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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

600 図書館巡り 15 様々な問 と 回答 と 旅の目的

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 なんでも質問に答えてくれるようなので、だったらとビワの故郷について聞いてみることにした。

「妖狐の種族が住む場所はわかるか?」

 考えるように羽根ペンが数秒止まり、本に質問の答えを書き始める。

 『妖狐は大陸から分かれた島に暮らす種族の一種。現在では数を減らしている』

「妖狐に関する本はここにあるか?」

 『物語として書かれた本が二百二十六冊。歴史書が三十九冊あり。求める内容を答えよ』

「作り話じゃなくて、妖狐という種族に関することが、詳しく書かれた内容はあるか? あと現在の状況とかもわかれば」

 机に置かれている本に『一部求めに関する内容の本あり』と羽根ペンで書かれ、その本が置かれている書棚の場所まで、先程と同じ様に燭台しょくだい蝋燭ろうそくに火が灯されていく。
 カズは指定された書棚に本を取りに。
 当然腕を組んだままのビワと、肩に乗っかっているレラも一緒に。
 指定された場所にあった本のタイトルのは【種族妖狐の能力と伝承】と書かれていた。

「これがそうなのか(これでビワの能力を解明出来るかもしれない。が、見るのはビワと相談してからにしよう)」

 『なんじはあと十一冊まで持ち出しが可能だ』

「通って来たのが十二芒星だから、一冊減って十一冊ってことか? そんなには必要ないんだが。そうだ! 帝国の歴史に関する本。現在ある建物地下に、以前の建造物がある事に関しての記録は?」

 『建築に関する本が六百七十二冊。歴史に関する本が二百四冊。該当多し。求める内容を絞れ』

「だったら、現在見ることのできない本。例えば処分されたとか、禁止されたとかで」

 カズが本の検索内容を追加すると『該当件数十六冊。その中から選べ』と書かれ、その本がある書棚前の燭台しょくだい蝋燭ろうそくに火が灯されてた。
 全部見て回ると時間が掛かってしまうので、カズは近くの五冊から一冊を選ぶ。

 隠し部屋この場所に慣れてきたレラは、自分も知性ある本インテリジェンス・ブックに聞いてみたいと、カズがレオラから頼まれた本を選んでる間に、ビワと一緒に机の所に居る。
 ただでさえ滅多に訪れる事のない来客、それも妖精族フェアリーの問ならば興味深いと、知性ある本インテリジェンス・ブックはレラの頼みを聞き入れた。

 カズは「これでいいか」と、選んだ本を手に机の所まで戻る。
 これでレオラに頼まれたことと、ビワの故郷と能力を調べるための情報は得ることが出来た。

 レラの問と、その回答はカズが戻った時には終わっていた。
 カズは「何を聞いたんだ」とレラに尋ねたが「だも~ん。言っちゃダメだよ」と、ビワに口止めをした。
 無理に聞き出そうとは思ってないカズは、その後幾つかの質問を続けた。 

 隠し部屋ここでの時間の流れが外と同じことや、オリーブ王国の王都でカズが暮らしていた変わった家、それを作った者の知識は隠し部屋ここから得たものだと。
 他にも帝国で生み出された魔道具アイテムの一部、そのヒントとなった知識は同じく隠し部屋ここから得た、と。

 最後の謎解きは、タイトルの無い本の場所を直接伝えてきたが何故だ? との問に『カズは一度も見付けられてない。それでは隠し部屋ここへの入室はできない。そこで人気の少い階層に呼び寄せ、本を見付けさせた。一冊でも見付けていれば、しなくてもよい手間だった。なぜ見つけられないんだ』と、カズは思いっ切りバカにされたと思った。
 だが、確かにその通りだったので、反論のしようもなかった。

