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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

505 カーディナリスの視察

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 昼食を済ませると、カーディナリスは一通り家の中と、レオラが寝泊まりする三階の寝室を確認して一階に下りてきた。
 
「満足か? ばあ」

「お泊まりになる時は言ってください。お戻りにならなければ、こちらに確認に来ますよ」

「わかっている。ここに泊まると決めた時は、必ずばあに言う」

「こちらの皆さんにも、ちゃんと連絡をしてください。急に来て泊まると失礼になりまよ」

「子供じゃないんだ」

「ばあから見れば、姫様はまだまだ子供です」

「ここで本音を言うか」

「姫様がこちらで好き勝手しませんように、皆さんにも知っておいてもらおうと思った次第です」

「大丈夫よ、カーディナリスさん。レオラ様が無茶振りをするのは、わかってるから」

「そうでした。姫様の無茶な仕事を受けたんでしたね」

「ええ。無茶苦茶な討伐依頼をね(実際に討伐したのはカズだけど)」

「もし姫様が皆さんに、わがままを言うようでありましたら、是非ともこのカーディナリスに連絡してください。もう一度皇女してしつけ直します」

「必ず連絡するわ」

「だらかアタシは、もう子供じゃないんだぞ。そうだろグラジオラス。お前からも言ってやってくれ」

「じ、自分は…その……」

 なんとも答えづらい事を聞くレオラに、グラジオラスは答えることが出来ず、困った表情を浮かべていた。
 これ以上グラジオラスを巻き込んでは悪いと感じたレオラは話題を変えた。
 せっかく女同士なのだからと、女性専門(化粧品や下着)の店にでも行こうと提案し、六人は橋を渡った先の商店街に向かった。
 レオラが商店街で買い物を提案した目的の一つは、アスターと同様グラジオラスも目立たずに、街中で行動が出来るかを見る為でもあった。

 人通りの多い商店街に来るや否や、レオラの予想通りグラジオラスは周囲に目を配り過ぎ、一人だけ近寄りがたい空気を出していた。
 当のグラジオラス本人は、なすべきことをなしているだけなので、それが間違っているとは思ってない。
 この日グラジオラスは注意されたにも関わらず、レオラを様付けで呼んだしまった事で、危うく第六皇女だとバレそうになった事が何度かあった。
 カーディナリスは姫様からお嬢様に変えて呼んでいたが、レオラが却下して皆と同じように、さん付けにしてもらったていた。
 最初カーディナリスは食い下がってきたが、自分の性格上お嬢様は流石にないと、レオラはなんとかカーディナリスを説得して引かせた。
 こうして女性だけの買い物を終えて、六人は川沿いの家に戻った。


 《 二日後の夕方 》


 帝都南部の町から素材運搬依頼を終えて、帝都の冒険者ギルド本部に寄り、前回と同様、研究所兼倉庫の地下二階に行き、運搬してきた素材を【アイテムボックス】から出して報酬を受け取り、カズは歩いて川沿いの家に向かった。
 空いている辻馬車タクシーを探して、乗って戻る事も出来たが、長時間魔導列車で座っていたので、馬車に乗る気にはならなく、夕食前にお腹を空かせる運動と考えて歩く事にした。

「ふぅ(素直に大通りを歩いてれば……暗くなってしまったな)」

 二時間すれば着くと思っていたカズだったが、近道でと思い脇道に入ったが悪かった。
 道路の舗装工事をしていて、それを避けて一本路地を入り進むと行き止まりになり、更に道を迂回するも、結局は元の大通りに戻る事になってしまい、歩いて十分程度の距離を、三十分以上掛かった事が遅くなった原因だった。

「ただいま……?」

 家に入りリビングに行くも誰もいない。
 明かりは点き夕食の支度が途中までしてある。
 食べた形跡はなく、やけに香辛料の匂いが強かった。
 カズは手を洗いうがいをして、声のする方向に風呂があるのを思い出し、三人が一緒に入っているのだと、出るのをソファーに座り待った。

「いい匂いだ(これはなんだろう。ローストビー…いやポークかな? あとスープか? でもスパゲッティ細麺が置いてあったからなぁ。風呂に入る前に茹でたら延びきってしまうから、出てから茹でるんだろうな。しかし三人一緒に入るなんて、珍しい事もあるもんだ)」

 眠気が差してうとうとしていると、暑いと言いながら素っ裸のレラとバスタオル一枚を巻いたアレナリアとビワが、しっかりと体を拭けとレラを追い掛けて風呂から出てきた。

「あ! カズだ」

「え!?」

「……ッ!!」

 ビワだけが恥ずかしがり、急いで衣服を着に脱衣場に戻った。
 レラの騒ぐ声で浅い眠りから目が覚めたカズが見たのは、一枚のバスタオルに巻かれアレナリアとレラの姿。

「……! をいッ、なんて格好してるんだ。まかさビワも」

 ソファーから起き上がり、ぐるりと周りを見て、アレナリアと同じ様な格好をしているビワが居るのではと探した。

「ビワがそんな格好で出て来るはずないか」

「一枚だけでビワも出て来てたよ。カズがいるのに気が付いたら、服を着に戻っちゃったけどね」

「ついにビワが、アレナリアとレラに毒されたか」

「どういう意味よ」

「そうだ! そうだ!」

「そのまんまの意味だ。それよりそんな格好で、恥ずかしくないのか」

「カズにだったら見られても平気よ。見たい?」

 アレナリアは巻いているバスタオルの裾をちらちらとめくり、カズに生足を見せてくる。

「アレナリアはもう少しつつしみを持て。レラは……言っても聞かないだろうからいいや」

「カズの前だけだからいいじゃない」

「あちしだけ投げ遣りッて。もっと構ってよ」

「もういいから服着てこいよ。これから夕食なんだろ」

「そうだった! ビワぁ、あちしの服は?」

「ちょっ、引っ張ってかないでよレラ。まだちゃんと体も拭いてないでしょ」

 二人とも衣服を着に脱衣場に向かい、入れ替わってビワがリビングに入って来た。

「わ…私は、濡れたままのレラを追い掛けて出て来ただけで…」

 カズがアレナリアとレラに言っていた内容を聞いていたビワが、自分はバスタオル一枚でだらけるような事はしないと、その表情は語っていた。

「わかってる。二人の格好を見て、そんな事だろうと思った」 

 夕食の支度をしようと、エプロンを着けるビワの頬は、まだ少し赤らんでいた。
 それはお風呂に入ってたからなのか、恥ずかしかったなのかは、本人しか分からない。

「そうでした」

「ん?」

「お帰りなさい。カズさん」

「! ただいま。ビワ」

 目が覚めて最初に顔を合わせたアレナリアとレラは言ってくれなかったが、ビワがお帰りと言ってくれたのが、カズはとても嬉しく思った。

「これから夕食にしますが、カズさんは何か食べてきましたか?」

「中央駅を出たら、そのままギルドに依頼の報告に寄って戻って来たから、何も食べてないよ」

「でしたらすぐに作りますね。あとはパスタを茹でて、和えるだけですから」

 花のようなシャンプー洗髪剤の匂いを香らせるビワのサラサラの髪と、もふもふの尻尾にカズは目が奪われる。

「どうしました?」

 ハッと我に返り、視線をビワの尻尾から外した。

「あ、いや。そう、三人でお風呂に入るなんて、何かあったの?」

「それが、珍しくレラが夕食作りを手伝ってくれたんですけど」

「あぁ…なんとなくわかった。何かやらかしたんだ」

「香辛料の入れ物を振って撒き散らしてしまい、私の髪と尻尾が……。それでアレナリアさんが、どうせなら一緒にと。夕食もあとパスタを茹でるだけだったので」

「そうなんだ(ビワのもふもふの尻尾になんて事を…レラにはお仕置きがいるか)」

 ビワと話をしている間に、アレナリアとレラが寝間着姿になってリビングに戻ってきた。
 よくよく見ると、ビワが着けてるエプロンの下も新しい寝間着だった。
 三人は先日レオラ達と買い物に行った際に、お揃い寝間着を買っていた。

「ビワ、ごはん?」

「もう少し待ってて」

「その前に言うことあるでしょ。レラ」

「そうだった。お帰りカズ」

「お帰りなさい。カズ」

 ビワが帰宅の挨拶をカズにしたのを聞き、自分達もしなければと、も忘れてなかったように二人も言った。

「ああ、うん。ただいま」
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