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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

605 レラの魔力操作の練習再開

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 終点中央駅セントラル・ステーションで魔導列車を降り、カズ達は川沿いの家に乗り合い馬車で戻る。
 特に尾行されたり、監視されてる様子はなかった。
 カズが家中の窓を開けて換気をしていく。
 ビワは自分の部屋と、アレナリアの部屋の窓を開け、その後昼食の準備をする。
 昼食を済ませると、レラとの約束だった特製プリンを作りの用意をする。
 レラも珍しく一緒にやると言い、三人で特製プリン作りに取り掛かった。
 何度かレラも手伝いをしてきたので、少しだけどプリン作りの工程を覚えてきていた。
 慌てず慎重に作業を進め、最後に冷蔵庫に入れて終了。

 ビワはミツモモを使ったフルーツミルクを作って、三人分をコップに注ぎ、ソファーのある方のテーブルに運び、カズは洗い物と後片付けを。
 ソファーに座りミツモモのフルーツミルクを飲んでくつろぐ。

「ビワ、これなんだけど読める?」

 カズは隠し部屋から持ってきた複製本を【アイテムボックス】から出して、ビワに渡した。
 パラパラと開いて確認すると、本の表示のタイトルを読む。

「種族妖狐の能力と伝承。カズさんが質問して、持ってきた本ですよね」

「それでビワと同じ妖狐という種族が、どういうものかわかると思う。住んでいる場所も書いてあるかも知れない」

「それをどうして、私に?」

「勝手に探るのどうかと思って。だからビワが先に見てくれないか。それで俺が見てもいいか決めてくれ」

 ビワは考えるまでもなく、本をカズに差し出す。

「どういう内容でも、カズさんに知られて困るとは思いません」

「いいの?」

「同じ種族の事が書かれてるというだけで、私は私ですから。それに……」

 今回はレラが起きてるので、その先は答えなかった。

「そうだね。種族だどうだろうと、ビワはビワだもんね」

「はい」

「わかった。それと話は変わるけど、明日レオラの屋敷に行ってみよう。ビワの仕事の事もあるし、ビワを探ってた連中の事も聞きたいから」

 ビワは自分が狙われていた事を、カズの言葉を聞き思い出した。

「換気する時に一通り確認してけど、侵入された形跡はなかったと思う。あとで構わないから、ビワは自分の部屋に変わったところがないか確認してくれ」

「さっき窓を開けた時は、何も気になる所はありませんでした」

「物の配置なんかに少しでも変化があったり違和感を抱いたら、用心の為にアレナリアと一緒の部屋で寝てくれ。レラもな」

「心配ならカズも一緒に寝ればいいじゃん」

「俺はほら、何かあってもすぐ動けるように、リビングここで寝るよ。そうすれば、三人を起こさずにすむだろ」

 明日の予定も決まり、アレナリアが戻って来るのを、のんびりと待つ。
 本の街では、東西南北の図書館を行ったり来たりと、結構忙しく動き回っていたので、たまにはぼ~っとソファーに座っているのも悪くはない。
 特製プリン作りを終えてから一時間くらい雑談をして過ごし、ビワが夕食の仕込みをするというので、持って来た食材の一部をカズが【アイテムボックス】から出して渡す。
 昨夜の猟亭ハジカミでの食事は肉ばかりだったのを考え、今日はトマトとバジルのパスタと、ジャガイモの冷製スープだと。
 カズが手伝おうとするが「本を読んで休んでいてください」と、ビワに断られてしまった。

 言われたように本を読むのもいいが、本の街に行ってからやってなかった、レラの魔力操作の練習、それをさせしようとカズは思い立つ。
 面倒臭そうにするレラを裏庭に連れ出し、レラ専用ナイフに魔力を込めさせて維持させる。
 継続した魔力操作の練習を怠ったことで、レラは三分と経たず込めた魔力が揺らぎ、留められずに霧散する。

