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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

587 図書館巡り 2 北区の絵本と創作物語本の図書館

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 北区の図書館は中央と西区の図書館よりも小さく、二階建てで蔵書されてるのは子供向けの絵本や、創作された物語の本が多いと、カズは西区の図書館を出る前に司書から話を聞いていた。
 ついでにと近場の飲食店も一緒に聞き、それでオススメと言われた食堂に行ったのだが、期待してた程ではなかった。
 ただ、最初に本の街で食べた物よりか、言い方は悪いが随分マシだと思えた。
 やはりこの街で暮らす人達は、食にあまり興味がないのだろうとカズは感じた。
 食材や料理の本は豊富なのに。

 ちなみに、次に行くのを北区の図書館にしたのは、着く頃には時間帯的に子供連れたの親子が帰るので、図書館内は空くと司書が教えてくれたからだ。

 帝都の乗り合い馬車に比べて速度は遅く、思っていたよりもかなり時間が掛かった。
 小さな子供を連れた親子が帰ると言う西区の図書館で働く司書の発言は、乗り合い馬車の移動速度を知っての事だったと、カズは理解したが若干後悔もした。
 道理で乗客は乗り合い馬車に乗車すると、すぐに本を鞄などから取り出して読み始める訳だと。
 それで自分の降りる停留所を、本に夢中になって乗り過ごさないだろうか?

 乗り合い馬車に揺られること約一時間、北区にある停留所の一ヶ所で降り、歩いて十数分の場所にある図書館に向かう。
 図書館に近付くにつれて、子供の声が多くなる。
 西区の図書館司書が言っていたように、カズ達が北区の図書館に着くと、小さな子供を連れた親子が何組か出て来た。
 笑顔で本を持って出て来る女の子もいれば、まだ帰りたくないと泣き叫ぶ男の子を抱っこして困った顔をする父親や、怒って先に図書館から出て来る母親を、泣いて追い掛ける男の子もいた。
 
 図書館を出て家路を急ぐ親子連れと入れ替わるようにして、カズ達は図書館に入る。
 それでも図書館内にはまだ子供が残っており、中央や西区の図書館と比べると賑やかで、もっと早い時間帯に着ていたら、託児所かと思ってしまいそうになるだろう。

「俺は一回りしてくるけど、二人はどうする?」

「チビっ子が見る絵本には、あちし興味ない」

「でも色々な方が考えた物語は面白そうよ。それこそフェアリーが出て来るのもあるんじゃないかしら?」

「それはありそうだな。特に子供向けの絵本には多そうだ」

「レラ達がどう思われてるか、知るのに良い機会じゃない?」

「だな。どんな性格をしてるとか、どんな場所に住んでそうとか、俺もちょっと興味があるな。フィクションなら、なおさらフェアリーをどう思ってるか、作者の印象がわかるだろ。多く読まれていれば、それだけだフェアリーをそう思ってるって事になる」

「そこまで言うと、あちしも気になるような……」

「なら私達は、そういった本を探して見ましょう」

「今日はここが最後だから、二人はゆっくり探してくれていいよ。どんなのがあったか、後で俺に教えてくれ(俺も面白そうな本を探してみたい。ラノベはよく読んでたからなぁ。でも今回の目的は、そうじゃないからな)」

「わかりました」

 一階は絵本が置かれ、子供がまだちらほらと居るので、カズは二階から調べることに。
 ビワは二階の創作された物語の中から、レラは一階の絵本から妖精族フェアリーが登場する本を探す。
 一時間程見て回ったが、やはり隠し部屋がありそうな場所はない。
 他の二ヶ所同様に、読まれてなさそうな本を動かして見たりしたが、仕掛けで何処かに変化が現れるなんて事もない。

 カズは中央と西区以外の図書館について司書に尋ねると、東区と南区の図書館について教えてくれた。
 東区の図書館には建築に関する本が多く、個人宅からデパートといった建物から、橋なんかに関する本もあるらしい。
 更には大峡谷を渡る飛行船に、帝国を走る魔導列車に関する本まであると。
 帝国内で作られた魔道具アイテムに関する本も充実しており、古い物なら作り方まで載っている本もあるのだと。
 若い開発者から年配のベテランまで、新しい発想を得るのに訪れる図書館だと聞いた。

 南区の図書館は他とは違い、四ヶ所の図書館から不要になった本が最後に集められる場所。
 不要だと間違えて処分されたり、利用者からの要望が多く、再度戻される事もたまにあり、正規の図書館の本が行き着く最期の砦だと。
 南区の図書館から不要とされた本は、街で古本として売られるか、街が管理をしてない小さな図書館がほぼ無料で引き取っている。

 結局一日で三ヶ所の図書館を回ったが、隠し部屋に関する成果は何もなかった。
 外はもう薄暗くなってきていたので、ビワとレラを連れて西区の図書館を出て、乗り合い馬車で街の中心部に戻る。
 同じ宿屋で部屋を取り、夕食を作って三人で食べる。
 食後に西区の図書館でどんな本を見付けたかを、ビワとレラから話を聞く。

 レラが見た絵本では、子供達と楽しく遊んだり、様々な花がいりどる美しい場所で歌い踊る、夢のある絵本が多かったんだと。
 だが中には家に無断で住み着き、家の中の物を勝手に使い、食料も食べてしまうという、何処かで聞いたような話の絵本もあったらしい。

 ビワが見付けた出した創作物語の本、所謂いわゆる小説には精霊と心通わせて勇者と共に旅する話や、種族を越えて人族と駆け落ちをする恋愛話などがあった、と。
 悪く書かれた話もあるようだったが、レラを悪く言われているようで、それは読む気になれなかったとビワは言ったのだが、ビワが挙げた本の内容には偏りがあった。

 オリーブ王国でビワが仕えてい貴族、そのマーガレットが好んで読んでいた小説の影響だろうとカズは思ったので、別に突っ込む事はしない。
 アレナリアかレラなら、速攻でツッコミを入れていたと、カズ自身思っていた。 
 それと同時に、ビワに甘いと二人から逆にツッコミを入れられるとも。
 否定はできないので、そこは開き直るつもりでいた。
 そんな事を考えていると「ちょいちょい、聞いてんのカズ?」と、レラからツッコミが入った。

「んッ? ああ、聞いてるさ。思っていたよりも、フェアリーの印象は良いんだな。あまり姿を見せない種族だから、よくわからない内容の話が多いと思ってた」

「都合の良いように書かれたから、狙われるのようになったとも言えるんじゃないの」

 思ってもいなかった的を射るようなレラの言葉に、カズとビワはギョッとした。
 実際に危険な目にあった事のある、フェアリー当事者のレラが言うと冗談には聞こえない。

「殆どは作り話なんだ。そう言ってやる」

「そうでもなさそうな内容もあったみたいだけど」

 現在レラ妖精族の立場として、自由に外を出歩けないのは理解している。
 だけど何時までもそれが続くとは思えなかった。
 確かに妖精族フェアリーを狙う者達は居るが、レラの正体を知っても変わりなく接してくれる人達も少なからず居た。
 旅をする中でレラもその事は分かっていたので、強く反論しようとはしなかった。
 それに帝国で同族と会えた事も大きいだろう。

 翌日は東区と南区の図書館に行くとして、三人は順番にシャワーを浴びて汗を流し、この日は就寝する。
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