522 / 714
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
504 留守中の来客
しおりを挟む
◇◆◇◆◇
工場が動き始めて町が活気づいてくる頃、遅い朝食を済ませたカズが冒険者ギルドに報酬を受け取りに向かった。
混む時間を避けてギルドに来たつもりだったのだが、予想外にも冒険者でごった返していた。
周りの冒険者の声に内容に耳を傾けると、前日大量にやって来たバレルボアの話をしていた。
他の街からやって来た冒険者が、バレルボアを狩る依頼が受けられないと騒いでいた。
狩りに出ていた冒険者達の報告を受けて、今回の狩りは、あと一度あれば良い方だとギルドは判断し、女性の職員が受付から出て、他の街から来た冒険者に説明していた。
カズは壁際を通って回り込み、回収依頼の話をしてきた男性職員の居る受付に移動し、報酬について尋ねた。
「バレルボアは解体は進んでる?」
「今朝早く解体所に運ばれて、一時間程前から解体作業が始まってます。狩りの依頼に行っていた冒険者から、加勢したと報告を受けてます。なので報酬を増やさせてもらいました。渡せる分の解体が終わるまでもう少しお待ちください」
「大した事はしてない。戻って来るのが遅くなるのが嫌だっただけだ。俺はバレルボアを一匹も狩ってはない」
「そういう事にしておきます。しかし増やした分の報酬は受け取ってください。冒険者達にも言われましたので」
「わかった。そういう事なら、ありがたく(自分達の報酬が減るんだから言わなくてもいいのに。たぶんあの仕切ってたCランクの人だな。借りはすぐに返す性分か)」
「三十分もすれば、報酬分の解体は終わってるはずです」
「それじゃあ、少しぶらぶらと町を見物したら、解体所に取り行くよ」
「伝えておきます」
「肉を受け取ったら、俺はそのまま列車に乗って町を戻る」
「わかりました。この度は急な依頼を受けていただき、ありがとうございました。中央駅行きの魔導列車は、あと二時間程で南の箱町駅に到着するはずです」
「二時間なら十分に間に合うか。ありがとう(帝都の南で色々な箱を作ってる町だから、南の箱町駅か。まんまだけど、聞けばどこかはすぐにわかるな)」
大小様々な形の容器を作る工場を見て回り、時間を潰してから解体所に行き、報酬のバレルボアの肉を受け取り、カズは南の箱町駅に向かった。
ギルドの男性職員から聞いた通りの時間に到着した魔導列車に乗り、カズは帝都中央に戻って行く。
《 二日前の昼間近 》
レオラが所有する川沿い家で、カズが冷蔵箱に置いていった食材を使い、ビワが六人分の昼食を作っていた。
「そろそろ来ると思うわ。急に三人分も増やしてごめんね。ビワ」
「種類を増やすのは時間が掛かるけど、量を増やすだけなら、カズさんが食材をたくさん置いてってくれたので大丈夫です」
「そう、よかった」
「そういえば、どなたが来るんです? 私が作る料理で大丈夫でしょうか?」
「コロッケを挟んだパンを、大口でかぶり付いて食べるような人だから大丈夫よ。ただ一人は旦那さんが、料理長をしてるってことだから、味に厳しいかもよ」
「コロッケを……それって」
帝都南部の町にある冒険者ギルドの倉庫に、カズが素材の回収に向かった当日の事。
アレナリアがカズと別れて、辻馬車を探して歩いていると、アスターがアレナリアを見付けて声を書けてきた。
主人のレオラや同僚のグラジオラスは居らず、珍しく一人だけで行動していた。
「ちょっどいい所で会った」
「珍しいわね。一人だけなの?」
「これから、そちらの所に行こうとしてた」
「何か用事?」
「本日の公務を終えたら、レオラ様が向かうと伝えに行くところだった」
「なんで? カズに用なら、今さっき依頼に行ったからいないわよ」
「そうなのか? わたしは詳しく聞いてなくて、それだけを伝えに行くところだった。今回はグラジオラスが共として一緒に向かう。あとはカーディナリスも行くそうだ」
「カーディナリスさんが?」
「ええ。レオラ様がそちらで食事を取ると聞いて、どんな物を出すか見たいのだろうと、わたしは思っている」
