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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

609 本の街の冒険者ギルドでの出来事について

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 面倒臭そうにするレラだったが、渋々自分用のナイフを受け取る。

「それでは、行きましょう。レラ殿」

 本の街でと聞き、グラジオラスは何の話をするのか理解して、言われた通りにレラと共に執務室を出て中庭に向かう。

「レラ一人だと心細いでしょ。私もついてくわ」

「そうか。頼む」

 カズとレオラが重要な話をするだろうと、アレナリアは気を利かせて、グラジオラスとレラを追い執務室を出る。

「ここだとあれだ、上で話そう」

 レオラは執務机のある中二階へと階段を上がり、カズも後を付いて中二階へと上がる。
 レオラは執務机とついになる専用の椅子に座り、カズは壁際に置かれている椅子を一脚持ち、執務机を間に挟んだレオラの正面に置いて座る。
 レオラは念の為にと、執務机の引き出しから盗聴盗視防止用の魔道具アイテムを出す。
 それを執務机の上に置くと、魔力を注いで起動させる。
 するとシャボン玉のような薄い魔力の膜が広がり、カズとレオラは魔力の薄い膜に包まれる。
 これで盗聴盗視防止用の魔道具アイテムを中心に、約半径2メートルが効果の有効範囲となる。

「これで大丈夫だろ」

「自分の住む屋敷で、そこまでする必要がありますか?」

「飲み物を持って来たばあ達に聞かれては、マズい内容の話だろ。ここに上がって来たのも、魔道具こいつを使ったのも念の為だ。それに効果の範囲内の声は、外に聞こえる事はないが、外の声は聞こえる。これなら、ばあ達が来てもわかるだろ」

「ギルドでよく使われてる物の上位版か?」

「そんなとこだ」

 レオラが使った盗聴盗視防止用の魔道具アイテムの効果を理解したカズは、言葉を崩して話す。
 これなら周囲を気にせずに、話しても大丈夫だろうと、カズは本の街での出来事を話した。

 タイトルの無い本を見つけ、そこから謎解きをして繋いでゆき、最後は転移魔法により隠し部屋への移動。
 その者の特性や技量により持ち出せる本の数が制限がされ、それも隠し部屋に所蔵されてる本ではなく、知性ある本インテリジェンス・ブックにより複製された本。
 そして隠し部屋から一枚の紙を持ち出した者により、ギルドが隠し部屋を探す切っ掛けとなった原因が、偶然本の街に居たカズだったとレオラは知った。

「なるほど。だとすると、隠し部屋から持ち出した紙は、消えている可能があると」

「ええ(確か既に消滅してる。だったかな)」

「無くなってるのに気づいたら、ギルドは大騒ぎになるだろう」

「レオラにだから話した事を忘れないでくれ」

「わかってる。話すにしても一部だけで、情報元は伏せる」

「そうしてくれ」

「カズに行かせたのは正解だった。で、アタシが頼んだ事が書かれた本はあったか?」

「だとは思うが」

 カズは【アイテムボックス】から一冊の本を出して執務机に置いた。

「話した通り複製本だからな。レオラに譲渡しり、置いて行く事は出来ない。離れる範囲として、せいぜいこの中二階くらいだと思う」

「そうか。なら少し目を通して、必要と思えばアタシが出向く方がいいだろ。その方が来客だの云々うんぬんと気にする事なく読める」

 そう言うとレオラは置かれた複製本を手に取り、最初の数ページを開いて見る。
 そこへ部屋の扉が叩かれ、カーディナリスとビワが飲み物を運んで来た。
 レオラが入室の許可を出すと、ワゴンを押して二人が執務室に入って来る。
 レオラは複製本をカズに渡し「そっちに行く」とカーディナリスに告げる。
 カズは複製本を【アイテムボックス】に入れ、レオラと共に中二階から一階に下り、テーブルを挟んで向かい側の席に座る。

 爽やかなミント系のハーブの香りが漂うお茶をカーディナリスがカップに注ぎ、ビワが二人の前に出す。
 レオラ一口飲むと、運搬商会のパラガスがビワしてきている対処について、先程カズ達に話した内容をカーディナリスとビワにも話した。
 カズと同様に渋い表情をするカーディナリス。
 しかしレオラの立場を考えれば、現在の状況での対策は、妥当だと分かっている。

