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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

597 図書館巡り 12 勘付かれた要求

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 カズは周囲に気を配りながら、肩掛け鞄に入れているアーティファクトの古書を出して開く。

「あった! えーっと…『収集された知識は不要にあらず、れど除籍は無数、実に愚か』だと」

「収集した知識とは本のことだよね。でもそれだと、どこの図書館か全然わからないじゃん」

「そう焦らないで考えましょう」

「そうだぞレラ。一番に解きたいからと、結論を急いでも間違えるだけだ」

「このあちしが間違えたりなん…」

 レラは自分の意見で、半日無駄にした事を思い出す。

「間違えたり、が、なんだって? そこまで言うなら、レラが決めた場所に行くか(これが続くなら、どうせ時間切れだからな。間違えたって別にいいさ)」

「そ、それは……カズが意地悪するよ! ビワぁ~」

 ササッとビワの後ろに隠れ、カズを悪者扱いする。

「冗談よ、レラ。そうでしょ、カズさん」

「ん? ああ、冗談だよ冗談。ところで面倒臭がり屋のレラが、こんなに謎解きと本探しに張り切ってることは、何か欲しい物でもあってねだろうとしてるのか?」

「! ぁ……」

 カズに気付かれたと、レラは言葉が詰まる。

「…が食べたいんだもん」

「何が食べいんだって?」

 レラはタイトルの無い本を見付けてはいるが、謎解きの方はサッパリだったので、特製プリンを要求する機会を伺っていた。
 しかしここまでその機会がなく、そうしている内に結局カズに勘付かれ、先に切り出される羽目になってしまった。

「レラは特製プリンを食べたいんですよ。ただ食材はカズさんが持っているので、私が作る事ができないんです」

「そういやあ、作ったのって結構前だったな。食材ならまだあったと思う」

「一個じゃなくて三個は欲しい」

「レラも本探しを手伝ってくれてますし、作ってあげていいですよね?」

「いいよ。残りの食材だと、二十個くらいは作れると思う」

「やったー! 今日作ってくれるビワ?」

「時間があったらいいわよ」

「それじゃあ、特製プリンは作るって事で決まったから、話を謎解きに戻そう」

 予定とは違ったが、レラだけは特製プリンを要求するという目的を果たした。
 あとはビワに作ってもらい、美味しく頂くだけとなり、レラのテンションは上がる。
 謎解きはカズとビワに任せて、レラはタイトルの無い本探しだけにすると、考えるのをやめた。
 それからカズとビワが新たに現れた一文から、南区の図書館だと推測した。
 街が管理する図書館の本が、最後に集められるのが南区の図書館であり、除籍は無数とはつまり、多くの本が最終的に処分されるかどうかを決める場所が、南区の図書館だと結論付けて決めた。

 正しか間違っているかは分からないが、時間もないのでタクシー辻馬車に乗り、南区の図書館に向かう。
 この時点で三人が乗る魔導列車が、本の街の駅に到着するまで約四時間半。
 移動時間を考えると、遅くとも五十分前には南区の図書館を出なければ間に合わない。
 列車の到着時間はそれ程正確ではないので、本の街の駅に到着する二十分前には着きたいと、カズは考えた。

 街の中央から南区の図書館に向かう主な道の修繕工事が始まっており、五ヶ所の図書館を回る循環の乗り合い馬車が道を変えた事で、カズ達が乗るタクシー辻馬車が乗り合い馬車の後ろに付くかたちになってしまい、南区の図書館に着くのが遅くなった。
 広い道なら追い越す事が出来たが、十数分もの間ギリギリすれ違えるだけの幅しかない道を通っていたので、北区の図書館から南区の図書館まで一時間以上も掛かってしまった。

「やっと着いた。結構ガタガタしてたけど、ビワのお尻は大丈夫?」

「ちょっと痛いかも。でも大丈夫」

 ハズレのタクシー辻馬車に乗ってしまったようで、椅子にはクッションのような物は敷いてあったが、使い過ぎてペッタンコになっていたので、段差の衝撃をやわらげる事ができず、地味にお尻へ衝撃が蓄積していた。
 ビワはタクシー辻馬車を降りると、少し自分お尻に手を当てるのを見て、 以前ビワが作ってくれて魔導列車内で使った座布団クッションを敷けばよかったと、南区の図書館に着いてからカズは思い出した。

