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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

574 強気な要求 と 差金

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 楽しみにしていた休暇と買い物を潰され、そのうえフジの背に乗り、魔導列車よりも遥かに速く飛行移動するという初めての経験する羽目に。
 想定していた以上の広さの柵が作られていた事で、調べるのに思っていたよりも時間が掛かり、サイネリアの機嫌は急降下。
 看板を設置し終えた頃には、もういいやと開き直り、普段人前では見せない疲労した時に出る暗い表情に。

「今日はもう帰って、お酒飲んで寝たい。でも仕事しないと」

「すいません。お願いします」

「わかってますよ。わたしなんて仕事しか出来ないですもん。さあ、早く箱町のギルドに戻って、帝都のギルドに転移しますよ。この場の状態を記した報告書を、この後書き上げないとならないんですから」
 
 カズは来る時と同様に、不貞腐れた態度を取るサイネリアとフジの背に乗り、箱町近くまで飛んで移動する。
 そこから歩き箱町の冒険者ギルドに戻り、転移装置で帝都の冒険者ギルド本部へと帰還。
 流石に人目のある場所に戻ると、何時ものギルド職員としての表情に。

「はい、お疲れさま。カズさんはお帰りください。わたしは仕事します」

「すいません、これだけ渡しておきます」

「なんですか? これ以外の仕事ですか?」

 先日狩ったバレルボアの肉と、それで作ったローストバレルボアを【アイテムボックス】から出してサイネリアに渡す。
 生肉はコールドの魔法を付与した容器に入れ、ローストバレルボアの方は温かいので別容器に。

「こっちは生肉です。それでこっちは、ローストしたのです。好みの厚さに切って、お酒と一緒にでも食べてください」

「お肉ですか、そうですか。遠慮なく頂きます。お酒はないんですか」

 フジの住む林を出てから気を使い、ずっと低姿勢のカズから二つの容器を受け取ったサイネリアは、ここぞとばかりに酒を要求してみる。

「ど、どんなのが好みですか? 麦シュワとフルーツ酒ならありますが」

「どちらも良いですね。最初は麦シュワとお肉でお腹を満たして、その後はフルーツ酒で口の中を甘くなんて」

 追加で【アイテムボックス】から麦シュワの入ったビン三本と、イチゴとメロンとぶどうのフルーツ酒を、各種一本出してテーブルに並べた。

「休暇返上させてしまったお詫びと、急な仕事のお礼として、受け取ってください」

「言ってみるもんね。これでこの後の仕事を、なんとかがんばってやれそう」

 今日の夕食の材料と、晩酌の酒を受け取り、職員が使う冷蔵庫に肉と酒を入れると、報告書を作成するために、自分の仕事机のある部屋に機嫌を良くして向かう。

 サイネリアの機嫌が直ったのを知らないカズは、ギルド本部を出ると、その足でアイリスの屋敷にバレルボアの肉を届け、その後アレナリアとレラを迎えがてら、ブロンディ宝石商会に行く。
 店に入ると従業員にも話が伝わっており、アレナリアとレラが来るまで真珠のネックレスを見せてもらった。

 正直説明を聞いても、カズはどれが良いのか分からない。
 鑑定すれば価値は分かるのだが、サイネリアの好みは? と、従業員に聞かれたが分からず返答に困った。
 帰りがけに代表のコーラルが店に居る日時を教えてもらい、サイネリアの予定を確認してから後日来ますと伝え、アレナリアとレラと一緒に川沿いの家に戻る。
 夕食時にサイネリアとの事を話して、同じ女性として三人の意見を聞く。

「最初からレオラの担当をしてるといっても、サイネリアはただのギルド職員だからね。いきなりフジに乗るのは怖かったでしょう」

「アイりんのところにいる騎士も、高い所は怖がってたしね」

「私も急に高い所を飛ぶのは、どうかと思おます」

 珍しく三人はカズに駄目出しをして、サイネリアの肩を持つ。
 これは遠慮なしで女性としての立場を考えての意見だろうか? と、カズは考える。
 真珠のネックレスの事に関しても、そこはカズがプレゼントするべきだと、三人の意見が合致した。
 このプレゼントは一人の女性としてではなく、何時もお世話になってるサイネリアへのお礼という意味で。
 三人が言っている事をカズは理解して受け止める。

「今日の明日では、サイネリアの気も休まないでしょう。四、五日したらギルドに行ってみたら?」

「そうしよう。レオラと一緒に居た事で、レオラと同じ様な態度を取ってしまってたのかも知れない。威厳が必要だと言われても、やっぱり上から目線はどうもな」

「でしたら、人目のない所では、カズさんの話しやすいようにされてはどうです? そうすればサイネリアさんの立場も守れるでしょう」

「そうだな、これからはそうするか」

「良いんじゃないの。案外サイネリアも、その方が気楽でいいと思ってるかもよ」

「元ギルド職員のアレナリアだから、そう思うのか?」

「それは関係ないわ。なんとなくよ」

「説得力ないなぁ」

「帝国に来てからカズはAランクになって、帝都のギルドから急な依頼を断る事なく受け、皇女二人と知り合いになり、フジがオリーブ王国からやってきてテイム登録。そんな冒険者の担当になったら、疲れるに決まってるわよ。レオラの担当を最初からしてるならなおさら」

「冒険者として活発に活動していたレオラの事を考えると、それを一人で対応してるとなると大変だろうな。アレナリアだったら、ずっと一人で相手出来るか?」

「正直なことを言うと、皇女で冒険者をしてる、そんな面倒な相手の担当になんて、私はしたくないわ。でもサイネリアが担当を外れないって事は、別にレオラの相手が嫌って訳じゃないのよ」

「それもそうか」

 三人の意見を聞き入れ、これからサイネリアには、もっと気楽に接してみようかと考えた。


 フジの住み家にカズが作った柵を視察に行った翌日の夕方、鉄釘を使わずに作られた広い柵の事や、ログハウスが作られた事を書いた箇所を上司に言われ、三度の修正をしてなんとか報告書が通る。
 先輩として疲れた顔を見せないよう、その翌日は朝から一年目の新人後輩に仕事を教え、ギルド職員として充実した日になり提示で上がる。
 夕方はカズからせしめたもらったフルーツ酒を飲み、ほろ酔いのまま気分良く就寝。
 その翌日に職員用の出入口裏口からギルドに訪れ、サイネリアに差金助言をした人物がその成果を聞きにやって来た。

「言われた通りにやってみました」

「カズの反応はどうだった?」

「初めて会った頃の言葉遣いに戻りました」

「うまくはいかなかったか」

「やっぱりカズさんには、合わないんじゃないですか。Aランク冒険者としての威厳を保つような話し方をしてますが、どうもわたしには、ぎこちなさがあるように思えます」

「これだけ経っても、他の高ランク連中と同じにはならない、か」

「機嫌を損ねても強気にいけ。カズならそこまで怒ることはないだろ。と、レオラ様が言ったんじゃないですか」

「それを実戦したから、カズが怒らないと得られたんだろ」

「わたしは気が進まなかったんですよ。意地悪な態度を取って、カズさんには少し申し訳ないですよ」

「そう言う割には酒まで要求してんだから、サイネも相当お怒りだったんだろ」

「確かに楽しみにしていた買い物と休みを、カズさんの用件で潰されたので怒りたくもあります。お酒の事に関しては、機会があれば何かしら要求してみろと、レオラ様が言ったからなんですよ」

「それが上手くいって、酒を貰えたんだろ。バレルボアのローストは、麦シュワにあったか?」

「それはもう最高でした」

 カズから受け取ったローストバレルボアを大きく一口食べ、そこからの麦シュワを喉に流し込んだ時の事を思い出し、サイネリアは自然と口元が緩みよだれが垂れそうになる。

「満足そうな顔をしてるじゃないか。もう怒ってないんだな」

「ませんよ。手頃な……探してくれると言ってくれましたし」

「手頃な、なんだって?」

「いえいえ、何でもありません」

 真珠パールネックレスの事を話して、レオラに要求し過ぎだと言われ却下されるかもと思い、サイネリアは思わずはぐらかしてしまった。
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