550 / 714
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
532 ちぐはぐ騎士の初デート 1 宝石店
しおりを挟む
冒険者ギルド本部の近くに、有料で馬車を預かってくれる店があり、そこに大型三輪バイクを預けて歩いて目的の通りへと向かう。
この場合、腕を組んだ方が良いのだろうかと考えるがカズだが、今一つ踏ん切りつかず組ませる腕を出せずに、ただ横に並んで一緒に歩いている。
流石に沈黙は気不味くなると、何か話題を見付けて話さなければと考えるが、何も浮かばない。
一時間前にアイリスの屋敷で会った時には、自然と話していたのに、今はお互いに黙ったまま、ただ歩いているだけ。
結局一言も喋らずに、高級商店が建ち並ぶ通りに差し掛かった。
「このような格好で大丈夫でしょうか?」
高級商店に出入りしている客は、誰もが分かるような高価な服を着ていた。
それも当然、カミーリアの視線の先に居るのは、貴族と思わしき人達ばかり。
「大丈夫じゃないか。護衛の冒険者らしい人達も居るし(……あれ来たのはいいけど、これからどうすればいいんだ?)」
食料の買い出しに行くのとは訳が違い、ウインドーショッピングなんてした事のない二人は、高級商店か建ち並ぶ通りに足を進められずにいた。
二人共に場違いだと感じていたが、相手のことを思い言葉には出さなかった。
「せっかく来たんだし、見て回ろうか(歩いていれば、きっと何かある……はず)」
「そうですね」
多く建ち並ぶ高級商店に入ろうとはせずに、ただただ外から中を眺めるだけで、二十分とせず高級商店が建ち並ぶ通りを過ぎてしまった。
「入ってみたい店あった? 遠慮しないで(このままだと絶対にアレナリアから説教をくらう。カミーリアがもしアイリス様の話したら……何とかせねば)」
「騎士の私になど不用だとわかってるのだけど、宝石店が気になりました」
「何軒かあったけど、どんな宝石が見たかった?」
「私でも手が出そうな真珠が見てみたいです」
「なら行こう」
「大丈夫でしょうか?」
「一見さんお断りの可能性もあるか」
「いちげんさん? 誰ですか」
「人じゃなく……まあ、とりあえず行ってみよう」
今、歩いてきた通りを戻り、カミーリアが気になった宝石店に入った。
店に居る他の客は、富裕層といった感じの老夫婦が一組だけ。
二人が店に入り中を見回していると、一人の中年男性店員が近付いて来た。
軽く会釈をして「いらっしゃいませ。当店は初めてでしょうか?」と、見た目から差別するような発言はせずに話し掛けてきた。
コクりと頷き「初めてです」と、カズは答えた。
「数ある宝石からわたくしどもの店を選んでいただき、ありがとうございます。何かお探しでしょうか?」
「真珠はありますか?」
カズの問に男性店員は「もちろん御座います」と、真珠が展示してあるガラスのショーケースの所に案内した。
ショーケース内には指輪にイヤリング、ネックレスが並んでおり、真珠の大きさなどで値段もピンからキリまで様々。
一般的な白真珠の他に、黒真珠や中には赤や黄色にピンクの真珠なんてのもあった。
ショーケースに並ぶ真珠を見るカミーリアの表情は、隣で宝石を手に取り見ている老夫婦の淑女と同じ顔をしていた。
カミーリアの表情を見た男性店員が、購買意欲を高めようと、真珠の説明を始めた。
真珠の色は作られる貝によって違い、白は純真、赤は情熱、黒は紳士など色にも意味があり、相手に送ならそれを踏まえて購入した方が良いと、尤もらしい説明をしてきた。
色の意味があっているのか分からないので、聞き流す程度にした。
カミーリアに買ってあげるにしても、相場を知らないので、高いのか安いのか不明だった。
男性店員はもうひと押しとばかりに「試しに着けてみません」と、勧めてきた。
遠慮していたカミーリアに「いいんじゃないか」と、カズが後押しをした。
カミーリア自身が気に入らなければ、買ったところで記念にもならないだろうと。
少し考え、カミーリアが選んだのは小さい白真珠のイヤリングと、薄いピンク色をした一つ玉の短いチェーンのチョーカー。
