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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
536 アイリスと侍女に……
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敷地の外まで見送りに来たカミーリアと別れ、カズはアイリス皇女の屋敷を出た。
カミーリアは使用人用の風呂で全身を洗い、自室に戻り髪を乾かし、主人に呼ばれて執務室に移動した。
呼ばれた理由はもちろん二人で出掛けた内容について、アイリスが聞きたいからだ。
アイリスは表情を変えないように注意しながら、休暇の出来事を聞いた。
カミーリアが話始めてから三十分程で日没間近となり、夕焼けが屋敷裏の池に反射して実に美しい光景となっていた。
カミーリアの話はデパートから宝石店に戻り、選んで購入した宝飾品を受け取るところだった。
一緒に話を聞き待機していた侍女が、池に反射する夕焼けを遮るために、バルコニーに面した窓のカーテンを閉めに移動した。
ふと、夕焼けが反射する池の上を見て「えッ? 何あれ?」と、驚きの声を発した。
侍女の言葉を聞いたアイリスが、気になりカミーリアの話を一旦止めて、侍女の居るバルコニーに面した窓の方に移動した。
もちろん直接バルコニーに出たり、外から個人を特定出来るような位置には立たない。
侍女が閉めた遮光カーテンの隙間から目を細めて、夕焼けが反射する逆光の池を見る。
カミーリアもアイリスに続き、カーテンの隙間からまぶしい池を見た。
そこには何時もと変わりない光景がある。
侍女は何を見て声を発したのかと、アイリスが聞こうとした時、遠くの池の畔から一羽の鳥らしき影が飛び去って行くのが、僅かに確認出来た。
「あの鳥が、どう……え!?」
侍女に何で驚いたのか尋ねようとしたアイリスだが、そのおかしな光景に気付き、自ら発した言葉を中断した。
日が沈みかけた逆光の中に、かなり離れた池の畔から飛び立つ鳥の影が見えるものなのか? と。
同様の光景を目にしたカミーリアは、休暇を一緒に過ごしたカズの顔が頭を過り『鳥をテイムした』と話していたのを思い出した。
カミーリアはまさかと思った。
だが、アルラウネを倒すようなカズが、ただの鳥をテイムしているとは思えなかった。
二人共席に戻り、カミーリアが話を再開する。
そこでカズが冒険者ギルド本部に寄り、バードリングを受け取ったところで、先程見た鳥の影はもしかしたらと、カミーリアは疑問を抱いた考えをアイリスに話した。
「それはとても興味深いわね。次にカズさんと会ったら聞いてみて。もしカミーリアの考えが当たっていたのなら、わたくしが見てみたいと伝えて(あ、レオラちゃんなら知ってるかしら?)」
「畏まりました」
アイリスは大きな鳥がテイムされているなら是非見たいと、興味津々。
あわよくば、その背に乗って空を飛べるのではないか、と。
休暇の出来事も終盤になり、カズと模擬戦や訓練をした事を話して終了。
ドレスを買いに行った辺りで、アイリスの表情が崩れ掛けていたが、平静を保ち何事もなく終わり、夕食の時間となった。
カミーリアが自室で一日を振り返っていると、就寝前だというのに侍女がカミーリアを呼びに来た。
こんな時間に主人からの呼び出しなど初めて。
カミーリアは呼びに来た侍女と共に、急いでアイリスの寝室に移動した。
「ではもう一度、宝石店を出てからを話して。今度はカミーリアの感情も聞かせてもらえるかしら。カズさんをどう思ったの? そのまま戻って来ずに、しっぽりと何かをしたかった? それともされたかった!」
就寝前だというのに、アイリスは目を見開き爛々と輝かせ、側で待機する侍女も同じ目をしていた。
「あ、あの、アイリス様……」
「大丈夫。わたくし達の胸の内だけに留めておくからわ。だから、ね!」
ぐいぐいと迫るアイリスに、カミーリアは断ることが出来ず、アイリスと侍女の餌食となり、根掘り葉掘り事細かに聞き出されることに。
