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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

501 態度 と 言葉遣い

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 全ての冒険者がギルドに報酬や素材の買い取り金を預け、何処の冒険者ギルドでも引き出せるようにすることが出来ない理由をサイネリアが説明する。

「アレナリア様の疑問ですが、高ランク且つ貴族の方から指名を受けられるような、信用ある冒険者であるからこそです。冒険者ギルドがそれをやってしまっては、金融関係の仕事を奪うことになってしまいます」

「そうよね。失言だったわ、ごめんなさい。便利だからと、冒険者ギルドが他の仕事を奪ってしまってはならない。だったわね」

 これは冒険者ギルドという組織が出来た当初から変わらず、決して変えてはならないこと。
 アレナリアは冒険者ギルドで働いていたにも関わらず、そのことをすっかり忘れていた。

「ご理解いただけて何よりです。最後にカズ様への依頼がございます」

「パーティーとしてじゃなく、俺だけに?」

「はい」

 依頼主は冒険者ギルド本部からで、依頼内容は素材の運搬。
 依頼の開始日は、カズが持ち込んだ素材の解体が全て修了する予定の七日後、その二日前。
 場所は帝都南部の町にあるギルドの倉庫から、鉱石と冷凍されたモンスターの素材を運搬してくること。
 カズが大容量のアイテムボックスを使用出来ることを知り、更にはレオラから運搬の仕事をやらせてはどうかと言われたのもあっての依頼だった。
 先日倉庫に行った際に、そういった話が上がっていたので、カズは自分のところに話が来るかもと覚悟はしていた。

「レオラ様に薦められては、やらなければなりませんね」

「では倉庫の場所を書いた地図と、管理している職員宛の手紙をお渡しします。二、三日で済む依頼ですので、倉庫が片付くのを考えて、五日後の出発前に取りに来てください」

「わかりました。五日後の朝に」

 カズは素材の買い取り額の内七百万を金貨で受け取り、残りを預ける事にしてギルド本部を後にした。
 家に戻りアレナリアには金貨二百枚を、ビワに金貨四百枚を渡して生活費にしてもらう。
 レラには商店街で買い物に慣れるまで、お金を渡さないようにした。
 持たせると数日で買い食いをして、全て使ってしまうとカズは考えた。
 レラはむくれていたが、アレナリアとビワもそれには同意した。
 この日の夕食後に珍しく、アレナリアがカズに強く意見をした。

「そうしないと、ダメか?」

「ダメよ」

 アレナリアがカズに注意したのは、ギルド職員サイネリアに対しての言葉遣いと態度。
 冒険者ギルド本部からしたら〝ユウヒの片腕〟は、レオラ帝国の第六皇女の後ろ盾を得ていると判断されてるに間違いないと、アレナリアは考えて意見した。

「ギルド職員のサイネリアに敬語を使うのは、私達を連れて行った皇女のレオラが、ギルドより下だと言ってるようなものよ」

「そうなるか」

「ええ。カズはステータス提示の事もあって、Aランク以上になるのを嫌がってたけど、今回はレオラの計らいで、ギルドに知られる事はなかったでしょ」

「ああ」

「それなのに、サイネリアに敬語を使っていては」

「……わかった気を付ける(慣れたつもりでも、人付き合いはやっぱり難しいなぁ)」

「そうして。それでサイネリアの態度が悪くなったら、私から言うわ(これでギルドでの失言失敗を、取り戻せるかしら)」

「アスターさん達にも、同じ様にした方がいいのか?」

「そっちは今まで通りでいいんじゃない。カズの話しやすいようにすれば。相手が敬語を使わなくていいって言ったら、その時にやめれば」

「そうだな」

 少々の不安もありながら、これからギルドでの話し方に、気を付けるようカズは心掛けた。

 運搬依頼に行く五日後まで、毎日四人で家の周辺を散策して道を覚えていく。
 そのついでに、レラに無駄遣いをしないよう、お金の使い方を学ばせた。
 家の周辺は治安も良く、昼間なら子供一人で出歩いても大丈夫。
 ただレラの場合は種族が種族なだけに、気を付ける必要があった。
 出掛ける際にはカズかアレナリアにイリュージョン変装魔法を掛けてもらい、小人の姿にする必要がある。
 元のフェアリーの姿で出歩かせる為には、皇女であるレオラの保護下であると、分かるようにしなければならない。
 しかし今のところ、それはしていない。
 第六皇女の保護下にあると知れ渡れば、レオラ自身が気晴らしに来れなくなると考えての事だろう。
 とりあえずは、フェアリーの姿のまま出歩かなければ、危険にはあわないだろう。
 毎回レラにイリュージョンを掛けるのは大変なので、イリュージョンを付与した装飾品を持たせることにした。
 商店街を見て回り探したが目ぼしい物がなく、レラと相談した結果、ビワに布製のチョーカーを仕立ててもらうことにし、留め具と魔法を付与する為の物は、カズが用意することにした。

 レオラに案内された商店街の小さな雑貨屋で、片方だけのくすんだ銀製のイヤリングを見つけ、カズは300GL銅貨三枚で購入した。
 店主の年配女性が不思議そうな顔をして、カズに使用目的を聞いてきた。

「小さな留め具を作るのに使うんですよ」

「そんなもの売れるわけないと思ってたけど、並べといてよかったよ。これで一食分にはなる。ダメ元で並べといてよかった」

「そうですか(雑貨屋というよりは、リサイクル店ぽいんだよな。この店)」

 店主の年配女性に、別の商店街の場所を教えてもらい、四人は少し足を伸ばした。
 そこで加工された魔鉱石や宝石を扱う店を見つけ、レラのチョーカーの飾りとして使用出来そうな風属性の小さな水晶を選んだ。
 アレナリアが物欲しそうに宝石類を見ていたが、レラのチョーカーに使う物を買いに来たのが目的なので、欲しがる前に水晶の代金を払って店を出た。

 家に戻り、くすんだ銀製のイヤリングを《錬金術》のスキルで変形させてチョーカーの留め具を作り、風属性の小さな水晶を《加工》のスキルを使い、魔力が蓄積する濃い部分を中心に削り出して、チョーカーに合う大きさにしてビワに渡した。


 そして運搬依頼に行く当日、地図と倉庫を管理するギルド職員宛の手紙を受け取りに、冒険者ギルド本部へとやって来た。
 そのまま出発するつもりだったので、一人で来る予定だったのだが、何故かアレナリアが付いて来た。
 ビワはレラのチョーカー作り、そのレラは大きさを合わせるのに、ビワと一緒に家で留守番をしている。

 カズは受付でギルドカードを提示してパーティー名を言い、サイネリアの名前を出す。
 三分程でサイネリアが地図と手紙を持って、奥から姿を現した。
 つい癖でサイネリアに敬語で話してしまうと、アレナリアが咳払いをして注意をうながす。
 カズがすぐタメ口に変えて話すと、サイネリアは少しムッとした表情をしたようだった。
 アレナリアがすぐに、カズが話し方を変えた理由をサイネリアに説明した。

「不慣れな話し方をしたのは、そういう事情ですか。急だったので変に思いましたが、別に不快には思ってませんよ」

「わかったでしょ。新人の冒険者じゃないんだから、下手に出てたらギルド職員に見下されるわ。今までだって、そういった職員いたでしょ」

「その通りですよ。カズ様はAランクの冒険者で、レオラ様から紹介された方なんですよ」

「すいません。わかり…」

「カズ」

「わかった。これからは、気を付けるよ。だけど、その様はやめてくれないか。慣れなくて、こそばゆい」

「では、カズさんでよろしいですか」

「はい。それでよろくお願いし」

「カズぅ」

「あ、よろく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 地図と手紙を受け取りギルドを出ると、アレナリアはビワとレラの待つ家に戻っていった。
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