上 下
561 / 771
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

543 遊覧飛行

しおりを挟む
 三十分程して騎士を二人増やし、手押し車に大きな買い物カゴのような物を乗せて運んで来た。
 新たに来た騎士の二人も、フジの姿を間近で目にして血の気が引いているのが分かった。

「そんな物を準備してたのか、姉上」

「どうせ使ってませんし、わたくしの望みが叶うかも知れませんもの」

「なんですか、その…カゴ?」

「あれは気球に使っていたバスケットだ」

「気球があるんですか!?」

「カズは気球を知っているの?」

「知っているのと同じものかはわかりません(やらかしたな! 気球が異世界から来た人が作り出していたら、俺が知っているのは不自然ではないか?)」

「地方に行けば長いロープで風に流されないよう固定し、地形の確認をしたり、貴族の娯楽で使ってる所もある。帝都では飛ばせる場所がなくて、使われる事はほぼない」

「わたくしも何度か乗った事はあるんですが、風の魔法にけた信用ある方が同乗しませんと、移動が風任せの気球では、どこに墜ら…着陸するかわかりませんから」

「墜落って言いましたか?」

「言ってません。そういう事態があったと、聞いたことがあるだけですよ」

 アイリスの表情から嘘は言ってないと思われるが、身近な誰かではないかと、カズは察した。
 侍女からはやはり危険だから病めるようにと言われ、太いロープをフジの脚とバスケットに縛り付ければ落下の心配はないとアイリスは粘る。
 どうしても乗りたいアイリスは、レオラが一緒に乗るのを条件に出し、侍女を説得した。
 バスケットの定員は三名ということで、アイリスとレオラと共に、フジのテイマーであるカズが乗ることになった。

 カズがバスケットとフジの脚に、落下防止用のロープを縛り付け、三人はバスケットに乗り込む。
 バスケット上部にはフジが脚で掴めるように、頑丈な横木がつけられている。
 カズが合図をすると、フジがバスケット上部の横木を掴み、ゆっくりと上昇していく。
 地上で見守る侍女とカミーリアを含む女性騎士達は、どんどん上昇するアイリスを見て気がきでなかった。

「『縛った脚痛くないか?』」

「『なんともない』」

「『重くないか?』」

「『全然くらい平気』」

「『こんな事になって悪いな、フジ』」

「『大丈夫。喜んでるの見ると楽しいか』」

 ただ会わせるだけだったのに、こんな事になるとは思わず、バスケットに乗り込んでから、カズは念話でフジに話続けていた。
 その間アイリスは目を煌めかせ、遥か遠くまで見える地上を眺めていた。

「ここからならお城も見えそう」

 帝都に来てから一度も皇帝の住む城を見てないが、何処にあるのだろうとカズは考えた。

「見える高さまで上がってはいるが、不可視化してあるから見えはしない」
 
「だから見たことがないのか」

 ぼそり呟くカズの言葉を聞き逃さなかったレオラがそれに反応した。

「帝都の上空が飛行禁止だと話したろ、それが答えだ」

「はい?」

「それはそにお城があるからですよ」

 カズはレオラとアイリスの言っている意味が解らず聞き返す。
 
「帝都の上空に、不可視化した城が浮いていると聞こえましたが?」

「そうですよ」

「それ言っていいのか? 姉上」

「問題ないと思うわ。今まで気付かずにいたんですし。それにレオラちゃんだって、言ったようなものでしょ」

「アタシは帝都の上空が飛行禁止と言っただけだ」

「もしかして、あの一瞬変に感じた場所に?」

「見たのか!?」

 またぼそりと呟いたカズの言葉にレオラは反応した。

「城があるならというなら見てません。上空から見た帝都の景色が歪んだように見えただけで」

「城の場所は一部の者しか知らない事実だ。いいなカズ」

「わかってます。他言無用ですね(知らなくてもよかったんだけどな。そんな面倒な事実を。この二人は何を教えてくれてんだか、まったく)」

 ひょんな事からカズは皇帝の住まう城の在り処を知ってしまう。
 池の上空を飛行するフジから「何時までこうして飛べばいいの?」と、念話で聞いてきたので、池を一周回ってから地上に降りてもらった。
 十数分の飛行後、侍女や女性騎士達にも乗るように勧めたが断固として拒否した。

 大人しいフジを気に入ったアイリスがもう一度とバスケットに乗り込み、やれやれと言いながらレオラも続き、今度はカズの代わりにカミーリアが乗り、そしてレラがフジの頭部に。

「これで最後ですよ」

「わかってます。お願いね、フジくん」

 アイリスの言葉に、頷いて答える。

「やはり言葉を理解してるか」

「ええ。ですから、進みたい方向を言ってください。出来れば、同じくらいの時間で
(これじゃあ、動物と触れ合えるテーマパークだよ)」

「いっくよ~ん!」

 レラがフジの頭に乗ったところで、再びバスケットを掴んで大空に舞い上がる。
 やはり侍女と女性騎士達の不安な表情を表し、時折カズに鋭い視線を向けていた。
 アスターとグラジオラスも最初は心配していたが、戻ってきたレオラを見て楽しんでると理解した。
 上昇したフジはアイリスとレオラの指示で、ぐんぐんスピードを上げて大きな円を書き飛翔する。
 魔導列車が出せるの最高スピードくらいになったところで、カズは念話をフジに繋げ、それ以上速く飛ばないように指示した。

 一度目よりも少し長い時間の飛行を終えて、フジが降下して皆が待機している場所に降りる。
 満足な表情を浮かべたアイリスと、何かを考えているレオラが降り、最後に疲弊したカミーリアがバスケットを降りた。
 三度目という前に、カズはフジの脚を縛っているロープを外し、これにてテイムモンスターの紹介と遊覧飛行は終わった。

「フジくんの住む場所がないと聞きました。でしたら、この辺りに作ってはどうです」

「それは駄目だ」

 急なアイリスの提案を、バッサリとレオラが却下した。

「いいじゃない。フジくんは大人しいし、言葉がわかるのよ」

「本来テイムモンスターは、主人のテイマーと一緒にいなければならない。特にAランク級のモンスターとなれば尚更だ」

「でしたら、カズさんはカ…」

「遠慮させてもらいます。アイリス様がよくても、皆さんの表情を見れば困っているのは明らかです。それに皇女様の住むお屋敷の側に、大きなモンスターを住ませるのはどうかと思います(カミーリアの部屋に住ませようとするだろうからな、この人は)」

 アイリスが話してるのを遮り、断りの返事をしたカズに対して、アイリスの侍女と女性騎士からの鋭い視線はなかった。
 よっぽどフジが近くで生息する事を、承知出来なかったのだろう。
 テイムされたモンスターとはえ、手に負えないものを近くに置くことなど、自殺に等しいと女性騎士達は考えていたに違いない。

「カズの言う通りだ。アタシならともかく、姉上ではフジが暴れた場合成すがままだろ。ここにいる中で対処出来るのは、主人のカズとアタシだけだ」

「仕方ないわね。フジくんのお相手を出来るくらいには、うちの騎士達を鍛えてくれるんでしょ」

「その為の合同訓練だ」

 モンスターランクがA級のフジを相手に戦えるように訓練するのだと思い、この場に居たアイリスの女性騎士達は青ざめていたが、モンスターの近くで暮らす事がなくなり、内心ホッとしていた。
 アスターとグラジオラスもキツい訓練になるのだと、顔を若干引き引き攣らせていた。
 カズはフジを仮の住み処に戻らせ、全員でアイリスの屋敷に戻ると、両女性騎士を集めて合同訓練の話になった。
 カズは巻き込まれないようレラを連れて、先に屋敷を出る事にした。
 帰り際に両皇女から手紙をレラが預かり、カズはそれを受け取る。
 すぐに開封して内容を確認する気になれず、とりあえず上着の内ポケットにしまった。
 帰り道半ばでアレナリアから念話が繋がり、ヒューケラの所に泊まる事になり午後戻ると連絡がきたので迎えに行くと伝えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移は分解で作成チート

キセル
ファンタジー
 黒金 陽太は高校の帰り道の途中で通り魔に刺され死んでしまう。だが、神様に手違いで死んだことを伝えられ、元の世界に帰れない代わりに異世界に転生することになった。  そこで、スキルを使って分解して作成(創造?)チートになってなんやかんやする物語。  ※処女作です。作者は初心者です。ガラスよりも、豆腐よりも、濡れたティッシュよりも、凄い弱いメンタルです。下手でも微笑ましく見ていてください。あと、いいねとかコメントとかください(′・ω・`)。  1~2週間に2~3回くらいの投稿ペースで上げていますが、一応、不定期更新としておきます。  よろしければお気に入り登録お願いします。  あ、小説用のTwitter垢作りました。  @W_Cherry_RAITOというやつです。よろしければフォローお願いします。  ………それと、表紙を書いてくれる人を募集しています。  ノベルバ、小説家になろうに続き、こちらにも投稿し始めました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ゴミスキル『空気清浄』で異世界浄化の旅~捨てられたけど、とてもおいしいです(意味深)~

夢・風魔
ファンタジー
高校二年生最後の日。由樹空(ゆうきそら)は同じクラスの男子生徒と共に異世界へと召喚された。 全員の適正職業とスキルが鑑定され、空は「空気師」という職業と「空気清浄」というスキルがあると判明。 花粉症だった空は歓喜。 しかし召喚主やクラスメイトから笑いものにされ、彼はひとり森の中へ置いてけぼりに。 (アレルギー成分から)生き残るため、スキルを唱え続ける空。 モンスターに襲われ樹の上に逃げた彼を、美しい二人のエルフが救う。 命を救って貰ったお礼にと、森に漂う瘴気を浄化することになった空。 スキルを使い続けるうちにレベルはカンストし、そして新たに「空気操作」のスキルを得る。 *作者は賢くありません。作者は賢くありません。だいじなことなのでもう一度。作者は賢くありません。バカです。 *小説家になろう・カクヨムでも公開しております。

処理中です...