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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

551 レオラとアイリスに仕える騎士の合同訓練 3 恋しい地上 と 実力差

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 三班はそれぞれ距離を取り、午前の訓練を始める。
 先ずはレオラの指示で一班を代表して、フジを見慣れているカミーリア一人を乗せて飛ばす。
 一班の訓練も三度行い、一度の飛行は五分程で。
 乗っている者に気を掛けて、ゆっくりと低空(80メートル位)で飛ぶようにと、フジには念話で指示を出した。
 急に決まった事なので、フジに手綱などは付いておらず、乗ったら落ちないように羽を持つしかない。
 力を入れて引っ張ったところで、フジの羽はそう簡単には抜けないので、乗ったカミーリアや騎士達が強く掴んだところで、こそばゆいだけで痛くはない。

 フジが戻るとカミーリアと交代して、アイリスに仕える騎士二人を乗せてフジは飛び、戻ると続けて残り二人が乗り飛ぶ。
 一度目の訓練が終了すると、五人は地べたに座り込み、小刻みに震えていた。
 飛翔魔法フライを覚えたいと言っていたので高所恐怖症ではないたろうが、初めての空がフジに乗ってでは、流石に怖かったのだろう。

「一班が終わったら次は三班の所だ」

「レオラ様がああ言ってるから、とりあえず次まで休んでて(もう少し低い高度にした方がよかったのかな?)」

 一班が座り込んでいる場所から、カズは三班が集まる所に移動する。
 すると何故かレオラも三班が集まる所に向かっていた。
 三人の騎士の相手をしていたのではと、歩くレオラの後方を見ると、その三人の騎士が倒れて気を失っていた
 どうやら一班の一度目の訓練の間に、二班の三人はレオラに叩きのめされたらしい。

「待っている間に模擬戦の相談をしたか? さっそく始めるぞ」

 カズが三班の集まる所の到着したと同時に、レオラが開始の合図をする。
 最初に突っ込んで来たのは、アイリスに仕える騎士四人、アイリス組。
 金属製の装備をしたまま無手での訓練はしないのか、三日目で疲れているのか、その両方なのかは不明だが、動きが良いとは言えなかった。
 連携が取れてないのもすぐに分かった。
 レオラに仕えるアスター、グラジオラス、ガザニアの三人、レオラ組は少し離れた後方から様子を伺っている。
 三分程経ったところでアスターが声を掛け、先に攻撃でもしていた四人と、後方の三人が入れ替わった。
 やはりレオラに仕える騎士だけのことはあり、呼吸が荒くなった前の四人とは動きが違い連携も取れている。
 避けるのだけは難しい状況になり、しっかり防御しなければ、何発が直撃をもらうところ。
 荒くなった呼吸を整えたところで、再度アイリス組四人とレオラ組三人が入れ替わる。
 レオラ組の動きを見て参考にしたようだが、やはり連携はうまく取れてない。
 一戦目、無手での模擬戦では、アイリス組は誰一人カズに触れる事すら出来なかった。

「今の模擬戦を踏まえて二戦目に生かせ。カズは一班だ。二度目の訓練にかかるぞ。今度はもっと高度もスピードも上げろ。三度目は振り落としても構わん」

 高所から落としても良いと言うレオラの言葉にカズは耳を疑い、一班の方に向かいながら聞き返す。

「さすがに落とすのはないだろ」

「落ちたらフジに拾わせればいい。ダメそうなら、カズが下で受け止めてやれ。それくらいしないと、魔力が切れて落ちる事だってあるだろ。そのフライってのは」

「ありますが……落ちるかどうかは、本人達の体力と気力しだいで、わざと落とさなくても」

「それで構わない」

 一班は騎士としての訓練になるのだろうか? と、少し疑問を持ちつつ、二度目の飛行訓練に入る。
 カミーリアはなんとか自分からフジに乗ったが、他の四人はレオラの眼光鋭い視線に受けて、渋々フジに乗った。
 乗る前は耐えてはいたが、戻って来た時には五人共半泣き状態になっていた。
 はたしてこれで三度目は大丈夫なのだろうかと、五人を見たカズが思ってところで「三班の所に行くぞ」と、レオラが声を掛ける。

