人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

603 情けなく格好がつかない男

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 今度はカズが座り直して背筋を伸ばし、上目遣いのビワに顔を向ける。

「冗談じゃない。本来はもっと雰囲気のある場所で、アレナリアと一緒の時に言った方がいいんだろうけど……ビワの気持ちが変わってなければ、俺と一緒に墓…は、違わないが、そうじゃなくて。ずっと側にいてほしい」

 自分では落ち着いているつもりなのだが、初めての告白は緊張で言いたいことかまとまらず、ぐずくずになってしまう。

「こんな色気も雰囲気もない場所なうえに、言葉にも詰まるなんて。ごめんビワ。うまく言えなくて……(情けない)」

 左手で顔を覆い、今度はカズが顔を伏せた。
 告白を聞いたビワはゆっくりと立ち上がり、カズの正面に移動してしゃがみ、重ねた両手を自分の胸の中央に当て、カズに見せる。

「カズさんの言葉を聞いて、私のここが温かくなりました」

 ビワの言葉を聞き、カズは顔を覆っていた左手を下し、伏せていた顔を上げて、両手を胸に当てているビワを見る。

「そう言ってもらえると、俺も嬉しい」

「で…でしたら……その…証をください」

「あかし?」

 ビワは両手をゆっくりと膝の上におろして、カズに顔を近付けて目を閉じ、自分の唇をカズの唇に重ねる。
 カズは突然の事で驚き、目を見開いて赤面する。
 数秒触れ合った唇同士が離れると、ビワは恥ずかしそうに微笑み、それを見たカズの心臓は大きく跳ね上がる。

「カズさんでも、そんな顔をするんですね」

「ふ…不意打ちはズルいよ」

 ガスは更に顔を赤くし、視線をビワから反らす。

「先に不意打ちをしたのは、カズさんですよ。急に…こ…告白するんですもの」

「それはだから……」

 頭の片隅で考えていたことが、自然と口から出てしまったので、弁解のしようがない。

「誰もいませんし、もう一回…します」

 ビワは右手の人差し指を自分の唇に軽く当てて微笑む。

「! ビ、ビワって、たまに大胆になるよね」

「じ…自分でも不思議です」

 そう言って自分の行動を思い返すビワは、顔を伏せて再度上目遣いでカズを見る。
 そして二人の視線が交差し、顔を近付けて唇を重ねようとしたその時「ふぁ~……何してるの?」と、レラが目を覚ました。
 二人はハッと近付けた顔を離し、ビワは元居た場所に座る。

「どったの? ビワ」

「な…なんでもないわよ」

「? どったのカズ?」

「なな、なんでもないぞ」

「……あ! あちしが寝てる間に─」

 レラが感付いたと、カズとビワはドキッとし、冷や汗をかく。

「─二人だけで美味しい物でも食べたんでしょ! ズルい! あちしも食べたい!」

 食い意地の張った何時ものレラだと、カズとビワは見られてなかったと、ほっと一安心。
 取りあえず小腹の空いてるレラに、大量購入したミツモモを一個与え、大人しくしてもらった。
 レラがミツモモを食べ終える頃には、赤くなった二人の顔は冷め、レラを正面から見れるようになった。

「ねぇカズ」

「なんだ?」

「アレナリア達が乗ってる列車まだ来ないの?」

「予定では、あと二十分くらいだ」

「この時間で、今日中に戻れるの?」

「時間通りだとしても、帝都の中央駅に着くのは夜中になるだろう。どこかの街で降りて一泊するのか、乗りっぱなしで行くかは、合流して聞かないと」

「ずっとだと体が痛くなるよ。どっかで泊まって、明日の列車で戻ろうよ」

「それはヒューケラ次第だ。一応はアレナリアの雇い主なんだ。でもレラが頼めば、聞いてくれるかも知れないぞ。ただしヒューケラが、アレナリアと三人で同室だと言ってくるだろうな」

