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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

604 一ヶ月後に改めて

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 アレナリアの話を聞いたレラが、カズの服を引っ張る。

「なんだレラ?」

「なんだじゃなくて、どうするかカズが聞いてくれるんでしょ」

 何時もなら遠慮なんかせず、人の話を遮ってまで意見を言うレラが、カズに代理を頼むのを見て、アレナリアが疑問に思った。

「どうしたのレラ?」

「え、あー…今日はどうするのかなーって」

「今日?」

「このままこの列車で帝都に戻るのか、それともどこかの駅で下車して、一泊するのかレラは聞きたいんだよ」

「そうねぇ……どうする? ヒューケラ」

「当初の予定では、深夜の到着を見越して、この列車で戻るつもりでした。でも一時間も遅れるとなると、一旦どこかの街で宿に停まった方が良いと考えてます。お姉さまはどう思いますか?」

「これ以上列車が遅れないとも言い切れないし、明日の列車で戻った方が無難だと思うわ」

「でしたら、どこの街で降りるか決めましょう」

 ヒューケラとアレナリアのやり取りを聞き、途中下車して一泊して、明日の魔導列車で帝都中央に戻る事になった。

「なら、あそこはどうだ? 帝都にも入ってるし、食事出来る店もある」

 アレナリアは少し考えて、カズが言ってるのが、レオラの元守護騎士が経営してる飲食店だと分かった。
 確かにヒューケラを連れて、初めての街で降りて宿屋と食事出来る店を探すのは手間が掛かると考えた。
 レオラ第六皇女が泊まる宿屋と、元従者が経営してる飲食店なら安心だと、アレナリアがヒューケラに説明した。
 元守護騎士だと伝えると、気負いしてしまうと思い、アレナリアは元従者だということにしてヒューケラに話た。
 皇女様御用達なら断る理由はないと、今夜宿泊する宿屋と夕食を取る飲食店にヒューケラは承諾する。
 カズが提案した事でも、アレナリアが説明したから納得したのだろう。
 と、ヒューケラの表情の変化を見て、カズは悟った。

 魔導列車は一時間強の遅れを保ったまま、それ以上遅延する事なく帝都へ向けて進む。
 日が暮れてレラの空腹が限界になってきた頃、予定のブルーソルト駅に到着し、宿屋で部屋を取ると、元レオラの守護騎士の二人が経営する猟亭ハジカミで遅めの夕食を取る。
 急に訪れたのにも関わらず、個室を用意してくれて、優しく対応してくれた。
 客商売なのだから、それが当たり前かも知れないが、そういった店はあまり多くない。

 挨拶もそこそこにして、空腹のレラは以前来た時に食べた肉の塊を注文。
 レラが残したら失礼にならないように、それを食べようと、カズは半分の大きさの肉を頼んだ。
 ビワはきのこ数種と野菜を炒めて、パスタと和えた料理を。
 そしてアレナリアが料理を注文すると、ヒューケラは同じ料理を頼んだ。
 初めてのジビエ料理をおっかなびっくり口に運んでいたが、下処理も丁寧ていねいにされているので臭みもなく、数種の香辛料で下味をつけているので、肉は柔らかくスパイシーで美味しいと喜んでいた。

 店を出る前にお裾分けとして、大量購入したミツモモを一箱渡すと、お返しにとブルーソルトを1キロ程分けてくれた。
 追加で頼んであった朝食用の軽食を受け取ると、食事代を払い宿屋に戻る。
 宿屋の部屋の割り振りは、研修にクラフトに行っていたのヒューケラとアレナリアで一部屋。
 カズとビワとレラの三人で一部屋。
 予想外だったのは、レラも一緒にとヒューケラが言ってこなかったことだ。
 翌朝出発の三十分前に宿屋の一階に集合と決めて、シャワーで汗を流してそれぞれのベッドで就寝する。

