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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

503 静観からの助力

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 ギルドに戻りながら、カズは男性職員から狩りの依頼について話を聞いた。
 レベルの低い駆け出しの冒険者にとっては良い相手となり、多くの報酬も入る一石二鳥の依頼だと。
 しかし低ランクの冒険者だけでは、バレルボアの身を傷付けて、せっかくの肉が台無しになってしまうことから、狩りに慣れたCランクの冒険者が必ず狩り場に着いて行く事になっている、と。

 カズはギルドに戻り男性職員が広げた地図で場所を聞くと、日が暮れる前に戻りたいからと、ギルドを出たら走って現場に向かった。
 町を出た辺りで【マップ】を操作して、人と獣の反応が多い場所が表示されるまで範囲を広げた。
 目的の狩り場までの距離は約12キロ。
 冒険者と思われる反応が十三人に対して、バレルボアと思われる獣の反応が三十匹以上。
 倒されて反応が減ると思いきや、逆に増えていった。
 カズは【マップ】の範囲を更に広げ、バレルボアが何処から来て、どれだけ居るのかを確認する。
 狩りが行われている場所から数百メートル程離れた場所に、八十匹以上の獣の反応があり、おかしな行動をしていた。
 何故か一匹ずつ列をなして、冒険者が居る狩り場へと移動していた。
 どうして列をなして移動するのかは、狩り場に着いく事で理由が分かった。

 狩り場は木々の多く生える低い山の麓付近、そこには境界線として2メートル程の柵が二列、3メートル程離して数キロもの長さで作られていた。
 バレルボアが列をなしていたのは、柵の間を通っていたからだと判明した。
 山側の錆びていた柵の一部を壊し、もう片方の壊れている柵を無理矢理広げて、こちら側に出て来ていた。

 カズが着いた時には、土魔法の使える冒険者が土壁を作り、広げられた柵を塞いで出て来ないようにしてあった。
 それでもこちら側に出て来てしまっているバレルボアの数は既に五十匹を越えており、狩りに来ていた冒険者の半分は、疲労で動きが鈍くなっていた。
 八割のバレルボアは1メートル程だが、残り二割は一回り大きく、更にその中の数匹は2メートル以上はあった。

 カズは離れた所から、狩り場を仕切っていると思われるCランクの冒険者に声を掛けた。

「ギルドから頼まれてバレルボアの回収に来たんだが、手を貸した方がいいか?」

「加勢が一人だけ? かなり早く来たのを考えると、それなりに実力はあるんだろ」

「まあ、そこそこは。あんたらの報酬が減らないように、出来れば手を出さないでくれと、ギルド職員から言われてる」

「それじゃ加勢にならないだろ!」

「俺に言われても。一応、回収が目的で来たんだ。頼まれれば手は貸すが……」

 この時カズの視線は、作られた土壁に移っていた。

「あそこの土壁が壊されそうだが大丈夫か?」

 広げられた柵の所に作られていた土壁が、2メートル以上あるバレルボアによって、今にも壊されて突破されそうになっていた。

「ヤバいぞ。新たに壁を作れ!」

 仕切っているCランク冒険者が、土壁を作った冒険者にもう一度だと声を上げる。

「魔力の残りが少ない。さっきほどの壁は作れない」

「泣き言はいい。これ以上出て来られたら……既に対処出来ねぇんだ」

 周囲を走り回るバレルボアに注意しつつ、狩りに来た冒険者達が一ヶ所に集まり、疲弊した冒険者を庇いながら戦う。

「おい、あんた! バレルボアがこれ以上出て来ないようにしてくれ!」

「それだけでいいのか?」

「若い連中の報酬を減らさないように、出来るだけやるさ」

「そうか(全員が同じパーティーじゃないだろうに。面倒見のいい人だな)」

 バレルボアはカズにも向かって突進してきていたが、頼まれなければ倒さないでほしいと言われていたので全て回避し、壊れた柵の方に近付いて行き、土壁よりも頑丈な石壁を〈ストーンウォール〉で作った。

「こんなもんだろ。あっちは(三人が動けず、五人がそれを守って防戦一方。残りの四人が少しずつ数を減らしてるか。でもまだ四十匹は居るが大丈夫か?)」

 狩りに来た冒険者の状況を冷静に把握して、声が掛かるのを待った。
 討伐するだけならここまで苦戦しなかっただろうが、傷を増やすと腐敗か早く進み価値が下がってしまうため、急所を攻撃して一撃で仕留める必要があった。
 今回狩りに参加した低ランクの冒険者は、どうやら初参加らしいのが、会話から聞き取れた。
 苦戦してるのは、初参加の低ランク冒険者を庇いながら、狩りをしているからだろう。
 などと考えて冒険者達を静観すること十数分、バレルボアの数が減らなくなってきていた。

