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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

523 簡略化された数値 と 知性ある本

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 従者も誰も居らず、レオラは酔っ払うほど飲んではないので、カズは丁度良い機会だと、レオラと二人で話をする事にした。
 ビワにハーブティーを淹れてもらい、レオラが寝泊まりする三階の部屋に移動した。

 最初はちょっとした雑談する。
 カズが二人でと言ってきた事で真面目な話をするのだと感じ、レオラは酔いを覚ますのに上着を脱ぎベッドに放り、ビワが入れたハーブティーを飲みながらカズの雑談に付き合う。
 ビワの仕事の様子や、ガザニアの事など。
 最近の事では、カミーリアをどうするかとレオラは聞いてきた。

「どうするも何も、カミーリアさんは確かに美人だが、俺は同性愛者じゃないからな。友人としてならいいんだが」

「カミーリアはそう思ってないだろ」

「誤解されてもお互いに困るから、恋愛対象にならないと、カミーリア本人にはハッキリと言ってある。それにこれはあれだ、吊り橋効果だ」

「吊り橋効果? なんだそれは」

 カズは吊り橋効果について説明した。

「訓練された騎士が、その程度でなるわけないだろ」

 カズは例えが悪かったと、吊り橋ではなく、死に直面する程のモンスター教われたところを助けたらと変えた。
 実際にカミーリアがアルラウネに拘束されて、カズに助けられたのは事実。

「そんな乙女みたい事が……カミーリアだった」

 レオラは言い直したカズの例えが、正しいのかもと思えた。

「何にしろ、カミーリアが騎士として、使い物にならないようにしろ。屋敷ならともかく、外出した姉上の護衛が勤まらなくなっては意味がない」

 本題に入る前のちょっとした雑談のつもりが、面倒事が増えてしまったと、カズは目の前に座るレオラをじっと見て考え込む。

「なんだなんだ。アタシの魅力に気づいて、抱きたくなったのか。相手してやっても構わないが壁は厚くない。激しくすると三人に聞こえるぞ」

 急にしもの話をするレオラに、カズは真面目に考えていた自分が馬鹿らしくなってしまった。

「それこそカミーリアさんみたいに、少しは恥じらったらどうだ。レオラはまだ処女バージンなんだろう」

「そうだ、だから優しくしろよ」

 レオラは両腕で胸を寄せ、谷間を深くしてカズに見せる。

「なんでレオラの初めての相手を、俺がする事になってるんだよ」

「触るか?」

「触らねぇよ!」

「アタシじゃ不満か?」

「もういいよッ。胸を寄せて見せるのもう止めろ!」

「和まそうと思ったんだが、少しくらいは興奮したか?」

「するかッ(しそうだよッ)」

「それもそうか。カズは小さい胸の方が好きだったな」

「ほっとけッ(否定はせん)」

 レオラの身体を張った冗談で気持ちが楽になったカズは、本題に移る事にした。
 既に感付いてはいるだろうと思いつつ、カズは自分の素性を一部隠してレオラに話した。
 予想通りカズがこの世界の者ではないと知っていたらしく、特に驚く様子はなかった。

「いつから気付いてた? レオラと初めて会った時には、グリズから俺達の事を聞いてたんだっけ?」

「ああ、あの時は変わった組み合わせのパーティーが居るくらいだった。その後バイアステッチに、やはり少し変わったパーティーが居るとミイに聞いて、それがお前達だと知って更に興味を持った。召喚者なのか迷い人なのかはわからなかったが、この世界の者ではないと確信が持てたのは、本の街で再会した時だ」

「それはどうして?」

「色々疑問はあったが、カズのステータスを見てだ」

「一応、スキルの隠蔽は使ってたんだが」

「そういった妨害のスキルやアイテムなどの効果があっても、真実を見通す事が出来るアーティファクトがある。それを使ったんだ」

「へえ。そのアーティファクトについては(以前に見たヒューケラが持っていた、キルケのコンパクトみたいな物かな?)」

「悪いが国宝なんで秘密だ。アタシでも簡単には使えない」

「ん? それをあの時よく持ってたもんだな」

「こっそりと持ち出した。見付かる前に戻すつもりだったが、バレてしまった」

「皇女じゃなければ重罪だろ」

「持ち出した物にもよるが、重ければ死罪だろう。アタシは一年間宝物庫への出入りを禁止された」

「その程度で済んだのは、持ち出した理由を話したって事か? その、俺の事を」

「いや、カズが討伐したターマイトを調べるのに使った事にした。元セテロンが兵器として作っていた、モンスターだと証明されたんで、宝物庫への一年出入り禁止で済んだ。次からは手続きをしろとキツく注意された」