 他にも色々と聞きたい事もあるが、乗車予定の魔導列車が駅に到着するまであまり時間がない。
 なのでカズは最後に、一番重要な質問をする。

「時間がないからこれで最後にする。そうしたら外へ出る方法を教えてくれ」

 『承諾。知性ある本インテリジェンス・ブックに選ばれし者よ。なんなりと尋ねるがいい』

 カズは軽く息を吐き、意を決して問う。

「この世界とは違う世界に渡る方法。召喚者や迷い人なんて言われてる者が、元の世界に戻る為の方法があれば知りたい」

 カズの問から羽根ペンが走るまで、今までよりも長い時間の沈黙が流れる。
 とはいっても、ほんの三十秒くらいなのだが、旅の最終目的の答えが、明らかになろうとしているカズにとって、この時間は数十分にも感じた事だろう。

 そして机の上の開かれた本と、宙に浮かぶ羽根ペンに集中し過ぎて目を閉じるのを忘れ、乾いてしまった目を閉じて湿らす。
 潤いを取り戻したのを感じてまぶた上げると、スッと羽根ペンが動き出して、問の回答を書き始める。
 ガスは机の上の本は見ず、羽根ペンの上部の羽根だけを見て、止まるのを息を呑みじっと待つ。
 今までよりも長く動いていた羽根ペンがピタリと止まる。
 長時間の肉体労働を終えて家に帰り、食事も風呂も着替えさえも後回しにし、心身共に疲れて敷きっぱなしの布団に飛び込むかのように、羽根ペンに込められた魔力が切れ、机の上にカタリと落ちて倒れる。

 元の世界に戻れるか否かを、この回答で完全に決まるのではないとは分かっている。
 だがこの先それだけを探し求めて、何年も何年も旅をするわけにはいかない。
 元居た世界とは違い、一人ではないのだから。

 この旅の間に、こんな場面に出会す事があるかもと、覚悟はしていた。
 しかしいざとなると見るのを少し躊躇ためらってしまい、視線を机の上のに落とすまで十数秒の時間を要した。

「どったのカズ?」

「カズさん……?」

「いや、ごめん。なんでもない」

 カズは覚悟を決めて、問の回答を読む。

 『結論、世界を渡る方法は幾つか存在する。ただしそれはどれも、多くを失う必要がある』
 『数百数千もの命を糧に、時空を歪めて異なる世界に繋げる方法』
 『この世界を見守る神の力で渡る方法。その代償に世界中の魔素マナは薄れ、長期に渡り天変地異が起こる』
 『死する事で魂が肉体から離れ、これにより異なる世界に渡り生まれ変わる』
 『例として上げたものは、膨大な魔力を必要とし、成功する確率は砂漠から一粒の砂金を見付けるよりも難しい。そもそも神と繋がるのさえも皆無。例え神に謁見出来たとしても、異なる世界に渡る許可と魔力を得られるか不明』
 『異なる世界に関する本はあれど、どれも夢物語に過ぎない。大戦時に召喚された勇者で、元居た世界に戻った者は確かに存在した。時空を歪める生命の糧は、大戦で死んだ多くの者。膨大な魔力は魔王と言われた者が死した事で、以上なまでに濃縮された魔素マナが解き放たれ事で賄われた』
 『それでも大戦以降大きな変革が起きた。それを踏まえて同種の本に選ばれし汝に、こちらから問う。異なる世界に渡る方法が書き記された禁忌の本を求めるか?』

「……いや。そこまでの対価を払ってまでとは思わない。それを知れただけでいい」

 カズの答えを聞き、他の羽根ペンに魔力が入り動き出す。

 『なんじの選択肢をわれは好意に思う』

「本にそんな事を言われるとはな。ってか、言われてはないか(自分で読んで自分で答えて何やってんだ、俺は)」

『今回の対価を抱くだく。なんじの持つ知性ある本インテリジェンス・ブックを置け』

 カズは肩掛け鞄から自分が所有しているアーティファクトの古書インテリジェンス・ブックを机の上に置いた。
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