「あり得るわね。ビワに伝えておくわ。うちの食事は殆どビワが作ってるのよ」
「いや、それはしない方がいいだろう。おそらくカーディナリスは、普段の料理を見たいはずだ。レオラ様が行くと知ったら」
「そう言うことなら、ビワには悪いけど黙っておくわ。来客があるとだけ伝えてるわよ」
「それくらいなら構わないだろ。しかし、くれぐれも」
「わかってる(選りに選って、カズが出発した日に来るなんて。もしかして、それを狙って? でも、カーディナリスさんが一緒なら大丈夫かしら)」
誰が来るのかを聞かされていないビワだが、来客と聞いて少し手が込んだ料理にした。
新鮮野菜のサラダと、たっぷりの牛乳と野菜を使ったシチュー。
小麦粉から生地を作りトマトケチャップを塗って、こちらも野菜を多めのピザと、チーズと燻製ベーコンを刻んで多めに乗せたピザを、家に備え付けの、壁に埋め込み式の料理窯で焼く。
来客者が肉が苦手なことを考えて、シチューには肉を入れず、後から加えるようにし、ピザも燻製ベーコン抜きの野菜だけの物も用意した。
逆に野菜を好まない人ように、牛と羊と豚と鶏の肉をそれぞれ使った串焼きも用意した。
十数人分はある料理を見て、結局気合いを入れて作ってしまったんだと、アレナリアは思っていた。
レラがテーブルの下から手を出して、こそっと串焼きを一本摘まむ。
何時ものアレナリアなら、それを見つけたら注意するだろうが、レラが少々摘まもうがこの量は減らないと、今回は黙っていた。
レラが串焼きを二本摘み食いして、三本目に手を伸ばしたとき見つかり、ビワが叱ろうとしたところで三人の来客が訪れた。
レオラは家に入るなりリビングに移動し、ソファーに座って寛ぐ。
「いい匂いだ。皆で昼食にしよう」
「先ずは挨拶をされてからですよ。姫様」
「知った仲だ。そう堅苦しくしなくてもいいだろ。ばあ」
カーディナリスがレオラの代わり、挨拶をする。
「本日は姫様の無理をお聞きくださり、ありがとうございます。昼食を作ってるのはビワさんですか」
「あの…はい。お口に合うかわかりませんが」
「ばあ、長々と話してたら、せっかくの温かい料理が冷めてしまうぞ」
「そう急かせるものではありません。もう子供ではないんです。聞いてますか、姫様?」
「わかった、わかった。グラジオラスもこっちに座れ」
「いえ、自分は」
「そんな所に一人だけ立って見ていたら、皆が食べづらいだろ」
そういう性格だと知ってはいるものの、レオラと同じ席に着いて、食事をして良いものかと、グラジオラスは恐縮してしまう。
カーディナリスが料理を取り分けるのを手伝い、六人がテーブルに着き昼食を取る。
ビワは自分の料理が口に合うか緊張し、レオラとカーディナリスとグラジオラスの反応が気に掛かり、食事をする手が止まる。
三人が二口目、三口目と手を進めるのを見て、ビワはホッと胸を撫で下ろした。
「以前どこかで、料理を作る仕事をしてたの?」
食材の切り方や盛り付けなどを見たカーディナリスが、ビワに質問をした。
「あの…はい。貴族様のお屋敷で、メイドとし働いてました。そこでお食事も作ってました」
「それでなのね。手慣れてる感じがしたのは」
「それで…どうでしたか?」
「お屋敷で貴族を接待する料理としては、ちょっと庶民的過ぎるわね。味はいいわよ。とても美味しいわ」
「あ…ありがとうございます」
「これでアタシがここで食事をしても、何ら問題ないだろ。ばあも手が空いて、少しは楽になる」
「姫様が公務を手早く終わらせていただければ、私しの仕事が進み、楽になると思うのですが」
「ここで公務の話を出さないでくれ。息抜きに来ているんだ」
「そうでした。失礼しました」
「昼食の後で、三階の部屋をばあに見せるが構わないよな」
「それはいいですけど」
「ばあにアタシが泊まる部屋を見せておきたくてね。ガミガミ後から言われたらたまらない」
「つまり今日来たのは、カーディナリスさんに家を見せて、ビワの料理を食べさせるためですか?」
「そうだぞ」
今日来た目的を聞き、これでレオラがちょくちょく来るの確定だと思ったと同時に、面倒で少し嫌だとも思ってしまった。