「無茶をする」

「アタシとしては皇族を外されても未練はない。やりたいようにやっただけだ」

「なんとも、男らしいと言うか、レオラらしい」

「誉め言葉と取っておく」

 女性に対して男らしいと言ったのにも関わらず、レオラは何故か誇らしげだった。

「で、俺のステータスを見て、なぜこの世界の者ではないと。スキルや魔法か? それともレベルや数値に関係してるのか?」

「後者だ。カズはステータスに攻撃力や防御力、魔法での攻撃力と防御力が無いのを不思議だと思わなかったか?」

「この世界のステータスがそうならと」

「実際には攻撃力も防御力もある。だが、大戦以降ステータスにも変動が起きた。攻撃力や防御力は力だけに、魔法での攻撃力と防御力は消え、魔力だけに簡略化された。なぜそうなったのかはわからない。神のみぞ知る、だ」

「神のみぞ……(あのチャラ神が、何かやったのか?)」

「話を戻そう。なぜカズのステータス数値でわかったのか」

 レオラが使ったアーティファクトは、大戦前のステータスを表す事が出来る。
 つまりカズの攻撃力と防御力が数値化されて、それをレオラが見たということ。
 誰しも攻撃力と防御力がそれぞれ違うのだが、カズはどちらも現在の数値と同じだったと、レオラは話した。
 そのような数値を持つ者は、種族関係なく他の世界から来た者でしかない、と。
 レオラは以前に迷い人を同じアーティファクトで見た事があり、やはり攻撃力と防御力の数値が同じだったと話す。
 迷い人を調べた時は、仕事として持ち出し許可を得ていた。
 そこで使い方を知ったレオラは、気付かれずにカズのステータスを旧表示で調べるのに、無許可で持ち出したのだと。

「大戦前の旧表示と、それ以降の簡略化された現在の表示か。まだまだ知らない事ばかりだな」

「カズはオリーブ王国から来たと行っていたが、なら王国で召喚されたのか?」

「どちらかと言えば、俺は迷い人の方だな。気が付いたら、森の中に居た(嘘は言ってない)」

「だとしたら不思議なんだ。迷い人で言葉に不自由せず、高いステータスにアイテムボックスなどのスキルに、様々な魔法も使える。しかも転移魔法まで」

「詳しい事は俺にもわからない。魔力の使い方や魔法は、冒険者ギルドで初歩を教えてもらった」

「にしては強力な魔法が多く使える。どこで覚えた?」

 答えづらい質問をしてくるレオラに、カズはオリーブ王国の大都市アヴァランチェで手に入れたアーティファクトの古書を見せて、それに載っていた魔法だと説明した。

「それはインテリジェンス・ブックじゃないのか!?」

「インテリジェ…?」

「知識を記録して溜め込む知性ある本だと聞いた覚えがある。己が主を自ら決めて、その者の所に現れ、新たに知識を蓄える。望んでも入手は出来ず、主と決めた者から得るものが無くなれば、いつの間にか手元から消えるとか」

「これはそんな本なのか(そこまでは知らなかった)」

「その本に選ばれたのなら、様々なスキルや魔法が使え、高ステータスの理由もわからなくもない。それは国宝級の中でも最高峰のアーティファクトだと覚えておけ。まあ、例え盗みとったとしても、カズがその本に嫌われてなければ手元に戻って来る」

「なら、この本に嫌われないようしないとな(白紙の部分は、まだ俺が見るに値しないって事なのか)」

 思わぬ所で、持っていたアーティファクトの古書が、とてつもなく凄い物だと知る事になった。
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