「カズにさすってもらえば?」

 レラの言葉に、カズとビワは反応する。

「何言ってるのよレラ」

「俺なら喜んで」

 早朝ビワの後ろ姿を見て和んでいたのが刷り込まれ、カズは反射的に声に出してしまった。

「! カ…カズさんも何言ってるんですか!」

「あ、ごめん。今の無し」

 カズは慌てて訂正するが、レラは楽しそうに笑い追撃をする。

「にっちっち。カズはさすりたいって」

「じ…自分で出来ます」

 特製プリンを食べれる権利を得たレラは、何時もの様に隙を見てはビワをからかう。
 やり過ぎると、その権利が無くなるとは考えもせず。
 幸い今回カズがのってきたので、特製プリンを食べれる権利が無くなることはなかった。
 ただ、数が減らされる可能性があると、レラは気付いてない。

「それくらいにしないと、ビワが作ってくれなくなるぞ」

「それはダメ! ごめんビワ。カズも謝って」

「なんで俺まで」

「いいから謝って!」

「ごめんなさい。…だからなんでだよ!」

「レラはいつもの事ですから、このくらいなら別に怒りません。それより早く図書館で本を探しましょう。時間がないんですよね」

「そ、そうだね。行こう」

「今回はどこを探しますか?」

「それなんだよね。除籍される訳だから、どこかに棚から弾かれた本があるのかも知れない。処分するように」

「地下や書庫でしたら探せませんね」

「聞いた方が早くない?」

「処分する本はどこにありますか? ってか。特定の本を探してるなら聞いてもいいが、俺達の探してる本はタイトルが無いからな。前回聞いた時に、そんな本は無いって言われたんだ。変に思われると、探しづらくなるだろ。だから、司書の動きに注意しながら、手分けして探そう」

「カズには期待薄だね。一回も見つけてないんだもん」

「ッ! レラめ、痛いとこを」

「しょうがないなぁ。不甲斐ないカズの代わりに、あちしが見つけてあげようじゃない」

 踏ん反り返って自信満々に言うレラ。

「へいへい、そうですか。期待してますよ(ホントになんで俺だけ見つけられないんだ? アーティファクトの古書を持ってるの、俺なのに)」

 カズは最上階奥から、ビワとレラは一階からタイトルの無い本探しを始める。
 今までの経験からビワとレラの二人は、書棚の本を流して見ていくだけで、タイトルの無い本を見付けられると思っていた。
 本の大きさ厚さ関係なく、それがあると自然と目に付き足が止まる。
 ただ一人タイトルの無い本を見付けてないカズは、書棚の本を上から下へと目を凝らして探す。

 司書が本を乗せた台車を押して、図書職員専用のエレベーター昇降機から降りてくると、他の図書館から送られてきた本を書棚に片付けていく。
 それと同時に何冊かの本を書棚から抜き取り台車に重ねて乗せ、再びエレベーター昇降機に乗って下の階に降りていく。
 十五分程で同じ司書が台車を押して、またエレベーター昇降機から降りてくる。
 先程と同じ作業を繰り返し、再びエレベーター昇降機に乗ろうと、上がって来るのを待つ司書にカズは話し掛けた。

「すいません。棚から外した本はどこに持って行くんですか?」

 レラに司書に聞いたらと言われたのを拒否しておきながら、カズは残り時間を考慮し、駄目元で司書の女性に聞く事にした。
 後でレラにツッコまれるのを覚悟して。

「こちらですか?」

 司書の女性は、書棚から抜き取って台車に乗せた本に視線を落とす。

「長い間利用されない本は、街の個人経営の図書館か、本屋に売りに出させるんです。状態によっては破棄したりもします」

「それはすぐにですか? 最近見た本がないので、どこかに移動させられたのかと思おまして」

 本を探してるなら、司書として案内してあげねばと司書の女性は考えていた。
 しかし先日多くの本が送らて来た事で、その片付けに追われ、それどころではなかった。
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