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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
516 源流の森から湖畔の屋敷へ
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アルラウネから無数の鋭く尖った枝が、カズ目掛けて放たれた。
「避ければ後ろの女が死ぬぞ」
放たれた攻撃の直線上にはカミーリアが居る。
カズが避けずとも数十本もの鋭く尖った枝が、カミーリアを襲うのは確実。
「避けなければいいんだろ(カミーリアさんが発病する前に倒さないと)」
カズはカミーリアの周囲に〈バリア・フィールド〉を張り、アルラウネから放たれた無数の鋭く尖った枝に対しては、火属性の〈ファイヤーボム〉を起こして吹き飛ばした。
アルラウネが放った攻撃は二人に当たる事はなく、ダメージを負ったのは火が弱点のアルラウネだけ。
だがダメージは微小なもので、すぐに回復する。
地の利は完全にアルラウネにある。
「あなた厄介ね。でもその程度では、あたしを倒す事は出来ない。長期戦になれば、こちらが優位。溜め込んだ魔素で、あたしはまだまだ回復出来るもの」
「だろうな。だが、植物系のモンスターは火が弱点。そして、モンスターには核がある。だろ〈ファイアージャベリン〉」
ファイアーボムで一瞬怯んだ時に、カズは【万物ノ眼】で、アルラウネの魔核の位置を特定していた。
そこで火の槍を魔核目掛けて放った。
アルラウネは危険を感じ、池に浸かり濡れていた太い木の根を盾にして、火の槍を防いだ。
濡れた太い木の根には大きな穴が空き、その部分は燃えて炭と化していた。
この一撃でカズが使う魔法の威力を実感したアルラウネは、急所である魔核を隠す為に、女性の姿を止めて木と同化した。
「これでどこから攻撃されるかも、コアの場所もわからないだろ。さて、その女をゆっくりと生きたまま吸収したかったが止めだ。おまえの目の前で女を殺して、苦痛を浴びせてから吸収するとしよう」
「貴様のようなモンスターに、殺られたりするものか!」
「威勢はいいが遅い。心地良い悲鳴を聞かせて、あたしの糧になりなさい」
鋭く尖った木の根が、背後からカミーリアを襲う。
迫る木の根に気付くのが遅れ、カミーリアが振り向いた時には、直撃するまで30センチもなかった。
カミーリアは剣を盾にして身を守ろうとするが、迫る木の根はカミーリアを守る為に掛けていたバリア・フィールドに阻まれ、触れた瞬間に粉砕した。
「さっきのファイアーボムで巻き込ませないように、カミーリアさんの周りにはバリア・フィールドが張ってある。残念だったな」
「おのれ!」
「興奮すると、魔力が乱れて位置がバレバレだぞ」
アルラウネが同化している木の根を、魔力を込めた火燐刀で斬る。
切断された部分は炭化し、回復も再生も出来ない。
アルラウネは小さな池に浸かっている木の根に移動し、失った魔力を補給する。
その事から小さな池の水が魔素の蓄積場所とされ、高熱と夢遊病を発症させる霧の原因だと、カズとカミーリアは確信した。
「カズ殿、あの水をなんとかせねば」
「わかってます。カミーリアさんはそこを動かないように。少々冷えますよ〈アイス・フィールド〉」
アルラウネが作り上げた空間が、カズの氷結魔法で凍り付く。
周囲の植物だけではなく、小さな池も底まで完全に凍り、アルラウネは魔力補給するどころか、同化も解けず身動きが取れなくなった。
小さな池の側に隠されたアルラウネの魔核の魔力を感知し、カズは火燐刀にさらなる魔力を込めて近付く。
「ま、待て、止めろ! あたしはまだ人魚共を殺してない。ここを去る、だから止めてくれ」
「殺してない? ならば水の底にある白骨はなんだ」
「ッ!」
「他へ移っても、そこで新たな犠牲者が出るのは明らかだ」
アルラウネの魔核を狙い一閃、火燐刀の青白い刃紋の残像が消えると同時に、一本の木の根を斬り落とし、切り口から炭化して即座に灰となる。
「ぐギャアァァ……」
アルラウネの最後の断末魔が消えると、源流の森に現れたダンジョンが崩壊を始めた。
「うわッ! カズ殿、これでは出口に間に合わない」
カズはトレカに戻った火燐刀を【アイテムボックス】に入れると、カミーリアの元に駆け寄った。
「剣を鞘に納めて、手を」
カミーリアは自身の剣を腰の鞘に納め、言われた通りカズの手を握った。
「ちょっと魔法の威力を上げ過ぎたみたいだ〈エスケープ〉」
カズが脱出の魔法を唱えると、次の瞬間二人はダンジョンの外に移動していた。
「ここは……ダンジョンの入口!?」
「危ないから離れますよ」
二人がダンジョンから脱出して、源流の森に戻ってから数分後、木の根のトンネルと数本の木が倒れ朽ち果てた。
「調査のつもりが、ダンジョン攻略とモンスター討伐になってしまいましたね」
