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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

531 約束のデート? を果たす

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 人口の多い帝都では滅多に見ないが、帝国にだってBランクのモンスターをテイムしている冒険者は居る。
 強くなくとも特殊な移動が出来るモンスターをテイムしていれば、一日で大峡谷から帝都まで来れなくもないんじゃないかと、サイネリアは希望を込めた都合の良い考えをした。

「そ、そうですか。バルヤールのような大きな馬型のモンスターなら、数日間走り続けられますし、魔導列車より速く走れるモンスターもいますからね」

「走っては来てないんだけどね」

「……は?」

「登録が必要であれば連れて来る。というよりは、一度確認してもらった方が後々面倒にならなくていいでしょ」

「ち、ちなみに、どのようなモンスターでしょうか?」

「鳥だね」

 鳥と聞いてサイネリアは疑問が浮かぶ。
 小さな人種として代表的な小人族のように小さい訳でもなく、人族の平均的な体格をしている目の前のカズ人物を乗せて? はたまた脚で掴まえて飛ぶ? その鳥って、何? と、サイネリアは自分の知識の棚から、鳥型モンスターの情報を探し、眉間にしわを寄せた。

「鳥…ですか」

「そう、鳥。明るい内に連れてきたら目立から、暗くなったらもう一度来るよ。それでいいかな?」

「あ……はい。わかりました」

 頭の中がこんがらがってきたサイネリアは、一旦頭を休ませたいと考えを放棄して、カズからの聞き取りを終えた。

 ギルド本部から川沿いの家に戻り、玄関の扉を開けようと手を伸ばすと、中からカミーリアが先に扉を開けて出て来た。
 カズが第五皇女アイリスとの約束をしてからというもの、二人の都合を合わせて出掛ける日を決めるまで、カミーリアに時間を取らせて、ちょくちょく来させていた。
 今まではすれ違いが多く、会う事がなかった。
 この日たまたま会えた事で、二人で出掛ける日を三日後にと、決めることが出来た。
 これでアイリスやレオラから催促される事はないだろうと、一つ肩の荷が下りた。(まだ出掛ける約束をしただけなのだが)

 予定よりも早く戻って来たカズを見て不思議がっていたアレナリアに説明をして、ビワの迎えに行き、その足でギルド本部に行くと話した。

 夕方ビワをレオラの屋敷に迎えに行き、ギルド本部に向かいながらビワも説明をした。
 ギルド本部に着く頃には日が暮れ、完全に夜になった。
 流石にギルド本部の正面にフジを呼ぶ訳にもいかなかったので、普段使わない倉庫の屋上に、サイネリアの案内で移動した。
 倉庫の屋上ということで広さは十分あり、暗いためにフジが見られる心配少ない。
 が、街明かりがあるので、完全に見られないということはない。
 カズは《念話》でフジに連絡をして、自分達が居る倉庫の屋上に来るよう伝えた。

 フジと再会した事をビワに話してあったが、降下してきたフジの大きさを見て驚いていた。
 ビワとはあまり会ったことはなく、どちらかと言えば一緒にメイドの仕事をしていたキウイの方が仲は良かった。
 何も言ってこないサイネリアに目を向けると、フジを前にして腰を抜かしていた。
 今まで素材として運ばれて来たモンスターを見てはいたが、それは全て死んでいる状態のもので、実際に生きている大きなモンスターを間近で見たのは初めてだったらしい。
 怯えて震えるサイネリアを心配して、フジが顔を近付けると気を失ってしまった。

 フジから少し距離を取り、サイネリアを呼び起こす。
 十分程でサイネリアは目を覚ました。
 テイムしているから大丈夫だと落ち着かせ、サイネリアをフジの元に連れていき、脚に付けてあるバードリングを明かりで照らして確認してもらい、帝国でも登録をしてもらうことになった。
 ギルド本部に戻り登録手続きを済ませた。
 帝国での登録証明をした新たなバードリングが出来上がるのが三日後になるとの事だったので、フジには三日帝都から離れた人気のない場所で待っててもらうことにした。
 この間カズは依頼を受けることはせず、毎日フジの所に行き顔を見せていた。
 三日後は奇しくも、カミーリアと出掛ける日だった。


