575 / 714
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
554 レオラとアイリスに仕える騎士の合同訓練 6 アイリスの視察 と モンスターへの打ち込み
しおりを挟む
全員が昼食を(一班と二班はなんとか)済ませ、午前の疲れを残したまま午後の訓練が始まる少し前、アイリスが侍女と護衛の騎士三人連れ、アレナリアも一緒の馬車に乗ってやって来た。
「まぁ! やっぱり見間違いじゃなかったのね。バスケットを持ってきてもいいかしら」
「アイリス様、今日は騎士の方々の訓練を視察するのですよ」
アイリスは来た早々フジの存在を確認すると、また気球で使っていたバスケットを使用してフジに乗り、空高く遊覧飛行出来るとまた考え、合同訓練の見学という本来の目的を忘れそうになり、侍女に注意される。
「フジは訓練に協力しているんだ。姉上の遊び相手をさせるのに来てるんじゃないんだぞ」
「遊びだなんて、ちょっと池をぐるっと回って、中央の方までビュ~っと」
「帝都中央の上空は、許可がなければ飛行禁止だと、姉上もわかってるだろ」
「わたくし第五皇女よ」
「……本気か?」
「ちょっとだけ」
「今日は合同訓練の見学が姉上の仕事だ。フジも協力者なんだから、姉上の相手はしないぞ。中央に行きそうだから、カズに言っこれからもなしにするぞ」
「レオラちゃんのケチ!」
「姉上はもう二度とフジで飛ばないってさ、カズ」
「ちょぉーっと、そんなこと言ってないわ! レオラちゃんの言った事は本当じゃないのよ。ちゃんとフジくんの住む所は用意するから、また飛んでもらってね。お願いね、カズさん」
何がなんだかわからないが、フジの住み家をアイリスが用意してくれるのは本当らしい。
ただし、またフジに気球用のバスケットを紐で装着させ、アイリスが乗り飛ばせる事になるのは確実になりそうなので、出来ればアイリスの屋敷の近くではない方がいいと、カズは考えていた。
そしてかれこれ十五分が経ち、いつまで二人の本気言い合いを見てればいいのかと誰もが思った。
たが、誰も皇女二人を止めに入れない。
「皆呆れてますけと、訓練はいいんですか? レオラ様」
このままではらちが明かないと、アレナリアが二人の寸劇に割って入った。
「姉上が余計な話をするから、皆の士気が下がってしまったぞ」
「わたくしのせいにしないで。レオラちゃんが時間だからって、訓練を始めればよかったでしょ」
アレナリアが話しに割って入ったにも関わらず、午後の合同訓練が始まりそうにない。
「ふわぁ~……あのう、アレナリアは置いてくんで、俺は家に戻っていいですか? 眠いんで」
昼食を済みお腹が満たされ、昼寝には心地好い陽気の中で待っているカズは、強い眠気から、このままでは立って寝そうになりそうだった。
「姉上話しは終わりだ。このままだとカズが寝かねない」
「眠いのなら、わたくしの所で寝かせ……てあげたいのだけど、今男性のカズさんが使える部屋は、カミーリアの部屋だけなのよ。だから、カミーリアと一緒に行ってね」
「遠慮します」
「そんな……あ! そうよね、先ずはお風呂よね。またカミーリアと一緒に入っていいわよ」
「アイリス様、騎士の皆さんが見てますので、その辺で。それとお口から」
口元が緩み口の端から涎が垂れそうになるのを見て、侍女がアイリスの口元を拭い、言動を控えるように注意した。
「これは失礼しました。わたくしの事は気にしないで、午後の訓練を始めてください」
「まったく姉上は……って事だ、午後の訓練を始める(と、言うもののどうしたものか。実力の近いアレナリアならまだしも、アタシやカズと模擬戦をしても……)」