 ただカズとビワだけはウエスト・ファーム駅のホームでの出来事を思い返し、目を閉じるとその時の互いの表情が現れ、一向に寝付けなかった。
 カズはあんな色気も雰囲気もない場所で、プロポーズ告白してしまった愚かさに悶え。
 ビワは自分の大胆な行動と、アレナリアよりも先に言われたことが嬉しくて、目が冴えてしまう。
 その二人が眠りに付いたのは、ベッドに入ってから二時間以上たっての事だった。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝少し寝不足気味のカズとビワは、互いの顔を合わせると、昨夜の寝付けなかった事を思い返し、照れた表情をする。
 レラがまだ起きて来ないのをカズは確認し、ビワにウエスト・ファーム駅あの時の事について話す。

「本当は一ヶ月くらいして自分の目中で整理をつけて、気持ちが落ち着いてから二人に言うつもりだったんだ。だから告白あの事は、少しの間内緒にしておいてもらえる」

「…はい(二人だけの秘密)」

 コクりと頷いたビワは、やっぱり昨日の事は夢ではなく、現実にあった告白だと実感して胸が熱くなる。

「アレナリアにも言うつもりだけど、ビワにも改めて言わせてもらうよ」

「ふふッ。私だけ二回も言ってもらえるんですね」

「一度目を無しにとは言わないけど、あれではビワに申し訳なくて」

「なんて言ってくれるのか、期待しちゃいますよ」

 流石に自らハードルを上げておいて、期待しないでとは言えない。
 それこそ隠し部屋の知恵ある本インテリジェンス・ブックに、最高のプロポーズの言葉とシチュエーションが書かれた本があるかを問いたいと考えてしまう。
 だが実際に本があったとしても、他人が考えた方法で二人が本心から喜ぶとは思えなかった。
 やっぱり相手の事を思うからこそ、自分で考えないと意味がないだと。

「なら評価は行動で現してくれるかな。あの時みたいに」

 カズが告白した後に、ビワがそっとキスをした事を上げる。
 ビワは顔を赤らめ「い…いいですよ」と答えた。
 二人が黙り静かになったところに、タイミングを見計らったかのようにレラが起きてくる。
 アレナリア達の集合する時間もあまりないので、まだ眠そうにあくびをするレラを連れて部屋を出る。
 全員揃うとアレナリアが宿代を払い、誰もいないブルーソルト駅で魔導列車を待つ間に、昨日猟亭ハジカミで作ってもらった軽食を朝食とした。

 この日乗る魔導列車は、最西端のクラフト駅からではなく、別路線から来ているので、到着時間が大幅に遅れる事なく、ほぼ予定通りにやって来た。
 流石に日本みたいに、時間ピッタリに来ることはない。
 二等車両に乗り、五人で座れる席を探す。
 今回の魔導列車は、夜出発して昼に中央駅セントラル・ステーション到着予定の夜行列車のため乗客が少ない。
 座席に寝転んで居る乗客もちらほらと。
 三両目の二等車両に移動したところで、ようやく五人が座れる席を見付けた。

 席順は昨日と同じ、窓側にヒューケラとビワが座る。
 ヒューケラの隣はアレナリアが、ビワの隣はカズが座り、レラはビワの膝の上に。
 ビワが疲れただろうと感じたら、レラはカズの方に移動する。
 カズを除き四人ともクッション座布団を敷いて、振動や衝撃を和らげる。

「私とヒューケラはここで降りるわね。遅くとも夕方までには戻るわ」

「わかった」

 帝都中心部の中央駅セントラル・ステーション一つ前の駅の着くと、アレナリアとヒューケラは降りて、駅近くのブロンディ宝石商会へと向かう。
 半月振りにブロンディ宝石商会だと思うと、ヒューケラの足は自然と早くなる。
 魔導列車の遅れにより一泊した事で、予定より一日遅れで戻る事になった。
 ヒューケラが戻ったと従業員が知らせると、父親のコーラルが慌てて一階の店に出てきた。
 客が居るのもお構いなしに、ヒューケラを抱き寄せ「お帰り」と。
 流石に店内ではと従業員が「お客様がおりますので、お嬢様とお部屋の方へ」と言われ、コーラルはヒューケラから離れ、来店している客に謝罪をして、三人で店の奥へと入っていく。
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