 《 三日後 》


 この日出掛ける直前、何時もの動きやすい服装で行こうとしたが、アレナリアに止められた。
 依頼に行くのではないのだから、作業着に見えるような服装では駄目だと。
 カズが持っている服の中から、堅苦しくもなく、かといって垢抜けてもない服を三人に選んでもらったが、似たり寄ったりの服しかなかった。
 殆ど使用することがなかった、多少見栄えのいいジャケットがあり、それを着て約束を果たす為に、第五皇女アイリスの屋敷へと、騎士のカミーリアを迎えに向かっていた。

 アイリスの屋敷の敷地内に入ると、薄化粧をしたワンピース姿のカミーリアが外で待っていた。
 カズに気付くと、軽く会釈をして近付く。
 本人から男だと言われたしとても、誰も信じない女性らしい(男だが)所作だった。

「わざわざ外で待ってたの? 約束の時間より早いけど」

「待機するのは慣れています。なので大丈夫です」

 屋敷脇にある騎士や使用人が住む建物がある。
 カミーリアもそこに部屋を持っている。
 朝早くから起きて待っていたカミーリアだが、自室を出たり入ったり、うろうろと落ち着かなくしていたら、他の騎士達に「鬱陶うっとうしいから外で待ってろ!」と怒鳴られ、追い出されていた。
 とぼとぼと外に出て待つカミーリアに、湖畔から吹く風が高鳴る気持ちを落ち着かせた。

「それで街への移動ですが、アイリス様のがトライクを好きに使っていいと」

「その格好であれに乗るの?(ひらひらして邪魔にならないか?)」

「ご迷惑でなければ、運転はカズ殿にお願いして、私は後ろに。だめでしょうか?」

「それは別にいいけど」

 アイリスから何を吹き込まれているか知らないが、とても嬉しそうに大型三輪バイクトライクが停めてある倉庫にカズを案内する。

「では、取りに行きましょう」

 倉庫に向かう二人を、密かに屋敷からニヨニヨと顔を緩めながら、アイリスは観察していた。
 倉庫にはアイリスの侍女が待っており、カミーリアに大型三輪バイクトライクを起動させる鍵を渡すと、何も言わず屋敷に戻った。

「俺、避けられてる?」

「そんなことは……申し訳ないです」

「カミーリアさんが謝ることないよ。若干心当たりもあるし」

 大型三輪バイクトライクの起動させる鍵を持ってきた使用人が、原初の森での報告をアイリスにしたとき部屋に居た侍女だとカズは気付いた。
 あの時にカミーリアを庇って、他の騎士に気分を悪くさせる発言をしたので、カズは嫌われてるのだと思った。
 だが実際はこの侍女もアイリスと同様の嗜好があり、顔には出さないよう注意していただけ。
 アイリスの元に戻ると、自分の感じた事や事柄を嬉しそうにアイリス主人に話していた。

「せっかくの休暇を二人で出掛けるんだ。暗い顔しないで楽しく行こう(のっけから気を使うと、後々疲れそうだ)」

「そうですね。カズ殿が私との約束を守って、二人で出掛けてくれるんですもの」

「ここでこうしててもしょうがない。今日は仕事を忘れて、堅苦しいこは抜きだ。いいな、カミーリア」

「はい、カズ殿」

「堅苦しいのは抜きでって言ったろ。呼び捨てでいい。ほら、乗った乗った(こんな感じでいいだろうか?)」

 今朝出掛ける直前アレナリアに「体は男性だとしても、心は女性なんでしょ。なら今回は一人のとして、カミーリアの相手をしてあげて」と、言われていたのを思い返し、それを自分に言い聞かせた。
 大型三輪バイクトライクに乗り目指すのは、中央駅セントラル・ステーションから程近い、貴族御用達の店が多く建ち並ぶ通り。

 前日の夕食後に「何時も買い物に行く商店街でいいかな?」と口にしたカズに、レラから「ありえない」突っ込みが入り、アレナリアには「ただ買い物がしたい訳じゃないの。一緒に見て歩きたいの。」と注意された。
 ビワだけは「私ならどこでも」と、フォローしてくれたと思ったが「でも、せっかく二人で出掛けるなら、そういう場所が…いい」と付け加え、結局はダメ出しだった。
 そこで貴族が多く利用する店を見て回ったらと助言を受けて、そこへ行く事になり「何か記念になる物をプレゼントしてあげたら。服なら試着してもらってカズが決めるのよ」と、アレナリアが付け加えてきた。
 
 今度は私達を連れて行ってもらうから、その予行練習をしておいてと、言わずともアレナリアの顔に書いてあった。
 今までの助言は、自分達にもしてもらうからという意味が含まれていると悟った。
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