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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

610 かつてやらかした出来事が原因

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 レオラが折れると、カーディナリスはかつてレオラが本の街でやらかした出来事を語る。

「一人で本の街を訪れたレオラ姫様が十人程の者に絡まれるも、小蝿を払うかのごとく叩きのめしました」

 やらかしたなどと言ってはいるが、話をしているカーディナリスは、何処となく楽しそうに思えた。

「するとその仲間が粗暴な冒険者を約五十人集め、冒険者ギルド近くでレオラ姫様を取り囲んでの一対多数。街の中心街で姫様一般女性が冒険者に殺されては大問題だと、十数人のギルド職員が止めに」

 珍しく饒舌じょうぜつになるカーディナリスを見て、やはりレオラは「ハァ」と、ため息を吐く。

「多勢に無勢を物ともせずにレオラ姫様は取り囲んだ粗暴な冒険者と、止めに入ったギルド職員もろとも一方的に蹴散らす。その報告を受けた冒険者ギルドは、戦えないギルド職員を残して、粗暴な冒険者と止めに入ったギルド職員全てを、無傷で蹴散らしたレオラ姫様を捕えて拘束し、ギルドの牢に閉じ込めたたのです」

 粗暴な冒険者五十人と、ギルド職員十数人を相手に、無傷で蹴散らしたレオラを、どうやって捕えたのか不思議に思い、カズはカーディナリスに質問した。
 するとカーディナリスが話すのを見て恥ずかしくなってきたレオラが、自らその時の事を語りだす。

「あの時は、暴れてスッキリしたんで、おとなしく言う事を聞いて捕まった。つい勢い任せに、ギルド職員をしてしまったんで、悪いと思っての事だ」

 カズがまだ疑問に感じていると、カーディナリスが気付き、その疑問に答える。

「この時にはまだ、本の街の冒険者ギルド職員の方々は、姫様が帝国の第六皇女だと知らなかったんです」

「少し違うぞ、ばあ。知らなかったのは、当時のギルマス以外だ」

「それはほぼ知られてないのと同じだと思います。それに単なるケンカに、ギルマスや出て来ないでしょう」

「絡んで来た連中の中には、アタシが実績を金で買って冒険者ランクを上げた、貴族の道楽だと言ってた奴がいた。あとは、セテロン国潰したあの国から流れて来たのも居たな。まあ、どいつもこいつもアタシの実力は、その身をもって知ったんだが。アハハハはッ」

 レオラの豪快な笑いとは違い、ガスは「ハハ…は」と苦笑する。

「……あれ、そういえば、どうやって牢から出してもらったんです?」

「そこはあれだ。アタシのだだならぬ雰囲気に気付いた職員達がひれ伏して、慌ててギルマスを呼…」

「盛るのはよくありまけんねよ、姫様」

 レオラの言葉を遮り、カーディナリスが割って話に入る。

「アタシは盛ってなんて…」

「本当は暴れた姫様を、国の兵士に引き渡す時に気づかれたはずです。ギルドマスターと会ったのは、その後だと聞いておりますが、違いましたか?」

「んぐ……そ、そうだったかなぁ」

 話しを盛ったレオラの発言に、即座にカーディナリスは突っ込み訂正する。

「知らなかっとはいえ、ギルド職員は自国の皇女に無礼を働いたのです。何かしらの処罰は下るものですが、アイリス姫様が間に入り、本の街の冒険者ギルドに恩情の手紙を宛てた事で、ギルド職員に罰は無かったと、私しは記憶してます」

