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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

539 有力で謎で危険な候補地?

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 ガザニアの淹れたのは、レモンのような香りとサッパリとした口当たり、何か甘いものを摘まみたくなるハーブティーだった。
 レオラも同感だったのか、一緒に出されたクッキーを一枚口に放り込み味わっていた。

「少しいびつだが、なかなかいけるぞ。カズもどうだ?」

「いえ、俺は」

「ならカズの分は、あちしがもらうね」

 むしゃむしゃと食べるレラに負けず劣らす、クッキーを四枚、五枚と食べるレオラを見て、ガザニアは口元を緩ませる口角が上がる。
 今日のクッキーはビワに習い、ガザニアが作ったものだとカーディナリスがレオラに伝える。

「今度、姉上…アイリス皇女に頼まれたのもあり、両者に仕える騎士達の合同訓練する予定だ。ガザニアもそれに参加しろ」 

「で、では」

「アタシの騎士に戻ることを許可する」

「ありがとうございます」

 ガザニアは深々とお辞儀をして、再びレオラの騎士になれる喜びを噛み締める。

「合同訓練は早くとも二十日程先になる。それまではもうしばらく、カーディナリスに料理を習っておけ」

「レオラ様にご満足いただける食事を作れるようになります!」

「訓練をするのも許可する。二人と相談して時間を合わせるといい」

「はい!」

 飲み物と菓子を出し終えたカーディナリスは、ガザニアと共にレオラの執務室を出た。
 レオラの側近騎士として戻る許可がおりた事と、自分が作った菓子を美味しいと言ってもらい、二度歓喜する事になり、ガザニアにとっては素晴らしい日となった。

 ハーブティーの入ったカップを片手に、そろそろダンジョンの情報を教えてもらえないかという表情をカズは浮かべていた。

「サイネには灼熱と極寒のダンジョンを紹介されたんだったか?」

 カズの表情から察したレオラが、ダンジョンの話を切り出した。

「あとは素材採取に向かった、資源と潤沢のダンジョンです。こちらは俺の求めていたダンジョンじゃなかったんですがね」

 カズはダンジョンを聞いた時の事を思い出し、不満げに答えた。

「そういうな。サイネには感謝されたんだろ」

「まぁ、そうですが」

 レオラは椅子に深く座り直し、腕を組んで背もたれに寄り掛かり、目を閉じてカズの要望に合いそうな場所を考え、出した答えは四ヶ所。


 ・一ヶ所目は帝都から東に向かう魔導列車に乗り、六日の所にある『双塔の街』の『第五の迷宮フィフス・ラビリンス』。

 ・二ヶ所目は本の街キルケ・ライブラリーで発見されたが、入口が何処にあるか不明となった隠し部屋。

 ・三ヶ所目は大峡谷の底にあると噂される神殿遺跡。

 ・四ヶ所目が帝都下に埋め立てられた、旧帝都の街。


「あのう、ダンジョンは最初に言われた双塔の街だけでは?」

「ダンジョンかどうかは別で、カズの望みを叶えられる可能性があるのが、この四ヶ所だ」

 本の街の隠し部屋には、禁書類が保管されている可能性があり、大峡谷の底の神殿遺跡を見つければ、遺物アーティファクトがある可能性は高い。
 旧帝都に関しては謎で何故埋め立てて、その上に新たな帝都(現在の帝都)を造ったのか。

「本の街と大峡谷の遺跡はわかりましたが、旧帝都はやはり関係ないんじゃ?」

「地盤を上げるからだったかも知れない。だがもしそうなら、そう歴史書に書いてあってもいいものだろ。なのに書かれてはない。旧帝都について知るものも殆どいない。それにもしかしたら、本の街の隠し部屋に、それが書かれた資料が眠ってるかも知れん」

 この場で一緒に話を聞いていたアスターとグラジオラスも、旧帝都なんて初耳だという顔をしていた。

「レオラ様、その旧帝都があるというのは本当なんですか?」

 余程気になったのか、アスターが話に入ってきた。
 仕える騎士が許可を得ずに、主人と客人の話に割り込むなんて事をしたら、他の皇族や貴族なら叱責もの。
 だが客人がカズということもあり、レオラは咎める事はしない。
 噂話ていどに過ぎないが、これ以上話を聞くのなら、決して他言してはならないとアスターとグラジオラスにレオラは言い、退室するか残るか決めさせた。
 これからもレオラの騎士で居ると決意しており、その主人の話から逃げるようなことはしないと退室はせず部屋に残った。
 と言うよりも、旧帝都の話をする前に退室をするか尋ねるべきじゃなかったのか? と、カズは突っ込みたかった。
 帝国の闇に関係しそうなヤバい話を持ち出して来るんじゃないとも、突っ込みたくなった。
 そもそも皇女がそういったのを調べていいものなのか、と。

「以前ギルドの資料で見た話だが、数十年前に古い建物を撤去した時に、地盤から数百年前と思われる建物の一部が見つかったと記録してあった」

「それだけなら、あっても珍しくないんじゃ?」

「ただ一度書いて消され、その上にそれが書かれていたんだ。アタシはその筆圧が気になり、何とかわかるとこだけでも、と調べた」

「で、そこにはなんと?」

「『完全な姿の家屋』と思う文字が読み取れた。もしこれが本当なら……」

 しかしこれは文章の一部に過ぎず『完全な姿の家屋ではないが、その一部が見つかった』と、書かれていたのかも知れず、現状レオラの考えは憶測の域を出ない。

「まぁなんだ、旧帝都の話はアタシの興味本位だと思って、頭の片隅にでも置いてくれ。あとの三ヶ所に行くかはカズ次第だ」

「考えておきます(双塔の街のダンジョンと、大峡谷の底の神殿遺跡はありかも。本の街の隠し部屋は……う~ん)」

「とりあえずはサイネの言った、灼熱と極寒のダンジョンに休息がてら四人で行ってくればいい」

 何故四人でダンジョンに休息を取りに行くのか、レオラの言ってることが、今一つ理解出来なかった。

「サイネのから聞いてないのか?」

 レオラの説明によると、灼熱の極寒のダンジョンから20キロ程手前に、旅行先として人気の温泉街があると。
 湯治に行く者も多く、温泉街は一年を通して寒く雪が残り、子供連れの家族が泊まり掛けで遊びに行く定番の場所らしい。
 レオラも冒険者時代は、何度か行った事があるのだと。

「そんな所があるんですか。サイネリアからは、ダンジョンの情報しか聞いてないです(旅行先を聞いたわけじゃないし、仕方ないか)」

「カズがダンジョンに潜ってる間は、三人は温泉街でのんびりと待たせればいいだろ」

「そうですね。そうします」

「なら行く日が決まったらビワに伝えろ。休むことをばあ話さないと、今ではビワを当てにしてる事もあるみたいだ」

「わかりました(おお! アレナリアやレラと違って誇らしい)」

「でだ、資源のダンジョンで、バレルボアを狩ったんだろ」

「……わかりました。ただし半分だけですよ(やっぱりか!)」

 レオラから呼び出しの用事は終わり、カズも聞きたかった事も済んだのだが、結局バレルボアの肉を要求された。
 満足したレオラがビワを早く上がらせていいと言ったので、新たな物を要求される前に三人でレオラの屋敷を出た。
 野菜が残り少なくなってきたとビワが言うので、買い物をしてからアレナリアが一人で居る川沿いの家に戻った。

 流石にアレナリアは起きていた。
 二日酔いにはなってない様だったが、寝過ぎで頭がハッキリしないのか、裏庭に置いてあるベンチに座り、置き手紙を持ったまま川を、ぼけーっと見ていた。
 レラが話し掛けて様子を見るが、やはりぼけーっとして元気がない。
 目を覚まさせるように、ミントの入ったハーブティーをビワに淹れてもらい、カズが運んだ。
 
 アレナリアの隣に座り、ミント入りのハーブティーが入ったティーカップを渡して飲むように言う。
 受け取ったティーカップをゆっくりと口に運び、チビりチビりとハーブティーを飲む。
 中身が半分入ったティーカップをベンチに置き、アレナリアはカズに寄り掛かる。

「ちょっと飲み過ぎちゃった。ごめんなさい」

「反省してるならいい。書き置き読んだか?」

「うん」

「俺はあまり好まれてないから、アレナリア一人で会いに行ってやりな」

「あまり気は進まないけど、わかった」

 アレナリアはヒューケラに会いに行くことを了承した。
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