工場が動き始めて町が活気づいてくる頃、遅い朝食を済ませたカズが冒険者ギルドに報酬を受け取りに向かった。
混む時間を避けてギルドに来たつもりだったのだが、予想外にも冒険者でごった返していた。
周りの冒険者の声に内容に耳を傾けると、前日大量にやって来たバレルボアの話をしていた。
他の街からやって来た冒険者が、バレルボアを狩る依頼が受けられないと騒いでいた。
狩りに出ていた冒険者達の報告を受けて、今回の狩りは、あと一度あれば良い方だとギルドは判断し、女性の職員が受付から出て、他の街から来た冒険者に説明していた。
カズは壁際を通って回り込み、回収依頼の話をしてきた男性職員の居る受付に移動し、報酬について尋ねた。
「バレルボアは解体は進んでる?」
「今朝早く解体所に運ばれて、一時間程前から解体作業が始まってます。狩りの依頼に行っていた冒険者から、加勢したと報告を受けてます。なので報酬を増やさせてもらいました。渡せる分の解体が終わるまでもう少しお待ちください」
「大した事はしてない。戻って来るのが遅くなるのが嫌だっただけだ。俺はバレルボアを一匹も狩ってはない」
「そういう事にしておきます。しかし増やした分の報酬は受け取ってください。冒険者達にも言われましたので」
「わかった。そういう事なら、ありがたく(自分達の報酬が減るんだから言わなくてもいいのに。たぶんあの仕切ってたCランクの人だな。借りはすぐに返す性分か)」
「三十分もすれば、報酬分の解体は終わってるはずです」
「それじゃあ、少しぶらぶらと町を見物したら、解体所に取り行くよ」
「伝えておきます」
「肉を受け取ったら、俺はそのまま列車に乗って町を戻る」
「わかりました。この度は急な依頼を受けていただき、ありがとうございました。中央駅行きの魔導列車は、あと二時間程で南の箱町駅に到着するはずです」
「二時間なら十分に間に合うか。ありがとう(帝都の南で色々な箱を作ってる町だから、南の箱町駅か。まんまだけど、聞けばどこかはすぐにわかるな)」
大小様々な形の容器を作る工場を見て回り、時間を潰してから解体所に行き、報酬のバレルボアの肉を受け取り、カズは南の箱町駅に向かった。
ギルドの男性職員から聞いた通りの時間に到着した魔導列車に乗り、カズは帝都中央に戻って行く。
《 二日前の昼間近 》
レオラが所有する川沿い家で、カズが冷蔵箱に置いていった食材を使い、ビワが六人分の昼食を作っていた。
「そろそろ来ると思うわ。急に三人分も増やしてごめんね。ビワ」
「種類を増やすのは時間が掛かるけど、量を増やすだけなら、カズさんが食材をたくさん置いてってくれたので大丈夫です」
「そう、よかった」
「そういえば、どなたが来るんです? 私が作る料理で大丈夫でしょうか?」
「コロッケを挟んだパンを、大口でかぶり付いて食べるような人だから大丈夫よ。ただ一人は旦那さんが、料理長をしてるってことだから、味に厳しいかもよ」
「コロッケを……それって」
帝都南部の町にある冒険者ギルドの倉庫に、カズが素材の回収に向かった当日の事。
アレナリアがカズと別れて、辻馬車を探して歩いていると、アスターがアレナリアを見付けて声を書けてきた。
主人のレオラや同僚のグラジオラスは居らず、珍しく一人だけで行動していた。
「ちょっどいい所で会った」
「珍しいわね。一人だけなの?」
「これから、そちらの所に行こうとしてた」
「何か用事?」
「本日の公務を終えたら、レオラ様が向かうと伝えに行くところだった」
「なんで? カズに用なら、今さっき依頼に行ったからいないわよ」
「そうなのか? わたしは詳しく聞いてなくて、それだけを伝えに行くところだった。今回はグラジオラスが共として一緒に向かう。あとはカーディナリスも行くそうだ」
「カーディナリスさんが?」
「ええ。レオラ様がそちらで食事を取ると聞いて、どんな物を出すか見たいのだろうと、わたしは思っている」
「あり得るわね。ビワに伝えておくわ。うちの食事は殆どビワが作ってるのよ」
「いや、それはしない方がいいだろう。おそらくカーディナリスは、普段の料理を見たいはずだ。レオラ様が行くと知ったら」
「そう言うことなら、ビワには悪いけど黙っておくわ。来客があるとだけ伝えてるわよ」
「それくらいなら構わないだろ。しかし、くれぐれも」
「わかってる(選りに選って、カズが出発した日に来るなんて。もしかして、それを狙って? でも、カーディナリスさんが一緒なら大丈夫かしら)」
誰が来るのかを聞かされていないビワだが、来客と聞いて少し手が込んだ料理にした。
新鮮野菜のサラダと、たっぷりの牛乳と野菜を使ったシチュー。
小麦粉から生地を作りトマトケチャップを塗って、こちらも野菜を多めのピザと、チーズと燻製ベーコンを刻んで多めに乗せたピザを、家に備え付けの、壁に埋め込み式の料理窯で焼く。
来客者が肉が苦手なことを考えて、シチューには肉を入れず、後から加えるようにし、ピザも燻製ベーコン抜きの野菜だけの物も用意した。
逆に野菜を好まない人ように、牛と羊と豚と鶏の肉をそれぞれ使った串焼きも用意した。
十数人分はある料理を見て、結局気合いを入れて作ってしまったんだと、アレナリアは思っていた。
レラがテーブルの下から手を出して、こそっと串焼きを一本摘まむ。
何時ものアレナリアなら、それを見つけたら注意するだろうが、レラが少々摘まもうがこの量は減らないと、今回は黙っていた。
レラが串焼きを二本摘み食いして、三本目に手を伸ばしたとき見つかり、ビワが叱ろうとしたところで三人の来客が訪れた。
レオラは家に入るなりリビングに移動し、ソファーに座って寛ぐ。
「いい匂いだ。皆で昼食にしよう」
「先ずは挨拶をされてからですよ。姫様」
「知った仲だ。そう堅苦しくしなくてもいいだろ。ばあ」
カーディナリスがレオラの代わり、挨拶をする。
「本日は姫様の無理をお聞きくださり、ありがとうございます。昼食を作ってるのはビワさんですか」
「あの…はい。お口に合うかわかりませんが」
「ばあ、長々と話してたら、せっかくの温かい料理が冷めてしまうぞ」
「そう急かせるものではありません。もう子供ではないんです。聞いてますか、姫様?」
「わかった、わかった。グラジオラスもこっちに座れ」
「いえ、自分は」
「そんな所に一人だけ立って見ていたら、皆が食べづらいだろ」
そういう性格だと知ってはいるものの、レオラと同じ席に着いて、食事をして良いものかと、グラジオラスは恐縮してしまう。
カーディナリスが料理を取り分けるのを手伝い、六人がテーブルに着き昼食を取る。
ビワは自分の料理が口に合うか緊張し、レオラとカーディナリスとグラジオラスの反応が気に掛かり、食事をする手が止まる。
三人が二口目、三口目と手を進めるのを見て、ビワはホッと胸を撫で下ろした。
「以前どこかで、料理を作る仕事をしてたの?」
食材の切り方や盛り付けなどを見たカーディナリスが、ビワに質問をした。
「あの…はい。貴族様のお屋敷で、メイドとし働いてました。そこでお食事も作ってました」
「それでなのね。手慣れてる感じがしたのは」
「それで…どうでしたか?」
「お屋敷で貴族を接待する料理としては、ちょっと庶民的過ぎるわね。味はいいわよ。とても美味しいわ」
「あ…ありがとうございます」
「これでアタシがここで食事をしても、何ら問題ないだろ。ばあも手が空いて、少しは楽になる」
「姫様が公務を手早く終わらせていただければ、私しの仕事が進み、楽になると思うのですが」
「ここで公務の話を出さないでくれ。息抜きに来ているんだ」
「そうでした。失礼しました」
「昼食の後で、三階の部屋をばあに見せるが構わないよな」
「それはいいですけど」
「ばあにアタシが泊まる部屋を見せておきたくてね。ガミガミ後から言われたらたまらない」
「つまり今日来たのは、カーディナリスさんに家を見せて、ビワの料理を食べさせるためですか?」
「そうだぞ」
今日来た目的を聞き、これでレオラがちょくちょく来るの確定だと思ったと同時に、面倒で少し嫌だとも思ってしまった。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
492
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる