人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

535 ちぐはぐ騎士の初デート 4 冒険者の戦い方

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 カミーリアは軽装備に着替え、何時ものように髪を後で一つに結び、両手に持った木剣の内一本をカズに渡してきた。
 木剣を受け取ったカズは、とりあえずカミーリアに打ち込んでもらう。
 やはり純粋な剣術だけなら、長い間修練してきたカミーリアの方が上だとカズは感じた。
 カズの剣術等の大半はスキルによるものなので、大会のような規定がある場所で剣を交えたら勝つのは難しいだろう。
 なので反撃はせず、受けに徹してカミーリアの動きを観察した。

「どうして受けてばかりなの?」

「カミーリアがどう動くか見てるんだ。遠慮はいらない、本気で打ち込んできていいんだぞ」

「しかし木剣とはいえ、当たればあざに」

「例え当たったとしても、その程度すぐに治せる。それにカミーリアが手加減したら助言出来ないだろ。本気で来い」

「本当にいいの?」

「アルラウネに両手足を拘束されて、なぶられた(あのまま動けなかったらの話だけど)を忘れたか?」

「な、なぶ、なぶられてなどない!」

 アルラウネの操る植物に巻き付かれだけの筈なのだが、カミーリアは何を思い浮かべたのか、顔を赤くして雑に木剣を振り回した。

「平常心でないと、そうなってたって例えだよ」

「ま、紛らわしい言い方をするなッ!」

 カズの『本気で来い』の言葉を聞いても遠慮していたカミーリアだったが、例えを聞いた後の打ち込みに遠慮はなかった。
 カミーリアの息が上がってきたのに気付いたカズは、数回の打ち込みを受けてから終了の合図を出した。
 剣術はほぼ素人みないなものなので、その辺りの細かな助言はレオラに任せて、それ以外の助言をする。
 と言っても、それが正しいかなんてのは分からない。
 モンスターとの戦闘経験がある、それなりの冒険者なら誰でも助言出来る程度じゃないか、と。
 それでもモンスターとの戦闘経験が殆ど無いカミーリアには、助言して役に立つだろうと、カズは考えた。

 カミーリアに使えるスキルと魔法を聞くと、筋力強化や斬撃強化のスキルと身体強化の魔法程度だけだった。
 剣での戦闘で役に立つのを覚えたのだと。
 しかし使用するのに多少の時間が掛かるために、ほぼ使用することはなかったらしい。
 アルラウネとの戦いの時に使わなかったのは、焦りや緊張で、自分が使える強化スキルと魔法を忘れていたらしい。
 我流の戦い方をするカズの助言はたかがしてれおり、騎士としての訓練を受けてきたカミーリアが、すんなり受け入れるとは思えなかった。

「時には剣を捨てて戦うとか」

「剣を捨てて?」

 カズの助言を聞くも、カミーリアは何を言っているんだという表情し、説明するも今一つ要領が掴めないという顔をしていた。

「正々堂々と一対一が、騎士としての考え方。で、あってるか?」

「基本はそれでいいと思う。相手が組織の場合は、隠れての不意討ちや、多勢に無勢は当たり前だと教えられてはいる」

「モンスターの場合はそれに加え、スキルや魔法を使っての攻撃だけじゃなく、地形そのものを変化させたりする。戦ったアルラウネがいい例だ」

「要するに剣だけに頼るな、そう言いたいと?」

「簡単に言えばそう。見えるもの全てを疑って対処しなければ、ほんのわずかなかすり傷を受けただけで死ぬ事だってある(言ってる俺が、油断してヘルバイパーの毒を食らってるからな)」

「カズと違い攻撃のスキルや魔法を使えない私では、なかなか難しい」

「やはり騎士しての戦い方を知ってるレオラ様の方が、役に立つ助言を言ってくれるだろうな。役に立てなくてすまない」

「こうして剣の相手をしてくれるだけで、私は十分だ。出来れば実戦形式で、カズからも攻撃してきてくれないか。もちろんスキルや魔法を使ってくれてかまわない」

「わかった。何をいつ使うかは教えない。自分で対処してみるんだ」

 スキルと魔法ありの模擬戦を何度かして、カミーリアに冒険者として(カズの思う)の戦い方を見せる。

 模擬戦でカズが使用したスキルは、カミーリアも使える筋力強化。
 魔法は土属性のアースウォールとアースバインドに、風属性のエアーボムと光属性のフラッシュ。
 もちろんどれも威力は最小限にして、カミーリアに身を持って味わわせた。