「魔力操作を始めた頃に戻ったか」

「そこまでは戻ってないもん。それにまだ一回目っしょ。あと数回かやれば、長く出来るもん」

「とりあえずアレナリアが戻って来るまでやるぞ。早ければ二時間くらいで来るだろ」

「えぇ~」

「休憩も入れながらやるから文句言うな。レラ自身のためでもあるんだ。納得したろ」

「ほ~い」

 唇を尖らせて渋々納得し、レラは練習を再開する。
 魔力はカズが付与した装飾品を身に付けているので、微小だか魔力は自動回復する。
 なので休憩を挟みつつやれば、魔力不足で倒れるような事はない。
 レラは自分で言ったように、数回で魔力の留め方を思い出し、十数分まで維持する事が出来た。
 だが流石に二時間は長く、魔力維持の練習に飽きてきたという表情は、すぐに分かった。

「疲れた後のは、さぞ美味いだろう。真面目にやってれば、ビワも夕食前に食べるのを許してくれるだろなぁ。もうやめるか? レラ」

「全然大丈夫だし。アレナリアが戻って来る前に、二十分以上維持出来るようにしてみせるもん!」

 特製プリンで釣ると、レラはやる気が上昇して気合が入る。
 それからアレナリアが戻るまで何回か続けるも、最長で十八分維持する事が出来ただけで、目標の二十分以上には届かなかった。
 しかし始めた頃を考えると、成果は予想以上に早い。
 元々自然体で魔力を使用して飛んでいるのだから、魔力操作だけなら一度コツを掴めば、当然といえば当然な結果だろう。

 裏庭から家に入り手を洗いソファーに座ると、頑張るレラの様子を見ていたビワが、特製プリンをレラの前に。

「夕食前だから一つだけよ」

「ありがとう! ビワ」

 早速レラは特製プリンが入ったビンの蓋を取り外し、甘くとろけるような匂いの、柔らかい中身をスプーンで掬い、大きく開けた口に運ぶ。
 プリンさえ最近口にしてないのに、何時ぶりになるだろうかの特製プリンは、まさしく涙が流れる程の美味しさだった。
 レラの手は止まる事なく特製プリンをスプーンで口に運び、一分も経たずに食べ終えてしまった。
 ビワに二個目を要求するも、夕食前だと却下された。

 戻って来たアレナリアは二階の自室に荷物を置きにいくついでに、侵入された形跡がないかを確かめてもらう。
 侵入と聞いて、アレナリアは「何かあったの?」と聞いてきた。
 ビワが狙われている理由をアレナリアは知らなかったんだと、カズはレオラから聞いた情報を話した。
 二階から下りてきたアレナリアが「特に変わったところはなかったわ」と言ってきた。
 レオラがうまく対処してくれたんだろうと、カズは考えた。
 少し早いが半月ぶりに、四人での夕食にする。

「半月お疲れさん、アレナリア。問題はなかったか?」

「これと言って揉め事なんかは無かったわ。強いて言うなら、ヒューケラを元気付けたり、叱ったりするのが少し大変だったかしら」

「そうなのか?」

「翌日まで引きずってたら、研修に影響が出るもの。完全にとはいかないけど、なんとかしてあげないと。コーラル父親から頼まれてたからね。そのかいあって、今回の見習い研修は、そこそこよかったみたいよ」

「また頼まれそうだな」

「報酬を貰った後で、次も頼んでいいですか? って、言われたわ」

「で、なんて返事したんだ?」

「時間が取れたら。と、だけ言っておいたわ。いくらヒューケラに好意を持たれても、ずっと一緒には居てあげられないもの。それよりさっきの、ビワを狙ってる人物の事はどうなったの?」

「それは明日レオラの所に行って聞くつもりだ。留守にしていた間に、動きがあったのかどうかを」

「そう。それでカズ達の方は、隠し部屋を探すのはどうだったの?」
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