズは、もう一度雰囲気のある場所で告白すると約束しているを忘れてはいない。
 明日、明後日とビワは仕事が休みなのだから、この二日の間にとカズは考えていた。

「私にはもう一度告白してくれるんですよね」

 心を読まれたかのように、ビワから告白の話が出た。

「もちろん。ど…」

 カズは思わず、告白される場所が何処がいい? と、馬鹿な事を聞いてしまうとこだった。
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