妄想込みで二時間みっちり楽しんだアイリスと侍女の肌は、艶が増して若返っているようだった。
対してカミーリアは二人の圧に押され、げっそりとして自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
男なのに女性騎士の格好をして護衛をし、心の底から笑う事なんてカミーリアは殆どなかった。
アイリスの屋敷で働く者達は理解があれど、外では流石に難しい。
カミーリアはずっと考えていた『もしも、体も女性になる方法があったのなら』と、しかしこれからは考えないようにしようと思った。
カズにはハッキリと、男女の関係にはなれない言われてしまったのだから。
この日からカミーリアがカズに対する好意が、恋心から良き友人に少しずつ変わっていく……のかも知れない。
《 三時間程前 》
カミーリアと別れた後、カズはフジに念話で連絡を取り、池の畔に来てもらいギルド本部で受け取ったバードリングをフジの脚に取り付けた。
テイムモンスター登録証明をしたバードリングを取り付けた事で、害を及ぼすような事をしなければ、帝国で討伐対象にされることはなくなった。
ただ、カズ達が暮らす川沿いの家にフジを住まわせるのは、現在の大きさでは無理なので、何処か使われてない人気の無い倉庫を探すか、サイネリアに相談して場所を探さなければならない。
それまでの間フジには、帝都最南部の町から少し離れたキビ村の辺りに居てもらうことにした。
キビ村の盆地畑をモンスターから守るという事で話をつければ、一応はAランクの冒険者なのだから、聞いてくれるだろうとカズは考えた。
明日キビ村に行き、交渉するつもりでいたので、フジには出来るだけ人目のつかない場所で過ごしてもらうように伝えた。
何かあれば、お互いにすぐに念話で連絡出来るからと。
聞き分けの良いフジはカズの言葉を聞き、夕焼けに染まる池の畔を飛び立っていった。
誰かにフジの姿を遠くから見られていたとしても、水を飲みに訪れだけだと思うだろう、と。
アイリスの屋敷からは逆光で自分の姿が見えないのだから、例えフジの飛び去る影を屋敷の見られたとしても、距離があるから大丈夫だろうと考え、カズは川沿いの家に空間転移魔法で戻った。
この楽観的な考えが後に、面倒な事になるとか、ならないとか。
シチューのいい匂いがして、キッチンからアレナリアとレラの話し声が聞こえ、カズはある事を思い出した。
アレナリアに今日の出来事を、報告するよう言われていた事を。
どうしうようかと考えつつ、カズは話し声のするキッチンに歩きだした。
この日の夕食は前日に作ったミルキーウッドの樹液と、シルバーホーン・サーモンを使ったクリームシチューの残りで作ったグラタン。
カズが家に戻った時には、アレナリアはレラと二人でグラタンを摘まみに、レオラが大量に置いていった酒精度数の高いリンゴ酒を、少量の水で割って飲んでいた。
注意して見ておかなければ、潰れて明日が大変だと、それを見たカズは早々に思った。
そんな二人をよそに、ビワはキッチンでまだ夕食のグラタンを作っていた。
レオラの屋敷でメイドとして働いた後のビワより先に食べて、更にはお酒まで飲んでいる二人を見たカズは、二人に注意した。
「ビワも一皿目は食べたわよ。今、作ってるのは、お代わりの分」
「そうなのか」
「そうだよ~ん。カズの分はあちし達のお代わりが出来た後ね」
「二人共よく食うな」
「だって、ミルキーウッドの樹液を使ってるのよ。お代わりもするわよ」
「ちなみにビワもお代わりして、自分の分も作ってるんだよ。アレナリアが一皿目って言ったしょ」
お代わりしたのが恥ずかしかったのか、ビワの尻尾が動きスカートふわりと少し持ち上がった。
「ちょ、レラったら。カズさんが樹液をたくさん持ち帰ってくれたので、シチューを作り過ぎちゃったんです。残すのはもったいないで」
「そだね(別に弁解しなくても)」
「さ、先にカズさんの分を出しますね」
「仕事終わりでビワは疲れてるだろ。手を洗ったら手伝うよ(お代わりを恥ずかしがることないのに。作ってるのビワなんだし)」
濃厚なクリームシチューの残りで作ったグラタンは評判がよく、ビワも二杯目をぺろりと平らげ、満足そうにしていた。
カミーリアは使用人用の風呂で全身を洗い、自室に戻り髪を乾かし、主人に呼ばれて執務室に移動した。
呼ばれた理由はもちろん二人で出掛けた内容について、アイリスが聞きたいからだ。
アイリスは表情を変えないように注意しながら、休暇の出来事を聞いた。
カミーリアが話始めてから三十分程で日没間近となり、夕焼けが屋敷裏の池に反射して実に美しい光景となっていた。
カミーリアの話はデパートから宝石店に戻り、選んで購入した宝飾品を受け取るところだった。
一緒に話を聞き待機していた侍女が、池に反射する夕焼けを遮るために、バルコニーに面した窓のカーテンを閉めに移動した。
ふと、夕焼けが反射する池の上を見て「えッ? 何あれ?」と、驚きの声を発した。
侍女の言葉を聞いたアイリスが、気になりカミーリアの話を一旦止めて、侍女の居るバルコニーに面した窓の方に移動した。
もちろん直接バルコニーに出たり、外から個人を特定出来るような位置には立たない。
侍女が閉めた遮光カーテンの隙間から目を細めて、夕焼けが反射する逆光の池を見る。
カミーリアもアイリスに続き、カーテンの隙間からまぶしい池を見た。
そこには何時もと変わりない光景がある。
侍女は何を見て声を発したのかと、アイリスが聞こうとした時、遠くの池の畔から一羽の鳥らしき影が飛び去って行くのが、僅かに確認出来た。
「あの鳥が、どう……え!?」
侍女に何で驚いたのか尋ねようとしたアイリスだが、そのおかしな光景に気付き、自ら発した言葉を中断した。
日が沈みかけた逆光の中に、かなり離れた池の畔から飛び立つ鳥の影が見えるものなのか? と。
同様の光景を目にしたカミーリアは、休暇を一緒に過ごしたカズの顔が頭を過り『鳥をテイムした』と話していたのを思い出した。
カミーリアはまさかと思った。
だが、アルラウネを倒すようなカズが、ただの鳥をテイムしているとは思えなかった。
二人共席に戻り、カミーリアが話を再開する。
そこでカズが冒険者ギルド本部に寄り、バードリングを受け取ったところで、先程見た鳥の影はもしかしたらと、カミーリアは疑問を抱いた考えをアイリスに話した。
「それはとても興味深いわね。次にカズさんと会ったら聞いてみて。もしカミーリアの考えが当たっていたのなら、わたくしが見てみたいと伝えて(あ、レオラちゃんなら知ってるかしら?)」
「畏まりました」
アイリスは大きな鳥がテイムされているなら是非見たいと、興味津々。
あわよくば、その背に乗って空を飛べるのではないか、と。
休暇の出来事も終盤になり、カズと模擬戦や訓練をした事を話して終了。
ドレスを買いに行った辺りで、アイリスの表情が崩れ掛けていたが、平静を保ち何事もなく終わり、夕食の時間となった。
カミーリアが自室で一日を振り返っていると、就寝前だというのに侍女がカミーリアを呼びに来た。
こんな時間に主人からの呼び出しなど初めて。
カミーリアは呼びに来た侍女と共に、急いでアイリスの寝室に移動した。
「ではもう一度、宝石店を出てからを話して。今度はカミーリアの感情も聞かせてもらえるかしら。カズさんをどう思ったの? そのまま戻って来ずに、しっぽりと何かをしたかった? それともされたかった!」
就寝前だというのに、アイリスは目を見開き爛々と輝かせ、側で待機する侍女も同じ目をしていた。
「あ、あの、アイリス様……」
「大丈夫。わたくし達の胸の内だけに留めておくからわ。だから、ね!」
ぐいぐいと迫るアイリスに、カミーリアは断ることが出来ず、アイリスと侍女の餌食となり、根掘り葉掘り事細かに聞き出されることに。
妄想込みで二時間みっちり楽しんだアイリスと侍女の肌は、艶が増して若返っているようだった。
対してカミーリアは二人の圧に押され、げっそりとして自室に戻り、ベッドに倒れ込んだ。
男なのに女性騎士の格好をして護衛をし、心の底から笑う事なんてカミーリアは殆どなかった。
アイリスの屋敷で働く者達は理解があれど、外では流石に難しい。
カミーリアはずっと考えていた『もしも、体も女性になる方法があったのなら』と、しかしこれからは考えないようにしようと思った。
カズにはハッキリと、男女の関係にはなれない言われてしまったのだから。
この日からカミーリアがカズに対する好意が、恋心から良き友人に少しずつ変わっていく……のかも知れない。
《 三時間程前 》
カミーリアと別れた後、カズはフジに念話で連絡を取り、池の畔に来てもらいギルド本部で受け取ったバードリングをフジの脚に取り付けた。
テイムモンスター登録証明をしたバードリングを取り付けた事で、害を及ぼすような事をしなければ、帝国で討伐対象にされることはなくなった。
ただ、カズ達が暮らす川沿いの家にフジを住まわせるのは、現在の大きさでは無理なので、何処か使われてない人気の無い倉庫を探すか、サイネリアに相談して場所を探さなければならない。
それまでの間フジには、帝都最南部の町から少し離れたキビ村の辺りに居てもらうことにした。
キビ村の盆地畑をモンスターから守るという事で話をつければ、一応はAランクの冒険者なのだから、聞いてくれるだろうとカズは考えた。
明日キビ村に行き、交渉するつもりでいたので、フジには出来るだけ人目のつかない場所で過ごしてもらうように伝えた。
何かあれば、お互いにすぐに念話で連絡出来るからと。
聞き分けの良いフジはカズの言葉を聞き、夕焼けに染まる池の畔を飛び立っていった。
誰かにフジの姿を遠くから見られていたとしても、水を飲みに訪れだけだと思うだろう、と。
アイリスの屋敷からは逆光で自分の姿が見えないのだから、例えフジの飛び去る影を屋敷の見られたとしても、距離があるから大丈夫だろうと考え、カズは川沿いの家に空間転移魔法で戻った。
この楽観的な考えが後に、面倒な事になるとか、ならないとか。
シチューのいい匂いがして、キッチンからアレナリアとレラの話し声が聞こえ、カズはある事を思い出した。
アレナリアに今日の出来事を、報告するよう言われていた事を。
どうしうようかと考えつつ、カズは話し声のするキッチンに歩きだした。
この日の夕食は前日に作ったミルキーウッドの樹液と、シルバーホーン・サーモンを使ったクリームシチューの残りで作ったグラタン。
カズが家に戻った時には、アレナリアはレラと二人でグラタンを摘まみに、レオラが大量に置いていった酒精度数の高いリンゴ酒を、少量の水で割って飲んでいた。
注意して見ておかなければ、潰れて明日が大変だと、それを見たカズは早々に思った。
そんな二人をよそに、ビワはキッチンでまだ夕食のグラタンを作っていた。
レオラの屋敷でメイドとして働いた後のビワより先に食べて、更にはお酒まで飲んでいる二人を見たカズは、二人に注意した。
「ビワも一皿目は食べたわよ。今、作ってるのは、お代わりの分」
「そうなのか」
「そうだよ~ん。カズの分はあちし達のお代わりが出来た後ね」
「二人共よく食うな」
「だって、ミルキーウッドの樹液を使ってるのよ。お代わりもするわよ」
「ちなみにビワもお代わりして、自分の分も作ってるんだよ。アレナリアが一皿目って言ったしょ」
お代わりしたのが恥ずかしかったのか、ビワの尻尾が動きスカートふわりと少し持ち上がった。
「ちょ、レラったら。カズさんが樹液をたくさん持ち帰ってくれたので、シチューを作り過ぎちゃったんです。残すのはもったいないで」
「そだね(別に弁解しなくても)」
「さ、先にカズさんの分を出しますね」
「仕事終わりでビワは疲れてるだろ。手を洗ったら手伝うよ(お代わりを恥ずかしがることないのに。作ってるのビワなんだし)」
濃厚なクリームシチューの残りで作ったグラタンは評判がよく、ビワも二杯目をぺろりと平らげ、満足そうにしていた。
応援ありがとうございます!
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