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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

602 駅のホームで列車を待つ間の会話

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 朝食後に買い物に出掛け、市場で新鮮なフルーツミルクを買って飲み歩きながら、買う野菜と果物を見て回る。
 葉物と根菜を数種買ったところでアレナリアから念話が繋がり、現在地と現状を伝えて来たので、ウエスト・ファームの駅で合流すると伝えて念話を切り、買い物を続ける。

 少し目を離した隙に、レラが試食のミツモモを食べて気に入り「おっちゃん、店にあるだけ全部買うよ。詰めて」と、勝手に決めてしまっていた。
 ビワは野菜を見て回っていたので、レラの行動を止める事はできなかった。
 カズが念話を終えてレラの居る果物屋に行くと、店主が満面の笑みで代金を要求してきた。

「まいどあり! ミツモモ八箱で60,000GL金貨六枚でさぁ」

「八…箱? 八箱だって! おいレラ!」

「いいじゃん、いいじゃん。ほら、レオっちとか、みんなへのお見上げで」

「帝都でも売ってるだろ」

「うちのミツモモは、早朝の夜明け前から収穫してるんだ。他の店のミツモモよりも甘いぜ。しかも一個たったの銅貨三枚だ!」

 レラの後押しをするように、店主がミツモモの自慢をしてくる。
 フルーツミルクを飲んでるからと、油断して目を離した自分が悪いんだと諦めて、カズは果物屋の店主に代金を払って、ミツモモ八箱を【アイテムボックス】に入れた。

「どうやって持っていくかと思ったら、アイテムボックスのスキル持ちかい」

 空間にミツモモが詰まった箱が消えたのを見て、果物屋の店主が驚く。

「なら帝都で買うより格安だ。新鮮なミツモモをいつでも食えるようになって幸せだろ」

「最高だよ。おっちゃん」

 レラは果物屋の店主に向けて親指を立てて喜びを表現し、店主も同くレラに向けて親指を立てて笑顔を向ける。
 レラは新鮮なミツモモが大量に買えて、果物屋の店主は二日分のミツモモが朝から完売した事で、二人は満面の笑みをする。
 あとでビワに「安いからって買い過ぎです。言っておきましたよね!」と、二人は怒られた。
 その後欲しい食材は、四人の食事を作るビワの許しを得てからという事に。
 レラは独断で大量のミツモモを買う事を決めてしまったので、試食して気に入ったとしても、購入は一個二個と少量でしか許可されなかった。

 せめて半分にまですればよかったものの、果物屋の店主が店のミツモモを全て梱包してしまっていたので、カズは断るに断れず代金を払ってしまった。
 ビワに「お金があるからといって、なんでも買ってしまうと後悔する事になりますよ」と、言われていたのに。
 元居た世界日本では、趣味以外は結構節約していたのに、どこの世界でも大金を手にすると人は変わるものだと反省する。

 午前中で一通り買い物を済ませ、市場に隣接する食堂で昼食にした。
 アレナリアとヒューケラが乗る魔導列車が、ウエスト・ファームの駅に到着する予定時間まで二時間を切っていたので、乗り遅れないよう昼食を済ませると、かなり早いが駅で待つ事にした。
 一年中通してほがらかな気候のウエスト・ファームは、昼食で膨れたお腹を休ませる昼寝には最適。
 作物が良く育つのも納得。

 帝都方面の魔導列車が停まるホームのベンチに座り待っていると、ビワが作ったクッション座布団を敷き、レラはそこで横になり昼寝通常業務
 見た目が小人族になっているとはいえ、妖精族フェアリーは愛玩目的で拉致される事が多いのを忘れたのか、二人の間で大の字になって寝ている。
 相変わらず食っちゃ寝娘だ。
 と、カズがそんな事を考えて、隣のレラを見ていた。

