576 / 714
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
555 レオラとアイリスに仕える騎士の合同訓練 7 騎士達の評価と課題
しおりを挟む
レオラとアイリスは雑談を交えながら、三十分程訓練を見ていた。
騎士達の攻撃ではダメージといえるような深い傷は一向に付かず、軽く拭えば消えてしまう程度の跡や擦り傷が付くだけだった。
「男の騎士どもと対等以上にさせるには、本気でモンスターとの戦闘を経験をさせた方がいいかも知れないぞ、姉上」
「わたくし的には、別に張り合わなくてもいいと思うのよ」
「姉上がいいならアタシは構わないが、男の騎士どもの殆どが、女の騎士を下に見てる態度が気に食わない」
「それはそうだけど、レオラちゃんのところもそうなの?」
「アタシのいる前では無いさ。以前にアタシの事を知らず、女騎士だと勘違いして向かって来たそのバカを、正面から返り討ちにしてやった。すぐに騒ぎを聞き付けたその騎士団のまとめ役が来て、アタシに気付き謝罪したんで、気を付けるように言って、その時はそれで済ませた」
「レオラちゃんがやり過ぎたんじゃないの?」
「アタシが皇女だと知らないのが悪い」
帝国の騎士が皇女の顔を知らないのが悪いのは確かだと思うが、そもそも皇女が騎士を容易く返り討ちになんて出来ないと、アイリスだけではなく一緒に侍女も思っていた。
「新しく入った騎士の方々が、わたくし達皇族に顔を見せる式典に出ないからでしょ」
「堅苦しいのは嫌いなんだよ。知ってるだろ」
「それを聞くと、レオラちゃんに返り討ちにされた騎士が不憫に思えるわね」
「軽くなでてやっただけだ。ここにいる騎士の誰よりも弱かったぞ。ただ口だけの若造だ」
レオラの返答を聞き、アイリスと侍女は苦笑いを浮かべた。
「男性騎士達には聞かせられないわね」
「文句を言うなら、いくらでも相手をしてやるさ」
「女性でそれが出来るのは、レオラちゃんくらいでしょうよ」
「アタシだけじゃなく、ミゼットだって出来るぞ」
「その方はバイアステッチの冒険者ギルドマスターでしたっけ? 確かレオラちゃんと同じ、守護者の称号をお持ちの」
「ああ、そうだ。女だからって男より劣る訳じゃないんだ。アタシやミゼットのように強くなりたければ、姉上の騎士達も、もっと鍛えればいい」
そこまで強くならなくとも、男性騎士と対等になれる程度で良いとアイリスは考えていた。
「日頃の訓練は騎士の皆に任せてるから、どうすればいいのか、わたくしはわからないのよ。強くなるのに手っ取り早い方法ないのかしら?」
「よほどの事がなければ、短期間で成長するのは無理だろ。ただ数回の訓練よりも、一度の実戦の方が得る経験は多い。カミーリアがいい例だ」
「確かにそうね。でもそれは、カズさんと一緒だったからじゃないの?」
「それは……あるかも知れないな。カズと行動を共にすると、その者とって大きな経験を得る。アタシもカズと知り合ってから、色々と興味深い事が多い」
「でしょ。あ! そうだわ。だったらカズさんに連れて行ってもらえばいいんじゃないのかしら」
「カズにはアレナリアとビワがいるとはいえ、一応は男だ。大事なお抱えの騎士が傷物になっても、アタシは責任とらないぞ」
「カミーリアは別として、それは困るわね」
カズの知らないところで、アイリスに仕える女性騎士を慰み者にする男だと、二人の皇女から言われていた。
勿論これは冗談で言っていることなのだが、カミーリアがその扱いをされるのは一向に構わないと、アイリスは本気で言っていた。
「姉上のぶれないそういうのところは嫌いじゃない」
「ありがとう」
「褒めたんじゃないぞ」
午前の無茶苦茶な訓練とは違い、午後はレオラが地面に突き立てた溶岩喰いのケラの前脚に、騎士達が全力で打ち込みをする地味な訓練になった。