「そうだった、そうだった。さすがは姉上だ」

「姫様は先ほど、他の皇族の方には迷惑をかけないようにとおっしゃいましたが、違いましたか?」

「ちが、違わないが……」

私しが思い出した事を、お話した方が宜しいですか?」

「ばあよ、そのくらいで勘弁してくれ。アタシが悪かった」

 完全に打ちのめされたレオラは全身の力が抜け、椅子の背もたれに寄りかかり天井を仰ぎ降参する。
 昔に比べて、自分のした事を反省するようになったレオラを見て、カーディナリスは込み上げるものがあり「歳を取ると涙腺が緩む」と呟く。 
 カズ達と知りあう前までは、冒険者として活動していた頃の荒っぽさが然程抜けていなかった。
 ただこの数ヶ月は、公務も殆どサボる事なく務め、有意義な日々だとカーディナリスは感じていた。
 ただ、涙ぐむカーディナリスを見て、カズは不思議に思っていた。
 何故と。

「俺がレオラ様専属の冒険者となっているのを、帝都のギルド本部から聞いて、ああなったという理由わけですか」

「あの時はアタシから絡んだんじゃないんだ。なのに本の街のギルドは、未だにアタシの事をそう思ってるのか。カズ達と再会した時に、顔を隠していた正解だった」

「正解だったじゃないですよ」

「カズだって絡まれた事くらいあるだろ」

「ま、まあそれは…」

 確かにカズ自身も低ランクの頃は、意味もわからず絡まれた事があったので、レオラのやった事は少し理解出来る。
 ただ、止めに入ったギルド職員もろともは、流石にやり過ぎだと思った。

「帝都に来てからの違和感は、それだったんですね」

「違和感?」

「帝都では素のまま出歩いているのに、本の街で再開した時は、マントを羽織ってフードで顔を隠していたので。最初は皇女様がお忍びだからと思いましたが違ったんですね(ギルド職員達の反応が反応だったからな。顔を隠したがるわけだ)」

「アタシの素性がどんどんカズに知られるようで、なんだか気恥ずかしい」

「別に知りたいわけじゃないんですけど」

「まさか、ばあを利用してアタシの過去をさらけ出させ、嫁にしようと考えているのか!」

 突拍子もない冗談に、カズだけならずカーディナリスとビワも口を半開きにして、ぽかんとする。
 何を言ってんだと、カズは「全力で遠慮します」と答え、レオラの言葉を、全面的に否定する。

「少しは慌てたり、考える素振りを見せてもいいだろ。アタシだって未婚の女なんだぞ。しかも皇族の」

「俺にはビワがいますから。それにアレナリアと、一応レラも」

 アレナリアよりも先にビワの名前が出た事にカーディナリスが反応し「冷めてしまいましたので、新しく淹れてまいります」と、ティーポットを持ちビワを連れて執務室を出る。
 そこまで冷めていない筈だとカズは考えたが、カーディナリスがそう言うのならそうだろうと、深くは考えなかった。
 十数分して二人が戻って来る。
 何だかカーディナリスの表情が柔らかくなった様に思えたのは、カズの気のせいだろうか?
 片やビワはうつ向き気味で、何だか恥ずかしそうにしている様だった。
 こちらは気のせいではないと分かる。

 一通り話を終えて少し雑談をしたところで、中庭で訓練をしているレラの様子を見に行こうと移動する。
 レオラとカズがまっすぐ中庭に向かい、カーディナリスとビワは空になったカップと、少々中身が残っているティーポットをワゴンに乗せて片付ける。

 レラがナイフの訓練に行ってから、一時間程経っていた。
 そろそろ飽きてだらける頃かと思いきや、アスターとグラジオラスが丁寧にナイフの使い方を教えていた。
 アレナリアは魔力を剣に流して、長時間維持させるやり方を、ガザニアと共に試していた。
 意外とガザニアが自分ではこうするが、レラだとこっちの方が維持しやすいんじゃないのかと、真面目に検討していた。

 中庭に面してる部屋から、その様子を見ていたレオラとカズに五人が気付くと「そのまま続けてくれ」と、レオラが声を掛ける。
 そこへ片付けを終えたカーディナリスとビワが入室してくる。
 レオラはカーディナリスを隣に呼び、一緒に守護騎士三人の振る舞いを観察し、カズもビワと一緒に、レラの様子を静かに見守る。
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