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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
569 推測 と こじつけ と 悲しい結果
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祖母のクレッテから聞いた事を出来るだけ思い出し、オークラは二人に話してくれた。
残念な事にオークラから聞いた話は、カズが得ていた情報と変わりなく、有力な手掛かりにはならなかった。
「お役にたてなくてごめんなさい」
「話を聞かせてくれただけでも十分です」
「あ、そうよ! 祖母が言っていたスカーフを」
何やら大切な物が仕舞ってあるかのような、模様が付いた小さな木箱をオークラが棚から出し、テーブルの上に置いた。
「この中にスカーフがあると思います」
小さな木箱を開けると、中には小石や押し花に、小さな手紙なんかが入っていた。
「これ、わたしが子供の頃、祖母にあげた物なんです。こんなただの小石を大事にとってるなんて、思ってませんでした」
小さな木箱の中にある物を取り出して、オークラはテーブルに並べていく。
底からは擦りきれて薄汚れてはいたが、新品ならば新緑を思わせる明るい緑色をしていたと考えられるスカーフが出てきた。
劣化しているスカーフを慎重に取り出し、破れないようにゆっくりと開いていく。
使用していたのは妖精族だという事で、スカーフは人族の使う大きさと違い、20センチもない小さいなものだった。
名前が何処かに書かれていると聞いていたので、オークラが畳まれたスカーフを開く度に、書かれているという名前を探した。
スカーフを完全に開いたが、見えている面には何も書かれてはいなかった。
あるのは砂や土が付着した跡と、赤黒いような染みがあるだけだった。
「反対側を見せてもらえますか?」
「あ、はい」
オークラに言って、広げたスカーフを裏返してもらう。
こちらにも赤黒い染みがあるだけで、聞いていた名前が書かれているようには見えなかった。
「ちょっと待ってください。確か隅の方に……! ここです。ここ」
オークラの指差す先には、確かに何か書かれているようにも見えた。
スカーフに顔を近付けて目を凝らし、微かに残る文字らしきものを読もうとする。
レラもテーブルに乗り、スカーフをじっと見る。
だが数年の時を経た事で、クレッテが入手した時よりもスカーフに書かれた文字は薄れて、読み取るのが難しくなっていた。
鑑定では消え掛かった文字を読み取る事が出来ないと考え、分析ならば分かるかも知れないが、より確実な方法として、カズが使用出来る最高の方法【万物ノ眼】を行使する。
スカーフの消え掛かっていた文字が、カズの目にはハッキリと浮かび上がって見えた。
ただ一つ違和感があった。
「確かに名前だと思える文字が書いてある」
「わかるんですか!?」
殆ど消えている文字をカズが読めた事に、オークラは驚きを隠せない。
「俺のスキルでね。これでもAランクの冒険者ですから(って事にしておこう)」
「……ねえカズ」
「ああ。これには確かにサク、カント、レイラと書かれてる」
「じゃあ、あちしとは…」
「だがな、おかしなところが一ヶ所あるんだ」
「おかしなところ?」
「サクとカントには、おかしなところはないんだけど」
「け…けど……」
「レイラと書かれてる真ん中の『イ』だけが、後から書き足されたみたいなんだ」
「それって……」
「つまりレイラではなく、元々はレラと書かれていたんだと思う」
カズの言葉を聞き、スカーフを見つめるレラの鼓動は早くなる。
「それって、どういう事ですか?」
オークラは疑問に思い、カズにその意味を尋ねた。
静かになるレラに視線を移し気に掛けながら、オークラの問いにカズは自分の考えを答える。
「自分の子供が狙われる危険があるとして、その子供に関する物を自分が持っているとしたら?」
「捨てるのはダメですよね。その狙ってる人達に拾われたら意味ないですし。だとしたら燃やしてしまうとか」
「その狙ってる連中から逃げているとしたら」
「何かを燃やしなんてしたら、見つかる危険があると?」
「絶対にとは言えませんが、敏感になっているとしたら、少しでも見つかる可能性を無くそうと思いませんか」
「それは、ありますかね。だとしたら……書いている文字を消すか、別のに書き換えるでしょうか?」
「大切な家族の名前を消したいと思うだろうか? 命の危機があるとしたら、迷わず消すかもしれないが、それをしたくないとしたら、考えられるのは……というのが、俺の考えなんですよ。(ちょっと無理なこじつけかも知れないが、可能性としてはなくもない。現物を見た感じだと)」
カズとオークラのやり取りを聞いたレラが、振り返りカズを見上げる。
「今の話は本当なの?」
「言ったろ、俺の勝手な推測だ」
「スカーフをしてたのって、あちしの……」
小さい頃の事を思い出してはないが、実の母親が亡くなっていたと実感し、レラの心は締め付けられる。
「クレッテさんがどこに埋葬したか知ってますか?」
「すみません。花の咲く場所にとは聞いていたんですが、詳しい場所は祖母しか」
「そうですか(その場所を見つけるのは、さすがに難しいか)」
スカーフの赤黒い染みが血痕だとしても、DNAを調べて血縁かを判別する方法は、この世界では出来ない。
年月が経ち過ぎて、魔力残滓もスカーフには無いため、レラに近い魔力かどうかを調べる事も出来ず、これ以上決定的な証拠を見付けるのは不可能。
しかし行商人がオリーブ王国から来る事を考え、話の中で子供だけが見つかってない事を踏まえると、亡くなったスカーフの持ち主がレラの母親である可能性は高かいとカズは考えた。
小さな妖精族の子供なら、行商人の荷馬車に隠れて行く事くらいは出来るだろうと。
ただ、オリーブ王国の王都まで小さな子供が一人で行き、ひっそりと隠れて暮らせるのかと疑問に思うところはあった。
フローラと出会うまで、生きる事で精一杯だったレラは、その頃の事を思い出したいと思ってないだろう。
食べ物を盗むなんてのは、日常茶飯事だっただろうから。
「……カズ」
レラは顔を伏せたままカズを呼び、上着に手を掛けて軽く引っ張る。
「どうしたレラ」
「帰ろう」
「いいのか?」
「……うん」
これ以上ここに居るのは、レラにとって辛いのだと思い、クレッテの家を出る事にした。
「すいませんオークラさん、突然来たのに話を聞かせてくれて、ありがとうございました。そろそろ失礼させてもらいます」
「たいしてお役に立てなくて。こちら持っていかれますか?」
オークラはスカーフを畳み、カズの前に差し出した。
「しかしそれはクレッテさんの形見では」
「祖母はこのスカーフを家族に返したいと思ってました。わたしが持っていてもどうにもなりません。カズさんの推測を聞いて、そちらのレラさんに持っていてもらった方が良いと思います。きっと亡くなった祖母も、そう思っています」
レラにとってスカーフが実際に母親の物だとしても、そうでなくとも、辛い事を考えてしまう物だとカズは考えたが、決めるのはレラ。
「どうする、レラ?」
「あちしは……」
「これを見てて辛くなるなら、オークラさんに返す。レラが望まなければ、ここにはもう来ないようにする」
「あちしは……」
「なら俺が持ってようか。いつかレラとの関係性確定させる事が出来るかも知れないし」
「……うん」
オークラはここには住んでないのだから、持っていて構わないと言っているので、カズはスカーフを受け取り【アイテムボックス】に入れた。
「わたしは午後に来る知り合いの行商人に付いて家に戻ります。ここには次いつ来るかわからないので、スカーフを受け取ってもらえてよかったです。家に持っていっても、両親がいい顔をしませんから」
最後にオークラにお礼を言いクレッテの家を出る時に「近々一人暮らしをするので、残りの遺品は後日取りに来るんです」と言っていたので、もうここに来ても会う事はないだろうとカズは思った。
クレッテの家を出てフジと合流する前に、気休めにしかならないと分かってはいたが、カズはレラに言葉を掛ける。
「今回オークラさんと会えたのは、何かに導かれたんだよ。レラとスカーフを引き合わせるために」
「それって神様が?」
「それはわからない。もしスカーフの持ち主がレラのお母さんだとしたら、悲しいがそのお母さんがレラを呼んだのかも。レラに形見を持っていてほしくてさ」
残念な事にオークラから聞いた話は、カズが得ていた情報と変わりなく、有力な手掛かりにはならなかった。
「お役にたてなくてごめんなさい」
「話を聞かせてくれただけでも十分です」
「あ、そうよ! 祖母が言っていたスカーフを」
何やら大切な物が仕舞ってあるかのような、模様が付いた小さな木箱をオークラが棚から出し、テーブルの上に置いた。
「この中にスカーフがあると思います」
小さな木箱を開けると、中には小石や押し花に、小さな手紙なんかが入っていた。
「これ、わたしが子供の頃、祖母にあげた物なんです。こんなただの小石を大事にとってるなんて、思ってませんでした」
小さな木箱の中にある物を取り出して、オークラはテーブルに並べていく。
底からは擦りきれて薄汚れてはいたが、新品ならば新緑を思わせる明るい緑色をしていたと考えられるスカーフが出てきた。
劣化しているスカーフを慎重に取り出し、破れないようにゆっくりと開いていく。
使用していたのは妖精族だという事で、スカーフは人族の使う大きさと違い、20センチもない小さいなものだった。
名前が何処かに書かれていると聞いていたので、オークラが畳まれたスカーフを開く度に、書かれているという名前を探した。
スカーフを完全に開いたが、見えている面には何も書かれてはいなかった。
あるのは砂や土が付着した跡と、赤黒いような染みがあるだけだった。
「反対側を見せてもらえますか?」
「あ、はい」
オークラに言って、広げたスカーフを裏返してもらう。
こちらにも赤黒い染みがあるだけで、聞いていた名前が書かれているようには見えなかった。
「ちょっと待ってください。確か隅の方に……! ここです。ここ」
オークラの指差す先には、確かに何か書かれているようにも見えた。
スカーフに顔を近付けて目を凝らし、微かに残る文字らしきものを読もうとする。
レラもテーブルに乗り、スカーフをじっと見る。
だが数年の時を経た事で、クレッテが入手した時よりもスカーフに書かれた文字は薄れて、読み取るのが難しくなっていた。
鑑定では消え掛かった文字を読み取る事が出来ないと考え、分析ならば分かるかも知れないが、より確実な方法として、カズが使用出来る最高の方法【万物ノ眼】を行使する。
スカーフの消え掛かっていた文字が、カズの目にはハッキリと浮かび上がって見えた。
ただ一つ違和感があった。
「確かに名前だと思える文字が書いてある」
「わかるんですか!?」
殆ど消えている文字をカズが読めた事に、オークラは驚きを隠せない。
「俺のスキルでね。これでもAランクの冒険者ですから(って事にしておこう)」
「……ねえカズ」
「ああ。これには確かにサク、カント、レイラと書かれてる」
「じゃあ、あちしとは…」
「だがな、おかしなところが一ヶ所あるんだ」
「おかしなところ?」
「サクとカントには、おかしなところはないんだけど」
「け…けど……」
「レイラと書かれてる真ん中の『イ』だけが、後から書き足されたみたいなんだ」
「それって……」
「つまりレイラではなく、元々はレラと書かれていたんだと思う」
カズの言葉を聞き、スカーフを見つめるレラの鼓動は早くなる。
「それって、どういう事ですか?」
オークラは疑問に思い、カズにその意味を尋ねた。
静かになるレラに視線を移し気に掛けながら、オークラの問いにカズは自分の考えを答える。
「自分の子供が狙われる危険があるとして、その子供に関する物を自分が持っているとしたら?」
「捨てるのはダメですよね。その狙ってる人達に拾われたら意味ないですし。だとしたら燃やしてしまうとか」
「その狙ってる連中から逃げているとしたら」
「何かを燃やしなんてしたら、見つかる危険があると?」
「絶対にとは言えませんが、敏感になっているとしたら、少しでも見つかる可能性を無くそうと思いませんか」
「それは、ありますかね。だとしたら……書いている文字を消すか、別のに書き換えるでしょうか?」
「大切な家族の名前を消したいと思うだろうか? 命の危機があるとしたら、迷わず消すかもしれないが、それをしたくないとしたら、考えられるのは……というのが、俺の考えなんですよ。(ちょっと無理なこじつけかも知れないが、可能性としてはなくもない。現物を見た感じだと)」
カズとオークラのやり取りを聞いたレラが、振り返りカズを見上げる。
「今の話は本当なの?」
「言ったろ、俺の勝手な推測だ」
「スカーフをしてたのって、あちしの……」
小さい頃の事を思い出してはないが、実の母親が亡くなっていたと実感し、レラの心は締め付けられる。
「クレッテさんがどこに埋葬したか知ってますか?」
「すみません。花の咲く場所にとは聞いていたんですが、詳しい場所は祖母しか」
「そうですか(その場所を見つけるのは、さすがに難しいか)」
スカーフの赤黒い染みが血痕だとしても、DNAを調べて血縁かを判別する方法は、この世界では出来ない。
年月が経ち過ぎて、魔力残滓もスカーフには無いため、レラに近い魔力かどうかを調べる事も出来ず、これ以上決定的な証拠を見付けるのは不可能。
しかし行商人がオリーブ王国から来る事を考え、話の中で子供だけが見つかってない事を踏まえると、亡くなったスカーフの持ち主がレラの母親である可能性は高かいとカズは考えた。
小さな妖精族の子供なら、行商人の荷馬車に隠れて行く事くらいは出来るだろうと。
ただ、オリーブ王国の王都まで小さな子供が一人で行き、ひっそりと隠れて暮らせるのかと疑問に思うところはあった。
フローラと出会うまで、生きる事で精一杯だったレラは、その頃の事を思い出したいと思ってないだろう。
食べ物を盗むなんてのは、日常茶飯事だっただろうから。
「……カズ」
レラは顔を伏せたままカズを呼び、上着に手を掛けて軽く引っ張る。
「どうしたレラ」
「帰ろう」
「いいのか?」
「……うん」
これ以上ここに居るのは、レラにとって辛いのだと思い、クレッテの家を出る事にした。
「すいませんオークラさん、突然来たのに話を聞かせてくれて、ありがとうございました。そろそろ失礼させてもらいます」
「たいしてお役に立てなくて。こちら持っていかれますか?」
オークラはスカーフを畳み、カズの前に差し出した。
「しかしそれはクレッテさんの形見では」
「祖母はこのスカーフを家族に返したいと思ってました。わたしが持っていてもどうにもなりません。カズさんの推測を聞いて、そちらのレラさんに持っていてもらった方が良いと思います。きっと亡くなった祖母も、そう思っています」
レラにとってスカーフが実際に母親の物だとしても、そうでなくとも、辛い事を考えてしまう物だとカズは考えたが、決めるのはレラ。
「どうする、レラ?」
「あちしは……」
「これを見てて辛くなるなら、オークラさんに返す。レラが望まなければ、ここにはもう来ないようにする」
「あちしは……」
「なら俺が持ってようか。いつかレラとの関係性確定させる事が出来るかも知れないし」
「……うん」
オークラはここには住んでないのだから、持っていて構わないと言っているので、カズはスカーフを受け取り【アイテムボックス】に入れた。
「わたしは午後に来る知り合いの行商人に付いて家に戻ります。ここには次いつ来るかわからないので、スカーフを受け取ってもらえてよかったです。家に持っていっても、両親がいい顔をしませんから」
最後にオークラにお礼を言いクレッテの家を出る時に「近々一人暮らしをするので、残りの遺品は後日取りに来るんです」と言っていたので、もうここに来ても会う事はないだろうとカズは思った。
クレッテの家を出てフジと合流する前に、気休めにしかならないと分かってはいたが、カズはレラに言葉を掛ける。
「今回オークラさんと会えたのは、何かに導かれたんだよ。レラとスカーフを引き合わせるために」
「それって神様が?」
「それはわからない。もしスカーフの持ち主がレラのお母さんだとしたら、悲しいがそのお母さんがレラを呼んだのかも。レラに形見を持っていてほしくてさ」
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