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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

614 帝都中心部の地下調査

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 帝都について書かれた複製本をレオラが読んだ日から十三日後、ビワを迎えに来たカズはレオラの執務室に呼ばれた。
 用件は複製本に記載されていた場所に入っての調査。
 レオラはすぐにでも調べたかったらしいが、その場所が罪を犯した者を裁く、所謂いわゆる帝都の裁判所の近くだと。
 第六皇女のレオラといえど、すんなりとは許可が下りなかった。
 場所的にカズ一人で調査をするのは無理との事で、今回はレオラと守護騎士のグラジオラスと三人でと調査だと聞かされた。
 地下の調査に入るのだから、グラジオラスより小柄なアスターかガザニアの方が良いのだが、二人は別件で帝都を離れている。

 アスターは臨時の特別講師をするのに、学園のある街に出向く事になっていたので、調査に同行する対象から外された。
 戦闘能力だとモンスターとの戦闘経験があるガザニアを選ぶが、今回は調査がおもなので、レオラはグラジオラスを選んだ。
 カズが共に行動するという事もあるが、ガザニアにはアスターの補佐として一緒に学園に行ってもらう事にした。
 皇女に仕える騎士だからなんだと、鼻っ柱の強い貴族の子供は少なからず居る。
 臨時の特別講師として、そのような相手にアスターがどう対処するかを、ガザニアに学ばせ、いずれは一人で臨時の特別講師を任せられるようになればと。
 あとは前回アイリス姉上が二人の騎士を臨時の特別講師に行かせたのに、今回一人ではまずかろうと、カーディナリスに言われたのもあった。

「調査の許可は、明日と明後日の昼でと、時間が限られてる。時間を無駄にはできないから夜明けに出る。それまでに来てくれ」

「夜明け前にですか。わかりました」

「ばあには休暇を取らせた。ビワにも仕事は休みだと言っておいた。明日遅れるなよ」

「はい」

 話が終わるまで待っていたビワと乗り合い馬車で川沿いの家に戻り、夕食後に急きょ調査の同行をレオラに頼まれた事をアレナリアとレラにも伝え、この日は何時もより早く就寝した。


 ◇◆◇◆◇


 夜明け二時間程前に、カズは一階のリビングに下りて身支度を整えていた。

「カズさん?」

「こんな時間にどうしたの?」

「眠りの浅い時に、階段を下りる音がしたので、見にきたんです」

「起こしちゃったのか。ごめん」

「もうお出かけですか。まだ早いのでは?」

「レオラから夜明け前としか聞いてないからね。遅い、なんて言われかねないでしょ。だから早めに行って待ってることにしたんだ。俺はもう行くから、ビワは部屋に戻って寝るといい」

「そうします」

「まだ一人では出歩かないように。もしもの場合は、遠慮せずに念話で知らせて」

「はい」

「じゃあ、いってく…の前に」

「え!?」

 窓に掛かるカーテンの隙間から差す月明かりだけの薄暗いリビングで、カズはビワを抱き寄せる。
 薄暗い部屋でビワと二人っきり、カズは思わず気持ちを行動に移した。
 急なカズの行動にビワは驚き、目をパチクリする。
 カズは耳元で「いって来るよ」と、それに応えてビワもカズを抱き締め「いってらっしゃい」と。
 キスその先までしては、気持ちが押さえられそうになかったので、名残り惜しくもビワから離れて川沿いの家を出た。
 この後ビワは中々寝付けずに、この日寝不足になった。

 住人が眠る街に足音を響かせるのどうかと思い《隠密》のスキルを使用し、物音を立てずに移動する。
 そろそろ自分の気持ちを、アレナリアにもハッキリと伝えなければと考えながら〈身体強化〉を使い、静かな街を走ってレオラの屋敷に向かう。

 この日深夜に到着する魔導列車はないので、タクシー辻馬車を殆ど見かけない。
 乗り合い馬車が走る時間まではかなりあるので、大通りに人の気配はない。
 レオラの屋敷に着くと、裏口の近くで出て来るのを待つ。
 三十分程すると、レオラとグラジオラスが裏口から出て来たので、カズは《隠密》を解除して二人の前に姿を現す。