「う~ん、んじゃいいよ」

「いいのか。だったら、一緒に寝てやれよ」

「だから、の」

んだろ? 寝相には気をつけろ」

「気をつけるもなにも、寝てるんだから無理だよ。って、なんでやねん! いいって言ってんじゃん」

「ん?」

 二人は会話が噛み合わないのに気付く。

「レラのは、遠慮するという意味ですよ」

「ああ! どうりで」

 ビワの説明で会話の歯車があった。

「ちゃんと聞いてよね。カズ」

「わるいわるい」

「……やっぱし、あちしが昼寝してる間に、なんかあった?」

 ドキッとする二人は、表情に出さず平静を装う。

「寝て列車を乗り過ごさないように、ビワと話をしてただけだ」

「カズさんの言う通り、お仕事や買った食材で何を作るかを話してただけよ。安心して、レラが聞いた事は話してないから」

 ビワが隠し部屋での事を話に出したので、カズはこれだと、レラが隠し部屋で質問した件に話題を変える。

「そうそう、ビワが教えてくれないんだ。レラは何を質問したんだ?」

 今度はレラがドキッとし、ものの見事に表情に現れる。

「ひみつって言ったしょ!」

「いいじゃないか。ちょっとだけでいいから」

「教えないもん! 乙女のひみつを知りたがる男は、最低の最低なんだから!」

 恥ずかしい内容でからなのか、怒ったからなのかは分からないが、レラは顔を真っ赤にした。
 先程までのカズとビワの様に。

「わかったよ。もう聞かない(とりあえず話が反れたから良しとしよう)」

 レラの顔色が通常時に戻り、魔導列車がなかなか来ないと、レラが愚痴をこぼしだす。
 到着予定時間を五十分以上も過ぎて、ようやく乗車する魔導列車がホームに入って来た。
 三車両ある二等車両の内の一両に乗り、アレナリアとヒューケラを探す。
 何処に居るかと、窓と直角に設置されてる二人掛けの対面席を見ていく。
 二人の姿が無いので、もう一両前の二等車両に移動する。
 すると車両に入って来たカズ達に気付いたアレナリアが、通路に顔を出して手招きをして三人を呼ぶ。

「やっと合流出来たわね。カズとビワはそっちに。レラは適当に座って」

 ヒューケラの正面に座っていたアレナリアが隣に移動する。
 そしてビワがヒューケラの正面、奥の窓側にクッション座布団を敷いて座る。
 アレナリアが自分のクッション座布団をヒューケラに貸しているのを目にし、カズは自分のをアレナリアに渡して、ビワの横に座る。

「いいの?」

「もう半日以上乗ってるんだろ。遠慮しなくていい」

「ありがとう。カズ」

 魔導列車に乗る前に、ヒューケラは座席に敷くクッションを買おうと思い忘れた。 
 なのでクラフトに行く時と同様、アレナリア手製のクッション座布団を借りる事になってしまう。
 帰りは迷惑を掛けないように買おうと決めていたのを、見学や研修で頭が一杯になってしまい、魔導列車に乗ってから気付き後悔した。

 アレナリアが何も敷いてないのにカズは直ぐ気付き、自分のクッション座布団を使うよう渡した。
 自分の方がアレナリアを本当の姉と思い慕っているのにと、ヒューケラはカズに対抗心を抱く。
 そんなカズの気遣いに、嬉しそうにするアレナリアを見て、隣のヒューケラはちょっとムスッとした。
 コーラル父親の命を助けてくれた恩人なので、出会った頃とは違い嫌う事はない。
 だが、アレナリアの事に関しては、カズに取られたくないと、考えるようになっていた。
 無理だと分かっていても。

「列車の到着が遅かったけど、何かあったのか?」

「数日前にクラフト近くで砂嵐が起きたとかで、街を出た後も列車が速度を上げなかったのよ。線路の点検がまだ全部できてないとかで」

「それで遅かったのか(点検が終わってから走らせようよ。この列車大丈夫なのか?)」

「それだけじゃなくて、一つ前の街で車輪の点検だとかで、二十分くらい停まってたの。せっかく朝一番の列車に乗ったのに。そんな事があったのなら、先に言ってほしいわよね」
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