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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

494 決着 と 大掃除 1

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 中庭に面している部屋で見ている他の面々も、カズとガザニアの会話は聞き取れてない。

「女の敵? 何の事だ!」

「知らばっかくれるな! どうせ貴様も力に任せて、他種族の女性を食い物にする下衆だろう!」

「俺を誰と重ねてるか知らないが、八つ当たりはやめ…」

「黙れ! レオラ様には指一歩触れさせん」

「相変わらず聞く耳持たないか(気が進まなかったが、レオラの許可は出てるんだ)」

 全ての攻撃を木剣で受けている事で、ガザニアの苛立ちが更に上がり、剣撃が激しくなる。

「残り二分」

 レオラが言った残り時間を聞いたカズは、徹していた防御を攻撃へと切り替える。
 攻防が逆転して、今度はガザニアが防戦一方となる。
 次第にガザニアの手が痺れ、右から迫る木剣を剣の平で受けるも、勢いに負けて右脇腹に木剣が食い込む。

「かはッ」

 ガザニアは剣を落としてうずくまり勝敗は決した。

「ガザニア戦闘不能で、カズの勝利」

「今、ヒーリングを掛ける。骨は折れてないが…」

「ワタシに触れるな! 軟弱者にな…」

「強がるなガザニア。カズの好意を受けて、傷を治してもらえ。お前は敗者だ」

「レオラ様……はい」

 レオラに落胆されたと思い、うなだれたままのガザニアに、カズは〈ヒーリング〉を使い傷を癒した。
 アスターとグラジオラスの二人に、ガザニアを連れて執務室で待つようにレオラは指示した。
 その後レオラは、カズ達と共にカーディナリスが待つ部屋に移動した。

「すまない、遅くなった」

「この程度は想定の範囲内です」

「さすがだ、ばあ」

「騎士のお三方が居りませんが」

「執務室で待つように言ってある」

「模擬戦で何か御座いましたか?」

「思っていたより、薬が効き過ぎたらしい」

「そういう事ですか。ではお三方にも、紅茶を持って行きます」

「頼む。アタシも少ししたら行く」

 カーディナリスに執務室で待つ三人に飲み物を持って行ってもらい、レオラは席に着いたカズ達と用意された紅茶を飲み一服する。

「くつろいでないで、無茶苦茶な手合わせをさせた説明をしてくれるんだろうな」

 カズは怒ったような口調で、レオラに説明を求める。

「アスターとグラジオラスの二人に関しては、冒険者の戦い方を身を持って経験させるためと説明した通りだ」

「なんで真剣相手に、木剣で相手をしなきゃならないんだ!」

「実力差を考えての事だと、アレナリアにも説明した。現にアスターとグラジオラスの二人相手に、無傷で勝っただろ」

「だったらガザニアはどうなんだ。俺を嫌ってるのは知っているだろ」

「少々態度に問題があるとラプフから報告も受けていた。だからガザニアが自分からカズと模擬戦をしたいと言い出したのは、良い機会だと思ってやったんだ。アスターとグラジオラスの代わりにやると言い出したのを却下したのは、アタシが褒美の話をしたからだ」

「わかってる。だが、レオラのせいでガザニアからの当たりが、今まで以上に強くなるんだぞ。どうするつもりだ?」

「そこはこれからガザニアと話をして、本人がどうするかにもよる。予定ではこの後、皆で昼食を共にしようと思っていたんだが、それはまた後日にしよう」

「だったら私達は……! カズが来たからギルドにでも行く?」

「待て、回収してきたグラトニィ・ターマイトモンスターをギルドに渡すのに、アタシが同席する事になっている」

「また勝手に出掛けたら、カーディナリスさんに怒られるんじゃないの。って言うか、カズが回収したモンスターを見たいだけじゃないの」

「それもある……じゃない。ばあは大丈夫だ。ギルドに行くことは伝えてある。公務を終わらせてからになるが。悪いが、アタシの予定に合わせてもらうぞ。その時にカズと話もしたい」

「だったらレオラが住んでいいっていう家を見に行く?」

「そうしようか。まだ色々と文句を言いたいが、今は我慢しておく」

「そうしろ。掃除道具は一階の……二階だったかな? どこかに入ってるはずだ。好きに使ってくれ。アタシはそろそろ三人の所に行く。鍵は、ばあから受け取ってくれ」

 結局のところレオラとあまり話が出来ず、午後はレオラが以前に住んでいた家を見に行くことにした。
 レオラと入れ替るように紅茶を執務室に届けたカーディナリスが戻ると、紅茶とお茶菓子のお礼を言い、アレナリアが家の鍵を預かると、四人は屋敷を後にした。
 帝都の街中を少し見て回り昼食を済ませ、タクシーこと辻馬車に乗り目的地に向かった。
 辻馬車を降りると、アレナリアの案内で路地を入り、似た建物が並ぶ一軒の前に。

「中はホコリが積ってるから、口と鼻を覆った方がいいわ」

 アレナリアから中の状態を聞き、カズが【アイテムボックス】からタオルを三人分出し、各々顔下半分を覆い、預かった鍵を使い建物に入った。
 
「先に一階のカーテンと窓を開けて換気するわ。カズは付いて来て、ビワはそっちから裏口を開けて庭で待ってて。レラは肩掛け鞄そこからいいって言うまで出ない方がいいわよ」

「ほ~ぃ」

 アレナリアの指示で、一階の換気をして全員庭に出る。
 少し中を歩いただけなのに、衣服のあちこちにほこりが付き、長いこと使ってないのが、初めて来たカズとビワにも確かめるまでもなく分かった。
 カズとアレナリアが一階にある各部屋のカーテンと窓を空け、ビワとレラの待つ裏庭に出る。

「お! 川に面してるのか」

「ええ。流れも穏やかだし、立地としては良いと思うわ。ただ、結構補修が必要なのよね。カズのクリーンで、建物内くらいなんとなならない?」

「多少のほこりや濃い汚れじゃなければ大丈夫だろうが、あれだけ積もってるとどうかなぁ?」

「そうよね。王都でカズが住んでは家は便利だったのよね」

「あの家は特殊だったからな。さすがに帝都には無いだろうな」

「だったら地道に掃除しないとならないのね」

「まだ一階しか見てないんだろ。全部を見てから決めた方がよくないか?」

「じゃあ二階と三階も、窓を開けて換気する? 全身汚れるわよ」

「ここに決めて掃除するなら、同じ事だろ」

「よね。なら明るい内に開けてきましょう。空気が悪いけど、ビワは大丈夫?」

「大丈夫です。レラはどう?」

「あちしは裏庭ここにいる。鞄の中にいても、ホコリっぽいから」

「いいが、勝手にどっか行くなよ」

「わかってるって。子供じゃないんだから」

「不安だ」

「不安ね」

「不安ですね」

 三人揃ってレラが大人しく待っているとは、到底思えなかった。

「何さァ!」

「だったら、レラは庭の草取りしててくれ」

「えェ~」

「今朝の事を忘れたか?」

「……は~い」

「無理せずレラの力で抜けるのだけでいいからね」

 ビワの優しい言葉に、レラは面倒臭そうな顔をしつつも、渋々草取りを始める。
 アレナリアとビワは二階に、カズは三階へと窓を開けに、再度建物に入った。
 三人で建物内の窓を開けると、一階から掃除を始めた。
 大きな家具はそのままにして、ざっと部屋全体のほこりや汚れを落とし、その後カズが〈クリーン〉を使い、落としきれない細かな汚れ等を取り除いた。
 各部屋を同様の手順で掃除をおこない、日が暮れる前に一階の掃除を終わらせた。
 ただ各所気になった傷や濃い染みは、レオラに確認をするために、そのままの状態にしておいた。
 換気で開けていた窓を閉め、戸締まりして表の路地に出て、カズが全員に〈クリーン〉を掛けて、辻馬車に乗って至高の紅花亭に戻った。

 魔法で全身の汚れを落とすも、夕食の前にお風呂に入ろうという事になった。
 しかし、湯を浴槽に汲んでから順番に入るため、夕食が遅くなってしまうから、先に女性三人に入ってもらい、カズは食後に一人のんびりと入る事にした。
 レラが「一緒に入ればいいじゃん」と言い出した、アレナリアも「私もそれがいいと思うわ! ビワもそう思うわよね」と、興奮しながらビワに同意を求める。
 ビワは耳まで赤くして「それは…ちょっと……恥ずかしいです」と、拒否。

「今度はアレナリアがビワをからかうのか? ならお仕置きが必要だな」

 レオラの屋敷での一件と午後の掃除で疲れたカズは、このやり取りを早く終らせようと、アレナリアの耳を引っ張り怒った。

「ごめんなさい(あ、でも気持ち良いかも)」

「俺にじゃないだろ(アレナリアもレラも、人のふり見て我がふり直せだ。言っても、何それってレラが言うだろうが)」

「ごめんなさいビワ」

「こういうのは、あまりしないでください」

「気を付けます(……あまり?)」

 アレナリアはビワの応答に疑問を感じていた。
 結局夕食は作り溜めしてあるのを、アイテムボックスから出すだけなので、カズは三人が出てくるまで、リビングのソファーで寛ぎ待った。
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