人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

508 慣れ始めた帝都の暮らし と 知られた転移魔法

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 レオラの屋敷でビワがする主な仕事は掃除と食事を作る手伝い。
 その理由はカーディナリスがガザニアの面倒を見ながらだと、他の使用人を合わせても屋敷中の掃除に手が回らいからだと。
 食事の手伝いはするも、野菜の皮を剥いたり切ったりと、下働きのような事をする程度。
 流石に屋敷でレオラが口にする料理は、カーディナリスが作ると決まっていた。
 レオラとしては「ビワが作っても問題ないだろ。あちらの家では食べてるんだ。それに、ばあの仕事が少しは楽になるようにと雇ったんだぞ」と。
 するとカーディナリスが「この老い先短い老骨の食事は、姫様のお口には……姫様の温情で働かせていただきましたが、そろそろ夫婦揃って片田舎に隠居するのも悪くないでしょう」と、卑下ひげした言い方をした。
 話し合いの結果、レオラに出しても問題ない料理を、カーディナリスがビワに教えれば良いという事で落ち着いた。
 どうせ食事を作る時には、ビワが側に居るのだからと。
 それでもレオラの食事を作る際は、必ずカーディナリスが一緒に居る事が条件だった。
 これによりカーディナリスはレオラ好みや味付けなどを、ビワに教える事になった。

 その話を聞いたガザニアが「レオラ様に食べてもらるのならば、自分も料理を覚えたい」と言い出した。
 レオラへの想いが強いガザニアに、教えても大丈夫なのかと、カーディナリスは少々不安があったが、自ら積極的に使用人の仕事をするのは喜ばしく思えた。
 そしてガザニアは食材を洗ったり皮剥きをしたりと、厨房での下働きを積極的に手伝うようになった。
 ただ料理を殆どした事のないガザニアの手付きは、まるっきりの素人。
 それなのにビワに負けじと、手早さを重視するあまり食材を無駄にして、カーディナリスに叱られる羽目になっていた。
 同じ刃物でも剣と包丁では、まるで勝手が違うと苦戦していた。
 カーディナリスの仕事が大変になった理由がガザニアだと、それを見たビワは内心納得した。
 対抗意識から男のカズだけではなく、ビワのまで敵意を抱きそうな態度が見てとれたので、カーディナリスは心配すると共に、更に厳しくしつける必要があると考えた。
 カーディナリスの苦悩する日々は、まだまだ続く事になる。


 《 二ヶ月後 》


 ビワはこの頃になると、新しく作られた『魔素還元式原動機マナエンジン』を取り付けた大型の路線馬車に乗り、レオラの屋敷まで一人で仕事に通うようになっていた。
 朝はレオラの屋敷に一人で出勤して、帰りは暗くなる事もあったので、念の為にとアレナリアが迎えに行くようにしていた。
 時間によっては依頼を終えたカズが迎えに行く事もあったが、ガザニアと顔を会わせる可能性があったので、迎えの頻度は少ない。
 それは帝都中央の治安が良いからこそ。

 ビワが働きに行くようになってから現在までの間に、レオラは従者の騎士を連れて五日に一度は息抜きだと訪れ、三度に一度は泊まっていた。
 この頃には三階の狭い方の部屋を、カズが使えるようにレオラと話をつけていた。
 レオラ皇女の警護として来てるなら、一緒の部屋に寝泊まりすればいいと意見して。
 レオラは特に渋い顔もせず、二つ返事て承諾したので、後日従者の騎士が使用するベッドを買いに行き、レオラの使う三階の部屋に運び込んだ。
 これにより狭いながらも、カズは自分の部屋を持てたことで、一階リビングのソファーで寝る事も少なくなった。
 ただ従者の騎士(アスターかグラジオラス)が、レオラと一緒の部屋に泊まっているのを、ガザニアの耳には決して入れないように気を付けていた。
 もし知られれば、同僚の二人だけではなく、ビワにまで危険が及ぶ可能性があったからだ。

 そしてこの間に、帝都冒険者ギルド本部からカズが受けた依頼は四回、その全てが地方にあるギルドの倉庫から素材の運搬。
 容量の多いアイテムボックスが使える者が見つからないのか、回収運搬の依頼を拒否しているのかは分からないが、嫌な顔をせずに受けるカズに声が掛かるようになっていた。
 第六皇女レオラ専属のAランク冒険者というより、冒険者ギルド本部の便利な運搬屋と化してきていた。
 戦闘狂でもないので、討伐依頼を好んでしたいとも思ってはない。
 運搬の報酬はそれなに良いので、カズとしては何の不満もなかった。
 ただ留守中にレオラがやって来ると、アレナリアを潰すほど呑ませる事もあったので、それにビワが巻き込まれないかが、カズの心配事だった。
 カーディナリスの注意もあり、レオラの酒飲み相手の犠牲は、今のところアレナリア一人ですんでいる。
 自分から二人に交ざりお酒を飲むようになったレラも、そろそろ危ないかも知れないと、ビワが話していた。


