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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

520 毒持ちモンスターの討伐

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 標高200メートル程の山を登りながら【マップ】の範囲を盆地全体が分かるように表示して各反応を見る。
 村から一番近い山の頂上付近に人の反応を見付け、それが監視をしている村人と判断してそこに行く。

 盆地の畑を監視していた村人を見付けて声を掛けると、ビクッとして驚き警戒する。
 依頼を受けて来た冒険者だと伝え、監視していた村人には危険だからとキビ村に戻らせ、盆地にうろつくモンスターを高台から見下ろして確認し、サイネリアに聞いていたモンスターを発見する。
 カズの位置から見えるのは、アシッドリザードが三体と、パラライズクロコが二体。
 視界の端から正面に表示させた【マップ】の反応で、両方合わせて十六体が盆地内を動き回り、捕食する獣を探しているのを確認した。
 一番危険なヘルバイパーの反応はなく、盆地を離れたとは考えづらく、可能性としては地中に潜伏していると思えた。 
 この時既に盆地の半分は日影になり、あと三十分もすれば完全に山の陰で日の光は遮られて暗くなる。
 カズは一度村に戻って現状を報告して、モンスターの討伐は翌日にした。
 村人にはスキルでモンスターの行動を把握していると話し、決して盆地の方には行かないように忠告した。


 ◇◆◇◆◇


 一晩明けてもヘルバイパーは姿を現さず、盆地を徘徊するアシッドリザードとパラライズクロコの数も変化はなく、代わりに獣は捕食されたらしく半分以下に減っていた。
 カズは自前の食料で腹を満たし、キビ村を出て山を登り盆地に向かった。
 昨日村人が監視をしていた場所に着くと、二種のモンスターが居る位置を確認し《隠密》使い気配を消して、先ずは離れている二体を狙う。

 気付かれる事なく十数メートルまで近付き《分析》で二種のモンスターのステータスを確認する。
 アシッドリザードのレベルは43で、約2メートル程の大きさがあり、聞いていた通り強酸性の毒持ち。
 パラライズクロコのレベルは45で、4メートル以上あり、こちらも聞いていた通り麻痺毒を持つ。
 ステータスの数値的には、今まで戦って来た同レベルのモンスターに比べ少し低い。
 危険な毒に特化した種だから、冒険者ギルドは危険度をBランクにしたのだろう。

「毒に気を付ければ問題ないか。接近は避けて魔法重視で倒していこう。この分ならヘルバイパーも……」

 自分で危険なフラグ立ててどうするんだと、カズは独り言を途中で止めた。
 作物がある近くでは、火系統の魔法は使えず、風系統の魔法で切り裂くのも、土系統の魔法で地面を変化させるのも、あまり良くない。
 更にアシッドリザードの強酸は畑にも悪く、対処方法が限られる。
 カズは悩んだ結果、アシッドリザードは〈ウォータージェット〉や〈ウォーターボール〉を使い、濡らしたところで〈クイックフリーズ〉で一体ずつ地道に凍らせて回収する事にした。

 カズは麻痺の耐性があるので、パラライズクロコに関しては大型のワニでしかなく、カズにとって脅威ではない。
 が、得たのはモンスターのステータス情報だけで、実際に戦ってはいない。
 油断して毒を食らっては元も子もない、確実に一体ずつ仕留め回収すると自分に念押しして動き出す。

 村人からはサトウキビ作物に影響を与えないようにしてほしいと言われ、畑の外に居るモンスターから狙い、畑の中に居るモンスターは誘き出して倒していった。

 盆地に入り討伐を始めて三時間、面倒な強酸を持つアシッドリザードを全てと、パラライズクロコを五体倒して【アイテムボックス】に回収し、残るはパラライズクロコが三体だけになっていた。
 出来るだけ畑に被害が出ないようにして討伐していたため、予想以上に時間が掛かってしまった。

 だがそれも残り僅かのところで、ヘルバイパーが地中より姿を現して、一体のパラライズクロコに噛み付き毒を注入し、動かなくなるとそのまま飲み込んで、近くのパラライズクロコに狙い定め移動する。
 危険を察知するもヘルバイパーの方が動きが早く、パラライズクロコが逃げるのは不可能。
 迫るヘルバイパーに噛み付き麻痺させようとするも、大木のように太い胴に巻き付かれ、猛毒が滴る牙で噛み付かれて即死すると、一体目と同様に丸呑みにされる。

 続けてヘルバイパーは最後の一体に狙いを定め、悠然と畑のサトウキビを圧し折りながら盆地を我が物顔で移動する。
 最後のパラライズクロコは収穫間近のサトウキビに身を隠し、迫るヘルバイパーをやり過ごそうとした。
 だがしかし、蛇特有のピット器官を持つヘルバイパーからは逃れられず、的確に狙いを定め、隠れた先に向かっていた。
 最後のパラライズクロコはそれに気付き、サトウキビが密集する畑から飛び出し、全力で木々が密集する山に向かって走り出した。

 格上のヘルバイパー相手から完全に狙われたパラライズクロコ獲物は、逃げきれず尻尾で打ち上げられもてあそばれて、弱ったところを満足そうにして味わうようにゆっくりと噛み砕き飲み込んだ。

 これで盆地内のモンスターはヘルバイパーだけとなったが、サトウキビは全体の二割が折れてしまっていた。
 収穫間近の折れてしまったサトウキビは村で活用出来るが、また若いサトウキビは使い物にならず、肥料として使えなければ完全に廃棄する事になってしまう。
 獲物を狩り終えたヘルバイパーが、元居た穴にから地中に潜ろうと動く。
 これで隠れられては、次の獲物が来るまで出て来ないだろうと、カズはヘルバイパーの討伐に向かう。

 これ以上サトウキビに被害が出ないように、ヘルバイパーが畑から離れるのを待ち、潜伏していた穴に隠れる前に動く。
 アシッドリザード同様に凍らせようと、氷結魔法〈クイックフリーズ〉を放つ。
 だがその巨体の割に動きが早く、胴の一部が少し白くなっただけで効果は薄い。
 ヘルバイパーは攻撃された箇所に視線を向けた後、攻撃したカズ相手を威嚇をする。
 それに動じないと半開きにした口から猛毒を滴らせ、十数メートルあるその巨体をうねらせてカズに迫る。

「マズッた、攻撃範囲を狭め過ぎた。とりあえず畑から離れないと(ヘビだから寒いのダメかと思ったんだけど、あのデカさだとこの辺り一帯を凍らせでもしないと無理か)」

 カズは山の方に移動して畑から距離を取り、ヘルバイパーを誘き寄せて、これ以上被害が出ないようにする。
 迫るヘルバイパーに〈アイスブレット〉や〈アイスニードル〉で攻撃をするも、表皮が予想よりも頑丈でダメージがあまり入らない。
 カズの攻撃はただ単にヘルバイパーを怒らせただけとなった。
 ヘルバイパーは周囲の木々を避けず圧し折り、それをカズ目掛けて尻尾で弾き飛ばす。
 避けるのは問題ないのだが、折られた木をそのままにしておくと後々邪魔になると考え、弾かれて向かって来る木は全て【アイテムボックス】に収容していった。

 カズの手前で消える木を見たヘルバイパーは、弾き飛ばした木で見えないようにして、毒液を口から噴射させた。
 カズは飛ばされて来る最後の木を収容すると、数十センチ先の所に毒液が迫ってるのが見えた。
 寸前のところで体を捻り回避するも、毒液は左腕に辺りの服を掠め後方の草に降り掛かる。
 毒液が掛かった草は変色して、瞬く間に枯れた。
 それを目にしたカズは毒液の付いた上着を脱ぎ、投げ捨てると地面につく前に〈ファイヤーボール〉で燃やした。

「痛ッ!」

 服から染み込んだ毒液が左腕に少量付くと、針に刺されたような痛みが走った。
 カズは即座に〈キュアヒール〉を数度使用して、毒液の付いた部分を治癒する。
 赤紫色の跡が残ったが痛みはなくなった。
 念の為に自身に分析を使い、左腕の状態を調べたが、跡が残っただけで毒の効果は消えていた。
 毒液を避ければ周囲の草木が枯れ果て、直撃すれば毒耐性を持っているカズでも痛みを伴う程の猛毒。
 土にも影響を及ぼすようであれば、雨によって流された毒液が畑に入り、土壌が駄目になってしまう恐れがあった。
 これでは畑から離れていても意味をなさない。
 治癒を終えてそんなことを考えていると、ヘルバイパーが10メートル程の所まで接近して来ていた。

 カズに接近しながら、ヘルバイパーは口から毒液を噴射させる。
 避ければ草木に掛かり、地面にも染み込む。
 かと言って防ぐ様な盾を持っている訳でもない。
 ならばとカズは飛来する毒液を〈クイックフリーズ〉で凍らせる。
 凍った毒液が宙にある間に【アイテムボックス】に収容する。
 ヘルバイパーとカズとの距離が少しずつ縮まり、何度かその攻防が繰り返さる。
 ヘルバイパーが毒液を噴射しなくなると、カズが使っていたクイックフリーズ氷結魔法を浴びて、少し口の周りが白くなっていた。
 避けもせずに毒液を口から噴出して、カズを攻撃していた結果だった。
 頭部付近が冷えたにも関わらず、ヘルバイパーの動きが鈍くなる様子はなかった。
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