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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

489 お互いの報告 と がんばった御褒美?

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 人混みを避けた方が早いと、少し遠回りをして至高の紅花亭に到着する。
 受付に支配人が居り、アレナリアと他三人の姿を見た支配人は、レオラ第六皇女から聞いていたパーティーだとすぐに分かり、カズに背おられたビワの様子に気付くと、昇降機でアレナリアが宿泊する部屋へと案内した。
 支配人が「お医者様を呼びましょうか?」と聞いてきたが、怪我や病気ではないので、カズが丁重に断った。
 ビワを寝室のベッドに寝かせ、三人は静かにリビングへと移動した。

「ビワは大丈夫そう?」

「部屋に入った時には、既に寝ているようだったから大丈夫だろう。混雑する列車移動で疲れがでたんだ。アレナリアと二手に別れる羽目になったのを、自分のせいだとずっと気にしてのも疲れた原因だろうな」

「あれはガザニアが悪くて、ビワのせいじゃないのに」

「俺とレラもそう言ったんだけどさ」

「ねぇねぇ、こっちに置いてあるリンゴ食べていい?」

 カズとアレナリアが話をしている間に、レラは部屋を物色して果物を見つけていた。

「別にいいわよ。ここの宿代はレオラが払ってくれるって言ってたから」

「そうなのか。だからこんな高級な宿に(やっぱり自分達で払えとか言われても無理だぞ)」

「明日、レオラの所から誰かが迎えに来るわ」

「ガザニアか?」

「わからない。他にアスターとグラジオラスって二人の守護騎士がいるから、そのどっちかも」

「その二人も、ガザニアみたいな?」

「それはないから大丈夫」

「そうか。ならよかった」

 アレナリアと話をしていると、レラがリンゴ一個じゃ足りないと言ってきたので、体調の悪いビワを起こさないように寝かせておき、三人で夕食にすることにした。
 料理は作り溜めしてあるのを、カズが【アイテムボックス】から出してテーブルに並べる。
 料理と言っても、この数日アレナリアが食してきた具材より劣りはする。
 が、慣れ親しんだカズとビワの味付けに、アレナリアは笑みがこぼれる。
 シックス・タウンに向かう途中で別れたからの話を夕食を取りながら、アレナリアに聞くつもりだったが、一向に手を止めようとしない。

 昨日は二日酔いで水以外殆ど口にせず、今日の朝は食べず、昼はレオラと一緒に。
 料理が口に合わない、皇族と一緒で緊張して食が進まない、という訳ではない。
 ただ、自分の取り皿からをこっそりくすねようとする食いしん坊レラフェアリー、それを注意するカズ、そして食事を用意するビワ内気な娘もいない。
 料理としては、レオラの食事を作るカーディナリスの方が上だが、大切な仲間達とする食事の方が、お腹だけではなく気持ちも一杯になると、アレナリアは改めて気付き、食べる手が止まらなかった。
 そんな事など露知らず、レラは負けじと鶏の串焼きにかぶり付き、串を投げ捨てようとしてカズに注意される。

「ゲップぅ~、ちょっと食べ過ぎたかも」

「かもじゃなくて食い過ぎだ。一応レラも女なんだから(前にも言ったような気がするけど)そんな豪快にゲップを」

「いいじゃん。あちし達だけなんだから」

「レラならレオラ様の前でも、平気でやりそうで不安」

「レオラ?」

 アレナリアがレオラに敬称をつけたので、カズは不思議そうな顔をした。
 それ気付いたアレナリアが、敬称を付けた理由を話す。

「ガザニアかレオラ一人ならともかく、他の人達がいる前ではさすがにね。レオラには自分一人や、カーディナリスさんと二人だけの時なら必要ないって言われたんだけど、カズ達と合流する前に失敗して、ガザニア以外の守護騎士に警戒されるのもまずいからね」

「なるほど。飯も食べ終わったんだし、とりあえず話を聞かせてくれ。俺もあれからのことを話す。と言っても、こっちは大した事はないんだが」

「わかったわ」

 カズは食べ終わった食器類を片付け、二人にミックスフルーツミルクと、自分用に麦茶を用意した。
 出来れば口の中をさっぱりさせようとハーブティーを出したいのだが、ビワが寝ているので二人の好みが分からず、カズが簡単に出せる物にした。
 ミックスフルーツミルクを一口飲むと、アレナリアは帝都に来てからの事を話した。

 ガザニアの事については、レオラだけではなく他の守護騎士二人と、側使いのカーディナリスも事情は知っている、と。
 それとガザニア以外の守護騎士二人と、レオラがばあと呼ぶカーディナリスのこと。
 グリトニィ・ターマイトモンスター討伐の連絡が雑だった事と、ガザニアの事についての文句を言ったこと。
 帝都に居る間、住む場所についてのこと。
 帝国の冒険者ギルド本部の登録についてなど、諸々アレナリアはカズに話した。

 カズが話したのは残金の事で、スパイスアントの素材を売ったこと。
 あとは、ジャンジとシロナの店に行き、シックス・タウンの南にある村での事を話したくらい。
 ジャンジとシロナの店、猟亭ハジカミの事はレオラから聞いており、アレナリアも二人が村に行かなくなった事情を、レオラから聞いて知っていた。
 お互いに離れていた間の話を終える頃には、レラはベッドに移り寝てしまっていた。

「帝都に着いてから、情報収集してくれてたのか」

「そうなの。って言いたいけど、昨日は宿ここから一歩も出てないのよね。私は二日酔いで苦しんでるのに、飲ませた当の本人はけろりとしてるのよ! 私より多く飲んでたのに。しかも、あと十本は余裕とか言うの。もう付き合えないわ」

 アレナリアはレオラが言った量を、サラっと盛って話した。
 それだけレオラが酒豪で危険だと、自身が経験した事をカズに伝えたくて出た言葉だった。

「レオラと酒を交わすのは遠慮したい」

「それがいいと思うわ。そうだ、ここお風呂があるわよ。シャワーだけじゃなくて、浴槽も」

「何ッ! よし、入ろう」

「すぐに入れるわよ。迎えに行く前に、浴槽にお湯を溜めておいたの。こっちよ」

「それで遅れたのか。でもありがたい」

 アレナリアに案内されて、カズは脱衣場に移動し、扉を開けて風呂を確認した。

「高級な宿だけの事はある。足が伸ばせそうだ。ではさっそく……何やってんだ?」

 風呂場の扉を一旦閉めて振り返ると、アレナリアが服を脱ぎ始めていた。

「一緒に入るの」

「なんで?」

「私、がんばったの。何もしない、一緒に入るだけだから。ね、いいでしょ! いいわよね! 私、でがんばったのよ! ね! ねッ!」

 アレナリアは荒い鼻息でカズに迫る。

「ちょっと、待て」

 面倒なガザニアをアレナリア一人に任せた事を考えると、カズは強く断り辛くなった。

「……タオル巻いて隠せよ(アレナリアにはお礼をしないとならないからな)」

「え! いいの?」

「触るの禁止だからな(って、自分に言い聞かせないと。約束の期限までまだあるんだ)」

「わかってる(やったわ! がんばった甲斐があった)」

 カズは腰にタオルを巻き、アレナリアは全身にバスタオルを巻いて風呂場に入った。

「背中流してあげる。触るけど、それくらいはいいでしょ。お風呂に入るんだから、体を洗わないと」

「そうだな。なら頼む(これは男女逆の台詞ではないだろうか?)」

 カズはシャワーを軽く浴びると床に座り、石鹸で泡立てたタオルでアレナリアはカズの背中を洗う。
 アレナリアの息づかいが、心なしか荒くなっているように聞こえる。
 前は自分で洗いシャワーで泡を流すと、アレナリアが「交代」と言ってきた。
 自分だけしてもらい、アレナリアにしないのは流石に悪いと、バスタオルを外してカズに向けたアレナリアの小さな背中を、石鹸で泡立てたタオルで優しく洗う。

「これくらいで大丈夫か? (相変わらず、白くて綺麗な肌してる)」

「うん。大丈夫、気持ちいい(カズが私の背中を……うふふッ。前も洗ってもらいたいけど、今日は我慢)」

 せっかく一緒にお風呂に入れたのだから、これ以上望んで追い出されては嫌だと、アレナリアは自分の欲情に耐える。
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