その二つの特徴から、常に身に付けていても騎士としての役目を果たせるよう、支障にならない大きさや長さの物を選んだのだと、カズは思った。
イヤリングは兎も角、チョーカーは金属製の鎧を装備した時に引っ掛けてしまうと、鏡を見たカミーリアは気付き外してしまった。
男性店員は気に入らなかったのだと思い、同じ様な色の真珠で作られたネックレスを薦めてきた。
「ここにあるのはどれも同色で作ってあるけど、二種類の真珠を使ってるはないの?」
「ありはしますが、他に比べて少々お値段の方が高くなってしまいます。払えますか?」
カズの見た目から、あまりお金を持ってなさそうだと男性店員は判断して、並んでいる物の中で払えるような値段の物を選んで勧めてきたんだと分かった。
カミーリアの選んだ二つも、ショーケースに並んでいる物の中では、値段の低い物だったので、支払えるのかと疑問を抱き、見下すように聞いてきた。
「大丈夫だ。それより白と淡いピンクの真珠を使ったネックレスを見せてくれないか」
カズは男性店員の疑問を一言で返し、自分の要望を伝えると、男性店員は少し顔を曇らせた。
「支配人が真珠に詳しいので、今お呼びします」
支配人に有る事無い事を報告して、追っ払ってもらおうとでも考えたのか、カミーリアが外したイヤリングをショーケースに戻すと、老夫婦の相手をしていた店員にぼそぼそと何かを言うと「ちッ」と小さく舌打ちをして店の奥に入っていった。
すると隣に居た老夫婦が小声で、カズ達の相手をしていた男性店員は、即決出来ない客を嫌う所がある、と教えてきた。
老夫婦が来店しても即決しないの知っているので、他の店員をわざわざ店の奥まで呼びに行って相手をさせるのだと。
高級商店の店員にはよくいるタイプらしいのだが、やはり評判はあまりよくないらしい。
すると老夫婦の相手をしていた店員が、カズ達の前に来て謝罪してきた。
「申し訳ございません。あの人はお客様を選ぶ悪い癖があるんです」
「まあ、確かに俺は似つかわしくない格好をしてるかも知れませんし、冷やかしと取られてもしょうがない。気に掛けてもらい、ありがとうございます」
「とんでもない。お連れの女性も、ご気分を悪くされたでしょう」
「いえ、私は大丈夫です」
老夫婦の相手をしていた優しい店員より、カズ達の相手をしていた店員の方が長く勤めているらしく、強く意見を言えないらしい。
「あの人が支配人にどう報告しているかわかりませんが、あまりにヒドいようであれば、自分が支配人に話します」
「大丈夫ですか? あとで何かと言われるのでは?」
「かも知れませんね。支配人が変わってからは、少しはマシになったと思ったんですが」
優しい店員の話によると、三ヶ月前に前の支配人が持病の腰痛が悪化した事で辞めてしまい、困った店のオーナーが知り合いで真珠を仕入れている宝石商に、時間の出来た時だけでいいからと頼み、代理の支配人として入ってもらってるらしい。
本来新しい支配人を店員から選ぶのだが、人を使う経験が浅い者しかいなかったので選べなかったらしい。
今の代理で来ている支配人には、それの教育も頼んでいるらしい。
カズ達の相手をしていた店員は、なんとしても自分が次期支配人になるため、個人の売り上げを伸ばそうとしている節があると、優しい店員は謝罪を含め、身内の恥をさらした。
カズ達の相手をしていた店員が店の奥に入ってから約五分、カツカツとさっきの店員とは別の足音が近付いて来るのが聞こえた。
「支配人は仕事に厳しい人ですが、家族思いでお客様には優しい方です。なので大丈夫だと思いますが、理不尽な報告をしていた時には、先程も言いましたが、自分が支配人に話します」
自分はカズ達の味方だと言い終えると、優しい店員は老夫婦の方に戻った。
カズはどうしたものかと、視線をショーケースの真珠を見ながら考えていると、店の奥から中年の男性支配人が姿を現して、カズ達の前にやって来た。
「何か私し共の真珠がお気に召されないと?」
「そうは言ってませんよ。ただ二種類の真珠を使った物を見せてほしいと、要望を伝えただけです」
カズは面倒事にならなければと思いながら、視線をゆっくりとショーケースから上げて支配人の顔に移した。