強化スキルや魔法以外に、魔力をそのまま自身の持つ剣へと込める者もいた。
だがレオラの指摘したように魔力の操作が甘く、アイリス組の殆どの騎士が消費してる魔力の半分も効果として現れてない現状だと、この三日の訓練でレオラは確認した。
特に午前中の訓練で、実際レオラが相手をした二班の三人は、剣術が4に魔力操作が3の評価。
フジに乗っての飛行訓練をした一班は、カミーリアの魔力操作が5で、他の四人が3といったところ。
カズが模擬戦をした三班では、レオラ組のアスターとグラジオラスとガザニアの魔力操作は6で、他のアイリス組の四人は3から4と、やはり低い。
この評価は二日目に指南役をしたアレナリアと本日来たカズに、騎士達には内緒にして魔力の使い方を検分させていた。
それを元にレオラが採点した結果。
これは10段階で帝国の男性騎士なら剣術で5か6、魔力操作なら4が平均。
剣術に関しては、女性騎士の方が少し劣るが、魔力操作は男性騎士、女性騎士のどちらもほぼ同じだと、レオラは考えていた。
そこで魔力操作を最低6の評価まで上げれば、腕力や剣術が多少劣っていても、男性騎士と対等に渡り合えると、今回の合同訓練でレオラが得た答えの一つだった。
最終日の合同訓練は日暮までとなり、それまでにレオラが示した、溶岩喰いのケラの前脚に、ダメージといえる傷を付ける事という目標が達成出来るかが、以降の合同訓練の内容を決める基準になる。
アレナリアの助言を聞いて魔力操作が良くなり、目標を達成出来れば帝国に居る騎士達の中でも、上位に食い込める実力者を付ける事が出来ると、レオラは考えていた。
ここに居る騎士の全員とはいかないもなの、片手の指を折って数えられる人数が育ては良い方。
両手の指を折って数えられる人数が育ったのなら、帝国を代表する女性騎士団が出来るとも考えていた。
これは帝国に男性騎士の方が上だという考え方を改めさせる事が出来るというレオラの願望であって、その為にアイリスに仕える女性騎士の一人でも育てば良いとも考えていた事だった。
この考えはアイリスも知っており、女性騎士達も少なからず似た考えは持っていた。
「少し長いしてしまいました。わたくしはそろそろ戻ります」
「一緒に来た三人を、一応護衛として連れて戻る方がいいだろ。他の連中では疲れで護衛が務まらないからな」
「わたくしの敷地内だから護衛がいなくても大丈夫だと思うわよ」
「だと思うが、油断は大敵だそ姉上」
「元セテロン国から密かに来た者が、まだ完全にいないとは言いきれないだろ」
「調査は進んでいるの?」
「潜伏してるとしたら、大人数で動くと感付かれる。少人数で探るしかないんだ」
「カズさんにしてもらったら早いんじゃないの?」
「姉上に初めて会わせた時ならまだよかったが、今ではアタシお抱えの冒険者だと知られて来てる。密かに動くのは難……しいはずだと思う」
「ハッキリしないなんて、レオラちゃんらしくないわね」
「カズだから何かしらありそうなんだ。それより例の件の書類は姉上に任せる。アタシは現地に行って来る」
「今からでも、わたくしのお屋敷の近くにしてもいいんですよ」
「ダメだ。姉上までも公務を放り出したら、アタシにしわ寄…動けなくなるだろ」
「もうッ、それはレオラちゃんの都合でしょ」
「なら、アタシの代わりを姉上がするか?」
「わたくしに出来るわけないでしょ」
「なら頼むよ。優しい姉上」
「したかないわね。訓練が終わったら、カズさんにも来るように言って」
「レラが居るんだろ。アレナリアと迎えに行くだろ」
「それもそうね」
二時間弱が経過し、予定より長く合同訓練を見学したアイリスとお付きの侍女が、護衛の騎士三人と共に馬車で屋敷に戻って行った。
「おいカズ、そろそろ起きろ」
「……ふぁい?」