「おいあんた、加勢してくれ! これ以上はコイツらが危険だ!」

 へばってる低ランク冒険者を守りながら、多くのバレルボアの急所を狙って狩るのは限界だと、仕切っていたCランク冒険者がカズに加勢を求めた。

「そんじゃあ、とっとと済ませるか。狙いはひたい〈マルチプル・ロックオン〉あとは、身を焼かないように威力を落として〈ライトニングショット〉」

 冒険者達を取り囲むように走り回るバレルボアに狙いを定め、威力を落とし調整した電撃を撃ち込む。
 電撃が直撃したバレルボアが次々と倒れていき、二十秒と経たずに、狙ったバレルボアへの攻撃が終わった。
 五匹は仕留めてしまったが、残りの二十匹程は痺れて気絶しているだけ。

「殆どはまだ生きてる。とどめはあんたらがするといい。そうすれば報酬が入るだろ」

「あ……ああ。すまん」

 一瞬の出来事で、狩りに来ていた冒険者は、呆然としてしまっていた。

「柵向こうのバレルボアはどうするんだ?  あれも狩るのか?」

「一度の狩りでの獲物としては十分過ぎる。どうするかは、ギルドに報告して確認をしないと」

「とりあえずは、こちら側に来られないと思うが、追っ払った方がいいか?」

「出来そうなら、そうしてくれ」

「わかった。日が暮れる前に戻りた。だからそっちも行動してくれ」

「ああ、了解した」

 まだ動ける冒険者三人は、気絶しているバレルボアに止めを刺しに動いた。
 カズは柵へと足を進め、騒いでいるバレルボアの群れに向かって、《威圧》のスキルを控え目に使用した。
 ぞぞゾッと全てのバレルボアの体毛が波打つと、一斉に柵から離れて木々の間を抜け、山の向こうへ逃げ去って行った。

「あとは回収して、ギルドに戻るだけだ(どこでもイノシシ系の狩りは、低ランク冒険者の良い稼ぎってことか。そう言えば俺も、イノボアの討伐依頼とかやったっけなぁ)」

 カズは冒険者になった頃の事を思い出している間に、三人の冒険者がバレルボアに止めを刺し終え、代表としてCランク冒険者達がカズに近付いて来た。

「改めて感謝する。全て片付いたが、これだけの数を運べるのか?」

「アイテムボックスが使えるからな。そっちにも一人居ると聞いてるが」

「居るにはいるが、既に満杯で一匹も入らないらしい」

「なら残りは俺が運ぼう。この程度なら、なんら問題ない」

 カズは散らばっているバレルボアを、次々と【アイテムボックス】に回収していった。

「回収は終わった。そっちの具合はどうだ?」

「かすり傷程度だ。あとは疲労と極度の魔力減少で動けないだけだ」

「回復薬はあるのか?」

「一本だけ持っていたのを、分けて飲ませた。一時間も休めば、町まで戻れるくらい動けるようになるだろ」

「たった一本だけ? 毎回こんな事してるのにか?」

「そんなわけあるか。バレルボアの群れなんて、多くても三十前後だ。いつもはそれを半分にまで減らす狩りなんだが、どうも複数の群れが一斉にやって来たらしい。こんなのは初めてだ」

「イレギュラーって事か。俺は先に戻るが、大丈夫だな。無理そうなら回復薬を置いてくぞ」

「ありがたいが、遠慮しておく。若い冒険者には、この苦労が良い経験になる」

「無理せず気を付けて戻って来い。じゃあな」

「ああ、助かった」

 狩りに来ていた冒険者を置いて、カズは一人先に町へと戻った。
 ギルドに着くと男性職員に、回収してきたバレルボアを前日の冷凍倉庫に持っていって、そこで出して欲しいと言われ、共に向かった。
 回収してきたバレルボアを出すだけだったので、ダウンジャケットは着ずに地下一階に下りて【アイテムボックス】から、全てのバレルボアを出し、男性職員が数え終わるのを待ってからギルドに戻った。

「申し訳ありませんが、狩りの依頼に行った冒険者達にも話を聞かなければなりませんので、報酬の方が翌日になってしまいます。それにこの時間では、解体所が開いておりませんので」

「わかった。とりあえず明日の来る(さて、日も暮れてきたから飯にするか)」

 カズは大衆食堂で軽くお酒を飲みながら夕食を取り、前日と同じ宿屋で一泊した。
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