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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

522 アイリスの趣味嗜好

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 二十分程で掃除を終えた二人に、留守中変わった事がなかったかをカズに尋ねた。

「アイリス様の騎士のカミーリアが来たわよ。カズは急な依頼で留守だと言ったら、伝言を残してすぐに帰って行ったわ」

「カミーリアさんが来たのか。で、伝言は何だって?」

 カミーリアからの伝言は、先日の頼みを受けて解決してくれた事への謝礼を届けに来る日の確認。
 カズの依頼が終るのを待っていても、何時戻るか分からなかったので、五日後にもう一度確認に来るとの事だった。

 そしてカズが依頼から戻った五日後、伝言通りカミーリアがやって来た。

「どうせなら、カミーリアさんが持って来ればよかったんじゃないの?」

「アイリス様が直接お渡ししたいと」

「なら、俺が出向いた方がいいでしょ」

「その方がいいと思うのですが、アイリス様がこちらに来るそうで」

「まさか、ここに?」

「そうはならないと思います。レオラ様のお屋敷の一室をお借りすると聞いています」

「ならよかった(レオラに続いてアイリス様にまで来られたら、家に居ても落ち着かなくなる)」

「先日はレオラ様も留守でしたので、アイリス様からの手紙をカーディナリスさん言付けて渡して来ました。これからその返事を聞きに伺おうと思っています」

「そう。今日は居るといいね」

「カズ殿と同じ様に、伺う事は伝えてあります」

「なら留守でも、返事の手紙は用意してあるでしょ」

「それであの…カズ殿とした約束なのですが」

「ああ、モンスターとの戦い方を教えるのと、買い物ですか」

「はい。今日は時間がないので、また今度よろしいでしょうか」

「お互いに都合が合えばいつでも。アレナリアとビワにも頼んでおきます。女性の店は入りづらいでしょう」

「え!? あ…はい、そうですね。では、私はこれで……」

 二人っきりで行くと伝わってなかった事に、カミーリアはがっくりと肩を落とす。
 何故カミーリアが落ち込んだのか、この時のカズは気付いてはいなかった。
 元気がなかったので、お土産に黒糖と黒糖で作ったカリントウお菓子を渡した。
 この時渡したそれが切っ掛けで、二人目の皇女がカズ達が住む川沿いの家に訪ねて来る事になるとは、知るよしもなかった。


 《 そして現在、川沿いの家 》


 レオラとアイリス皇女義姉妹が黒糖を使って作られた、残り少ないお菓子を取り合っていると、それを見たレラが黙っていられずに口を開いた。

「その形と色のお菓子を、皇女様が食べていいの? 美味しいけど、うん…」

「レラ、その先は言わないと言ったろ」

「は~い」

「返事だけは良いんだよな(次に作る時は、皆が見慣れたクッキーみたいな形にするかな)」

 お決まりな例えをしようとしたレラの発言を、カズは止めて注意している間に、残り少ない黒糖のお菓子を半々に分けて持って帰ると、話し合いがついていた。

「そういう事だ。この菓子は姉上と半分ずつにする。もう一度黒糖が送られて来るんだろ。届いたらビワに持たせてくれ」

「わたくしにも分けてください。連絡を頂ければ、カミーリアに取りに来させます」

「……あのですね、黒糖とそのお菓子はであって、じゃないんですよ。それにアイリス様は、謝礼を持って来てくれたんですよね」

「ええそうよ。わたくし自ら渡しに来たんです。あとレオラちゃんの誘いで、面倒な書類公務の息抜きに」

「謝礼はついでで、姉妹揃って黒糖をに来たんですか」

「アイリス様に対して、その様な言葉は不敬です。カズ殿」

 何時もの軽装備を脱ぎワンピースを着て膝下から素足を出し、薄っすらと化粧をしたカミーリアがカズに注意をする。

「その格好で言われても、どうかと思うけど。何でそんな格好をしてるの?」

「それは、アレナリア殿に色々と勧められて。カズ殿の好み似合うかと」

「アレナリアお前なぁ」

「私だけじゃないわよ。グラジオラスも一緒に選んで着せてたんだから」

「アレナリア殿、それは言わないでと」

「私だけ怒られるは嫌だもの。でもまあ、本人が喜んでるんだから良いじゃない。それに似合ってるでしょ、カズ」

「どうですか? カズ殿」

「確かに似合ってはいる(が、忘れちゃいけない。カミーリアは男だ!)」

 褒めれて照れるカミーリアの顔を見て、アイリスはニヨニヨと嬉しそうにしていた。
 レオラはそっちの趣味も、女性らしい服にも興味はないらしく、アイリスと分け合ったカリントウ黒糖のお菓子を早くも摘んでいた。