パラガスとて帝都で商売をしてるのなら、アタシが皇女以外に守護者の称号を持つ、SSランクの冒険者だと知っているはずだ。愚か者でなければ、引き下がるだろう」

「そういう事だから以前のように、俺とアレナリアがビワの送り迎いをするよ」

 不安な表情を浮かべるビワに、カズは優しく声を掛ける。

「Cランク程度の冒険者なら、何人来てもアレナリア一人で余裕に対処出来るだろ。Bランクのパーティーや、Aランクに依頼を出したと分かれば、サイネから知らせが来るようにしてある。でだ、仕事に出て来れそうか? ビワ」

「カズさんとアレナリアさんが送り迎いをしてくれるなら、明日からでも大丈夫です」

「それはいい。ばあの手伝いが出来る使用人は、今のところビワしかいないんだ。なら明日から頼むぞ」

「姫様。わたくしはこの件が落ち着くまでは、ビワには休んでもらった方がいい思います。何かあったからでは」

 カーディナリスだけはビワの事を案じて、仕事に出てもらうのは待った方がいいと言う。

「しかしだなばあ、一昨日腰にきていると言ってただろ。ワゴンそれがあるから食事や、こうして茶を運べるが、それでも辛いだろ。ガザニアに手伝わせてもいいが、ビワほど気が回らないだろ」

「それは確かにそうですが……」

「ビワにもしもの場合があったら、アタシが権力を使ってやる」

「レオラ様の気持ちは嬉しいのですが、私なんかのために権力を行使しないでください」

「そうですぞ、姫様。アイリス様や他の皇族の方々に、どれだけご迷惑が」

「わかったわかった。みなまで言うな。冗談だ」

「姫様の場合は冗談に聞こえません。今までにどれだけ揉め事を起こしてきた事か」

 多くの揉め事を起こしたと言うカーディナリスの言葉に、聞かずとも想像が出来るとカズは苦笑いをし「……あ!」と、本の街の冒険者ギルドに行った時の事を思い出す。
 カズの思わぬ声に、レオラが「どうかしたか?」と尋ねる。
 ガスは本の街の冒険者ギルドで、アレナリアから連絡が来てないかを聞きに行った際に、レオラ第六皇女専属の冒険者だと知られ、とても恐れられた事を話した。

「皇女のレオラ様に畏敬いけいの念を抱いて、専属冒険者となってる俺にうやまう態度をとったならわかるんですよ。でもそうじゃなくて、どちらかといえば、関わってはいけない存在。明らかにギルドの人達は、恐怖心で青ざめていました。本の街あそこで、何かしたんてすか?」

「まぁ、そのなんだ…ちょっと絡んで来た冒険者バカを、軽く懲らしめただけだ。軽くちょっとだけだぞ。軽く……」

 視線をカズから少しずつ背け、発する言葉も歯切れが悪い。
 これは本の街で何かやらかしたと感じ、聞く相手を変える。

「カーディナリスさんは何か知りませんか? レオラ様が本の街で起こした事を?」

 カズの質問にカーディナリスは少し考え、レオラが起こした揉め事や面倒事を思い返す。

「それはあれですね。姫様が十人程の方を叩きのめ─」

「お、おい! ばあ」

 レオラは慌てて、カーディナリスの話をやめさせようとする。

「あの時はジャンジさんとシロナさんを同行させずに、お一人で出掛けていたんでしたね」

「ばあ!」

「わたくしもいい歳です。たまにはこうして昔の事を思い出して話しませんと、いつまで姫様にお仕えるすることが出来るか……」

「お、おい、それは卑怯だぞ」

「この老い先短い老婆の口を、姫様の怪力で閉じますか?」

「そんな事をする訳が…怪力? アタシも一応女だと言い聞かせてるのは、ばあだろ。それをだな」

「ゴホッゴホッ。どうも体調が」

 カーディナリスはわざとらしく咳き込む。

「あぁーもうッ、好きにしろ!」

「では、そういたします」

 レオラの許可を得て、カーディナリスは笑顔で答える。
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