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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
517 衝撃の事実
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客人用だと案内されたが、五人は余裕で入れるタイル張りの浴槽があった。
カズは衣服を脱ぎ、用意されていた石けんを使い全身を洗い浴槽に浸かりくつろぎ思う。
出発前よりカミーリアが、しおらしくなった気がする、と。
「くあぁ~、やっぱり風呂は良い。溜まった疲れがどっと抜けてく」
「それは良かったです。レオラ様も入浴が好きと聞いていましたが、カズ殿も同じなのですね」
「それはもう……カミーリアさん!? なんで入って来てるの!」
カミーリアが大きめのタオルを巻き、シャワーを頭から浴び、髪を洗い出していた。
「わ、私も恥ずかしいんです。ですが、アイリス様をお待たせする訳にはいかないので、カズ殿には申し訳ありませんが、一緒に入らさせてもらってます。それに……」
「だからって(ここ客人用じゃなかったか?)」
カズが視線を壁に向けてる間に、カミーリアは全身を洗い終え、タオルを外して湯に浸かった。
互いに黙ったまま湯に浸かり、五分程の沈黙の後、カミーリアが口を開いた。
「実はカズ殿に言わなければならない事がありまして」
「な、なんでしょう(こんな所じゃなくても)」
カミーリアは壁を向くカズに寄り、背中をくっつけて話す。
背中にカミーリアの感触が伝わり、カズは声に出せない叫びが顔に出る。
「こ、こちらを向いてもらえますか」
「いやッ、それは……(皇女の屋敷で、何をしようっての!)」
「お願いします。どうか」
「……わかりました(落ち着け、俺)」
覚悟を決めたカズは、ゆっくりとカミーリアの方を向いた。
「隠していて申し訳ありません。こ……これが、私です」
「ッ!!」
カズがゆっくり振り向くと、カミーリアは急に立ち上がり、両手を退けて隠していた局部をカズに見せた。
鍛えられた肉体は、皇女を守る騎士というだけのことはあった。
ただカズが驚きを隠せなかったのは、カミーリアの股間に見慣れた、しかも自分より大きな陰茎があったからだった。
「ご覧の通り、私は男です。ですが、心は女のつもりです。カズ殿が私を美人だと言ってくれた事はとても嬉しく、何度となく助けてくれたカズ殿に素性を隠すのは騎士して申し訳なく思い、告白した次第です」
「……」
思わぬカミーリアの告白で真実を知らされたカズは、呆然として声にならなかった。
「わ、私は支度がありますので先に出ます。カズ殿はゆっくりと温まってください」
浴槽の縁に置いてあったタオルを手に取り、カミーリアは浴室を慌てて出ていった。
それから十数分して、気持ちを落ち着かせたカズは浴室を出た。
カズは待機していた使用人の案内され、アイリス皇女の居る部屋に移動した。
使用人に案内されて来た部屋は、池の全体が見渡せるアイリス皇女の執務室。
室内には執務机に座るアイリス皇女の他に、侍女と女性騎士が一人と、先に来ていたカミーリアの四人。
案内して来た使用人は、カズを執務室に入るのを確認すると、屋敷の仕事に戻っていった。
「この書類で一段落着きますので、そちらでお待ち下さい」
「はい。わかりました(ちょっと気不味い)」
「こちらへどうぞ」
侍女が紅茶を淹れてテーブルに置き、カズはティーカップが置かれ所のソファーに座った。
書類仕事に区切りを付けたアイリス皇女が、執務机から移動して、カズの向かい側のソファーに座る。
「詳しく報告を聞きますので、カミーリアもそちらに座って」
「! あそこですか……畏まりました」
アイリス皇女がカミーリアに座るよう指定した位置はカズの隣だった。
風呂での事があり、二人の態度は余所余所しくなってしまう。
主人のアイリス皇女の前なので、カミーリアは気持ちを落ち着かせてソファーに座り、出発してからの事を報告した。
カズはアイリス皇女の質問に答えながら、源流の森であった出来事を話した。
ダンジョンが出来ており、アルラウネが高熱と夢遊病を起こす霧を作り出していたのが原因で、元凶のアルラウネを討伐したと。
カミーリアは終始足手まといになり、カズに迷惑を掛けてしまったと、正直にアイリス皇女に話した。
間違ってはいなかったが、自分を卑下にする発言は、付き添いを命じた皇女に恥をかかせるのではとカズに言われ、カミーリアは謝罪した。
自分を守る騎士がモンスターに敗北した事で、大きく成長出来ると期待し、アイリス皇女はカミーリアの不敬な発言を優しく微笑んで許した。
「源流の森であった事は以上です。元凶のアルラウネを討伐後、村に三日滞在して様子を見ましたが、問題なさそうだったので戻りました」
「御苦労様でした。調査を頼んだのに、解決して来てくれるとは、思ってもいませんでした。ありがとうございます」
「カミーリアさんが先陣を切ってダンジョンに入ったので、元凶を見つけられたんです」
「私は足を滑らせただけです。カズ殿が居なければ、あのモンスターに殺されていました。実力不足で不甲斐ない限りです」
「生きて戻って来てくれたのですから、次に備えて鍛えれば良いのですよ。わたくしからレオラちゃんに、修練してくれるように頼んでおきます」
「はい。ありがとうございます、アイリス様」
生きているから次があるとカミーリアは実感して、レオラに鍛えてもらえる事を喜ぶ。
「報告によりますと、今回の病は女性だけを狙ったものだと」
「はい。調子に乗ったアルラウネが、自ら言ってました。実際に事が済んだ後で村長代理から話を聞くと、夢遊病になったのは女性だけだと言ってました。熱は男性も出たらしいのですが、看病の疲労から出た熱だろうと」
「カミーリアを付けて正解でしたね。カズさんには、自分が男性だと伝えたみたいですし」
「はい。つい先程」
カミーリアは浴室での出来事を思い返して恥ずかしくなる。
カズは自分のと比較してしまい悲しくなり、もう三人の待つ川沿いの家に帰りたいと思った。
「アイリス様に報告もしたので、自分はそろそろ失礼させてもらいます」
「そうですか。ではその前に、一つカズさんに確認してもよろしいですか」
にこやかにしていたアイリス皇女が、真面目な表情をしてカズを見る。
「なんでしょうか?」
「男性のカミーリアが女性の格好をして、その事実を隠していた事を不快に思われますか?」
「見た目からカミーリアさんが女性だと勘違いしてたのは自分ですし、女性の格好をしてても自由だと思おます。アイリス様が側に仕える騎士として、その格好を許可しているのであれば、別に問題はないと思おます」
「わ、私を気持ち悪いとか、守ってもらっておきながら騙していたとか、カズ殿は思っていませんか」
アイリス皇女からの質問にカズが答え、それを聞いたカミーリアがカズの方を向き、自分の考えを話した。
「驚きはしましたけど、それだけです。ただ、もっと早くわかっていれば」
「わかっていれば?」
「ダンジョンを脱出するまで、崩れないような攻撃をしたのにと」
「どういう事でしょうか?」
カズが何を言っているのか、カミーリアは理解出来なかった。
「カミーリアさんを女性だと思っていたので、アルラウネの病にかかる前に倒してしまおうと」
「……! それであの時、魔法の威力を上げ過ぎたと。私は高威力になって、何が悪いのかと思ってました」
「場所が場所だけに、脱出手段がないなら、威力には気を付けないとなりませんから」
「……本当に私は不甲斐ない」
騎士としての実力不足を更に実感して、カミーリアはまた落ち込んだ。
「現在モンスターと戦うのは大抵冒険者ですから、皇女様の護衛騎士をしていたカミーリアさんがうまく立ち回れなくても仕方ないですよ。場所もダンジョン内でしたし」
「そうよカミーリア。レオラちゃんに鍛えてもらえればいいのよ」
「アイリス様……ありがとうございます。ありがとうございます、カズ殿」
自分を受け入れてくれたカズと、主人に優しくされて事で、カミーリアの目には涙が浮かんでいた。
ただ室内で待機していた一人の女性騎士は、同じアイリス皇女に仕える騎士としてカミーリアの姿が情けなく見えていた。
カズは衣服を脱ぎ、用意されていた石けんを使い全身を洗い浴槽に浸かりくつろぎ思う。
出発前よりカミーリアが、しおらしくなった気がする、と。
「くあぁ~、やっぱり風呂は良い。溜まった疲れがどっと抜けてく」
「それは良かったです。レオラ様も入浴が好きと聞いていましたが、カズ殿も同じなのですね」
「それはもう……カミーリアさん!? なんで入って来てるの!」
カミーリアが大きめのタオルを巻き、シャワーを頭から浴び、髪を洗い出していた。
「わ、私も恥ずかしいんです。ですが、アイリス様をお待たせする訳にはいかないので、カズ殿には申し訳ありませんが、一緒に入らさせてもらってます。それに……」
「だからって(ここ客人用じゃなかったか?)」
カズが視線を壁に向けてる間に、カミーリアは全身を洗い終え、タオルを外して湯に浸かった。
互いに黙ったまま湯に浸かり、五分程の沈黙の後、カミーリアが口を開いた。
「実はカズ殿に言わなければならない事がありまして」
「な、なんでしょう(こんな所じゃなくても)」
カミーリアは壁を向くカズに寄り、背中をくっつけて話す。
背中にカミーリアの感触が伝わり、カズは声に出せない叫びが顔に出る。
「こ、こちらを向いてもらえますか」
「いやッ、それは……(皇女の屋敷で、何をしようっての!)」
「お願いします。どうか」
「……わかりました(落ち着け、俺)」
覚悟を決めたカズは、ゆっくりとカミーリアの方を向いた。
「隠していて申し訳ありません。こ……これが、私です」
「ッ!!」
カズがゆっくり振り向くと、カミーリアは急に立ち上がり、両手を退けて隠していた局部をカズに見せた。
鍛えられた肉体は、皇女を守る騎士というだけのことはあった。
ただカズが驚きを隠せなかったのは、カミーリアの股間に見慣れた、しかも自分より大きな陰茎があったからだった。
「ご覧の通り、私は男です。ですが、心は女のつもりです。カズ殿が私を美人だと言ってくれた事はとても嬉しく、何度となく助けてくれたカズ殿に素性を隠すのは騎士して申し訳なく思い、告白した次第です」
「……」
思わぬカミーリアの告白で真実を知らされたカズは、呆然として声にならなかった。
「わ、私は支度がありますので先に出ます。カズ殿はゆっくりと温まってください」
浴槽の縁に置いてあったタオルを手に取り、カミーリアは浴室を慌てて出ていった。
それから十数分して、気持ちを落ち着かせたカズは浴室を出た。
カズは待機していた使用人の案内され、アイリス皇女の居る部屋に移動した。
使用人に案内されて来た部屋は、池の全体が見渡せるアイリス皇女の執務室。
室内には執務机に座るアイリス皇女の他に、侍女と女性騎士が一人と、先に来ていたカミーリアの四人。
案内して来た使用人は、カズを執務室に入るのを確認すると、屋敷の仕事に戻っていった。
「この書類で一段落着きますので、そちらでお待ち下さい」
「はい。わかりました(ちょっと気不味い)」
「こちらへどうぞ」
侍女が紅茶を淹れてテーブルに置き、カズはティーカップが置かれ所のソファーに座った。
書類仕事に区切りを付けたアイリス皇女が、執務机から移動して、カズの向かい側のソファーに座る。
「詳しく報告を聞きますので、カミーリアもそちらに座って」
「! あそこですか……畏まりました」
アイリス皇女がカミーリアに座るよう指定した位置はカズの隣だった。
風呂での事があり、二人の態度は余所余所しくなってしまう。
主人のアイリス皇女の前なので、カミーリアは気持ちを落ち着かせてソファーに座り、出発してからの事を報告した。
カズはアイリス皇女の質問に答えながら、源流の森であった出来事を話した。
ダンジョンが出来ており、アルラウネが高熱と夢遊病を起こす霧を作り出していたのが原因で、元凶のアルラウネを討伐したと。
カミーリアは終始足手まといになり、カズに迷惑を掛けてしまったと、正直にアイリス皇女に話した。
間違ってはいなかったが、自分を卑下にする発言は、付き添いを命じた皇女に恥をかかせるのではとカズに言われ、カミーリアは謝罪した。
自分を守る騎士がモンスターに敗北した事で、大きく成長出来ると期待し、アイリス皇女はカミーリアの不敬な発言を優しく微笑んで許した。
「源流の森であった事は以上です。元凶のアルラウネを討伐後、村に三日滞在して様子を見ましたが、問題なさそうだったので戻りました」
「御苦労様でした。調査を頼んだのに、解決して来てくれるとは、思ってもいませんでした。ありがとうございます」
「カミーリアさんが先陣を切ってダンジョンに入ったので、元凶を見つけられたんです」
「私は足を滑らせただけです。カズ殿が居なければ、あのモンスターに殺されていました。実力不足で不甲斐ない限りです」
「生きて戻って来てくれたのですから、次に備えて鍛えれば良いのですよ。わたくしからレオラちゃんに、修練してくれるように頼んでおきます」
「はい。ありがとうございます、アイリス様」
生きているから次があるとカミーリアは実感して、レオラに鍛えてもらえる事を喜ぶ。
「報告によりますと、今回の病は女性だけを狙ったものだと」
「はい。調子に乗ったアルラウネが、自ら言ってました。実際に事が済んだ後で村長代理から話を聞くと、夢遊病になったのは女性だけだと言ってました。熱は男性も出たらしいのですが、看病の疲労から出た熱だろうと」
「カミーリアを付けて正解でしたね。カズさんには、自分が男性だと伝えたみたいですし」
「はい。つい先程」
カミーリアは浴室での出来事を思い返して恥ずかしくなる。
カズは自分のと比較してしまい悲しくなり、もう三人の待つ川沿いの家に帰りたいと思った。
「アイリス様に報告もしたので、自分はそろそろ失礼させてもらいます」
「そうですか。ではその前に、一つカズさんに確認してもよろしいですか」
にこやかにしていたアイリス皇女が、真面目な表情をしてカズを見る。
「なんでしょうか?」
「男性のカミーリアが女性の格好をして、その事実を隠していた事を不快に思われますか?」
「見た目からカミーリアさんが女性だと勘違いしてたのは自分ですし、女性の格好をしてても自由だと思おます。アイリス様が側に仕える騎士として、その格好を許可しているのであれば、別に問題はないと思おます」
「わ、私を気持ち悪いとか、守ってもらっておきながら騙していたとか、カズ殿は思っていませんか」
アイリス皇女からの質問にカズが答え、それを聞いたカミーリアがカズの方を向き、自分の考えを話した。
「驚きはしましたけど、それだけです。ただ、もっと早くわかっていれば」
「わかっていれば?」
「ダンジョンを脱出するまで、崩れないような攻撃をしたのにと」
「どういう事でしょうか?」
カズが何を言っているのか、カミーリアは理解出来なかった。
「カミーリアさんを女性だと思っていたので、アルラウネの病にかかる前に倒してしまおうと」
「……! それであの時、魔法の威力を上げ過ぎたと。私は高威力になって、何が悪いのかと思ってました」
「場所が場所だけに、脱出手段がないなら、威力には気を付けないとなりませんから」
「……本当に私は不甲斐ない」
騎士としての実力不足を更に実感して、カミーリアはまた落ち込んだ。
「現在モンスターと戦うのは大抵冒険者ですから、皇女様の護衛騎士をしていたカミーリアさんがうまく立ち回れなくても仕方ないですよ。場所もダンジョン内でしたし」
「そうよカミーリア。レオラちゃんに鍛えてもらえればいいのよ」
「アイリス様……ありがとうございます。ありがとうございます、カズ殿」
自分を受け入れてくれたカズと、主人に優しくされて事で、カミーリアの目には涙が浮かんでいた。
ただ室内で待機していた一人の女性騎士は、同じアイリス皇女に仕える騎士としてカミーリアの姿が情けなく見えていた。
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