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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

487 第六皇女は素朴な味付けが好み

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 二日酔いが治った翌日、呆れるようなレオラの発言を聞き、アレナリアは遠くを見つめたまま、ガクッと力が抜けた。
 だがこんな時でもお腹は空く。
 ぐぅ~っと、レオラとグラジオラスにも聞こえるほどのお腹の音。

「アハハは。昨日はろくに食べてないんだろ。ばあが昼を用意して待ってる。行くぞアレナリア」

「え、あ、はい」

 アレナリアの様子を見に来た二人と共に、レオラの屋敷に行き昼食を取ることになった。
 屋敷に向かう馬車の中で、アレナリアはカズと連絡が取れたとレオラに伝える。

「カズ達が乗った列車が、夕方頃駅に着くそうなんで迎えに行きます」

「そうか。ならそのまま至高の紅花亭宿に泊まり、明日アタシの所に来るよう言っておけ。午前中にやる事を終わらせておく。話ながら昼食を一緒に取ろう。時間を見て迎えをやる」

「場所もわかったので、私達だけで行けます」

「これでもアタシは一応皇族だ。歩いて訪ねて来るような者がいては、少しおかしいだろ」

「それもそうですね。レオラ様を訪ねて来るのは、その殆どが同じ皇族か貴族の方にですよね」

「アレナリア達なら、こそっと裏から入って来ても、アタシは構わんのだが」

「アレナリア殿だけなら、身体検査を済ませた後、お屋敷に通すのは構わないと思うのですが、見ず知らずの者が来たら、レオラ様の騎士である我々が全力で排除に掛かります」

「っとまあ、こんな感じた。アレナリア一人なら屋敷の誰かに声を掛ければ大丈夫だろう。アレナリア以外の三人とは会っているのは、アタシとガザニアだけだ。だから、最初はこちらから迎えを行かせないとならんだろ」

「そのようですね(例え排除しようとしても、相手がレオラじゃなければ難なく対象出来るでしょうけど、ガザニア以外の守護騎士二人も女性なのよね。ビワやレラに危害を加えようとしなければ、カズはおとなしく捕まりそうな気がする。もちろんそうならないように、私が庇うけど)」

 レオラの屋敷に着くとカーディナリスが迎えに出て来ていた。
 アレナリアの顔を見て、体調が良くなったんだと、心配していた表情が和らいだ。
 楽しそうにしているレオラを眺めて、止めるのが遅れてしまい、自分にもアレナリアが酔い潰れた原因もある、と。
 昼食は腕を振るって、一般な帝国の家庭料理を作った。
 それはレオラが宮廷料理よりも、ごくごく一般的な家庭料理の方が好みだからであった。

 皇族や貴族が来客の場合は、それに見合った料理を出さなくてはならない。
 他の皇族に比べると少ないが、レオラを訪ねて来る者は少なからず居る。
 必ずしも会うわけではないが、相手をもてなせるように、宮廷料理が出来る料理人を、必ず屋敷に一人は居るようにさせている。
 皇族なら少なからず三人以上は常に居るものだが、レオラの屋敷には一人しかいない。
 食事を共にするのは、レオラの場合極めて少ない。
 冒険者をしていたレオラと接点を持っている者は、帝都ではそういない。
 訪ねて来るのは同じ皇族か、帝国の守護者の称号を持つ冒険者くらい。
 
「カーディナリスさんの料理って、幅が広いですね。こっちの煮物は魚醤かしら? 素朴な味付けで美味しい。かと思えば、こっちの料理はきれいに盛り付けされて」

「その煮物と、そっちの魚の香草焼きは、ばあが作ったのだ。旨いだろ」

「他の料理は?」

「料理長だ。と言っても、一人だけしかいないが」

「皇族のお屋敷に、料理人が一人だけ?」

「もてなすような相手は殆ど来ない。一人で十分だ。腕も確かだしな」

「カーディナリスさんがレオラ様の食事を作って、料理長は怒ったりしないんですか? 自分の仕事を取られるとかで」

「それはない。ばあから説明してやれ」

 部屋の片隅にある椅子に座って、ハーブティーを飲んでいたカーディナリスがカップを起き、アレナリアの方を向いて話し出す。

「こちらで料理長をしているのは、わたくしの夫なんですよ」

「カーディナリスさんの旦那さんなんですか!」

「ええ。元々は他の皇族の方のお屋敷で料理長として働いてたんです。わたくしが教育係を引退する時に自分も年だからと、料理長の座を若い方に譲り、一緒のんびり過ごそうとしてくれたんです」

「でも今は、レオラ様の所で料理長をしてるんですよね?」

「姫様が夫と一緒に来いと言ってくれたんです。ここなら仕事をしながら、のんびり出来ると」

「アタシの所に来て一緒に食事を、なんてのは滅多にいないからね。せいぜい……月に一人が二人だ。その時だけ作ってくれれば良いと。あとは好きに調理場を使ってくれと言ってある」

「なんとまあ、おおらかと言うか、適当な皇族様の職場ですこと」

「姫様が変わっているだけです。くれぐれも皇族の方々が、こうだとは思わないでください」

 真っ直ぐにアレナリアの目を見て、カーディナリスは忠告をした。

「わかってます。旦那さんの料理、とっても美味しいです」

「ありがとう。そう感想を言ってもらえて喜ぶわ」

 食後、中庭で守護騎士三人の修練をレオラと共に見ていたアレナリアは、材木の街ヒッコリーで連絡のやり取りをした人物と、情報不足と内容が雑だと文句を言った。
 レオラと再会した初日はガザニアを話し、その後冒険者ギルドと、レオラが以前に住んでいた家を見に行き、夕食では大量にお酒を飲まされ、次の日は二日酔いで動けず終い。
 レオラと二人で話せる時間が取れたが、守護騎士三人が中庭で修練をするのを見ながらということになった。

「情報不足と曖昧な連絡は、状況判断を確かめる為だ、すまなかった。ギンナンの態度が悪いと思ったのなら、アイツがアレナリア達を見た目で判断したとかだろ。討伐仕事の後に来た連絡は、息を荒立てていたらしいな」

「レオラ…様が、直接連絡を取ってたんじゃないの?」

「最初だけだ。後はジャンジに任せた」

「ジャン……! レオラ様に連れて行ってもらった料理屋の人ですね。一緒に冒険者になって、パーティーを組んでた」

「表向き猟亭りょうていハジカミの店主だ。裏ではシロナと共に、情報収集などをしてもらっている」

「レオラ様の元を離れたのは、自由に動けて信頼出来る実力者が必要だったからですか」

「そんなとこだ。口外するなよ」

「カズ達にもですか?」

「仲間は別だ。これから面倒な仕事をしてもらうんだからな」

「それは、カズが断らなければの話ですよ」

「断りはしないさ。お前達に必要な情報を、アタシが集めてやるんだ。それにカズは……」

 レオラが真剣な表情をして、意味ありげにカズの名を口にする。

「カズが、なんです?」

 アレナリアは気になり、黙るレオラをじっと見る。

「もしかして皇女という立場と、そので、カズを狙ってるんじゃ!」

「……ん? 何を言ってる?」

「おやおや、これはじっくりと姫様に聞かねばなりませんね」

 レオラとアレナリアだけではなく、修練をしている守護騎士三人分の飲み物を持ってきたカーディナリスに、聞き捨てならない内容の話が耳に入った。

「アレナリアさんのお仲間が到着するまで、あと二時間程ですかね」

「たぶんそれくらいだと」

「ではお二人には、カズさんという男性に姫様が迫った時の状況をお伺いしましょう」

「あれはただの……なんだお前達まで修練の手を止めて!」

 いち早くレオラの元に駆け寄ったのは、言うまでもなくガザニア。
 信じられないという驚きの表情に隠れ、内心ではカズに対しての怒りが込み上げていた。
 ガザニアの居る所で口を滑らせてしまい、アレナリアはしまったという表情をしていた。

「落ち着け、あれはただの冗談だ。お前達は修練に戻れ」

 レオラはガザニアを連れて修練に戻るよう、アスターとグラジオラスに一瞬視線を向けた。
 その意味を汲み取った二人は、ガザニアを中庭の中央に引っ張っていく。

「では我々は、姫様の執務室にでも参りましょう。お三方の飲み物はこちらに置いて置きます」

 カーディナリスは守護騎士三人分の飲み物を、中庭に設置されている木製の長椅子に置いていく。

「では姫様、アレナリアさん参りましょう」

「え、ええ(気を付けてたのに、失態だわ。ガザニアの居るところで)」

 中庭から昇降機に向かうレオラとアレナリアの背中には、様々な感情が入り乱れたガザニアの視線が突き刺さる。
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