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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
530 聞き取り と 百面相
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事情を知る幾人かのギルド職員は、どうしてあのカズが居るのだろう、という疑問を抱き、階段を小走りで上がる二人を視線で追い掛けていた。
「サイネリアが急に大声を出すから」
「三十日以上かかる依頼を、七日で終わらせて戻って来たと聞けば驚くに決まってますッ! 本当に、ほんと~に採取してきたんですか?」
「してきたって(そりゃ疑いたくなるのはわかるけど)」
「もしかして、頼んだ素材を既に持っていて、恩を売り付けようとしてるとかじゃないですよね」
「だったらなんで、こんなに早く戻って来るのさ。それこそギリギリに戻って来て、苦労した感じを出すでしょ。それに今回のダンジョンを教えておいて、しかも泣きついてまで頼んで来たのは、どこの誰だっけ」
「はわわぁ……」
必死だったとはいえ、自分のした事を思い出して赤面するサイネリア。
「間に合わなかったならともかく、予定よりかなり早く終わらせてきた相手に、恩を売り付けるとか、ヒドくない」
「も、申し訳ございません。ですが短期間で、ですよ。現物を見せてもらえませんと、信じられませんよ」
「まあ、それもそうだ。なら倉庫に行こう。ダンジョンで採取した素材を出すから」
「そうですね。その方が早いですね。行きましょう。その後で詳しく話を聞かせてもらいますよ」
「わかった。俺もサイネリアに話が、というか、やってもらいたい事がある」
「やってもらいたい事とはなんですか?」
「とりあえずそれは後で。今回の依頼を完了させたからにしよう」
「そちらが優先ですしね。わかりました」
怒ったり驚いたり疑ったり恥ずかしがったりと、サイネリアの百面相が一段落し、落ち着きを取り戻すと、普段のギルド職員としての顔に戻った。
……すぐにまた百面相をする事になるのだが。
毎回のごとく地下の広い倉庫に移動したカズは、資源の潤沢ダンジョンで採取した素材を、階層順に【アイテムボックス】から出していく。
先ずは地下一階層で採取した薬草を、指示より少し多い量を出し、次に二階層で回収したコロコロ鳥の卵を五百個程と、狩ったバレルボアを八匹とシルバーホーン・サーモン十二匹を出す。
この時点でサイネリアの頬がピクピクと痙攣したように動き、ギルド職員としての表情が崩れそうになっていた。
続いて地下三階層で採取したミルキーウッドの樹液が入ったビンを四十六個、約20リットルを出して並べた。
地下四階層で採掘した魔鉱石類は場所を取るので、20メール程移動してから出した。
指示された500キロでも多いのに、カズが出したのはその倍はあり、またサイネリアが百面相をしていた。
まだ重要な素材が残っているので、カズは突っ込む事はせずに少し横に移動して、地下五階層で倒して回収したコアを133個、今回採取した素材の全てをちょろまかさずに出した。
大きいくはないが大量の魔石を出し終えた時には、サイネリアは一点を見つめ、口をポカンと開けて動きを止めていた。
流石にこれでは報酬の話が出来ないと、サイネリアの顔の前で手を振り、正気に戻そうとする。
「サイネリア……もしも~し、戻ってこ~い」
手を振り続けていると、ハッと我に返ったサイネリアが、カズの胸ぐらを掴み前後に力を入れて揺さぶる。
「なんですか、なんなんですか、この量は! おかしいわよね? おかしいでしょ! ねえッ!!」
「ちょ、ちょま、はな、離して(またか)」
力ずつでサイネリアの手を振り解くことは出来るが、それで怪我をさせてしまっては流石に悪いと、疲れて離すのをカズはそのまま揺さぶられて待つ。
満足したのか、疲れて正気に戻ったのかは分からないが、二分もしない内にサイネリアはカズの胸ぐらから手を離した。
「落ち着いた?」
「……疲れました。色んな意味で」
「グラトニィ・ターマイトを出した時よりマシでしょ」
「自分で言わないでください」
「まあ、いいや。今回、依頼で採取に行ったんだから、三割を納めるってのは関係ないんだろ?」
「はい。渡したリストに書いてあった魔鉱石とモンスターのコアと薬草は、申し訳ありませんが全て納めてください」
資材が足りないのは知っている。
だが、注目を浴びさせられたり、胸ぐらを掴まれてガクガクと揺さぶられる扱いをされたので、カズはちょっと意地悪な言い方をする。
「あのさぁ、頼まれた素材の量が説明を聞いた時より、なぜか後から渡された資料の方が多く書いてあったんだよねぇ」
「そ…それは……」
「その魔鉱石と魔石を倍以上も持ってきたのに、それを全部? 少量だけどミスリルもあるんだけど、それまでも?」
「ぅ……すいません。どうかお願いします」
採取量を説明時より増やした事に反省をして、サイネリアは頭を下げた。
カズはちょっと気持ちがスッキリとしたので許す事にした、と言っても、大して怒ってる訳ではないが。
それに渡された資料の必要物リスト書かれていた素材は、元々全部渡すつもりでいた。
カズがそれを言おうとした時、両手を強く握るサイネリアの仕草が目に入ってきた。
数日前ダンジョンの場所を聞きに訪れた時の、サイネリアがした行動がカズの脳裏に浮かんだ。
「俺も少し言い方が悪かった。頼まれた三種の素材は全て渡すから(また泣き付かれでもしたら、たまったもんじゃない)」
「ありがとうございます。やっぱりカズさんは優しい方ですね。そういう男性はもてますよ」
顔を上げたサイネリアの表情は、してやったとばかりに笑顔になり、カズは内心でやられた、と。
「そ、それはどうも。残りは俺が持ってってもいいか?」
「他の物も欲しいところですが、あと出来ればミスリルを頂きたいのですが」
「ああ、わかった。この後でサイネリアに頼みもあるしいいよ。俺は食材があれば満足だ。必要になったら、また行けばいいんだしな。入る許可は出してくれるんだろ?」
「もちろん。ですがその際には、またお願いする事になるかと思います」
結局、資源の潤沢ダンジョンに入ったとしても、今回と同じで、魔鉱石類や魔石は全部ギルドに渡す事になるのかと、カズは思った。
でもコロコロ鳥の卵と、ミルキーウッドの樹液が手に入るなら、それはそれで有りだ思った。
素材の分配を終えた二人は倉庫を後にして、何時もの小部屋に戻り、軽い昼食を取った。
昼食後すぐに、サイネリアが報告書を作るのに必要だと、メモを片手に聞き取りを始めた。
問うのはサイネリア、答えるのはカズ。
最初はダンジョン内の状態について、質問をしていった。
これは既に得ている情報と変わったところがないかを確認するのに重要なこと。
地下一階層から始まり、地下五階層まで順番に。
ダンジョン内の状態については、これは特に問題はなかった。
この時点で倉庫から小部屋に戻って、一時間は経過していた。
カズの移動手段について、最初に聞くと思っていたが、サイネリアは何故か後回しにした。
サイネリアの内心では、聞いてしまったら卒倒してしまうかも知れないと。
だが、報告書を書くために、聞かない訳にはいかず、覚悟を決めて質問を続ける。
問「資源の潤沢ダンジョンには、いつ着きましたか?」
答「三日目の昼頃に」
サイネリアはメモを取りながら「なんでよ」と、心の声がぼそり漏れる。
問「何日間ダンジョン内で採取していましたか?」
答「ダンジョン着いた当日に入ってから半日。それから三日後の昼頃に出たので、丸三日間かな」
メモを取る手に力が入り「わずか三日で、あの量はおかしいでしょ」と、心の声が先程よりも大きく漏れる。
問「出発してからここまでで六日です。翌日が七日目、つまり今日ですが、一日でどうやって帝都中央まで戻って来たんですか?」
答「テイムしたモンスターに乗って」
テイムしたモンスターとメモを取るサイネリアの手が止まり、手元から正面に座るカズに顔を向けた。
サイネリアは口の端をヒクヒクさせながら、答えの意味を尋ねる。
「モンスターをテイムしてきたと聞こえましたが、まさか、ですよね……?」
聞き違いでないのは、自分がペンを走らせたメモを見れば明らかだが、疲れて聞き違ったかも知れない、そうであってとほしいと、心の中で願った。
「ちょっと違うかな」
何がちょっと違うのか、カズには全く全然違うと答えてほしかった。
「な、何が…でしょう?」
「以前にテイムモンスターの登録を、帝国ではなくてオリーブ王国でなんだけど。ある事情で離れ離れになってて再会したんだ。俺がサイネリアに頼みがあるって言ったのは、帝国でもそのフジの登録をしておいた方がいいんじゃないかと」
大陸の片隅にあるオリーブ王国で登録が出来たのなら、帝国でテイムしたとしても問題なく登録出来るモンスターだろうと考え、サイネリアは深呼吸をして気持ち落ち着かせる。
「サイネリアが急に大声を出すから」
「三十日以上かかる依頼を、七日で終わらせて戻って来たと聞けば驚くに決まってますッ! 本当に、ほんと~に採取してきたんですか?」
「してきたって(そりゃ疑いたくなるのはわかるけど)」
「もしかして、頼んだ素材を既に持っていて、恩を売り付けようとしてるとかじゃないですよね」
「だったらなんで、こんなに早く戻って来るのさ。それこそギリギリに戻って来て、苦労した感じを出すでしょ。それに今回のダンジョンを教えておいて、しかも泣きついてまで頼んで来たのは、どこの誰だっけ」
「はわわぁ……」
必死だったとはいえ、自分のした事を思い出して赤面するサイネリア。
「間に合わなかったならともかく、予定よりかなり早く終わらせてきた相手に、恩を売り付けるとか、ヒドくない」
「も、申し訳ございません。ですが短期間で、ですよ。現物を見せてもらえませんと、信じられませんよ」
「まあ、それもそうだ。なら倉庫に行こう。ダンジョンで採取した素材を出すから」
「そうですね。その方が早いですね。行きましょう。その後で詳しく話を聞かせてもらいますよ」
「わかった。俺もサイネリアに話が、というか、やってもらいたい事がある」
「やってもらいたい事とはなんですか?」
「とりあえずそれは後で。今回の依頼を完了させたからにしよう」
「そちらが優先ですしね。わかりました」
怒ったり驚いたり疑ったり恥ずかしがったりと、サイネリアの百面相が一段落し、落ち着きを取り戻すと、普段のギルド職員としての顔に戻った。
……すぐにまた百面相をする事になるのだが。
毎回のごとく地下の広い倉庫に移動したカズは、資源の潤沢ダンジョンで採取した素材を、階層順に【アイテムボックス】から出していく。
先ずは地下一階層で採取した薬草を、指示より少し多い量を出し、次に二階層で回収したコロコロ鳥の卵を五百個程と、狩ったバレルボアを八匹とシルバーホーン・サーモン十二匹を出す。
この時点でサイネリアの頬がピクピクと痙攣したように動き、ギルド職員としての表情が崩れそうになっていた。
続いて地下三階層で採取したミルキーウッドの樹液が入ったビンを四十六個、約20リットルを出して並べた。
地下四階層で採掘した魔鉱石類は場所を取るので、20メール程移動してから出した。
指示された500キロでも多いのに、カズが出したのはその倍はあり、またサイネリアが百面相をしていた。
まだ重要な素材が残っているので、カズは突っ込む事はせずに少し横に移動して、地下五階層で倒して回収したコアを133個、今回採取した素材の全てをちょろまかさずに出した。
大きいくはないが大量の魔石を出し終えた時には、サイネリアは一点を見つめ、口をポカンと開けて動きを止めていた。
流石にこれでは報酬の話が出来ないと、サイネリアの顔の前で手を振り、正気に戻そうとする。
「サイネリア……もしも~し、戻ってこ~い」
手を振り続けていると、ハッと我に返ったサイネリアが、カズの胸ぐらを掴み前後に力を入れて揺さぶる。
「なんですか、なんなんですか、この量は! おかしいわよね? おかしいでしょ! ねえッ!!」
「ちょ、ちょま、はな、離して(またか)」
力ずつでサイネリアの手を振り解くことは出来るが、それで怪我をさせてしまっては流石に悪いと、疲れて離すのをカズはそのまま揺さぶられて待つ。
満足したのか、疲れて正気に戻ったのかは分からないが、二分もしない内にサイネリアはカズの胸ぐらから手を離した。
「落ち着いた?」
「……疲れました。色んな意味で」
「グラトニィ・ターマイトを出した時よりマシでしょ」
「自分で言わないでください」
「まあ、いいや。今回、依頼で採取に行ったんだから、三割を納めるってのは関係ないんだろ?」
「はい。渡したリストに書いてあった魔鉱石とモンスターのコアと薬草は、申し訳ありませんが全て納めてください」
資材が足りないのは知っている。
だが、注目を浴びさせられたり、胸ぐらを掴まれてガクガクと揺さぶられる扱いをされたので、カズはちょっと意地悪な言い方をする。
「あのさぁ、頼まれた素材の量が説明を聞いた時より、なぜか後から渡された資料の方が多く書いてあったんだよねぇ」
「そ…それは……」
「その魔鉱石と魔石を倍以上も持ってきたのに、それを全部? 少量だけどミスリルもあるんだけど、それまでも?」
「ぅ……すいません。どうかお願いします」
採取量を説明時より増やした事に反省をして、サイネリアは頭を下げた。
カズはちょっと気持ちがスッキリとしたので許す事にした、と言っても、大して怒ってる訳ではないが。
それに渡された資料の必要物リスト書かれていた素材は、元々全部渡すつもりでいた。
カズがそれを言おうとした時、両手を強く握るサイネリアの仕草が目に入ってきた。
数日前ダンジョンの場所を聞きに訪れた時の、サイネリアがした行動がカズの脳裏に浮かんだ。
「俺も少し言い方が悪かった。頼まれた三種の素材は全て渡すから(また泣き付かれでもしたら、たまったもんじゃない)」
「ありがとうございます。やっぱりカズさんは優しい方ですね。そういう男性はもてますよ」
顔を上げたサイネリアの表情は、してやったとばかりに笑顔になり、カズは内心でやられた、と。
「そ、それはどうも。残りは俺が持ってってもいいか?」
「他の物も欲しいところですが、あと出来ればミスリルを頂きたいのですが」
「ああ、わかった。この後でサイネリアに頼みもあるしいいよ。俺は食材があれば満足だ。必要になったら、また行けばいいんだしな。入る許可は出してくれるんだろ?」
「もちろん。ですがその際には、またお願いする事になるかと思います」
結局、資源の潤沢ダンジョンに入ったとしても、今回と同じで、魔鉱石類や魔石は全部ギルドに渡す事になるのかと、カズは思った。
でもコロコロ鳥の卵と、ミルキーウッドの樹液が手に入るなら、それはそれで有りだ思った。
素材の分配を終えた二人は倉庫を後にして、何時もの小部屋に戻り、軽い昼食を取った。
昼食後すぐに、サイネリアが報告書を作るのに必要だと、メモを片手に聞き取りを始めた。
問うのはサイネリア、答えるのはカズ。
最初はダンジョン内の状態について、質問をしていった。
これは既に得ている情報と変わったところがないかを確認するのに重要なこと。
地下一階層から始まり、地下五階層まで順番に。
ダンジョン内の状態については、これは特に問題はなかった。
この時点で倉庫から小部屋に戻って、一時間は経過していた。
カズの移動手段について、最初に聞くと思っていたが、サイネリアは何故か後回しにした。
サイネリアの内心では、聞いてしまったら卒倒してしまうかも知れないと。
だが、報告書を書くために、聞かない訳にはいかず、覚悟を決めて質問を続ける。
問「資源の潤沢ダンジョンには、いつ着きましたか?」
答「三日目の昼頃に」
サイネリアはメモを取りながら「なんでよ」と、心の声がぼそり漏れる。
問「何日間ダンジョン内で採取していましたか?」
答「ダンジョン着いた当日に入ってから半日。それから三日後の昼頃に出たので、丸三日間かな」
メモを取る手に力が入り「わずか三日で、あの量はおかしいでしょ」と、心の声が先程よりも大きく漏れる。
問「出発してからここまでで六日です。翌日が七日目、つまり今日ですが、一日でどうやって帝都中央まで戻って来たんですか?」
答「テイムしたモンスターに乗って」
テイムしたモンスターとメモを取るサイネリアの手が止まり、手元から正面に座るカズに顔を向けた。
サイネリアは口の端をヒクヒクさせながら、答えの意味を尋ねる。
「モンスターをテイムしてきたと聞こえましたが、まさか、ですよね……?」
聞き違いでないのは、自分がペンを走らせたメモを見れば明らかだが、疲れて聞き違ったかも知れない、そうであってとほしいと、心の中で願った。
「ちょっと違うかな」
何がちょっと違うのか、カズには全く全然違うと答えてほしかった。
「な、何が…でしょう?」
「以前にテイムモンスターの登録を、帝国ではなくてオリーブ王国でなんだけど。ある事情で離れ離れになってて再会したんだ。俺がサイネリアに頼みがあるって言ったのは、帝国でもそのフジの登録をしておいた方がいいんじゃないかと」
大陸の片隅にあるオリーブ王国で登録が出来たのなら、帝国でテイムしたとしても問題なく登録出来るモンスターだろうと考え、サイネリアは深呼吸をして気持ち落ち着かせる。
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