「助かった…のですよね?」
「ええ。アイリス様に頼まれた事もこれで解決しましたし、とりあえず暗くなる前に村に戻りましょうか」
「そ、そうですね」
カミーリアはまだダンジョンから脱出して助かった事が、実感出来ずにいる様子で、村に戻るまでの間、何度も苔に足を取られて転びそうになっていた。
そして村の見える滝の上まで来ると、モンスターとの戦闘を経験した実感が湧き、今になって足が震えてきていた。
カミーリアの足の震えが治まるのを待ち、二人は村に戻り村長代理に源流の森であった事を話し、病になった村人が女性だけだと聞いて、男性には効果が無いのだとほぼ確信した。
二人が村に戻ってから三日滞在し、高熱と夢遊病の発症する原因の霧が発生しないのを確かめると、元居た村人達への説明は村長代理に任せて、二人は森を後にする。
滞在している間に、カミーリアからカズが使っていた魔法や武器について聞いてきた。
魔法に関しては調べればある程度は分かる事だったので話した。
火燐刀に関しては、特級品なので詳しくは秘密だとした。
手の内を容易く話せる筈がないとカミーリアは理解して、しつこく聞いて来たりはしなかった。
村を後にした二人は森を抜けて、停めてあった三輪車に乗り、カズの運転でアイリス皇女の屋敷まで一時間程の距離まで移動した。
体裁を保てる様に運転をカミーリアと交代して、アイリス皇女の屋敷に戻った。
トライクを倉庫に停めて屋敷に移動すると、薄汚れた二人を見た使用人が眉を顰た。
「その格好では、アイリス皇女様にお目通りは出来ません。体を清めて着替えてください。よろしいですね、騎士カミーリア」
「わかっています。アイリス様への報告は、カズ殿と共に身を清めてから伺うと、お伝え下さい」
「承りました」
「私はカズ殿を浴室に案内して、着替を取りに行きます」
「冒険者の方の着替えは?」
「それも私が用意します」
「いや、俺は大丈夫です〈クリーン〉」
自分だけ魔法でキレイにするのも何だと、カミーリアにもクリーンを掛けて汚れを落とした。
「確かに魔法で着ている物の汚れは無くなりましたが、アイリス皇女様にお目通りするには、先に身を清めていただく必要があります。よろしいですね」
「わかりました(報告を早く終わらせて帰りたかったが、風呂に入れるなら少しくらい遅れてもいいか)」
衣服の汚れが落ちたのを確かめられても、体の方までは確認が取れないので、浴室で体を洗い清める様に使用人から言われ、カズはカミーリアの案内で客人用の浴室に移動した。
久し振りの風呂で、カズの気分は良くなっていた。
「避ければ後ろの女が死ぬぞ」
放たれた攻撃の直線上にはカミーリアが居る。
カズが避けずとも数十本もの鋭く尖った枝が、カミーリアを襲うのは確実。
「避けなければいいんだろ(カミーリアさんが発病する前に倒さないと)」
カズはカミーリアの周囲に〈バリア・フィールド〉を張り、アルラウネから放たれた無数の鋭く尖った枝に対しては、火属性の〈ファイヤーボム〉を起こして吹き飛ばした。
アルラウネが放った攻撃は二人に当たる事はなく、ダメージを負ったのは火が弱点のアルラウネだけ。
だがダメージは微小なもので、すぐに回復する。
地の利は完全にアルラウネにある。
「あなた厄介ね。でもその程度では、あたしを倒す事は出来ない。長期戦になれば、こちらが優位。溜め込んだ魔素で、あたしはまだまだ回復出来るもの」
「だろうな。だが、植物系のモンスターは火が弱点。そして、モンスターには核がある。だろ〈ファイアージャベリン〉」
ファイアーボムで一瞬怯んだ時に、カズは【万物ノ眼】で、アルラウネの魔核の位置を特定していた。
そこで火の槍を魔核目掛けて放った。
アルラウネは危険を感じ、池に浸かり濡れていた太い木の根を盾にして、火の槍を防いだ。
濡れた太い木の根には大きな穴が空き、その部分は燃えて炭と化していた。
この一撃でカズが使う魔法の威力を実感したアルラウネは、急所である魔核を隠す為に、女性の姿を止めて木と同化した。
「これでどこから攻撃されるかも、コアの場所もわからないだろ。さて、その女をゆっくりと生きたまま吸収したかったが止めだ。おまえの目の前で女を殺して、苦痛を浴びせてから吸収するとしよう」
「貴様のようなモンスターに、殺られたりするものか!」
「威勢はいいが遅い。心地良い悲鳴を聞かせて、あたしの糧になりなさい」
鋭く尖った木の根が、背後からカミーリアを襲う。
迫る木の根に気付くのが遅れ、カミーリアが振り向いた時には、直撃するまで30センチもなかった。
カミーリアは剣を盾にして身を守ろうとするが、迫る木の根はカミーリアを守る為に掛けていたバリア・フィールドに阻まれ、触れた瞬間に粉砕した。
「さっきのファイアーボムで巻き込ませないように、カミーリアさんの周りにはバリア・フィールドが張ってある。残念だったな」
「おのれ!」
「興奮すると、魔力が乱れて位置がバレバレだぞ」
アルラウネが同化している木の根を、魔力を込めた火燐刀で斬る。
切断された部分は炭化し、回復も再生も出来ない。
アルラウネは小さな池に浸かっている木の根に移動し、失った魔力を補給する。
その事から小さな池の水が魔素の蓄積場所とされ、高熱と夢遊病を発症させる霧の原因だと、カズとカミーリアは確信した。
「カズ殿、あの水をなんとかせねば」
「わかってます。カミーリアさんはそこを動かないように。少々冷えますよ〈アイス・フィールド〉」
アルラウネが作り上げた空間が、カズの氷結魔法で凍り付く。
周囲の植物だけではなく、小さな池も底まで完全に凍り、アルラウネは魔力補給するどころか、同化も解けず身動きが取れなくなった。
小さな池の側に隠されたアルラウネの魔核の魔力を感知し、カズは火燐刀にさらなる魔力を込めて近付く。
「ま、待て、止めろ! あたしはまだ人魚共を殺してない。ここを去る、だから止めてくれ」
「殺してない? ならば水の底にある白骨はなんだ」
「ッ!」
「他へ移っても、そこで新たな犠牲者が出るのは明らかだ」
アルラウネの魔核を狙い一閃、火燐刀の青白い刃紋の残像が消えると同時に、一本の木の根を斬り落とし、切り口から炭化して即座に灰となる。
「ぐギャアァァ……」
アルラウネの最後の断末魔が消えると、源流の森に現れたダンジョンが崩壊を始めた。
「うわッ! カズ殿、これでは出口に間に合わない」
カズはトレカに戻った火燐刀を【アイテムボックス】に入れると、カミーリアの元に駆け寄った。
「剣を鞘に納めて、手を」
カミーリアは自身の剣を腰の鞘に納め、言われた通りカズの手を握った。
「ちょっと魔法の威力を上げ過ぎたみたいだ〈エスケープ〉」
カズが脱出の魔法を唱えると、次の瞬間二人はダンジョンの外に移動していた。
「ここは……ダンジョンの入口!?」
「危ないから離れますよ」
二人がダンジョンから脱出して、源流の森に戻ってから数分後、木の根のトンネルと数本の木が倒れ朽ち果てた。
「調査のつもりが、ダンジョン攻略とモンスター討伐になってしまいましたね」
「助かった…のですよね?」
「ええ。アイリス様に頼まれた事もこれで解決しましたし、とりあえず暗くなる前に村に戻りましょうか」
「そ、そうですね」
カミーリアはまだダンジョンから脱出して助かった事が、実感出来ずにいる様子で、村に戻るまでの間、何度も苔に足を取られて転びそうになっていた。
そして村の見える滝の上まで来ると、モンスターとの戦闘を経験した実感が湧き、今になって足が震えてきていた。
カミーリアの足の震えが治まるのを待ち、二人は村に戻り村長代理に源流の森であった事を話し、病になった村人が女性だけだと聞いて、男性には効果が無いのだとほぼ確信した。
二人が村に戻ってから三日滞在し、高熱と夢遊病の発症する原因の霧が発生しないのを確かめると、元居た村人達への説明は村長代理に任せて、二人は森を後にする。
滞在している間に、カミーリアからカズが使っていた魔法や武器について聞いてきた。
魔法に関しては調べればある程度は分かる事だったので話した。
火燐刀に関しては、特級品なので詳しくは秘密だとした。
手の内を容易く話せる筈がないとカミーリアは理解して、しつこく聞いて来たりはしなかった。
村を後にした二人は森を抜けて、停めてあった三輪車に乗り、カズの運転でアイリス皇女の屋敷まで一時間程の距離まで移動した。
体裁を保てる様に運転をカミーリアと交代して、アイリス皇女の屋敷に戻った。
トライクを倉庫に停めて屋敷に移動すると、薄汚れた二人を見た使用人が眉を顰た。
「その格好では、アイリス皇女様にお目通りは出来ません。体を清めて着替えてください。よろしいですね、騎士カミーリア」
「わかっています。アイリス様への報告は、カズ殿と共に身を清めてから伺うと、お伝え下さい」
「承りました」
「私はカズ殿を浴室に案内して、着替を取りに行きます」
「冒険者の方の着替えは?」
「それも私が用意します」
「いや、俺は大丈夫です〈クリーン〉」
自分だけ魔法でキレイにするのも何だと、カミーリアにもクリーンを掛けて汚れを落とした。
「確かに魔法で着ている物の汚れは無くなりましたが、アイリス皇女様にお目通りするには、先に身を清めていただく必要があります。よろしいですね」
「わかりました(報告を早く終わらせて帰りたかったが、風呂に入れるなら少しくらい遅れてもいいか)」
衣服の汚れが落ちたのを確かめられても、体の方までは確認が取れないので、浴室で体を洗い清める様に使用人から言われ、カズはカミーリアの案内で客人用の浴室に移動した。
久し振りの風呂で、カズの気分は良くなっていた。
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