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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
577 コーラルからの頼み と 宝飾品に魅せられたサイネリア
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ヒューケラの護衛依頼をアレナリアに確認する前に、カズは受けても良いとコーラルに返答する。
「そうしていただけるならありがたい。もちろん報酬はお支払いします」
「その護衛の内容を聞いても?」
「はい。日数は半月程で、行き先は魔導列車最西端の駅がある街、クラフトです。カズさん達も通って来たと思いますが」
「ええ、通って来ました(それだけじゃないんだけど。特に鉱山奥のダンジョンとか)」
コーラルの話によると、クラフトある宝石商と、幾つかの工房を見学に行かせたいと言う。
コーラル自身や身近な従業員を共として付けては、ヒューケラ自身も分かってはいても甘えが出てしまう、と。
流石に一人では行かせられないので、冒険者ギルドで護衛を頼もうかと考えたが、だったら直接アレナリアに頼んでみようとのことだった。
「クラフトの工房と言いましたが、何を見学させるんですか?」
「今回は宝石商には欠かせない拡大鏡を作っている工房です。それと知り合いの宝石商に、見習いとして三日間働かせてくれるよう頼んであるんです」
実家の宝石商を継ぐ為に、他の宝石商で見習いとして働き、経験を積むのも必要だというのがコーラルの考えで、これは娘のヒューケラも承諾しているらしい。
ただまだ子供で初めての事なので、今回の外泊しての経験は、短期間にするのだと。
「アレナリアは娘さんと親しいですが、それは護衛が出来るという事で、それ以外では従業員の方を付けるのと変わらないと思いますが?」
「アレナリアさんならば、娘を叱ってくれたりもしますし、護衛としての実力も申し分ないと考えています」
愛娘でも将来を考えて厳しく教育していると、コーラルは言いたい様だが、話を聞いた限りでは十分に甘やかしてると思えた。
「話はわかりました。俺からアレナリアに伝えておきますが、この話はヒューケラが話して返事をもらってください。アレナリアには即答しないように言っておきます。これも交渉の経験と考えてください」
「交渉ですか、分かりました。これも経験ですね」
「アレナリア相手なら、それ程緊張せずに話せるでしょう。交渉の練習にもちょうど良いかと」
「交渉の練習になるのでしたら、それは願ったりです。アレナリアさんなら、娘の至らぬところを指摘してくれるでしょう。おっと! あまり話し込んでは、お連れのサイネリアさんを待たせすぎてしまいますね。そろそろ戻りましょう」
「そうですね。あ、そうだった。真珠のネックレスですが」
カズがすっと執務机の上に金貨を置き、ネックレスの事を伝える。
「それでよろしいのであれば、お任せください」
カズはコーラルの話を聞き、ヒューケラをアレナリアに任せても大丈夫だという、全幅の信頼を得ているのが少し驚きだった。
最初は面倒臭そうにしてヒューケラの所に通っていたのに、知らぬ間に一体何があったのか、カズは二人の距離が縮まった理由が知りたくなり、夕食時にでもアレナリアに聞いてみようかと考えた。
十五分程でコーラルとの話は済み、二人はサイネリアが待つ先程の部屋に向かう。
女性従業員が相手をしているので、少しは緊張が和らいで、ネックレスを試着してくれていればとカズは考え、先程の部屋に入る。
カズとコーラルが部屋を出た直後、女性従業員のオーバルは、次々とネックレスをサイネリアに試着させていた。
人気のある青色の中玉真珠から、最高級の大玉真珠まで。
最初サイネリアは遠慮していたが、オーバルの強引な勧めに、一本また一本とネックレスを着け、鏡に映る自分の姿を見ている内に段々と高揚し、オーバルが用意した姿見の前で、ポーズまで取るまでになっていた。
そこに話を終えたカズとコーラルが戻って来る。
「………こ、これは」
何をどうしてそんな状況になったのか、サイネリアは前屈みになり、真珠のネックレスと寄せた胸を強調する姿勢のまま、顔を真っ赤にして硬直した。
「その…似合ってて、いいんじゃないの(なにこれ)」
「オーバルの仕業かぁ」
「多くの宝飾品を前に緊張しているようだったので、あたくしがそれとなく勧めただけです」
「ハァ……」
コーラルは額に手を当てて溜め息をする。
「もうここはいい、ご苦労さん。選別の仕事に戻って」
「わかりました。じゃあね。それにあってるわよ」
サイネリアに一声掛けて、オーバルは真珠選別の仕事に戻る。
最高級の大玉真珠を代表のコーラルがいないところで、客に着けさせるなど従業員など、余程の立場の者でもなければしないだろう。
オーバルが真珠選別の仕事をしているなら扱いに慣れ、最高級の大玉真珠だろうと臆せず触る訳だとカズは思った。