結局アイリス達が来た事で、午後の訓練が開始されるまで、予定より三十分繰り下がり、レオラが言うように騎士達の士気は、午前の訓練前より明らかに下がっていた。
「実際にモンスターと戦わせて経験を積ませたいが」
「フジは駄目ですよ」
「わかっている……! おいカズ、モンスターを出せ」
「はい!? モンスターって、そんなの……(レオラの前では、モンスター系のトレカは使ってなかったはずたが)」
「言葉足らずだった。ダンジョンでモンスターの一部を持ってきたと言ってなかったか?」
「……ああ! 溶岩喰いのケラの前脚なら持ってきました。ダンジョンに出たモンスターの証拠と、ギルドに買い取ってもらおうと思って」
「二本あるだろ? 一本でいいからそれを出してくれ。騎士達に打ち込みさせる」
「はあ。いいですけど、少々臭いますよ(それで俺が模擬戦をしなくてすむなら)」
「構わん。姉上達はもっと離れていた方がいいだろ」
「少しなんでしょ。フジくんは臭くないから、きっと大丈夫よ」
モンスターだがフジとは一緒にしてほしくないと、カズは内心で考えていた。
と、同時に異臭を放つモンスターも居ると分かってほしいと考え、遠慮せずに出す事にした。
カズは灼熱と極寒のダンジョンで溶岩喰いのケラを倒して回収した、モグラのような前脚を【アイテムボックス】から一本出す。
騎士達は鼻元を手で覆い、アイリスと侍女はその臭さからさっきの言葉がどこ吹く風、そそくさと風上に移動して遠ざかる。
「確かに少し臭いな」
「倒して間もなく回収したので。風がありますから、出しておけばこの臭いにおいも薄まるでしょう」
「そうか。だがこれも、モンスターと戦闘になった際の訓練になるだろ」
カズが出した2メートル以上ある溶岩喰いのケラの前脚の一本に、今回最初から合同訓練に参加しなかった、アイリスと共に来た三人の騎士に、全力で斬り付けろとレオラが指示をする。
最終日の午後から合同訓練に少しだけ参加すると聞かされていた三人の騎士は、レオラの指示を受けて、腰に携える剣を鞘から抜き、全力で剣を振り下ろす。
溶岩喰いのケラの前脚に剣が接触すると『ガキィン!』の音と共に、三人の剣が弾かれる。
剣が欠ける事はなかったが、少しだけ刃が凹んでしまった。
騎士三人は予想外の硬さに、剣を手放して顔を歪め、手を振るい痺れを取ろうとする。
「三人ではかすり傷すら付かないか。各々一撃ずつ入れてみろ。午前の訓練で剣がダメになった者は、持ってきている予備の剣を使え」
模擬戦で訓練用の剣が破損してもいいように、アイリス組の騎士達は各自予備の剣を一本ずつ持ってきていた。
カズとの模擬戦だけではなく、前日アレナリアとの模擬戦でも、五本の剣が変形して使い物にならなくなっていた。
だが流石に、グラジオラスのように剣を切断された者はいなかった。
レオラ組は訓練用の剣は一本しか持って来てないため、グラジオラスはいつも携えてる自身の剣を使う。
一通り全員が溶岩喰いのケラの前脚に一撃を入れたのを確認し、最後にレオラが拳で一撃入れる。
「これは確かに硬いか(しかし訓練用の剣とはいえ、ケラの脚に傷を付けたのが、ガザニアとグラジオラスとカミーリアだけとは……)」
レオラの拳で傷は付きはしなかったが、表皮が拳の形にベコリと凹んだ。
皇女とは思えない素手で威力を目にした半数の騎士が驚き、他半数の騎士が強く美しい姿に憧れた。
ガザニアは言うまでもなく、以前のようにレオラを孤高の表情で見つめた。
最終日午後の訓練は、カズが灼熱と極寒のダンジョンから回収してきた溶岩喰いのケラの前脚に、騎士全員がダメージになる傷を付けるのが最低限の目標とレオラが言い渡し、レオラは前脚を地面に突き刺して立てた。
強化スキルと魔法を使うのは可能だが、魔力操作が乏しい騎士達に、魔力の使い方を教える役目をアレナリアに与えた。