 《 十二日後 》


 カズはレオラに日時を指定された仕事を頼まれ、今朝から裁縫と刺繍の街バイアステッチの冒険者ギルドに出向いていた。
 仕事内容はレオラと同じ帝国の守護者の称号を持つ二人の迎え。
 一人はバイアステッチの冒険者ギルドマスターのミゼット。
 もう一人は帝国の従属トカ国キ町にある、小さな冒険者ギルドのマスターをしているグリズ。
 カズ達のパーティー登録をして、自分の種族名を付けたパーティー名を与えた人物。
 バイアステッチまで来ているとレオラの元に知らせがあり、二人と面識のあるカズに迎えを任せた。

 何故カズが迎えに選ばれたかというと、泥酔したアレナリアとレラが口を滑らせ、カズがゲート転移魔法を使えるのを話してしまい、それを知ったレオラが「迎えには行ってくれ。連絡はしておく」と、断れない空気を出し、強引に押し切られて行く羽目になった。
 ただゲートで移動出来る距離は知られていないため、帝都中央からバイアステッチまでは、数回に分けて転移魔法ゲートを使用しなければ着かないと、レオラに説明した。
 当然アレナリアとレラは禁酒させてあり、レオラにも酒は飲ませないようにと、カーディナリス伝で言ってある。

 現在居る帝都中央からバイアステッチまでなら、一度のゲートで行く事が出来るのだが、他者に知れ渡った時の予防策として、表向きそこまでの超長距離は出来ない事にした。
 ゲートで移動出来る距離に限界があるのかは、実際カズ自身も知らないのだから、完全に嘘という訳ではない。
 100キロや200キロの長距離なら可能だが、数千数万キロの超長距離を移動出来るかは、現在まで試してないので、今のところ不明。


 そして裁縫と刺繍の街バイアステッチから1キロ程離れた所で、カズは二人の人物が来るのを待っていた。
 前日に届くように、バイアステッチの冒険者ギルドマスターのミゼット宛に、レオラが手紙を送っていた『街の外に迎えの者が待っている。グリズと二人で翌日の朝向かわれたし。レオラ』と、迎えの者カズの名を伏せた内容で。
 レオラの紋章が使われており、ギルド伝で送られて来ているので、偽物ではないとハッキリしていた。

 翌朝支度を整えたミゼットは、グリズと二人で指示された場所に徒歩で向かい、街を離れて人気が無くなった辺りまでやって来た。

「本当にこんな所に迎えが居るのか?」

「確かに。わいもそう思うが……ん? あそこに誰か居るぞ」

「どうも久しぶりです、グリズさん。ミゼットさん」

「カズじゃないか」

「迎えを寄越したって、あんたのことだったの」

「レオラか…様から聞いてませんでしたか?」

「誰とまでは手紙に書いてなかった」

「では移動手段も」

「ここに来るようにとだけ指示があっただけ。見たところ馬車は無いようだけど」

「レオラが…様が昼食を一緒にと言っていたので、それまでには着くようにします」

「わい達に全力で走って行けとでも言うのか? それでクラフトに着いて列車に乗っても、今日中には着かないぞ」

「数回に渡って移動します。他言無用でお願いします〈ゲート〉」

 カズが魔法名を唱えると、空間の一部に僅かな歪みが生じた。

「先に俺が行きますので、続いて来てください」

 歪んだ空間にカズの姿が消える。

「!! 転移系の魔法か!」

「なるほど、あの時これで移動したのね。先に行くよグリズ」

 ミゼットは歪んだ空間を通り、別の場所に移動したのを確かめると、以前カズ達が関わったアラクネ誘拐事件の事を思い出し、カズが短時間で移動した謎が解けた。
 このゲート転移魔法を使ったのだと分かり、引っ掛かっていた疑問が解消されてスッキリした。

「本当に転移したのか。ここは……どこだ?」

 グリズが移動して目にしたのは、人気のない岩山。

「ここはクラフトにある鉱山の奥です。人に見られたくないので、最初にはここに移動しました」

「一瞬でクラフトまでか」

「人目の付かない場所を選んで、これを何度か繰り返します。帝都中央までは遠いので、途中で休みながらになりますが」

「当然だな。三人をこの距離転移させて、それも何度となると、魔力消費が激しいだろう」

「そんなところです(本当は魔力消費は少ないし、全然余裕なんだけど)」
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