この場合、腕を組んだ方が良いのだろうかと考えるがカズだが、今一つ踏ん切りつかず組ませる腕を出せずに、ただ横に並んで一緒に歩いている。
流石に沈黙は気不味くなると、何か話題を見付けて話さなければと考えるが、何も浮かばない。
一時間前にアイリスの屋敷で会った時には、自然と話していたのに、今はお互いに黙ったまま、ただ歩いているだけ。
結局一言も喋らずに、高級商店が建ち並ぶ通りに差し掛かった。
「このような格好で大丈夫でしょうか?」
高級商店に出入りしている客は、誰もが分かるような高価な服を着ていた。
それも当然、カミーリアの視線の先に居るのは、貴族と思わしき人達ばかり。
「大丈夫じゃないか。護衛の冒険者らしい人達も居るし(……あれ来たのはいいけど、これからどうすればいいんだ?)」
食料の買い出しに行くのとは訳が違い、ウインドーショッピングなんてした事のない二人は、高級商店か建ち並ぶ通りに足を進められずにいた。
二人共に場違いだと感じていたが、相手のことを思い言葉には出さなかった。
「せっかく来たんだし、見て回ろうか(歩いていれば、きっと何かある……はず)」
「そうですね」
多く建ち並ぶ高級商店に入ろうとはせずに、ただただ外から中を眺めるだけで、二十分とせず高級商店が建ち並ぶ通りを過ぎてしまった。
「入ってみたい店あった? 遠慮しないで(このままだと絶対にアレナリアから説教をくらう。カミーリアがもしアイリス様の話したら……何とかせねば)」
「騎士の私になど不用だとわかってるのだけど、宝石店が気になりました」
「何軒かあったけど、どんな宝石が見たかった?」
「私でも手が出そうな真珠が見てみたいです」
「なら行こう」
「大丈夫でしょうか?」
「一見さんお断りの可能性もあるか」
「いちげんさん? 誰ですか」
「人じゃなく……まあ、とりあえず行ってみよう」
今、歩いてきた通りを戻り、カミーリアが気になった宝石店に入った。
店に居る他の客は、富裕層といった感じの老夫婦が一組だけ。
二人が店に入り中を見回していると、一人の中年男性店員が近付いて来た。
軽く会釈をして「いらっしゃいませ。当店は初めてでしょうか?」と、見た目から差別するような発言はせずに話し掛けてきた。
コクりと頷き「初めてです」と、カズは答えた。
「数ある宝石からわたくしどもの店を選んでいただき、ありがとうございます。何かお探しでしょうか?」
「真珠はありますか?」
カズの問に男性店員は「もちろん御座います」と、真珠が展示してあるガラスのショーケースの所に案内した。
ショーケース内には指輪にイヤリング、ネックレスが並んでおり、真珠の大きさなどで値段もピンからキリまで様々。
一般的な白真珠の他に、黒真珠や中には赤や黄色にピンクの真珠なんてのもあった。
ショーケースに並ぶ真珠を見るカミーリアの表情は、隣で宝石を手に取り見ている老夫婦の淑女と同じ顔をしていた。
カミーリアの表情を見た男性店員が、購買意欲を高めようと、真珠の説明を始めた。
真珠の色は作られる貝によって違い、白は純真、赤は情熱、黒は紳士など色にも意味があり、相手に送ならそれを踏まえて購入した方が良いと、尤もらしい説明をしてきた。
色の意味があっているのか分からないので、聞き流す程度にした。
カミーリアに買ってあげるにしても、相場を知らないので、高いのか安いのか不明だった。
男性店員はもうひと押しとばかりに「試しに着けてみません」と、勧めてきた。
遠慮していたカミーリアに「いいんじゃないか」と、カズが後押しをした。
カミーリア自身が気に入らなければ、買ったところで記念にもならないだろうと。
少し考え、カミーリアが選んだのは小さい白真珠のイヤリングと、薄いピンク色をした一つ玉の短いチェーンのチョーカー。
その二つの特徴から、常に身に付けていても騎士としての役目を果たせるよう、支障にならない大きさや長さの物を選んだのだと、カズは思った。
イヤリングは兎も角、チョーカーは金属製の鎧を装備した時に引っ掛けてしまうと、鏡を見たカミーリアは気付き外してしまった。
男性店員は気に入らなかったのだと思い、同じ様な色の真珠で作られたネックレスを薦めてきた。
「ここにあるのはどれも同色で作ってあるけど、二種類の真珠を使ってるはないの?」
「ありはしますが、他に比べて少々お値段の方が高くなってしまいます。払えますか?」
カズの見た目から、あまりお金を持ってなさそうだと男性店員は判断して、並んでいる物の中で払えるような値段の物を選んで勧めてきたんだと分かった。
カミーリアの選んだ二つも、ショーケースに並んでいる物の中では、値段の低い物だったので、支払えるのかと疑問を抱き、見下すように聞いてきた。
「大丈夫だ。それより白と淡いピンクの真珠を使ったネックレスを見せてくれないか」
カズは男性店員の疑問を一言で返し、自分の要望を伝えると、男性店員は少し顔を曇らせた。
「支配人が真珠に詳しいので、今お呼びします」
支配人に有る事無い事を報告して、追っ払ってもらおうとでも考えたのか、カミーリアが外したイヤリングをショーケースに戻すと、老夫婦の相手をしていた店員にぼそぼそと何かを言うと「ちッ」と小さく舌打ちをして店の奥に入っていった。
すると隣に居た老夫婦が小声で、カズ達の相手をしていた男性店員は、即決出来ない客を嫌う所がある、と教えてきた。
老夫婦が来店しても即決しないの知っているので、他の店員をわざわざ店の奥まで呼びに行って相手をさせるのだと。
高級商店の店員にはよくいるタイプらしいのだが、やはり評判はあまりよくないらしい。
すると老夫婦の相手をしていた店員が、カズ達の前に来て謝罪してきた。
「申し訳ございません。あの人はお客様を選ぶ悪い癖があるんです」
「まあ、確かに俺は似つかわしくない格好をしてるかも知れませんし、冷やかしと取られてもしょうがない。気に掛けてもらい、ありがとうございます」
「とんでもない。お連れの女性も、ご気分を悪くされたでしょう」
「いえ、私は大丈夫です」
老夫婦の相手をしていた優しい店員より、カズ達の相手をしていた店員の方が長く勤めているらしく、強く意見を言えないらしい。
「あの人が支配人にどう報告しているかわかりませんが、あまりにヒドいようであれば、自分が支配人に話します」
「大丈夫ですか? あとで何かと言われるのでは?」
「かも知れませんね。支配人が変わってからは、少しはマシになったと思ったんですが」
優しい店員の話によると、三ヶ月前に前の支配人が持病の腰痛が悪化した事で辞めてしまい、困った店のオーナーが知り合いで真珠を仕入れている宝石商に、時間の出来た時だけでいいからと頼み、代理の支配人として入ってもらってるらしい。
本来新しい支配人を店員から選ぶのだが、人を使う経験が浅い者しかいなかったので選べなかったらしい。
今の代理で来ている支配人には、それの教育も頼んでいるらしい。
カズ達の相手をしていた店員は、なんとしても自分が次期支配人になるため、個人の売り上げを伸ばそうとしている節があると、優しい店員は謝罪を含め、身内の恥をさらした。
カズ達の相手をしていた店員が店の奥に入ってから約五分、カツカツとさっきの店員とは別の足音が近付いて来るのが聞こえた。
「支配人は仕事に厳しい人ですが、家族思いでお客様には優しい方です。なので大丈夫だと思いますが、理不尽な報告をしていた時には、先程も言いましたが、自分が支配人に話します」
自分はカズ達の味方だと言い終えると、優しい店員は老夫婦の方に戻った。
カズはどうしたものかと、視線をショーケースの真珠を見ながら考えていると、店の奥から中年の男性支配人が姿を現して、カズ達の前にやって来た。
「何か私し共の真珠がお気に召されないと?」
「そうは言ってませんよ。ただ二種類の真珠を使った物を見せてほしいと、要望を伝えただけです」
カズは面倒事にならなければと思いながら、視線をゆっくりとショーケースから上げて支配人の顔に移した。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
492
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる