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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

576 初めての宝石商 と 最高級のパールネックレスを試着

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 平日の午前中だというのに、前回コーラルに約束を取り付けに来た時よりも店は混んでいた。
 カズが入って来た事に気付いた一人の従業員が、一時相手をしている客の元を離れ、カズの元に足を運んだ。

「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが代表は接客中でして、少しお待ちいただきたく」

「わかりました(細かく時間を決めてた訳じゃないから、少し待つくらいは別にいいだろ)」

「お約束をしていたのに、申し訳ございません。よろしければ、部屋を用意しますので、そちらでお待ち下さい」

「店内を見させてもらいますので、こちらで構いませんよ」

「分かりました。では代表の接客が終わりましたら、お知らせします」

「お願いします」

 サイネリアの緊張を解すに、この待ち時間は丁度良いと考え、気を使ってくれた従業員には申し訳ないが他の客と同じく、店内を見て待たせてもらう事にした。
 多少なりとも着飾ってるサイネリアは兎も角として、ラフな格好をしてる自分が先に来て待っている客を差し置いて、常連の上客や貴族が使用する部屋に案内される訳にはいかないと、少なからずカズは考えていた。

 それから十五分の間に二組の客が帰り、待っていた二組が接客され、新たに二人組の客が三組来店する。
 この日来店する客は、恋人同士や塾年夫婦ばかり。
 端から見たら二人もそう見えなくもないかも知れないが、サイネリアはショーケースに並べられた宝飾品に夢中で、そんなことなんて考えもしてない。
 店内の宝飾品を見ている間に、サイネリアの緊張も少し解れてきていた。
 すると店の奥から二人の客が帰り、少しすると従業員がカズの元に来る。

「お待たせしました。どうぞこちらへ」

 呼びに来た従業員に付いて、店の奥へと向かい歩き出す。

「あれ…あのカズさん、どこに?」 

「接客をしてくれるのが、ここの代表なので、そこに行くんだよ」

「代……(まって、それってブロンディ宝石商会の代表ってことよね)」

 初めての宝石商に入った事で、従業員がカズしていた話を聞いていなかったサイネリアは、ここでようやくカズの知り合いが一従業員ではなく、ブロンディ宝石商会の代表だと知った。
 従業員に代表のコーラルが居る部屋に案内され、サイネリアの解れてきていた緊張の糸が、またピンと張る。