「お二人とも申し訳ない。オーバルは人見知りをしない性格で、そのことから接客をさせる事もあるんですが、やり過ぎる事がたまにあるんです」
「まあまあ、サイネリアも喜んでたみたいですし(どうやってここまでサイネリアの気持ちを持ち上げて、こんな事させるまでにしたんだ?)」
恥ずかしい姿を晒した後、サイネリアはうつ向き黙ったまま、そっと着けていたネックレスを外した。
カズが気に入ったネックレスはあったかと聞くも返事はない。
だが、ブロンディ宝石商会の代表が聞くと、流石に沈黙は失礼だと分かっていたので「どれも素晴らしく、わたしには……」と、声を振り絞った。
サイネリアの状態からして、これ以上居るのは辛いだろうと感じたカズは、ブロンディ宝石商会をおいとましようと思った。
「コーラルさん、今日はありがとうございました。あまり長居してはなんなので、そろそろ失礼します」
「そうですか。宝石関係の物がご入用でしたら、いつでもいらしてください。サイネリアさんも気軽にお越しください」
「あ、ありがとうございます」
二人を外まで送り、コーラルは別れ際にカズに紙袋を渡して「ありがとうございした。またのご来店をお待ちしております」と。
ブロンディ宝石商会を後にした二人は、そのまま魔導列車の駅へと向かう。
コーラルから受け取った紙袋を【アイテムボックス】に入れると、真っ直ぐ進行方向だけを見て、カズの方を全然向こうともしないサイネリアに話し掛ける。
「少し早いけど、どこかでお昼にでもする?」
「いえ、わたしは…」
「さっきの格好を見られた事を考えてるでしょ」
「ッ! 思い出さないで忘れて!」
「そんな事言われても、普段は見ない衝撃的な姿だったからなぁ。しばらくの間は、脳裏に焼きついて離れないだろうな」
カズの言葉を聞いたサイネリアは、ツカツカと近くの雑貨店の外に置いてあった柄の長い鉄製ハンマーを手に取って振り上げ、カズの脳天目掛けて振り下ろそうと近付く。
何で雑貨店の店先に、岩石を破砕するのに使うような、柄の長い鉄製のハンマーが置いてあるのか気にもなるが、今はそれよりも、そのハンマーが自分目掛けて振り下ろされるかも知れない事を、カズは危惧していた。
「誰にも言わないから、ハンマー下ろして(細い腕してるのに、どこにそんな力があるんだ)」
「おい、うちのを勝手に持ってくな!」
たまたま店の外に出て来た雑貨店の店主が、店先に置いてあった柄の長い鉄製ハンマーが、サイネリアに持って行かれたのに気付き注意してきた。
サイネリアは雑貨店の店主(ドワーフ)の声で我に返り、振り上げていたハンマーをドスンと地面に下ろす。
カズは謝罪をして雑貨店の店主にハンマーを返し、サイネリアの手を取って逃げるようにその場を去り、少し先に見えている駅に入った。
「そうしていただけるならありがたい。もちろん報酬はお支払いします」
「その護衛の内容を聞いても?」
「はい。日数は半月程で、行き先は魔導列車最西端の駅がある街、クラフトです。カズさん達も通って来たと思いますが」
「ええ、通って来ました(それだけじゃないんだけど。特に鉱山奥のダンジョンとか)」
コーラルの話によると、クラフトある宝石商と、幾つかの工房を見学に行かせたいと言う。
コーラル自身や身近な従業員を共として付けては、ヒューケラ自身も分かってはいても甘えが出てしまう、と。
流石に一人では行かせられないので、冒険者ギルドで護衛を頼もうかと考えたが、だったら直接アレナリアに頼んでみようとのことだった。
「クラフトの工房と言いましたが、何を見学させるんですか?」
「今回は宝石商には欠かせない拡大鏡を作っている工房です。それと知り合いの宝石商に、見習いとして三日間働かせてくれるよう頼んであるんです」
実家の宝石商を継ぐ為に、他の宝石商で見習いとして働き、経験を積むのも必要だというのがコーラルの考えで、これは娘のヒューケラも承諾しているらしい。
ただまだ子供で初めての事なので、今回の外泊しての経験は、短期間にするのだと。
「アレナリアは娘さんと親しいですが、それは護衛が出来るという事で、それ以外では従業員の方を付けるのと変わらないと思いますが?」
「アレナリアさんならば、娘を叱ってくれたりもしますし、護衛としての実力も申し分ないと考えています」
愛娘でも将来を考えて厳しく教育していると、コーラルは言いたい様だが、話を聞いた限りでは十分に甘やかしてると思えた。
「話はわかりました。俺からアレナリアに伝えておきますが、この話はヒューケラが話して返事をもらってください。アレナリアには即答しないように言っておきます。これも交渉の経験と考えてください」
「交渉ですか、分かりました。これも経験ですね」
「アレナリア相手なら、それ程緊張せずに話せるでしょう。交渉の練習にもちょうど良いかと」
「交渉の練習になるのでしたら、それは願ったりです。アレナリアさんなら、娘の至らぬところを指摘してくれるでしょう。おっと! あまり話し込んでは、お連れのサイネリアさんを待たせすぎてしまいますね。そろそろ戻りましょう」