 当初カズを訪ねて来たカミーリアを、アレナリアはあまり好ましく思っていなかった。
 だがカミーリアが男だと知ると態度は変わり、例えカミーリアが美人であろうと、カズを寝取られる事はないとアレナリアは考え、男同士なら浮気にはならないとカミーリアがカズに好意を持つのを許した。
 アイリスはいつまでも友好的である為にと、カズとカミーリアが親しくするよう率先して進めていた。
 この日、カミーリアに似合う服を買いに行かせたのもアイリスで、カズの好みに合う様にと、アレナリアとビワに服を選ぶよう話していた。
 グラジオラスは護衛としてレオラが付けていたが、自分が着ても似合わないと思い込み、近い身長のカミーリアに色々と着てもらっていた。

 ちなみにアイリスが男の同性愛を好む趣味があるのを知っているのは、この場に居るカズとレオラとカーディナリスだけ。
 義姉妹でもレオラはそこまで話せるだけの信頼があり、カーディナリスはアイリスの侍女をしていた経緯があり知っていた。
 カズは源流の森での報告をした際に、そうではないかと思っていた。
 カズが気付いた事がアイリス本人に知れたのは、レオラと二人になって話した際に、アイリスをではないかとカズが言ってしまった事による。

 レオラが腐女子という言葉の意味を聞き、カズがそれを教えると、アイリスが男の同性愛の興味があったのを知っていたレオラが、アイリス義姉にそれを話してしまった事による。
 カズを自身の専属冒険者にしたいという話は、アイリスの趣味嗜好をカズが知ってしまった事による。
 もしアイリスの専属冒険者になる事を断らなかったら、カミーリアと同室にされる危険感じたので、カズはこの誘いを受ける事は決してしなかった。

 早く各々の屋敷に戻ってほしいと思いながら、結局二人の皇女はビワとカーディナリスが作った昼食を済ませても居座っていた。
 カズはカーディナリスの助けを借り、屋敷の皆が心配する前に戻った方が良いと説得をして、暗くなる前にアイリスとカミーリアをレオラに送らせる事が出来た。
 見送りの際にアイリスは小声でカズにそっと話した。

「カミーリアとのデート約束はまだでしたよね。ちゃんとまもってください。わたくしの専属冒険者誘いを断ったんですからね。あ、カミーリアを一日預けるのは、今回の謝礼に含まれてますので、受け取って貰わなければ困りますよ」

 何を想像しているのか、困ると言いつつ実に楽しそうにアイリスは話した。

「……わかりました。勘違いとはいえ、約束しましたので。言っておきますが、こっそり付け来たりしないでください」

 この時には、お互いの考えが違っていた事をカズもカミーリアも把握していた。

「二人っきりの邪魔なんてしません。の」

「なぜそこを強調するんですか」

 とても楽しそうに話し、笑顔のままカズ達に別れを告げて、アイリスはカミーリアと共に馬車に乗り、護衛のレオラとグラジオラスと一緒に湖畔の屋敷に戻って行った。
 カーディナリスはレオラが後程迎えに来るという事になり、ビワと夕食を作り待つ事に。

  そしてアイリス義姉を屋敷に送り届けたレオラが戻って来ると、持参したリンゴ酒をアレナリアと飲み始めた。
 カーディナリスも承諾しているらしく、何も言わず夕食を出してきた。
 何時もより気分が良くなったらしく、結局レオラは泊まると言い出した。
 飲み過ぎないようにとレオラに注意をして、カーディナリスは屋敷で仕事が残っているからと、グラジオラスと共に戻って行った。
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