「カズさんが一緒だから安心してるんですよ」

 そんなカズを見たビワが、考えを読んだかのような言葉を発した。

「だ、だとしても、一応はレラも女なんだから、こんなところで、こんな寝方は」

「そこは、ですから」

「……そだね。だもんな」

 的確な答えを言われては、納得するしかなかった。

「私達も寝てしまったら大変ですし、お話でもしてましょうか」

「だね」

 魔導列車を待つ他の乗客に気を配り、声を少し落として会話をする。
 ビワは隠し部屋での事を聞きたかったが、まだ昨日の出来事なので、話題は時間がなくて作れなかった特製プリンの事と、買った食材で作る料理の話や、ビワの仕事での事などを三十分ほど話す。
 乗客が到着した魔導列車に乗っていき、ホームに他の乗客がいなくなったところで、カズは話題を変えた。

「隠し部屋でレラが聞いてたことって、なんだったの?」

「それは……私の口からは言えません。どうしても聞きたければ、レラ本人に聞いてください」

 少し気になっていたので、レラが昼寝している間にビワから聞いてみようとしたが、ビワの口は堅かった。
 カズ自身から隠し部屋での話が出たので、ビワは話の流れで聞こうとするも「カズさんは……」そこまで声に出すも、躊躇ちゅうちょしてしまい肝心な部分は声量が落ち、カズには聞き取れなかった。

「ん? ごめん聞こえなかった。もう一回言ってもらえる」

「その……」

「聞きづらいこと? レラも寝てるし、今なら他に誰もいないから遠慮することないよ(昨日の事だろう。二人に気を遣わせてしまったからな)」

 ビワは座り直して体の向きを変え、カズの方を向き、少し悲しそうな表情を見せながら尋ねる。

「……隠し部屋あそこには、カズさんが探し求めていたことが書かれた、重要な本があったんですよね」

「元の世界に戻る方法はあるみたいだった。それが書かれた本を見たわけじゃないから、本当かどうかは不明だけどね」

「よかったんですか?」

 カズは出した問の回答を思い返す。

「どの方法も対価が大きすぎるんだ。効果を考えれば当然だろうけど」

「辛くありません?」

「ある程度は覚悟してた。辛くはないと言えば嘘になるかな。期待も少しはあったからね」

「帰りたくは…ぁ、ごめんなさい」

 そんな訳がないと分かっているも、言葉に出してしまい、失言だったとビワは直ぐに謝罪した。

「ビワがそんなには気に病むことないよ。大変な事もあったけど、どちらかといえば、こっちに来てからの方が充実してるからね」

 カズは視線を隣で気持ちよさそうに昼寝しているレラに落として話を続ける。

「レラと一緒にいてやるって約束したし、もし帰れるとしたら、みんな一緒になんて考えてた。さすがに無理だけどね。地球あちらには人族だけで、獣人やエルフやフェアリーとかはいないんだよ。物語の中だけの、空想上の種族なんだ」

「そうなんですか。獣人を…私を初めて見たとき変だと思いましたか? カズさんと違う、この耳とか尻尾を」

 種族の差別をしてこなかったカズを見てきたが、初見の人見知りな自分は、どういう印象だったのか、ふと気になった。

「毛並みはきれいで、尻尾はもふもふしてそうで優しそうな人だと思ったよ。実際そうだったし」

「本当…ですか?」

「もちろん。実際にビワは優しいし、かわいいしね。これからもずっと一緒に居てほしいと思ってる(……あれ? 俺、今、なんて言った?)」

「え!? あ…あの、それって……」

 隠し部屋で得た情報で、カズの覚悟は決まった。
 だが約束の期限までもう少し時間があるので、二人への返事は一ヶ月くらいタイミングを見計らってからにしようと、頭の片隅で考えていた。
 だが、つい、その思いが、物思いにふけっている時の独り言の様に、口走ってしまった。

「あ、いや、今のは…(そうだよ。もうそのつもりなんだ。否定することはない)」

「冗談…ですか?」

 ビワは頬を赤くした顔を少し伏せ、上目遣いでカズを見る。
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