始めは各々得意な強化スキルや魔法などを使い、溶岩喰いの前脚に訓練用の剣で何度も斬り付ける。
「まぁ! やっぱり見間違いじゃなかったのね。バスケットを持ってきてもいいかしら」
「アイリス様、今日は騎士の方々の訓練を視察するのですよ」
アイリスは来た早々フジの存在を確認すると、また気球で使っていたバスケットを使用してフジに乗り、空高く遊覧飛行出来るとまた考え、合同訓練の見学という本来の目的を忘れそうになり、侍女に注意される。
「フジは訓練に協力しているんだ。姉上の遊び相手をさせるのに来てるんじゃないんだぞ」
「遊びだなんて、ちょっと池をぐるっと回って、中央の方までビュ~っと」
「帝都中央の上空は、許可がなければ飛行禁止だと、姉上もわかってるだろ」
「わたくし第五皇女よ」
「……本気か?」
「ちょっとだけ」
「今日は合同訓練の見学が姉上の仕事だ。フジも協力者なんだから、姉上の相手はしないぞ。中央に行きそうだから、カズに言っこれからもなしにするぞ」
「レオラちゃんのケチ!」
「姉上はもう二度とフジで飛ばないってさ、カズ」
「ちょぉーっと、そんなこと言ってないわ! レオラちゃんの言った事は本当じゃないのよ。ちゃんとフジくんの住む所は用意するから、また飛んでもらってね。お願いね、カズさん」
何がなんだかわからないが、フジの住み家をアイリスが用意してくれるのは本当らしい。
ただし、またフジに気球用のバスケットを紐で装着させ、アイリスが乗り飛ばせる事になるのは確実になりそうなので、出来ればアイリスの屋敷の近くではない方がいいと、カズは考えていた。
そしてかれこれ十五分が経ち、いつまで二人の本気言い合いを見てればいいのかと誰もが思った。
たが、誰も皇女二人を止めに入れない。
「皆呆れてますけと、訓練はいいんですか? レオラ様」
このままではらちが明かないと、アレナリアが二人の寸劇に割って入った。
「姉上が余計な話をするから、皆の士気が下がってしまったぞ」
「わたくしのせいにしないで。レオラちゃんが時間だからって、訓練を始めればよかったでしょ」
アレナリアが話しに割って入ったにも関わらず、午後の合同訓練が始まりそうにない。
「ふわぁ~……あのう、アレナリアは置いてくんで、俺は家に戻っていいですか? 眠いんで」
昼食を済みお腹が満たされ、昼寝には心地好い陽気の中で待っているカズは、強い眠気から、このままでは立って寝そうになりそうだった。
「姉上話しは終わりだ。このままだとカズが寝かねない」
「眠いのなら、わたくしの所で寝かせ……てあげたいのだけど、今男性のカズさんが使える部屋は、カミーリアの部屋だけなのよ。だから、カミーリアと一緒に行ってね」
「遠慮します」
「そんな……あ! そうよね、先ずはお風呂よね。またカミーリアと一緒に入っていいわよ」
「アイリス様、騎士の皆さんが見てますので、その辺で。それとお口から」
口元が緩み口の端から涎が垂れそうになるのを見て、侍女がアイリスの口元を拭い、言動を控えるように注意した。
「これは失礼しました。わたくしの事は気にしないで、午後の訓練を始めてください」
「まったく姉上は……って事だ、午後の訓練を始める(と、言うもののどうしたものか。実力の近いアレナリアならまだしも、アタシやカズと模擬戦をしても……)」
結局アイリス達が来た事で、午後の訓練が開始されるまで、予定より三十分繰り下がり、レオラが言うように騎士達の士気は、午前の訓練前より明らかに下がっていた。
「実際にモンスターと戦わせて経験を積ませたいが」
「フジは駄目ですよ」
「わかっている……! おいカズ、モンスターを出せ」
「はい!? モンスターって、そんなの……(レオラの前では、モンスター系のトレカは使ってなかったはずたが)」
