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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

547 灼熱と極寒のダンジョン 3 ナマズとケラ

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 破裂して飛び散ったマグマの影響で、温度は更に上昇して暑くてたまらなく〈冷風の鎧コールド・エアーアーマー〉を二度重ね掛けした。
 少し楽になったところで、マグマの池から長い髭がある20メートル近い魚が姿を現した。
 それを【分析】して得た結果、レベル76の『マグマナマズ』と表示された。
 不思議と現れたマグマナマズに敵意はない。
 カズは警戒を解かずに、静かにこの場を離れようとしたところで、新たに向かって来るモンスターが【マップ】に表示されたのに気付く。
 場所はマグマの川を挟んで反対側。
 地響きが起きると次第に大きくなり、ドゴンッ! と、壁に大穴が空いて10メートルはある全身が銀光りしたモンスターが現れた。
 マグマナマズを警戒しつつ【分析】した。
 モンスターレベル66の『溶岩喰いのケラ』が崩した穴から、十四体の飢餓モグラが後から追って出て来た。

「『今度は眷属を連れて…か。しつこい奴め』」

 カズの耳に低い穏やかな声が届いた。

「モグラがケラあれの眷属?」

「『当方の言葉が分かるのか? 久しく訪れし人族よ』」

「……もしかして、ナマズか?」

「『いかにも。やはり言葉が通ずる者か』」

「ああ。少々事情があってな」

「『これは僥倖ぎょうこう。奴の始末に手を貸してもらえないだろうか?』」

 マグマの池に浮か大きなマグマナマズと言葉を交わし、溶岩喰いのケラと眷属の飢餓モグラを討伐してくれと急に頼んできた。
 異世界言語のスキルを所有しているカズだが、相手に全く言葉を交わす意志がなければ、会話が出来ないのはこれまでの経験で理解してい。
 そこにモンスターの言葉か耳に届いたという事は、少なくとも会話をする意志があるということ。
 初見のモンスターでここまでハッキリとした言語がカズの耳に届いたのは、白真やマイヒメ以来だった。
 他で言葉が分かったとしても、それは罵声や狂気の叫びで不快なものばかり。

「悪いが断る」

「『なぜだ?』」

「俺には関係ないだろ。それにここは暑いし、あんたに敵対してるとしても勝てるだろ(《領域適性》で数値が上昇してるのは、白真以来か)」

「『当方はマグマここから出れぬ。それに奴は人族を逃がす気はない』」

「敵意があるのはわかってるが、何でだよ」

「『人族が奴の眷属を殺しているからだろ。臭いが残っているんだ』」

「くさい体液には触ってはないんだが」

「『直接触れずともだ』」

「残りの二体が追って来なかったから、大丈夫だと思ったんだが。俺もだいぶ汗かいてるし、暑さで臭さがわからなくなってたか」

「『奴の眷属はにおいに敏感だ。特に同族のは』」

「モグラは襲って来たから倒しただけだ。俺に得があるわけでもないのに、わざわざこの暑い中で戦いたくはない」

「『奴らは獲物たる人族を逃がしはしないだろう』」

「焚き付けようたって、そうはいかないぞ。エスケープ使えばすぐ外に出れるんだ」

「『人族の固有魔術か? しかし奴らをこのまま放置すると、いつしか近くの集落に、マグマこれがあふれ出るやもしれんぞ』」

「近くの集落? 温泉街のことか?」

「『それはわからん。今現在も多くの微弱な魔力を感じる。様々な種族が集まっている場所だ』」

 マグマナマズの言っているのは、明らかに温泉街の事だとカズは理解した。

「はぁ……やっぱりここはハズレか(冒険者なんて、だいたいがこんなもだよな。まだレオラに聞いた場所もあるんだ。前向きにいこう)」

 サイネリアに負けず劣らずの百面相をしそうになっていたカズに向けて、溶岩喰いのケラが前脚を使い、飢餓モグラを叩き飛ばしてマグマの川を越えさせて来た。
 狙いは外れて壁に激突し臭い体液を撒き散らし、カズの匂いを嗅ぎ付けて豚のような鳴き声をあげながら近付いて来る。
 エスケープを使えばダンジョンから脱出出来るだろうが、溶岩喰いのケラと飢餓モグラをマグマナマズが何とかしなければ、後々面倒な依頼となって冒険者ギルド、もしくはレオラの仕事として自分が来なければならなくなる可能性は高い。
 必ずしもカズが対象しなければならない訳ではないが、温泉街に被害が出るであろうのを見過ごすのはどうかと葛藤する。

「『当方を喰って力を得ようとした奴を放置した結果、当方に傷を負わせるまでに力を付けた。奴らを葬ってくれるのであれば、人族が必要としているものを与えると約束しよう』」

 迫る飢餓モグラから距離を取りながら、思わぬマグマナマズの提案を確認する。

「! なんでもか?」

「『当方に出来る事なら。ただ、人族が奴らに喰われてしまったら約束は果たせんぞ』」

 負けて喰われれば、約束が守られないのは当然だ。
 ここでカズは考えた事をマグマナマズに聞いた。

「もし溶岩喰いのケラと飢餓モグラ奴らを倒す事が出来たとして、そのすぐ後に俺が死んだら、生き返らせてくれるのか?」

「無理な事を言う。蘇生させる事など当方には出来ない。他を考えよ。全ては終わったらだ」

「結果次第で報酬は後払か(やるしかないのか)」

「『無理にとは言わない。最終手段は奴らもろとも、ここに通ずる全てを沈めるだけだ』」

 マグマナマズが沈めるとは、灼熱と氷結のダンジョン内を、どうやるか分からないがマグマで満たすと。

「それで奴らを倒せるなら、最初からそうすればいいんじゃなかっなのか?」

「『それだと微弱な魔力が集まっている場所も、同じ事になるぞ』」

 マグマナマズが最終手段をすると、温泉街に湧き出る湯がマグマに変わると恐ろしい事を言う。
 予定では温泉旅行に来ていたアレナリア達は、既に帝都の川沿いの家に戻っている筈。
 だからと言って温泉の変わりにマグマが涌き出て、多くの死者や怪我人が出て、温泉街が無くなって良いとはいう訳ではない。

「見ず知らずの他人が、どれだけ死のうが俺には関係ない。とでも言えれば楽だろうな」

「『なまははッ。人族は当方と敵対しないと思っていた』」

「俺も敵と認識されてるなら、戦うしかないんだろ。わかったよ。それと一応教えておくが、俺はカズだ。あんたは?」

「『当方に固有名は無い。好きに呼べばよい』」

 飛ばされて来た飢餓モグラの突進を避けながら、マグマナマズの呼び名を考える。

「マグマナマズ……マグ…ナマズか……(ダメだ、全然思い浮かばん)」

 マグマナマズの呼び名を考え頭を抱える間も、新たに溶岩喰いのケラによって飛ばされてきた飢餓モグラがカズに攻撃を仕掛ける。

「えーい、うっとうしいッ!」

 増える飢餓モグラの攻撃に嫌気が差したカズは、実体化させた火燐刀かりんとうで、次々と斬り捨ていった。
 
「もうマーサンか、グナズで(マが三つと、それ以外のどちらかだ)」

「『それがカズが考えた名か?』」

「名か? じゃなくて、俺は標的にされてるんだ。なんで平然と話してなきゃならないんだ。しかも呼び名を考えろとか」

「『その割には、奴の眷属を余裕で倒してるではないか』」

「まだ一番の大もとがいるだろ」

「『なら呼び名の事は後にしよう。済んだら浮上してくる』」

 言うだけ言ったマグマナマズは、赤黄色い灼熱のマグマに潜っていった。
 眷属の飢餓モグラが全て殺され、目的のマグマナマズが隠れた事で、溶岩喰いのケラが移動しようと穴を掘りだす。
 このまま何処かに行かれては、後々不味い事になって問題が起きると、放置した末の事を考え「やッるたるがな!」とカズはマグマの川を飛び越えて、溶岩喰いのケラの短い尻尾を斬り落とす。
 溶岩喰いのケラの意識を自分に向かせ、穴掘りを阻止する。
 向かわせた眷属を全て倒され、マグマナマズにも隠れられて、仕方なく一旦出直そうとしたところを攻撃されては、流石に黙っているわけにはいかない溶岩喰いのケラは、カズを殺して喰らおうという視線と意識が垣間見れた。
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