レオラの呼び掛けで、カズは浅い眠りから目を覚ます。
騎士達の攻撃ではダメージといえるような深い傷は一向に付かず、軽く拭えば消えてしまう程度の跡や擦り傷が付くだけだった。
「男の騎士どもと対等以上にさせるには、本気でモンスターとの戦闘を経験をさせた方がいいかも知れないぞ、姉上」
「わたくし的には、別に張り合わなくてもいいと思うのよ」
「姉上がいいならアタシは構わないが、男の騎士どもの殆どが、女の騎士を下に見てる態度が気に食わない」
「それはそうだけど、レオラちゃんのところもそうなの?」
「アタシのいる前では無いさ。以前にアタシの事を知らず、女騎士だと勘違いして向かって来たそのバカを、正面から返り討ちにしてやった。すぐに騒ぎを聞き付けたその騎士団のまとめ役が来て、アタシに気付き謝罪したんで、気を付けるように言って、その時はそれで済ませた」
「レオラちゃんがやり過ぎたんじゃないの?」
「アタシが皇女だと知らないのが悪い」
帝国の騎士が皇女の顔を知らないのが悪いのは確かだと思うが、そもそも皇女が騎士を容易く返り討ちになんて出来ないと、アイリスだけではなく一緒に侍女も思っていた。
「新しく入った騎士の方々が、わたくし達皇族に顔を見せる式典に出ないからでしょ」
「堅苦しいのは嫌いなんだよ。知ってるだろ」
「それを聞くと、レオラちゃんに返り討ちにされた騎士が不憫に思えるわね」
「軽くなでてやっただけだ。ここにいる騎士の誰よりも弱かったぞ。ただ口だけの若造だ」
レオラの返答を聞き、アイリスと侍女は苦笑いを浮かべた。
「男性騎士達には聞かせられないわね」
「文句を言うなら、いくらでも相手をしてやるさ」
「女性でそれが出来るのは、レオラちゃんくらいでしょうよ」
「アタシだけじゃなく、ミゼットだって出来るぞ」
「その方はバイアステッチの冒険者ギルドマスターでしたっけ? 確かレオラちゃんと同じ、守護者の称号をお持ちの」
「ああ、そうだ。女だからって男より劣る訳じゃないんだ。アタシやミゼットのように強くなりたければ、姉上の騎士達も、もっと鍛えればいい」
そこまで強くならなくとも、男性騎士と対等になれる程度で良いとアイリスは考えていた。
「日頃の訓練は騎士の皆に任せてるから、どうすればいいのか、わたくしはわからないのよ。強くなるのに手っ取り早い方法ないのかしら?」
「よほどの事がなければ、短期間で成長するのは無理だろ。ただ数回の訓練よりも、一度の実戦の方が得る経験は多い。カミーリアがいい例だ」
「確かにそうね。でもそれは、カズさんと一緒だったからじゃないの?」
「それは……あるかも知れないな。カズと行動を共にすると、その者とって大きな経験を得る。アタシもカズと知り合ってから、色々と興味深い事が多い」
「でしょ。あ! そうだわ。だったらカズさんに連れて行ってもらえばいいんじゃないのかしら」
「カズにはアレナリアとビワがいるとはいえ、一応は男だ。大事なお抱えの騎士が傷物になっても、アタシは責任とらないぞ」
「カミーリアは別として、それは困るわね」
カズの知らないところで、アイリスに仕える女性騎士を慰み者にする男だと、二人の皇女から言われていた。
勿論これは冗談で言っていることなのだが、カミーリアがその扱いをされるのは一向に構わないと、アイリスは本気で言っていた。
「姉上のぶれないそういうのところは嫌いじゃない」
「ありがとう」
「褒めたんじゃないぞ」
午前の無茶苦茶な訓練とは違い、午後はレオラが地面に突き立てた溶岩喰いのケラの前脚に、騎士達が全力で打ち込みをする地味な訓練になった。
強化スキルや魔法以外に、魔力をそのまま自身の持つ剣へと込める者もいた。
だがレオラの指摘したように魔力の操作が甘く、アイリス組の殆どの騎士が消費してる魔力の半分も効果として現れてない現状だと、この三日の訓練でレオラは確認した。