「言葉足らずだった。ダンジョンでモンスターの一部を持ってきたと言ってなかったか?」
「……ああ! 溶岩喰いのケラの前脚なら持ってきました。ダンジョンに出たモンスターの証拠と、ギルドに買い取ってもらおうと思って」
「二本あるだろ? 一本でいいからそれを出してくれ。騎士達に打ち込みさせる」
「はあ。いいですけど、少々臭いますよ(それで俺が模擬戦をしなくてすむなら)」
「構わん。姉上達はもっと離れていた方がいいだろ」
「少しなんでしょ。フジくんは臭くないから、きっと大丈夫よ」
モンスターだがフジとは一緒にしてほしくないと、カズは内心で考えていた。
と、同時に異臭を放つモンスターも居ると分かってほしいと考え、遠慮せずに出す事にした。
カズは灼熱と極寒のダンジョンで溶岩喰いのケラを倒して回収した、モグラのような前脚を【アイテムボックス】から一本出す。
騎士達は鼻元を手で覆い、アイリスと侍女はその臭さからさっきの言葉がどこ吹く風、そそくさと風上に移動して遠ざかる。
「確かに少し臭いな」
「倒して間もなく回収したので。風がありますから、出しておけばこの臭いにおいも薄まるでしょう」
「そうか。だがこれも、モンスターと戦闘になった際の訓練になるだろ」
カズが出した2メートル以上ある溶岩喰いのケラの前脚の一本に、今回最初から合同訓練に参加しなかった、アイリスと共に来た三人の騎士に、全力で斬り付けろとレオラが指示をする。
最終日の午後から合同訓練に少しだけ参加すると聞かされていた三人の騎士は、レオラの指示を受けて、腰に携える剣を鞘から抜き、全力で剣を振り下ろす。
溶岩喰いのケラの前脚に剣が接触すると『ガキィン!』の音と共に、三人の剣が弾かれる。
剣が欠ける事はなかったが、少しだけ刃が凹んでしまった。
騎士三人は予想外の硬さに、剣を手放して顔を歪め、手を振るい痺れを取ろうとする。
「三人ではかすり傷すら付かないか。各々一撃ずつ入れてみろ。午前の訓練で剣がダメになった者は、持ってきている予備の剣を使え」
模擬戦で訓練用の剣が破損してもいいように、アイリス組の騎士達は各自予備の剣を一本ずつ持ってきていた。
カズとの模擬戦だけではなく、前日アレナリアとの模擬戦でも、五本の剣が変形して使い物にならなくなっていた。
だが流石に、グラジオラスのように剣を切断された者はいなかった。
レオラ組は訓練用の剣は一本しか持って来てないため、グラジオラスはいつも携えてる自身の剣を使う。
一通り全員が溶岩喰いのケラの前脚に一撃を入れたのを確認し、最後にレオラが拳で一撃入れる。
「これは確かに硬いか(しかし訓練用の剣とはいえ、ケラの脚に傷を付けたのが、ガザニアとグラジオラスとカミーリアだけとは……)」
レオラの拳で傷は付きはしなかったが、表皮が拳の形にベコリと凹んだ。
皇女とは思えない素手で威力を目にした半数の騎士が驚き、他半数の騎士が強く美しい姿に憧れた。
ガザニアは言うまでもなく、以前のようにレオラを孤高の表情で見つめた。
最終日午後の訓練は、カズが灼熱と極寒のダンジョンから回収してきた溶岩喰いのケラの前脚に、騎士全員がダメージになる傷を付けるのが最低限の目標とレオラが言い渡し、レオラは前脚を地面に突き刺して立てた。
強化スキルと魔法を使うのは可能だが、魔力操作が乏しい騎士達に、魔力の使い方を教える役目をアレナリアに与えた。
始めは各々得意な強化スキルや魔法などを使い、溶岩喰いの前脚に訓練用の剣で何度も斬り付ける。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
492
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる