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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

506 お試し仕事 と 取られた部屋

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 アレナリアは忘れたとは思われたくはなかったのか、来るなり取り繕うように、お帰りと言う。
 カズの投げ遣り発言の仕返しなのか、レラは適当な感じのお帰りだった。
 カズもそれを何となく感じていたのか、何時ものごとく軽い感じで返事した。

「カズはお風呂どうするの? 夕食の後にする?」

「今日はサッと入って済ませるかな」

「でしたら、夕の食前に入ってきますか?」

「そうするよ。浴槽にお湯は?」

「まだ栓は抜いてません。夕食後に掃除をしようと思ったので」

「なら俺が出る時にやっておくよ」

「ごはんはカズが出てくるまで待ってるの? あちし、お腹空いてるんだけど」

 料理は出来てるのに、それを前にして待てはないだろうと、レラは少し不機嫌な顔をする。

「先に食べてればいい」

「だよね。カズならそう言うと思った。いただきま~す」

 レラは早速とばかりに、薄切りにされたローストポークを頬張り、ならばとアレナリアも続いて食べ始めた。
 カズは着替えを持って脱衣場に移動して衣服を脱ぎ、全身洗って浴槽に浸かった。
 浴槽の湯はまだ十分温かく、足を伸ばしてゆったりと浸かる。
 黄色い毛が一本浮いているのを見つけ、今さっきまでアレナリアとビワが同じ湯に浸かっていたと妄想していまい、サッと済ませると言っておきながら、二十分も入ってしまった。
 一部分の熱が治まったところで浴槽の栓を抜き、風呂場に〈クリーン〉を掛けて出る。
 服を着てリビングに戻り夕食にする。
 アレナリアとレラはほぼ食べ終えており、ビワも半分程度まで減っていた。

「サッとの割に長かったわね」

「疲れがお湯に溶けてくみたいで、すぐに出るのが惜しくなった」

「あちし達が入ってたお湯に浸かって興奮したとかで、すぐに出てこれなかったんじゃないの」

「そうなのカズ? そうなの!」

「はいはい、そうだな(ここは軽く流しておこう。変に否定すると、本当に感づかれる)」

「カズさんの分は延びないように、少し硬めに茹でておきました」

 ビワはオリーブオイルと塩と細かくした香草を、茹でてあったスパゲッティに和えてカズに出した。

「ありがとうビワ。そうそう、行った先のギルドで急な依頼を受けて、報酬としてバレルボアの肉を貰ってきたんだ」

「バレルボアですか?」

「熟成肉みたいで美味しいとかで、それ目当てで狩りのする時期になると、わざわざ買い付けに来る商人がいるらしいよ」

「そうなんですか」

「ちょっとちょっと、待ってよカズ。なんでごはん食べた後に、そんな美味しそうなお肉があるなんて言うの!」

「忘れてた」

「忘れないでよ! 片付けるのちょっと待って、ビワ。今、お腹に隙間あけるから。一口分だけ焼いて」

「明日にしろ明日に。朝だと重いだろうから、昼に少しだけビワに焼いてもらえ」

「ビワはレオっちのお屋敷に行くから無理だよ」

「レオラの屋敷に? 本当なのビワ」

「あの…はい」

「カーディナリスさんが手伝いが欲しいって最近言ってたみたいで、ビワが料理を作れて、更にメイドをしてたってのを知ったら、レオラが働きに来いって」

「私が皇女様のお屋敷で働くのは、ちょっと無理だと思ったんですけど、カーディナリスさんが数日だけでいいからって」

「レオラは雇う気満々だったみたいよ。カーディナリスさんが無理強いはいけませんて。それから何だかんだあって、明日から三日間だけ試しに行くことになったの」

「大丈夫ビワ?」

「お仕事はメイドをしていた頃と変わらないようですし、なんとかやってみます。せっかく誘っていただきたお仕事ですから」

「一応、私も付いてくから大丈夫よ。送り迎えもあるしね。あ、カズは来ない方がいいって。ガザニアが居るから」

「俺の居ない間に何が……」

 全員が夕食を済ませた後、カズが留守にしていた間の事を、アレナリアとビワから話を聞き、同様にカズも依頼で向かった町の様子や、急にやる事になった依頼と、その報酬について話した。
 そこで聞き捨てならない事があった。
 レオラがベッドに敷く布団やら、ちょっとした物書き用の机やら、衣服をしまっておく棚を三階の一部屋に置いていったと聞かされた。
 カズは急いで三階に上がり、自分が使っていた部屋に入って、明かりを点け確認した。
 すると確かにそこは、出掛ける三日前と様子が変わっていた。
 カズが使っていた布団は、もう一方の狭い部屋に移されているかと思いきや、そちらにはレオラの従者ようにと、ベッドには無かった筈の真新しい布団が置かれていた。

「俺が使ってた布団は?」

「置く所がなかったから、私の部屋にあるわよ」
 
 追い掛けて三階に上がって来たアレナリアに言われ、布団を取りに二階に移動した。
 そこには何故かベッドに二枚重った敷き布団があった。

「どゆこと?」

「畳んで置いてても邪魔になるでしょ。だったら重ねて使ってた方がいいかなって。 せっかくだしぃ、このまま私と一緒の部屋で寝てもいいんじゃないかな~」

 各階にあるちょっとした物置き部屋にでも置いておけばいいものを、わざと自分の部屋に運んだのだと、カズはアレナリアの顔を見て確信した。
 しかも畳んで置いてても邪魔になると言っておきながら、掛け布団は部屋の隅に二つ折りにし、それをわざわざ丸めて筒状して縛り立て掛けてあった。
 カズが丸めてある掛け布団に気付き、アレナリアに視線を移した。

「あれは、その……二枚は暑いから」

 部屋にアレナリアを残した状態で、カズは無言のまま扉を閉め、一階リビングに戻った。
 レラはソファーの隅っこでうたた寝をしており、ビワは翌日分の食事の仕込みをしていた。

「しょうがない奴だ。おいレラ、ここで寝るなよ」

「ふへぇ? いいの、いいの。後でビワにベッドまで連れてってもらうから」

「このぐうたらめ。はぁ…俺もビワの部屋で寝ようかな」

「え!」

「あ、ごめん冗談。俺はここで寝るよ」

「三階のお部屋では?」

「俺が寝てた部屋は、レオラの物が置かれちゃってるし、もう一部屋もなんか使いづらくてさ。敷き布団はアレナリアに取られたし、掛け布団は丸められてた」

「で…でしたら、私の部屋でいっ…」

「その気持ちだけでいいよ。あそこはビワの部屋だから俺が使う……今、一緒にって言おうとした?」

「あ…いえ…その……私とレラがアレナリアさんと一緒の部屋にすればと」

「それじゃあ狭いでしょ。別に寒くもないし、その内なんとかするから大丈夫。気を使ってくれてありがとう」

「とんでもないです。あの…明日お仕事があるので、もう休ませてもらいます」

「そうだね。早く寝た方がいい」

「レラは連れていきます」

「ぐうたらレラは、その辺に捨て置いてもいいけどね」

「失敗しましたけど、今日は夕食の支度を手伝って疲れたんですよ」

「ただ満腹で眠くなっただけだと思うけど。俺は」

「いつものレラですね。おやすみなさい、カズさん」

「おやすみ。ビワ」

 二階の寝室にレラを連れて行ったビワと入れ替り、アレナリアが丸めてあった掛け布団を持って下りて来た。

「ごめんなさい、カズ。怒ってる?」

「別に怒ってない。そうやって誘ってくるのは、いつもの事だろ」

「ここで寝るの?」

「とりあえずは。三階の一室はレオラの好きに使わせればいいだろ。一応は持ち主なんだし」

「明日レオラに言ってみようか?」

「別にいいよ。俺達はタダで住まわせてもらってるんだから。アレナリアも明日はビワに付いて行くんだろ。だったらもう寝た方がいい」

「そうする。いつでも私のベッドに入ってきて良いんだからね」

「気が向いたらな(ずっとここって訳にもいかないし、部屋の件はレオラに会った時にでも話してみるか)」

 毎度のごとくアレナリアの誘いをサラっと流して、カズはソファーで横になり就寝した。
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