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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

560 旅のフェアリーからの話

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 カズがダンジョンマップに通路を書き込んでる間に、レラは自分の服をつくろっているビワの側でそれを見て待つ。
 アレナリアは一人風呂に入り、疲れを洗い流していた。

「ふぅ~……不思議とお湯に浸かるって、気持ちいのよね。カズと出会わなければ知らなかったわ」

 お風呂に入り、お湯に浸かる気持ち良さを覚えたアレナリアは、ふとカズと出会った頃を思い出した。

「レラの家族が見つかるかも知れない情報なのはわかった。それを最初にカズに話したいというのもわかる。でもわざわざで、お風呂ここでする事ないじゃ……うらやましいッ!」

 アレナリアは風呂場で自分の願望を大声で口にした。
 ただ何時もと違いレラが静かなこの日は、リビングに居るビワとレラの二人に、その声が微かに聞き取れてしまっていた。

「あの感じだと、今夜カズに夜這いをかけそう。ね、ビワ(どういう反応をするかなあ)」

「…そうね」

「結構素っ気ない」

「何?」

「別に。アレナリアが出たらビワが先に入る?」

「私は後でいいわ。カズさん疲れてるでしょうから、先に入ってもらいましょう。レラも大事な話があるんでしょ」

「ならアレナリアが出たら、カズを呼んでくる」

「ええ、お願い」

 二十分程してアレナリアが風呂から出てきたので、レラがカズを呼びに三階に上がった。
 ギルドから渡されたダンジョンマップに地中へ向かう通路を書き足し、もう少しで終わるところでレラが呼びに来た。

「あと数分で終わるから先に入っててくれ」

「は~い。体を磨いて待ってるわ。うふっ」

「はいはい」

「カズも素っ気ない」

 レラは冗談を言って気を落ち着かせようとする。
 ビワと同様にさらりと流されたので、先に風呂に入りカズを待つ事にした。
 体を洗い浴槽にじゃぼんと浸かり、何となく落ち着かずバチャバチャスイーっと泳ぎ、プカプカと仰向けで浮いていると、風呂の扉が開きカズが入ってくる。
 レラは浴槽のふちに座り、カズは頭から足の先まで全身を洗い浴槽に浸かり、身体の疲れを溶かし出すかのように「くあぁ~」自然と声が出る。

「カズ、おっさんみたい」

「ほっとけ」

「ほれほれ、美少女の裸体だよ」

 レラは浴槽のふちに立ち、左手を腰に右手を頭の後ろに回してポーズをとり腰を左右に動かす。

「そだな……」

 広い温泉も良いが、家の狭い風呂も落ち着いて良いとカズは感じる。(第六皇女レオラの所有する家なので、そこらの風呂がある家より浴槽は広い)

「反応うすッ!」

「話すことがあるんだろ。冷えるからお湯に浸かって話せよ」

「ぁ…うん」

 何時もの様に明るい表情をしていたレラが、ふっと真顔になって湯に入り、カズの立てた右膝の上に座る。
 湯面が胸の上部辺りにきて、レラにはちょうど良い高さになっていた。
 レラはじっと視線を落として、お湯に映る自分の顔を見たままで、中々話が始まらない。

「話しづらい内容なら、改めて後日コンルに聞くが」

「自分で話すよ」

 それから五分程沈黙ののち、レラが顔を上げて話し出す。
 コンルから聞いたのは、名前は聞かぬ条件で旅をしている妖精族フェアリーから聞いた話。
 ただそれが正しいかは、コンルには判断が出来ないとの事だった。
 カズ達が求めていた情報の可能性はあったので、聞いたままの事をレラに伝えてきたのだと。
 その真偽は自分達で判断してくれとの事だった



 数年前旅の妖精族フェアリーが偶然見付け立ち寄った同族の集落の住人は、住む場所を転々と変えながら密かに暮らしている者達だった。
 その都度折り合わなかった者が出ていき、その時には二十人程の少数になっていた。
 だが実際は同族だけで暮らそうとする古い考えを持つ旧派の者達と、他の種族と共存していこうと考える新派の者達が対立して分裂した結果だった。

 そこは新派の者達が暮らす村で、旅の妖精族フェアリーが数日世話になった者が、酔った勢いで愚痴と共に口を滑らせたのを聞いて知った事。
 家族内でも新旧の考えが二分して、バラバラになり別れた家族もいたらしい。
 他には同族内での争いを嫌い、新派にも付いて行かず旧派にも残らずに出て行った家族も少なからずいたと。
 どちらにも属せず村や街で隠れ住む者もいれば、捕まり見せ物として種族売買で売り飛ばされた者もいたと風の噂で。

 ここまでは旅をしていれば、カズ達でも運良く得られそうな情報だったが、肝心なのはこの後だった。

 旅の妖精族フェアリーが新派の村を出てから半年程して、広い砂漠の南にある小さな村の一つに訪れた時に、新旧どちらにも入らずに村を出た家族と会った。
 そこで細々と暮らす四人家族の父親から、小さな女の子を連れた三人の親子が、村を出た後で人族に捕まったと聞いた。
 自分の家族を守る為に、その親子を助ける事はせず、見て見ぬふりをしてやり過ごし、逃げるようにして近くの人族の村に隠れすんだのがここだと。

 翌日三人の親子を捕まえた人族がモンスターに襲われて全滅したと、その村の者が話しているのを聞き、もし生きていればと助けようと、四人家族の父親は一人で人族に見つからないようにし、その場所に向かったと。
 離れた所から隠れて見ると、人族の冒険者らしき数人が襲われた者達を調べ、遺品を回収して死体はその場で焼却。
 燃やされた中に同族の姿はなかったらしいのだが、引き裂かれた羽が一枚落ちていたのを目撃。
 恐らくは襲ってきたモンスターに捕食されたのだろうと考えて、その場を離れ家族の元に戻った。

 それから数日して、一人村から離れた場所で暮らす年配女性の人族が、フェアリー同族の亡骸を埋葬したと村人の噂で聞き、見捨てた事の後ろめたさから、四人家族の父親は、危険を承知で一人年配女性の家に確認へ向かった。
 意を決して姿を現すと年配女性は妖精族フェアリーに好意的であり、フェアリー同族の亡骸を埋葬した経緯を尋ねると話してくれた。

 前日遠くの街から行商人が村に品物を売りに来たので、年配女性は村に買い出しに行き家に戻る途中、砂に埋もれた人形を拾ったと話した。
 汚れを払うと半透明の羽が現れ、それを見て女の妖精族フェアリーだと気付き、すぐに手当てを試みたが、既に生き絶えており、せめてもと多くの花が咲く場所に丁重に埋葬したと。
 首に巻いていたスカーフに、名前らしき字が入っていたので、もし肉親が探しに来た場合渡そうと取ってあり、四人家族の父親はそれを見せてもらい名前を確認した。
 そこには確かに家族だと思える三人の名前があった。

 年配女性の元に確認に来た四人家族の父親は、女の子がいなかったかと尋ねたが、他には何も無かったと聞き、もしかしたら何処かで生きているのではと、微かな望みを抱いた。
 だが何も手がかりはなく、女の子の生死も行方も不明となっていたので、四人家族の父親は三人家族を見捨てた事への罪悪感が消える事はなかった。
 あの時に助けようと出て行ったしても、家族もろとも捕まるだけで、自分の行動は正しかったと言い聞かせた。
 この出会いは一期一会だと、旅のフェアリー同族に話して、四人家族の父親は気持ちを少しでも楽にしたかった。
 旅の妖精族フェアリーは四人家族の父親の気持ちが理解し、もう二度とここへは来る事はしないと村を後にして旅を続け、数年後に帝国へとやって来た。
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