「これ以上は……レオラ様に頼んで、カズ」

 レオラには聞こえぬように、カミーリアは弱音を吐く。
 他四人も同意見のようで、お願いと言わんばかりの視線をカズに向ける。

「言ってもいいが、たぶん無理だ。それどころか、三度目に言われてる以上にしろと言ってきかねないが、それでもいいか?」

 サーッと五人の顔から血の気が引いていき、それ以上はもう何も言わなかった。
 カズは早足でレオラを追い、三班の所に着くと同時に模擬戦が開始され、ガザニアが即座に木剣で斬り掛かる。

「ちょっ、まッ! おっと(始めるなら、せめて一呼吸おいてからに)」

 振り下ろされた木剣をギリギリで避け、ガザニアの後ろに回り込むと、アスターとグラジオラスの木剣が左右から同時に迫る。
 体勢を地面スレスレまで低くし、二人の木剣をかわすと、カズの上で二人の木剣がくうを切る。
 直ぐ様二人から距離を取り、他の騎士からの追撃に注意する。
 だがアイリス組が続いて来ることはなく、木剣を構えているだけだった。

「……あれ? (なんで来ないんだ? まぁいいや、ふぅ)」

 アイリス組からの追撃がない事で、カズはひと息ついて状況把握が出来た。

「やはりダメか(この一戦で、どう動くかを見るつもりだったが)」

 まだカズと自分達の実力差が分かってないアイリス組に、追い込むための発言をする。

「この一戦でカズの反撃を受けた回数で、この後の模擬戦内容を変更する」

 このレオラの言葉を聞いて、即反応したのはレオラ組の三人。
 ガザニアは兎も角として、アスターとグラジオラスは一足飛びにカズへと攻撃を繰り出す。

「おい、あなた達もカズ殿を全力で攻めて! でないと次の真剣を使った模擬戦が大変な事になる」

 アスターは事の重大さをアイリス組に教え、グラジオラスと連携してカズを攻め立てる。

「見ててわかったでしょ。そう簡単には攻撃を当てられない。当たっても木剣だから大丈夫」

 木剣の直撃を受けて何が大丈夫なのか? カズはグラジオラスに突っ込みたくなった。

「わかったら交代。ガザニア、合図を」

「次の事を考えて、連携を乱さないこと。あとはカズの反撃を受けるな。交替スイッチ!」

 ガザニアの合図でアスターとグラジオラスが下がり、アイリス組の騎士五人がカズを取り囲み、各々の木剣が接触しないように、順に攻撃を繰り出す。
 騎士の訓練基準にしたがった戦い方では、惜しいと思わせる攻撃はない。
 振り下ろせば半歩動いてかわし、後ろに回り込み背中に打撃を与える。
 薙ぎ払えば木剣の切っ先が届かない所まで下がり、即座に接近して脇腹に一撃を当てて離脱。

 ならばと細剣レイピアを使う小柄の騎士がカズの動きを観察し、木剣で得意の高速の突き繰り出す。
 カズが回避する事を予測しており、即座に木剣を引戻し、二撃目の突きを繰り出す。
 捉えたと思った次の瞬間、木剣はカズの横を抜けて地面に突き刺さり、小柄な騎士本人の視界には雲一つない快晴の空が映った。

「え? なん……」

 騎士本人は何をされたのか分からない。
 だが実際地面に転ばされているのは確か。
 気になってはいるものの、レオラから視線を向けられているのを感じ、すぐ立ち上がって模擬戦を続けた。
 二戦目が終了してから見ていた他の騎士に聞き、自分がどうやって地面に転ばされてのかが分かった。
 特にスキルや魔法を使われたわけではなく、ただ単にカズの足払いで転ばされただけだった。

 二戦目の模擬戦は少し長く、二十分で終了。
 無手では駄目でも木剣ならば日々の修練で使い慣れているで、カズを攻め立てる事が出来るというアイリス組の考えは甘かった。
 カズの反撃を受けたのは、レオラ組の三人は共に二回、アイリス組は三回から多い者では五回。
 その殆どは体勢を崩したりするもので、打撃による反撃はほんの数回だけ、それも全て装備の上からによる軽打でダメージはない。
 唯一突きを連撃で繰り出した、小柄な騎士にカズは感じた事を伝える。

「今のままでは、一撃目が避けられるつもりの攻撃だと丸分かり。連撃するならどちらも同じか、一撃目を必殺と思わせなければ、二撃目なんて当たりはしない」

 自分が考えた連撃が駄目だと指摘され、小柄な騎士は実力不足と落ち込んだ。
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