「来ていたか。目的の場所までは、歩いて二十分程だ。まだ夜明けまで時間はあるが、急いで行くぞ。付いて来い」

 カズとグラジオラスは小声で返事をして、早歩きするレオラに付いて行く。
 地下に入るとレオラから聞かされたからだろう、グラジオラスは何時も腰に携えてる長剣を所持していない。
 その代わり小さめのリュックを背負っていた。
 無言のままレオラに付いて行き、二十分程で古びた建物に到着する。
 正面入口は二階になっており、広い石階段がある。
 レオラは上着の内ポケットから鍵を出し、石階段の脇にある通用門を開けた。
 レオラに続きグラジオラスとカズが通用門を通ると鍵を掛けて、その奥にある扉に向かい、別の鍵で扉を開けて中へと入る。
 グラジオラスはリュックから手の平サイズの筒を出して突起物を押した。
 すると筒の先から光が放たれた。

「懐中電灯?」

「小型の魔鉱石ライトです。魔力を蓄積させる事が出来る物で、最大で二時間ほど使用し続けられます。持ったまま魔力を流しても使えます」

「レオラ様も同じ物を?」

「アタシはこれだ」

 レオラが魔力を流すと、左手中指の指輪が光を放つ。
 グラジオラスが持っている魔鉱石ライトとは違い、魔力を蓄積できないが軽量で使いやすい。
 使用する魔力も微々たるもので、魔力の少ない者でも長時間使用できる代物だが、それなりに値は張る。

「カズは何か持って来たか?」

「俺は暗闇でも見えるスキルがあります。それに〈ライト〉」

 カズは小さな光の玉を作り出した。

「こんな風にも出来ます」

「少し光が強い。弱められるか?」

 カズは魔力を調節して、照らす光を弱めた。

「建物内はそれくらいでいいだろ。地下に下りる場所は奥だ。行くぞ」

 レオラに続いて建物の奥へと入って、階段を二度下りる。
 建物の地下の二階は、物置き場になっていた。
 古そうな書類や椅子に、何を測るのに使っていたのか、天秤が数多く大事そうに保管してあった。
 そういった物に見向きもせず、レオラは更に奥の部屋に移動し、床に敷いてあった絨毯じゅうたんを指差して「この下だ」と言う。

 カズに出現させてる光の玉を明るくさせ、レオラは指輪の、グラジオラスは魔鉱石ライトの明かりを消した。
 部屋にある荷物を出し、絨毯じゅうたんを剥がして部屋の隅に畳んで置く。
 床には細かいゴミやほこりあるだけで、特に変わったところはないように思えた。
 レオラはわざと足音を立てながら、何かを探すように部屋を歩き回る。
 部屋の一角に近付いた時、足音が僅かに変わった。

「ここだ。どこかに魔力を流せば開くはずだ。カズ、わかるか?」

 レオラが目を通しておくようにと、複製本には幾つかしおりが挟んであった所を、カズは一応読んでおいた。
 そこには建物の地下部屋から、旧帝都の建物に下りられるとは書いてあった。
 カズは帝都中央の地理には詳しくないので、その建物が何処かまでは分からなかった。
 魔力を使用して起動する装置なら、魔道具アイテムと同じ筈。
 そこでカズは《鑑定》のスキルを使えば、見付ける事が出来る考え、早速使用した。

「ここ、床の下に何かありますね」

 カズは細かなほこりを手で払い、その後息を吹き掛けて飛ばす。
 そこで分かったのは、この部屋の床が、大小様々な正方形と長方形に加工された、大理石に似た石を嵌め込んで作られているということ。
 手でほこりを払っていては時間が掛かり過ぎると、カズは部屋の床に〈クリア〉を使用した。
 床のがらかと思っていた黒い線は、加工された床石と床石の間に詰まった細かなゴミやほこりだった。
 その汚れが消えた事で、レオラが特定の場所だけ音が変わったと言った事が見て分かった。
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