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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

582 レラの初めての狩り

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 午後は魔力をレラ専用のナイフに込めて、常時留める練習をする。
 最初は五分と持たず、ナイフに流す魔力の量もまちまちで安定しない。
 飛行するにも魔力を使っているレラだが、それは無意識で使っているので、任意で魔力を持っている物に込めるのは勝手が違うと言う。
 三時間やっても、五分以上の維持は出来なかった。

 気付けばビワを迎えに行く時間まで、あと一時間程となっていたので、この日の練習はここまでにして、帝都の川沿いの家に戻り、ビワを迎えにレオラの屋敷に向う。

 戻って来る時もビワを狙う怪しげな視線はなく、尾行して来るような者もいなかった。
 三人で川沿いの家に戻って来ると、レラがお腹空いたと騒ぎ始めた。
 ほぼ毎日家でぐうたらしてたら、たまに体を動かせばそうなるだろ。
 最近ではしなくなったが、アレナリアとごはんやデザートを取り合いしていた頃のような勢で夕食を食べて、疲れたらしく風呂に入らずに寝てしまった。
 一日外で遊んで、お腹が満たされればすぐに寝てしまう。
 まるで長期の休みに入った子供の様だった。


 それから朝ビワを送り届けると、午前中はフジの所で魔法と魔力をナイフに込めて維持させる練習をする。
 ビワを送り届けた際にレオラの時間が空くと聞けば、午後は屋敷でナイフの扱い方を習う。
 そしてビワを送り迎えに行くようになった四日目の夕方、大型の乗り合い馬車で川沿いの家に戻っていると、数人乗り込んで来た内のフードを被った人物が、一瞬ビワに視線を向けたように思えた。
 ただ、席が空いてるかを確認する際に向けただけとも取れたので、警戒まではしなくとも一応注意はする。

 カズ達が乗り合い馬車を降りても、先程のフードを被った人物は降りて来る事なく、そのまま乗っていってしまった。
 気のせいだったかも知れないが、三人が降りる場所を調べていたのかも知れない。
 フードで顔を確認することは出来なかったので、似たような背格好の人物が居たら注意する事にした。
 心配させないように、ビワには黙っている。


 ◇◆◇◆◇


 ビワの送り迎えをするようにって五日目、この日も少し遠回りする中型の乗り合い馬車でレオラの屋敷に向かう。
 前日のフードを被った者と思わしき人物を見掛ける事はなかったが、似たようにフードを深く被り、乗り合い馬車に乗車してくる者が二人いた。
 その二人も一瞬だけビワに視線を向け、やはり同じ場所で降りる事はなく、そのまま乗っていってしまった。
 気のせいという可能性もあったが、レオラに報告する約束になっていたので、午後レラがナイフの使い方を習う時に話すことにして、今日もフジの所に〈空間転移魔法ゲート〉で移動する。

 この日はフジが狩りに行くと言うと、レラが行きたいと言い出したので、魔法の練習がてらフジの背に乗り、狩りへと向かう。
 今回の狙いは、前回一緒に狩ったバレルボア。
 フジもその肉が気に入ったようで、イノボアの群れや、体毛が緑のグリーンブルを見付けても無視して、バレルボアの群れを探した。
 住み家にしている林からバレルボアを探して南下し、一時間程で目的のバレルボアの群れ発見する。

 前回見付けた群れよりも数は少ないが、それでもざっと数えただけで、五十匹以上は居そうだった。
 今回も狩り過ぎは厳禁とフジに伝え、レラと離れた所に降りて狩りを始める。
 雄の中型のバレルボア一匹に狙いを付け、フジに念話でその一匹を狙わないように伝え、レラに魔法を使って狩るように言う。

「あちし一人でやるの?」

 初の狩りにレラはたじろぐ。

「危なそうならちゃんと助けてやるから。ほら、向かって来るぞ」

 カズとレラが居る方に、狙うと伝えた一匹のバレルボアを、フジが群れからうまく切り離す。

「ちょッ待って、待って! いやぁー!」

 バレルボアはカズを避けて、弱そうなレラに狙いを定めて突進する。
 レラは叫びながらバレルボアに追っ掛けられる。

「逆に狙われてどうすんだ!」

「どうすればいいか、わからないんだもーーん!」

「低く飛ばなければいいだろ」

 カズに言われてレラは上昇する。
 逃すまいとバレルボアがジャンプするもレラの方が早く、鼻先を掠めるだけだった。

「ギリギリだったな、レラ」

「見てないで助けてよ!」

「いつもはもっと早く飛んでるだろ」

「いきなりだったからだもん!」

「怒ってないで早くしないと、追い掛けてきたバレルボアが逃げるぞ」

「わかってるもん! やってやるもん! よくもあちしに、臭いよだれをつけてくれたなあ!」

 今度はレラがバレルボアを追い掛け、急に飛びかられても届かない高さに位置取る。
 走るバレルボアの7メートル上から、空気の塊〈エアーショット〉をレラは放つ。
 一発目は大きく逸れ、二発目もバレルボアから右に数十センチの地面に着弾。

「全然当たらないぞ! よく狙えレラ」

「わかってるけど動いてるんだから、狙いが定まらないんだもん!」

 続けて〈エアーショット〉を三発放つも、バレルボアに掠める事なく地面に凹みを作るだけ。

「もっと近づいたらどうだ?」

「あちしがかみつかれても、カズはいいっての!」

「少しくらいなら大丈夫だろ」

「手伝ってくれるって言ったじゃん!」

「とりあえずバレルボアじゃなくて、その進行方向に放ってみろ。手伝うのは、その後でだ」

「コンチクショー!」

 もうやけくそだと、カズの言ったように、バレルボアの進行方向に〈エアーショット〉を連続して放つ。
 放った内の一発が空けた地面の穴に、バレルボアが足を取られ、ゴロゴロと何回も転がる。
 数メートル転がり止まったところで、レラ渾身の〈エアーショット〉が、バレルボアの脳天に直撃する。

「あ、当たった。どうだカズ! あちしだって本気でやれば、このくらい出来るんだもんね!」

 動かなくなったバレルボアに近付き、どんなもんだとレラは踏ん反り返る。

「どーだ! どーだ!」

 レラの大声に反応し、倒れているバレルボアの耳がピクりと動く。

「レラ、後ろ」

 ムクっとバレルボアが起き上がり、レラの姿を見ると怒り狂い「ブゴォォー!」叫ぶ。

「いやァァー!!」

 倒したと思ったバレルボアが起き上がり睨みを利かせ、レラは驚きカズの方へと急いで逃げる。
 レラがカズの後ろに隠れると、突進してくるバレルボアに〈ライトニングボルト〉放ち仕留める。

「油断大敵だぞ、レラ。ちゃんと倒したか確認しないと。でもまあ、初めてにしては良かったんじゃないか」

「あちしには合わないよ」

「ならなんで来たいって言ったんだ?」

「あちしが狩りをするなんて言ってないもん。もう戻ろうよ」

「そうだな。フジはとっくに終えてるし、戻って昼飯すませて、レオラの所に行くか」

 レラが気絶させるまで追い込んで、最後はカズが仕留めたバレルボアと、フジが狩った十ニ匹のバレルボアを【アイテムボックス】に回収し、フジに乗って住み家のある林まで飛んで戻る。

「『レラだめだったね』」

「『あちしは食べる専門なの』」

「『ふ~ん。ならまたボクが獲ってきてあげる』 

「『いいね! フジが獲ってカズが解体して、ビワに料理してもらって、あちしが食べる。最高じゃん』」

「そんな事言ってると、今度一人で狩りをさせるぞ」

「やらないもんだ!」

 レラの初狩りを終えてフジの住み家の林に戻り、フジが狩った一匹のバレルボアを解体して昼食にする。
 カズとレラはビワが作ってくれた、久し振りのタマゴサンドを食し、フジはカズが解体したバレルボアの肉で腹を満たす。
 流石に獣臭いままなのは失礼なので、レラと自分に〈クリーン〉を使用して、レオラの屋敷に行く。
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