「そうですね。あ、そうだった。真珠のネックレスですが」
カズがすっと執務机の上に金貨を置き、ネックレスの事を伝える。
「それでよろしいのであれば、お任せください」
カズはコーラルの話を聞き、ヒューケラをアレナリアに任せても大丈夫だという、全幅の信頼を得ているのが少し驚きだった。
最初は面倒臭そうにしてヒューケラの所に通っていたのに、知らぬ間に一体何があったのか、カズは二人の距離が縮まった理由が知りたくなり、夕食時にでもアレナリアに聞いてみようかと考えた。
十五分程でコーラルとの話は済み、二人はサイネリアが待つ先程の部屋に向かう。
女性従業員が相手をしているので、少しは緊張が和らいで、ネックレスを試着してくれていればとカズは考え、先程の部屋に入る。
カズとコーラルが部屋を出た直後、女性従業員のオーバルは、次々とネックレスをサイネリアに試着させていた。
人気のある青色の中玉真珠から、最高級の大玉真珠まで。
最初サイネリアは遠慮していたが、オーバルの強引な勧めに、一本また一本とネックレスを着け、鏡に映る自分の姿を見ている内に段々と高揚し、オーバルが用意した姿見の前で、ポーズまで取るまでになっていた。
そこに話を終えたカズとコーラルが戻って来る。
「………こ、これは」
何をどうしてそんな状況になったのか、サイネリアは前屈みになり、真珠のネックレスと寄せた胸を強調する姿勢のまま、顔を真っ赤にして硬直した。
「その…似合ってて、いいんじゃないの(なにこれ)」
「オーバルの仕業かぁ」
「多くの宝飾品を前に緊張しているようだったので、あたくしがそれとなく勧めただけです」
「ハァ……」
コーラルは額に手を当てて溜め息をする。
「もうここはいい、ご苦労さん。選別の仕事に戻って」
「わかりました。じゃあね。それにあってるわよ」
サイネリアに一声掛けて、オーバルは真珠選別の仕事に戻る。
最高級の大玉真珠を代表のコーラルがいないところで、客に着けさせるなど従業員など、余程の立場の者でもなければしないだろう。
オーバルが真珠選別の仕事をしているなら扱いに慣れ、最高級の大玉真珠だろうと臆せず触る訳だとカズは思った。
「お二人とも申し訳ない。オーバルは人見知りをしない性格で、そのことから接客をさせる事もあるんですが、やり過ぎる事がたまにあるんです」
「まあまあ、サイネリアも喜んでたみたいですし(どうやってここまでサイネリアの気持ちを持ち上げて、こんな事させるまでにしたんだ?)」
恥ずかしい姿を晒した後、サイネリアはうつ向き黙ったまま、そっと着けていたネックレスを外した。
カズが気に入ったネックレスはあったかと聞くも返事はない。
だが、ブロンディ宝石商会の代表が聞くと、流石に沈黙は失礼だと分かっていたので「どれも素晴らしく、わたしには……」と、声を振り絞った。
サイネリアの状態からして、これ以上居るのは辛いだろうと感じたカズは、ブロンディ宝石商会をおいとましようと思った。
「コーラルさん、今日はありがとうございました。あまり長居してはなんなので、そろそろ失礼します」
「そうですか。宝石関係の物がご入用でしたら、いつでもいらしてください。サイネリアさんも気軽にお越しください」
「あ、ありがとうございます」
二人を外まで送り、コーラルは別れ際にカズに紙袋を渡して「ありがとうございした。またのご来店をお待ちしております」と。
ブロンディ宝石商会を後にした二人は、そのまま魔導列車の駅へと向かう。
コーラルから受け取った紙袋を【アイテムボックス】に入れると、真っ直ぐ進行方向だけを見て、カズの方を全然向こうともしないサイネリアに話し掛ける。
「少し早いけど、どこかでお昼にでもする?」
「いえ、わたしは…」
「さっきの格好を見られた事を考えてるでしょ」
「ッ! 思い出さないで忘れて!」
「そんな事言われても、普段は見ない衝撃的な姿だったからなぁ。しばらくの間は、脳裏に焼きついて離れないだろうな」
カズの言葉を聞いたサイネリアは、ツカツカと近くの雑貨店の外に置いてあった柄の長い鉄製ハンマーを手に取って振り上げ、カズの脳天目掛けて振り下ろそうと近付く。
何で雑貨店の店先に、岩石を破砕するのに使うような、柄の長い鉄製のハンマーが置いてあるのか気にもなるが、今はそれよりも、そのハンマーが自分目掛けて振り下ろされるかも知れない事を、カズは危惧していた。
「誰にも言わないから、ハンマー下ろして(細い腕してるのに、どこにそんな力があるんだ)」
「おい、うちのを勝手に持ってくな!」
たまたま店の外に出て来た雑貨店の店主が、店先に置いてあった柄の長い鉄製ハンマーが、サイネリアに持って行かれたのに気付き注意してきた。
サイネリアは雑貨店の店主(ドワーフ)の声で我に返り、振り上げていたハンマーをドスンと地面に下ろす。
カズは謝罪をして雑貨店の店主にハンマーを返し、サイネリアの手を取って逃げるようにその場を去り、少し先に見えている駅に入った。
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