「お待たせして申し訳ない。カズさん」

「いえ、こちらこそ無理を言って、忙しいコーラルさんに時間を作ってもらい、ありがとうございます」

 お互いに挨拶を交わすと、テーブルを挟みコーラルと対面する椅子に二人は座る。

「今日は真珠のネックレスがご所望と聞いておりましたので、色々と取り揃えておきました。それでそちらの女性が」

「冒険者ギルドで、俺の担当をしてもらってる」

「あ、あの、初めまして。サイネリアと申します」

「ブロンディ宝石商会の代表コーラル・ブロンディです。今回はサイネリアさんのお気に召す品をと、様々な真珠のネックレスを用意してあります」

 そう言うとコーラルは先ず、大玉の白真珠を二十二粒使用したネックレスと、同じく最近高騰している青色と黄色の大玉真珠を使用したネックレスを見せてきた。

「どうぞ手に取って見てください。試着してもらっても構いませんよ」

 デパートの売り場では並びそうにない、真珠のネックレスの中でも最高の品が並べられ、サイネリアは怖くて手が出せない。
 
「わ、わたしはもう少し、小さな普段使い出来そうな方が…」

「これを求めるのは、貴族のお客じゃないですか。宝石にうとい俺でも、高価だとわかりますよ。コーラルさん」

「これは失礼。この様な最高級の品を扱っていると、初めての方には見てもらってるんです」

「先日来た時に見せてもらったくらいの、手頃だと言っていたのでいいんです」

「分かっております。用意出来たら持って来るように言ってあるので、そろそろ来るかと」

 部屋の扉が叩かれ、女性従業員がネックレスの入った長方形のケースを数多く持ってきた。
 大玉真珠のネックレスをテーブルの脇に寄せて、コーラルが女性従業員が持ってきたケースを開けて、次々と真珠のネックレスを並べていく。
 一列目が白、青、黄、黒、ピンクの中玉真珠使ったネックレスを五本と、小玉真珠を使ったネックレス五本。
 二列目が中玉真珠の白と黒、白とピンクなどの、二色の真珠を交互に繋げたネックレスを五本と、同じく小玉真珠を使ったネックレスを五本。
 最後に各種大きさの各色の真珠を、並べて見せてきた。

「こちらのように、製品になった物もございますが、大きさと色を選んでいただき、お好きな組み合わせて作る事も可能です」

 大小様々な色の真珠を前にして、緊張よりもその輝きにサイネリアは目が奪われ見入ってしまい、カズとコーラルの声が耳に入らない。

「……リアさん」

「サイネリア聞いてる?」

「!! はい、なんでしょう!?」

「カズさんと少しお話があるので、サイネリアさんにはこちらでネックレスを試着して、お待ちいただけますか?」

「あ、はい……え!? わたし一人で、ですか?」

 多くの高価な真珠のネックレスを前に、好きに試着して良いと言われても、キズでも付けてしまったらと怖くてさわれないと、サイネリアは店に入って来た時と同様、また表情が強張る。
 その表情を見るまでもなく、コーラルはネックレスを持って来たぽっちゃりとした女性従業員のオーバルに、サイネリアにネックレスの試着するのを手伝うように言い、カズと部屋を出る。

「代表が好きに試着して良いと言ってましたので、遠慮なさらず好きなのを選んでください」

「しかしキズでも付けては…」

「心配なさらずとも大丈夫です。あたくしがお付けしますから。もし何かあったら、彼氏さんに買ってもらいましょう」

「かッ、彼氏じゃありません」

「あら、そうなの? 優しそうな人でいいのに」

「し、仕事上の付き合い…です」

「そうでしたか。何やら代表と親しいようでしたし、お気に召す物がありましたら、着けているところを見てもらってはどうです? もしかしたら、プレゼントしてもらえるかも知れませんよ」

 ブロンディ宝石商会の従業員の殆どは、最近よく来ているアレナリアの顔を知っている。
 だが、カズの名前は知ってはいても、実際に本人を見た者は半数程しかいない。
 オーバルもその一人で、代表のコーラルが接客している相手が、そのカズだとは気付いてない。

「何はともあれ、試着しましょう。どれからにします?」

「どれ、と言われても…」

「悩んでるようであれば、片っ端から試着してみましょう。さあさあ、先ずはこの最高級の大玉真珠から」

「えッ! えェェー!!」

 オーバルの強引な勧めに、サイネリアは最高級の大玉真珠のネックレスを着け、用意された鏡に映る自分の姿を見て笑みがこぼれる。

 一方で、初めて来店したサイネリアに申し訳ないと思いながらも、女性従業員のオーバルに任せ、私用でカズを連れ出したコーラルは、自分の執務室に連れていった。
 コーラルが何の用事でカズを連れ出したかと思えば、娘ヒューケラの事で話の内容はアレナリアへの護衛依頼だった。

「その話、アレナリアには?」

「明日娘の所に来てもらう事になっているので、その時に自分から話すように言ってあります。断られる事はないかと思ってますが、今日カズさんが来るので、勝手ながらこうして時間をいただき、話した次第です。お客様として来ていただいたのに、カズさんとお連れのサイネリアさんには申し訳ない」

サイネリア彼女は宝石商に来るは慣れてないらしいので、代表のコーラルさんを前に緊張していたので、席を離れたのはちょっどよかったかも知れません。それとアレナリアですが、本人が良いと言えば、俺は構いません」
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