特に午前中の訓練で、実際レオラが相手をした二班の三人は、剣術が4に魔力操作が3の評価。
フジに乗っての飛行訓練をした一班は、カミーリアの魔力操作が5で、他の四人が3といったところ。
カズが模擬戦をした三班では、レオラ組のアスターとグラジオラスとガザニアの魔力操作は6で、他のアイリス組の四人は3から4と、やはり低い。
この評価は二日目に指南役をしたアレナリアと本日来たカズに、騎士達には内緒にして魔力の使い方を検分させていた。
それを元にレオラが採点した結果。
これは10段階で帝国の男性騎士なら剣術で5か6、魔力操作なら4が平均。
剣術に関しては、女性騎士の方が少し劣るが、魔力操作は男性騎士、女性騎士のどちらもほぼ同じだと、レオラは考えていた。
そこで魔力操作を最低6の評価まで上げれば、腕力や剣術が多少劣っていても、男性騎士と対等に渡り合えると、今回の合同訓練でレオラが得た答えの一つだった。
最終日の合同訓練は日暮までとなり、それまでにレオラが示した、溶岩喰いのケラの前脚に、ダメージといえる傷を付ける事という目標が達成出来るかが、以降の合同訓練の内容を決める基準になる。
アレナリアの助言を聞いて魔力操作が良くなり、目標を達成出来れば帝国に居る騎士達の中でも、上位に食い込める実力者を付ける事が出来ると、レオラは考えていた。
ここに居る騎士の全員とはいかないもなの、片手の指を折って数えられる人数が育ては良い方。
両手の指を折って数えられる人数が育ったのなら、帝国を代表する女性騎士団が出来るとも考えていた。
これは帝国に男性騎士の方が上だという考え方を改めさせる事が出来るというレオラの願望であって、その為にアイリスに仕える女性騎士の一人でも育てば良いとも考えていた事だった。
この考えはアイリスも知っており、女性騎士達も少なからず似た考えは持っていた。
「少し長いしてしまいました。わたくしはそろそろ戻ります」
「一緒に来た三人を、一応護衛として連れて戻る方がいいだろ。他の連中では疲れで護衛が務まらないからな」
「わたくしの敷地内だから護衛がいなくても大丈夫だと思うわよ」
「だと思うが、油断は大敵だそ姉上」
「元セテロン国から密かに来た者が、まだ完全にいないとは言いきれないだろ」
「調査は進んでいるの?」
「潜伏してるとしたら、大人数で動くと感付かれる。少人数で探るしかないんだ」
「カズさんにしてもらったら早いんじゃないの?」
「姉上に初めて会わせた時ならまだよかったが、今ではアタシお抱えの冒険者だと知られて来てる。密かに動くのは難……しいはずだと思う」
「ハッキリしないなんて、レオラちゃんらしくないわね」
「カズだから何かしらありそうなんだ。それより例の件の書類は姉上に任せる。アタシは現地に行って来る」
「今からでも、わたくしのお屋敷の近くにしてもいいんですよ」
「ダメだ。姉上までも公務を放り出したら、アタシにしわ寄…動けなくなるだろ」
「もうッ、それはレオラちゃんの都合でしょ」
「なら、アタシの代わりを姉上がするか?」
「わたくしに出来るわけないでしょ」
「なら頼むよ。優しい姉上」
「したかないわね。訓練が終わったら、カズさんにも来るように言って」
「レラが居るんだろ。アレナリアと迎えに行くだろ」
「それもそうね」
二時間弱が経過し、予定より長く合同訓練を見学したアイリスとお付きの侍女が、護衛の騎士三人と共に馬車で屋敷に戻って行った。
「おいカズ、そろそろ起きろ」
「……ふぁい?」
レオラの呼び掛けで、カズは浅い眠りから目を覚ます。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
492
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる