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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

497 回収したモンスターの受け渡し

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 一階が受付で、二階と地下一階が素材の買い取り所。
 三階から上が研究施設となっている。
 地下二階から下は、大型の素材置き場として使われている。
 今回はモンスターその物を素材として持ってきているので、直接ギルド本部の地下二階から、大型の素材置き場に移動している。

 地下通路を通り、頑丈な作りの大きな扉を抜けると、天井まで20メートルはある広い空間に出た。
 倉庫の一角に重い荷物を運ぶための道具や台車が置いてあるだけで、他に素材らしき物は一つも置いてない。

「何も無いな」

「現在大きな素材は殆ど解体してしまい、この様にがらんとしてます。そのため、地方の倉庫から持って来ようという話になってるんですが、中々運搬を引き受けてくれる方がいなくて、この有り様なんです」

「ほう、運搬か」

 この後レオラが何を言うか分かる気がしたカズだったが、自分から言い出さない方がいいと、黙っておいた。 

「ご覧の通りです。ですので、こちらでしたら十分かと」

「これだけ広ければ大丈夫です。じゃあ出してますね」

 カズは【アイテムボックス】から、回収してきた全てのグラトニィ・ターマイトを出した。

「あとあれが卵で、これがクイーン・マザーの魔石コアです」

「そ、想像してたよりも、かなり大きいですね。魔石も50センチくらいありますね。一度にこれだけの素材を持ち込む事は、レオラ様でもありませんでした」

 サイネリアは最大のグラトニィ・ターマイト・クイーン・マザーと、その魔石を見て驚いていた。
 アレナリアとビワも実物を見たのは初めてで、少し引いていた。
 アスターに至っては、レオラの屋敷で見せられたグラトニィ・ターマイト・ポーンより、遥かに大きい個体を目にし、若干青ざめているようだった。

「これで〝ユウヒの片腕〟このパーティーを登録出来るだろ」 

「一応鑑定をしてみますが、これだけの実績があれば大丈夫かと思います」

「ならあとはサイネリアに任せる。買い取り金は、全部カズに渡してくれ」

「いいんですか?」

「構わない」

「あ! もう一つ別のモンスターの素材があるんですが、それも買い取ってもらえますか?」

「大丈夫ですが、どんなものですか?」

「大百足です」

「大百足ですか。大丈夫ですが、特に珍しいモンスターでもありませんし、そちらは大した金額にはなりませんよ」

「大百足……それはあれか、ダンジョンでの」

「やっぱり知ってましたか(バレてるなら、遠慮なく出せる。どうせいつかは売ろうと思ってたんだ)」

「ミゼットから聞いた話が本当なら、ただの大百足じゃないぞ。サイネリア」

「ミゼット様から聞いたと言いますと、少し前噂にあった特殊個体ですか?」

「それだ。出してみろカズ」

「ならそっちに出します(ここなら他の冒険者や職員がいないから、悪目立ちすることはないだろ。レオラの担当者なら、勝手に話したりはしないだろうし。たぶん)」

 以前職人の街クラフトに行った時に、ヤトコを探す目的で入ったダンジョンに居た、住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでの回収した素材を【アイテムボックス】出した。

「これがそうか」

 レオラは表面を軽く叩き、その硬さを確認した。

「生半可な武器じゃ傷も付けられんだろ」

 レオラの反応を見て、サイネリアも出された素材を触り確かめる。

「これは……調べてみないとわかりませんので、三日後に来ていただけますか。それまでに、グラトニィ・ターマイトあちらの方も終わらせておきます」

「わかりました(これで三ヶ月くらい暮らせるお金が入ればいいんだけど)」

 地下二階の倉庫からギルド本部に戻り、アレナリア以外の三人のギルドカードをサイネリアに渡して、パーティー〝ユウヒの片腕〟の仮登録が完了した。
 本登録は渡した素材の鑑定が終わってからの判断ということになった。
 グラトニィ・ターマイトと住壁鉱食大百足じゅうへきこうしょくおおむかでが大したモンスターではないと判断されれば、一ヶ月間の仮登録のままとなる。
 期間内に新たな成果を出さなければ、仮登録も無くなり、帝都の冒険者ギルド本部では依頼を受けられなくなるのだと。
 手短な説明をサイネリアから聞き終えると、倉庫に行く前レオラが頼んでいた馬車が用意出来たと連絡が来た。

 馬車に乗り冒険者ギルド本部を後にした六人は、レオラが以前に住んでいた家に向かった。

「ここ数日見てきたけど、前にアレナリアに聞いてた話とかなり違うな。帝国はもっと危険と言うか、冒険者も野蛮な連中が多いと聞いてた」

「私もそう思ってた」

 カズは帝都に実際に来て、他より発展した都市を見て感じた事を、アレナリアに耳打ちした。
 狭い馬車内では小声でも話すも、レオラにはハッキリと聞こえていた。

「おいおい、いつの話をしてるだ?」

「古い資料だったから、少なくとも八十年以上前かしら」

「帝国はオリーブ王国との貿易も交流も殆どない。フギ国やトカ国の商人連中なら少しはあるだろうが、情報がそこまで古いとは」

 カズ達の帝国に対する知識がかなり昔のものだと、レオラは呆れてしまった。

「国交を開いたりはしないのですか?」

「帝国からだと、大峡谷が障害だ。オリーブ王国からだと、砂漠があるだろ」

「帝国と王国では距離もあり、安全で速く移動出来る手段でもないと難しいと言うことですね」

「西の端にあるオリーブ王国から来る者は少ない。お前達には是非とも旅の話をじっくり聞きたいものだ」

「き、機会があれば(とは言うが、なくていい)」

 少しすると馬車が止まり、六人は掃除の終えたレオラの元住まいに向かった。
 建物に入るとアレナリアが一階のカーテンと窓を、ビワが二階にカズが三階に上がり、カーテンと窓を開けた。
 換気を終えて一階に戻ると、レオラはリビングのソファーに座り部屋の中を見回していた。
 
「しかしきれいになった。荒れてた庭も、元通りだ」

「幾つかの染みや傷はそのままにしてあります」

「汚れがキツくて取れなかったのか?」

「レオラ様の思い出があるのかもと、カズが言ったので。傷も直すにしても、レオラ様に聞いてからにしようと」

「わざわざそんなことを……まあ確かに、思い出すこともあるか」

 レオラは床にある染みと、柱にある傷に視線を移し微笑んだ。

「気にならなければ、傷や染みはそのままにしておいてくれ」

「消さなくて正解だったわね。カズ」

「ああ(誰でも昔を振り返る事がある。善しか悪しかは人それぞれ、レオラはどうだろう。俺は……)」

 カズは窓から外の川を眺め、ふと元の世界の自宅を思い出した。
 ビワは遠い目をするカズが気になり、そっと手を取りって顔を見た。

「カズさん?」

「ん、どうしたのビワ?」

「カズさんが、何となく寂しそうに見えて」

「そう見えた? 大丈夫なんともないよ(不思議とこういうのに、ビワは鋭いんだよな)」

「ビワ~、お昼を買いに行って来いってレオラさまが」

「すまないが、アレナリアと行って来てくれ。場所はアスターの話した。歩いて十分程度だ」

「あ…はい」

 レオラに頼まれて、アレナリアとビワはアスターの案内で、昼食を買いに出掛けた。
 レラも付いて行こうとしたが、カズが話があると残らせた。
 フェアリー妖精族についてレオラに聞く良い機会だと思ったのと、ラプフからレオラ宛の手紙をアレナリアが渡したのを思い出したからだ。

「なんだ。アタシと二人きりだと、困ることでもあるのか?」

「レラ…フェアリー妖精族について聞きたいことがあったんだ。ラプフさんからレオラ宛の手紙を読んだんだろ」

 レオラの冗談を軽く流し、カズは本題に入る。

「つれないなぁ。アタシは女として、そんなに魅力ないか?」

 レオラは自分の胸を両腕で寄せて、谷間が余裕で出来るくらいはあるぞとカズに見せる。
 一瞬視線をレオラの胸元に向けるが、すぐにそっぽを向き話を続ける。

「ラプフさんの同郷で、コンルさんてのが帝都に居ると思うが、連絡とってもらいたい」

「皇女の胸より情報が優先か」

「はいはい。立派なバストですね。それで連絡はとれるのか?」

「カズは小さいめの方が好みか。アレナリアは見た通りだが、ビワもそれほど大きくは…」

「俺の好みはどうでもいいから、コンルさんについて教えてもらえないか!」

 軽いため息を一つ吐き、レオラは胸を寄せていた両腕を戻し、コンルについて話した。
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