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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

591 図書館巡り 6 ここにあったはず?

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 カズは空間転移魔法ゲートを使用して、転移先を南区の図書館近くの細い路地を指定し、顔を覗かせて人気のないのを確認して移動する。
 昨日と同じ様にアーティファクトの古書を肩掛け鞄に入れ、魔力を込めたまま触れて図書館に行く。
 予想通り開いたばかりで、来館する利用者はまだ少ない。
 司書は前日に届いた大量の本の片付けが終わらず、その続きをしていた。
 カズは二階に上がり、表紙にタイトルが無かった古い本が置いてあった書棚に行く。

「あれ? ここ…だよな?」

 確かに昨日見た書棚の所に来たが、タイトルが無い古い本が見付からない。
 左右の書棚も見ても無く、通路を一本間違えたかも知れないと思い、手前と奥の通路に移って書棚を見るが、やはりタイトルが無い古い本は見付からない。
 もしかしたら他に移されたのかもと、二階に居た司書に尋ねたが、そんなに本は元々無いと言われてしまった。
 本の内容も伝えたが、似たような本はカズが最初に見た書棚だと言われた。
 それにそもそも、タイトルが無い本があったとしても書庫行きで、表に出すとしてもタグを付けて、仮のタイトルを付けるのだと。
 結局のところ昨日見た表紙にタイトルが無い本は見付からず、カズは南区の図書館を出て、人目の無い所で空間転移魔法ゲートを使用して、泊まっている宿屋の部屋に戻る。

「カズ遅いから、先に食べてるよ」

「お帰りなさい。どうでした」

「なかった」

「ない?」

「片付けられたのかと思って司書にも聞いたけんだけど、そんな本はないって」

「何それ、どういう事?」

「わからん。ただわかるのは、あの本を確認する事はもうできないってことだ。あとは西区の図書館で、隠し部屋への新たな手掛かりが見つかるかどうか。探せるのはせいぜい三日かな」

「三日?」

「アレナリアがヒューケラとクラフトに行ってるだろ、用事が終わって戻って来る時に、途中まで迎えに行くって言ってあるんだよ」

「だったらカズも早く食べなよ。その行き先を示すのが、あと何回出るかわかんないんしょ」

「そうだな。んじゃ、いただきます」

 カズは手早く朝食を済ませ、使った食器を洗って片付け、ビワとレラと一緒に西区の図書館に向かう。
 乗り合い馬車では時間が掛かってしまうので、タクシー辻馬車に乗って行く。

 図書館に着くまでの間に、それぞれの行動について話す。
 カズは前回と同様最上階から、ビワとレラには一緒に作物に関係がありそうな本を一階から見て来てもらう。
 二人を一緒にしたのは、レラは消えたタイトルの無い本を見ていない事と、見付けたのがビワだからだ。
 もしまたビワが見付ければ、違和感までいかなくても、どういった感じの本なのかをレラに伝えられると、カズは考えていた。
 今回は『大地の恵み記されし知識』とヒントがあり、探す場所は西区の図書館の、作物に関係がある書棚だと思われる。
 これだけ探す範囲が狭ければ、レラでも十分戦力になる、とも考えた。

「それじゃあ、話した通りに頼むね」

「はい」

「興味がないのに気になる本なんて、どうやって見つけるの?」

「そこは……なんとなくかな」

「あちしが見つけるのは無理っぽい。期待しないでね~」

 西区の図書館に入ると、二手に分かれて大きさは厚さ内容不明の本を探す。
 カズは肩掛け鞄に片手を突っ込み、書棚を端から見ていき「ない、違う。ない…」と、ぶつぶつと声に出ていた。
 端から見れば変に見えたのだろうが、同じ様に独り言をぶつぶつと言いながら、本を見る来館者は各階に二、三人は居たので、それ程目立つ事はなかった。
 ただ明らかに本を探してる様子のカズを見た司書が「何をお探しですか?」と、尋ねてきた。
 確かに探してはいるが、何を? と聞かれても、探してる本が不明なので、返答に困ってしまいう。


