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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

546 灼熱と極寒のダンジョン 2 灼熱の由縁

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 ライトで出していた光の玉を穴に降下させ、自身は〈フライ〉を使用してそれに続く。
 途中からくねりだした落とし穴を、体感で80メートル程降下したところで底に着いた。
 そこには装備品だと思われる革製の胸当てや靴の残骸に、衣服だったような布切れが散らばっていた。
 周囲には鉤爪のある足跡が無数に残っていた。
 落とし穴を落下した者を狙うモンスターが、骨も残さず喰ったのだと推測出来る。

 足跡は更に下へと向かう通路に続いており、未開拓の場所を探索するのであれば、モンスターが向かった方に行くしかない。
 カズは警戒を強め、モンスターの足跡をが続く方に進む。
 ゴツゴツした足場の悪い段差ある岩場に、錆び付き折れた剣と銅貨が数枚と、人のものと思える骨が岩の隙間に引っ掛かっていた。
 かがんで剣を回収する時に石が転がり落ちると、その音を聞き付けてモンスターが向かって来るのが分かった。

「ここで相手にするは足場が悪いな」

 少しでも動きやすい場所を探して、急いで先へと移動する。
 通って来た場所が分かるように見やすいよう【マップ】の範囲を100メートル程にした。
 少しすると何も表示されてない黒い部分に、四体のモンスター反応が現れた。
 出来るだけ広い場所を見付けるため、狭い通路は無視してどんどん下って行く。
 モンスター反応と接触するまで20メートル程のところで、四方が15メートル位ありそうな、洞窟内では多少広めの空間に出た。
 通って来た通路の他に、先へ進める四ヶ所の通路があり、そこからガリガリと石を削るような音が近付いて来た。

 接近する音は止まる事なく、カズの居る空間へと姿を現す。
 体長2メートル以上あり、全身を体毛に覆われた四足歩行モンスターの前足には長い鉤爪があり、目は無く鼻は大きく、鞭状太い触覚を何本も持つ。
 現れたモンスターを《分析》した結果、見た目が酷似した動物の名前が表示された。
 名前は『飢餓きがモグラ』レベルは36前後と、強さとしてはCランクのグラトニィ・ターマイトのルークやナイト程度だった。
 出現する場所が暗闇のダンジョン内ということで、ギルドはこのモンスターの危険度をBランク定めていた。

 鉤爪と足跡からして、落とし穴から落下した冒険者を喰ったのは飢餓モグラで間違いない。
 ライトで出した光の玉を出しているが、暗視スキルを持つカズにとって、飢餓モグラは脅威ではないが、油断は大敵。
 特に長い前足の鉤爪には気を付けなければならない。

 三体の飢餓モグラが鞭状の太い触覚を激しく動かし、ネバネバした臭いよだれを撒き散らしながら、カズを獲物と定めて迫る。
 高威力の魔法は洞窟が崩れる可能性があるので使用は控える。
 フラッシュで一時的に視界を失わせるのは効果的だが、目がない飢餓モグラには効果がない。
 試しに〈ライトニングショット〉を放つも、体毛と分厚い肉に阻まれて効果は薄い。
 一瞬痺れて動きが止まる程度で、倒せるまではない。
 ライトニングボルトでは貫通してしまうので、洞窟に影響が出るので使用は出来ない。 

「やはりこれだな」

 準備しておいた火燐刀かりんとうに魔力を込めて実体化させ、迫る一体の飢餓モグラを斬る。
 倒れ動かなくなった飢餓モグラの斬った部分が炭化し、周囲に焦げた臭いが広がる。
 死んだ飢餓モグラの臭いを嗅ぎ付け、他のモンスターが来たら面倒になると思ったが、残りの二体が死んだ飢餓モグラに方向を変え、我先にと噛み付き共食いを始める。
 鼻を覆いたくなる臭いと、その貪る姿に視線を反らしたくなる。
 怪我でもして血を少しでも流していたら、倒さない限りずっと追って来るだろう。
 このまま残りの二体を倒してしまってもいいが、それはそれで死体が残り腐臭がするので、共食いをして注意が反れている間に、この場を離れ奥へと移動する。
 もし追い掛けて来たら、その時は二体を倒せばいいだろう、と。

 飢餓モグラが追って来ないか注意しながら、カズは更に奥へと探索を進める。
 ここまで見た感じでは、死体をダンジョンが吸収したり、地形が変化する様子もない事から、ここはただ広大な洞窟の可能性が大きいと思えた。
 そういったダンジョンがない訳ではないが、危険と聞かされていたので、少し拍子抜けな感じがあった。

 地中へと潜るにつれて気温は上昇し、防寒着は必要なく【アイテムボックス】にしまい入れて薄着になる。
 落とし穴を通って来た事で、この日はかなり奥まで進めた。
 入った氷窟からだと、500メートル以上は潜っている。
 モンスターと遭遇したので、夜は仮眠を何度が取るだけにした。

 通常なら洞窟内では昼も夜も暗く、時間の感覚が分からなくなるのだが、カズは元の世界から持ってきたスマホを持っているので、それで時間は分かる。
 アイテムボックスから出すのは何時以来になるだろうか、その感触と画面の明るさが懐かしい。


 ◇◆◇◆◇


 移動しては仮眠を取りを繰り返し、飢餓モグラと遭遇した場所から300メートルは潜った。
 ゴツゴツとした洞窟の状況は変わらず、ただ気温と湿度だけが上がり、現在の気温は三十度以上はあると思う。
 何の成果もないまま、刻々と時間が過ぎる。

「ふぅ、蒸し暑くなってきた(アレナリアは騎士の合同訓練にちゃんと行ったかな? 明日は俺も行かないとならないから、潜れてもあと半日ってとこか)」

 予定通りなら温泉街に行った四人は帝都に戻り、アレナリアはレオラとアイリスに仕える女性騎士の合同訓練に参加している頃。
 翌日自分が合流した際に、女性騎士達とアレナリアが気不味い雰囲気になっていなければと少々不安を持ちつつ、アレナリアを信じてダンジョン探索を続ける。

 時間短縮の為に落とし穴の時の要領で、縦方向の移動する。
 下に抜けらるそうな場所を見付けたら〈フライ〉を使い降下してを繰り返し、洞窟内の温度と湿度が上昇して、サウナ状態になってきた。
 高温の耐性を獲得したが、蒸し暑く息苦しくなるのは危険だと判断し、エアーアーマーに風と水を合わせた氷属性の魔力を加え、冷風の鎧コールド・エアーアーマーと名付けて使用し、更に下へ奥へと進む。
 ゴポゴポと不思議な音が反響してくるのが聞こえると、赤黄色い明かりが暗闇だった洞窟を照らしていた。
 その場所に近付くにつれ更に洞窟内の温度が上がり、コールド・エアーアーマーを使っていても暑くてたまらない。
 それもそのはず、やたら広い空間にはマグマの川が流れ、更に地底湖ならぬマグマの池があった。

「こりゃダメだ。あっちいし時間もないから、もう戻ろう」

 灼熱と言われる由縁を確認したところで、無駄足になったと思いながら戻ろうと【マップ】に目を移すと、モンスターの反応が表示された。
 一瞬それは間違いではないかと疑った。
 モンスターの反応が現れた場所はマグマの池から。

「……よし、見なかった事にしよう」 

 危険だというダンジョンに数日潜って、これといった収穫もなく、マグマの中で生息するモンスターなんかと戦う必要はない。
 外はもう日が沈み、帝都の家に居れば、夕食を食べ終えて風呂に入り、ベッドで横になっている時間。
 きびすを返してマグマの川に背を向けると、大きく膨れ上がったマグマが破裂し、通って来た穴に降り注いだ。
 カズは飛び散るマグマから回避するも、穴は溶岩で塞がり戻る事が出来なくなった。
 上に戻る通路を探そうにも、マグマから姿を現そうとしているモンスターを警戒する必要がある。
 カズは思わず「とんだ厄日だ」と、つい口を衝いて言葉が出た。
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