 アースウォールでカミーリアの攻撃を防ぎ、現れた目の前の壁に意識が向いている隙に、アースバインドで足を捉えて動きを制限した。
 この時は木剣で足を捉えていた土を切り払い、慌てずに対処した。
 これはアルラウネとの戦いで得た経験から、焦らずに対処出来たからだろう。

 カズがわざと隙を見せた時に、一気に間合いを詰めてきたカミーリアに対して、カウンターでエアーボムを放つ。
 防御体勢が間に合わず、カミーリアは数メール後方に吹っ飛んだ。
 受け身は取っていたので、怪我をすることはなかった。

 木剣で鍔迫つばぜり合うと、筋力筋力で一気に押し込み、体勢を崩したカミーリアにフラッシュで視界を奪い、後方に回り込んで首元に木剣を当てた。
 攻撃魔法ではないが、簡単な光属性の魔法で最も効果的で、尚且つ魔力も殆ど使わなく、上手く使えば形勢が逆転するフラッシュの魔法だとカミーリアに教えた。

 騎士同士の戦いでは卑怯だと、言われること間違いないだろう。
 しかし外道な戦い方だと言われようが、それがモンスター討伐を請け負い命懸けの仕事をする、冒険者だと教えことが出来る。
 ズルいだ卑怯だと言われるのが嫌だからと、モンスター相手に正面から正々堂々と戦って死んでは、それこそ笑い者になる、と。

 訓練を始めてから二時間近く経っていたので、この日使ったスキルと魔法の説明をしたところで終わることにした。

「イヤリングを外してよかった。ここまで地べたに転がされるとは思ってなかった」

「実戦向けの模擬戦をしてくれと言ったのはカミーリアだろ」

「もう少し優しくしてくれても……」

 カミーリアはポロリと心の声が漏れる。
 この場にはカズと自分しかいないので、小声だとしても聞こえてしまう。

「親しくなった友人を、少しの油断で死なれたくはないからな」

 好意を抱く相手に親しいと言われたのは嬉しかったが、やはり友人止まりなんだと、カミーリアはがっかりした。

「話を戻す。目眩ましフラッシュの魔法に限らず、魔力をあまり使わない初歩的な魔法でも、使い方次第で後ろを取られるとわかったと思う。これは魔法を使えない者でも、装備しているアイテムに付与されていれば、魔法名を唱えることもなく、魔力を込めれば使ってくるから更に用心が必要になる」

「それは心得ている」

「ただこれはそういったアイテムも装備をしている者の場合だ。それがモンスターだとどうだ?」

「モンスターも魔法を使う時には、魔法名を唱える必要がある。でないと、魔法は発動しないはず」

「モンスターが魔法名を唱えたとして、カミーリアにそれがわかるのか? モンスターの言葉が」

「あ……確かにモンスターが吠えたとしても、私達にはただ威嚇しているようにしか思えない」

「それが魔法名を唱えていたとしても、初見ではわからずに直撃を受ける可能性が高い」

「……思考から抜けていた」

「魔法に魔法名の発言や詠唱が必要だとは思わないことだ。例えスキルや魔法が苦手でも、相手の魔力の流れを感じ取ることが出来れば、次に何をしようとしてるかが、何となくでもわかるようになる」

「魔力を感じる訓練……」

 カミーリアは自分の中にある魔力を感じようとする。

「今すぐでなくとも、いずれ出来るようになれば、あの時のアルラウネくらいなら、森の中でも一人で倒せるようになるさ」

 自分が次に進む方向性が決まったと、カミーリアはカズに感謝した。
 一朝一夕で出来るものではないにしろ、先を見据えればどんな強者の相手にしても有効的な手段になる。
 カミーリアはより一層アイリス皇女の騎士として訓練に励むと決意した。

「そろそろ俺は戻るよ。一応クリーンをかけておくけど、風呂に入ってさっぱりした方がいいだろ」

 カズがクリーンを使う前のカミーリアは、模擬戦で汗をかき何度も地面に転がった事で、全身は結構汚れていた。

「そうします。こんなに楽しい、充実した休暇は初めてでした。カズ殿、今日はありがとうございました」

「堅苦しいから公式な場意外での、敬語は止めよう。もちろん殿も付けなくていい。俺はこれからも、カミーリアと呼ばせてもらうが、いいか?」

「ええ。ありがとう、カズ」

 カズの言葉にカミーリアは喜び、満面の笑みを浮かべた。
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