 一方で一階から本を物色する二人は、一階を見終えて二階に上がって来ていた。
 カズ同様これといって目の止まる本は見たあらず、ただ時間だけが過ぎる。
 ビワが書棚の中段から上を、下段はレラが見ていく。
 南区の図書館で見付けた感じのする本は見当たらず、ビワが一息ついて少し離れた所に居るレラの様子を見る。
 どうしたのか足を止めて、下から二段目に置かれてる本を一点に見つめていた。

「レラ……レラ?」

 ビワの呼び掛けに、レラは微動だにしない。

「どうしたの、レラ?」

「……あ、ビワ。なに?」

「何度も呼んだのよ」

「気付かなかった」

「なにを見てたの?」

「わかんない。なんか並んでる本を見て来て、この薄い本の所で足が止まったの。そうしたら、急にビワが呼んだんだよ」

 数十秒足を止めて一点を見つめていたのだが、レラ本人の感覚では、足を止めてすぐにビワが話し掛けてきたらしい。
 レラが指差した薄い本をビワが書棚から取り出し、開いて中を確認する。
 本の内容は初心者向けのジャガイモ栽培方法と、ジャガイモを使った料理が数品掲載されてるだけの、何の変哲もない本だった。
 ビワは本を閉じて表紙を見ると、南区の図書館で見付けた本と同じで、タイトルが書かれていなかった。

「たぶんこれよレラ」

「そうなの?」

「カズさんの所に持っていきましょう」

「待ってビワ。なんかわからないけど、持っていかない方がいい気がする。カズに来てもらおうよ。念話で呼んで」

「……そうね」

 何を感じ取ってレラが見付けたのか分からないが、自分も南区の図書館で本を見付けた時に、本を持っていこうとはせず、たまたま近くに来たカズを手招きして来てもらったのを思い出す。
 レラもその時の自分も同じなのだろうとビワは考え、カズに念話を繋げて自分達の居る階を知らせる。
 連絡を受けたカズは司書に注意されないギリギリの動きで、足早に二人が居る階に下りてきた。

「お、お待たせ」

「そんなに急がなくても大丈夫でしたのに」

「ちょっと司書に話し掛けられて、どうしようかと困ってたんだ。そこにビワから念話が入ったもで、連れと待ち合わせる時間だって言って下りてきたんだ」

 書棚を物色しながら独り言をぶつぶつと呟いていたカズに、司書が気を利かせて話し掛けてきた時に、ビワからの念話が繋がり、司書からそそくさと逃げるようにして、二人の居る階に下りて来た。
 
「それで、今回はレラが見つけたんだって?」

「見つけたって言うか、なんか気がついたらその薄い本を見てたの。カズが探してる本て、これでいいの?」

「どうだろう。見ただけじゃ」

「これも前回と同じで、表紙には何も書かれてません」

 肩掛け鞄に入れてあるインテリジェンス・ブックアーティファクトの古書に変化が起こるか注意をしながら、ビワが手にしている表紙に何も書かれてない薄い本を受け取る。
 まだ特に何も起きない。
 薄い本を開いて中を見る。
 内容はジャガイモの栽培方法と、それを使った料理の作り方が数品掲載されていた。
 途中薄い本から視線を移し、この薄い本が置いてあった書棚に並ぶ本のタイトルを確認する。
 ジャガイモの栽培方法、サツマイモの栽培方法、サトイモの栽培方法と、各種イモの栽培方法が書かれた本が並んでいた。
 多少の内容は違えど、ジャガイモの栽培方法と書かれた本は何冊もあったことから、この薄い本がこの書棚に置かれているのは正しいのだろう。
 ただ表紙に何も書かれてない本を、そのまま置くのは明らかに不自然。
 タイトルがなければ司書から聞いたように、タグが付いてる筈だと。
 やはりこの本であってるんだろうと、カズは薄い本を最後まで目を通して、最後に図書館の印字が無い事を確認する。
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